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日本栄養士会の目指す、管理栄養士・栄養士の未来~最良の「栄養の指導」の実践に向けて~
公益社団法人 日本栄養士会会長 小松 龍史

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「偏り」、「過剰」、そして「不足」が混在する現代人の栄養問題

第二次世界大戦後は食料事情が悪く、「栄養不足」が大きな問題でした。人びとは食べ物を手に入れることさえ困難な時期であったと言えます。

しかしその後、経済成長に伴って「過剰」へと栄養問題は変化し、成熟社会となった現代人の栄養は「偏り」、「過剰」、そして「不足」が混在する多様な問題を抱えるようになりました。

一方、人が生を得て、乳幼児期、学童期、思春期、青年期、壮年期、そして高齢期へとライフステージが進行していく過程を個人の栄養の面から捉えると、おそらく「偏り」や「不足」あるいは「過剰」を巡っていると考えられます。

子どものころ、顔色が悪く痩せていたのに、なぜか中年になると肥満体になり、糖尿病や高血圧などの生活習慣病を患う。さらに高齢期になると食べる能力が低下して食べる量が減り、低栄養に陥ってしまう...。そのような変貌の激しい「栄養人生」を送っている方は少なくありません。

人は食べることを通して"人生の質"を感じ取っている

「食べること」は人にとって何を意味するのでしょうか。

まず、生命を維持し、健康に生きるために栄養素を摂取する、という生物学上の基本的な行為であることは間違いありません。また、おいしく食べることや家族や友人たちと共に食べて、語り合うことにより生活に潤いをもたせ、さらに、心理的なストレスを和らげる側面を持ち合わせており、家庭や社会生活の質を形成する重要な要素となっていることが挙げられます。

病気で口から食べることができなくなった患者が、食事が再開されることを知ると心から喜びます。人は食べることを通して"人生の質"を感じ取っているともいえるのです。

ひとりの人間は一生に数十トンもの食べ物を口に入れます。現代は上述のような多様な栄養問題が存在しており、一生の間にさまざまな栄養の課題に直面します。口に入れた栄養素の偏り・過剰・不足は、人びとの健康やQOL(Quality of Life)に大きく影響しているのです。

「食べる」は生活や心理、健康状態などを映し出す行為

人の「食べる」という行動には、人にしか見られない特有のものがあります。すなわち、食行動は心理的背景、ストレス、過去の経験、ライフスタイル、家庭環境、生活環境、薬物、生体側要因(ホルモンなど)などに影響されます。

たとえば、この店の料理はお気に入り、イライラして無性に甘い物がほしくなる、痩せたいのに間食を減らせない、気が滅入って食欲が出ないなど、挙げればキリがありません。

そして、人は健康な時もあれば病に伏せることもあります。病気を克服するには体力が必要ですが、食べる量が減って栄養状態が低下し、回復を遅らせてしまうことも少なくありません。

「食物の摂取」という行動は実に日々の生活や心理状態、そして健康状態などをよく映し出していると感じます。それゆえ健康や病気の回復のために、どのような食生活をすればよいかを知っておくことは大切ですが、それを自発的な行為として実現するのは容易ではないことも理解できます。

しかし、このブレが「偏り」、「過剰」あるいは「不足」を生み、健康を損ねたり、病気の回復を遅らせたりしては、本人にとってもたいへん残念なことになると思います。

なくてはならない「栄養と食」の専門職として

管理栄養士・栄養士は、一人ひとりの命と輝く人生のために、「栄養と食」の専門職として、適切な食事の提供、栄養指導、栄養状態の管理、食環境の整備などを通じて貢献しています。少子高齢社会の中で、ますますお役に立てるものと考えているところです。

公益社団法人 日本栄養士会は、国民の皆さまに、私たち管理栄養士・栄養士が将来にわたり、業務や活動を通して、国民の皆さまの健康をしっかり守る、なくてはならない栄養と食の専門職になっていくことをお誓いいたします。このことを実現するために、私たちは、平成25(2013)年度より将来構想を掲げ課題解決に取り組んでいるところです。

―日本栄養士会が目指す将来像実現のための、目標4項目

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栄養の指導とは? 栄養とは? 原点を整理する「理論形成」

管理栄養士・栄養士の将来像実現に向けた取り組みとしては、「理論形成」、「実体形成」、「世論形成」、「政策形成」といった4項目で目標を掲げています。

まず「理論形成」ですが、私たち管理栄養士・栄養士は、栄養士法という国が定めた法律によってその名称を用いて、法律で定められた活動を行う免許が与えられています。

たとえば、栄養士法の第1条には管理栄養士・栄養士共に「栄養の指導」に従事する旨が書かれていますが、では「栄養の指導」とは本来どのような仕事を指しているのでしょうか。もっと根本を考えれば、「栄養」とは何なのか、といったところまでさかのぼり、原点から整理していかなければいけません。

そのため、栄養士法の内容理解を深めるために、第三者の法律の専門家集団である「厚生法制研究会」に研究を委託し、専門的かつ客観的に法律の研究を行っています。その成果をもとに国民の皆さまへの貢献度を高めていくために、私たちの業務のあり方、専門職としてのあり方を見極め、より深めた形で「栄養の指導」を実践できるよう栄養士法のあり方を含めて検討していく予定です。

管理栄養士・栄養士がもっと身近な存在に、「実体形成」の取り組み

次に「実体形成」ですが、管理栄養士・栄養士が国民の皆さまの身近にあって業務や活動を通して貢献し、国民の皆さまの健康をしっかり守る、なくてはならない栄養と食の専門職としての活動「実体」が十分に達成できているのか、という問題意識を常に持ち続けています。

日本栄養士会では共通の職業倫理観を醸成するために倫理要綱を制定し、生涯教育などの研修で職業倫理について学んでもらう機会を設けました。卒前・卒後にかかわらず適切な教育を行うことで、管理栄養士と栄養士が行う「栄養の指導」が国民の皆さまの命や健康に直結する固有業務であることを宣言し、管理栄養士・栄養士全員一人ひとりが職業倫理観を高め、プロとしての活動実体をつくりあげようという運動です。

「実体形成」に向けた運動は、専門職としての職業倫理を踏まえた態度や行動をとることに加え、栄養士法に定める「栄養の指導」の本質と実践形態をきちんと理解し説明できること、行動変容の理論と実践について習熟していること、「栄養の指導」の実践プロセス(栄養ケアプロセス)を理解して行動することの4項目を管理栄養士・栄養士の「ミニマムスタンダード」として定めています。

保健・医療・福祉、教育、ビジネス、スポーツなどさまざまな分野で管理栄養士と栄養士の力が求められていることから、あらゆる状況に対応可能なキャリア形成をサポートする生涯教育制度の充実も並行して進めているところです。

身近な存在になる、という点でいえば、「栄養ケア・ステーション」を全国に幅広く展開していくことも重要です。

栄養ケア・ステーションは、地域住民の食生活支援活動を行う拠点として日本栄養士会が推進しているもので、都道府県栄養士会がその地域特性などに見合った活動の中心を担っています。地域に顔の見える管理栄養士・栄養士を増やし、国民の皆さまが身近な場所でいつでも気軽に食生活や栄養に関する支援や相談を受けられるようにするのが目的です。

健康日本21(第二次)にも「健康づくりに関して身近で専門的な支援、相談が受けられる民間団体の活動拠点数の増加」という目標項目があります。現状の参考値として民間団体から報告のあった活動拠点数は平成24(2012)年でおよそ7,000でしたが、これを平成34(2022)年度までに15,000まで増やすことがうたわれています。

そのためには都道府県栄養士会が直接、運営する栄養ケア・ステーションだけではなく、医療機関と連携した形での開設が必要不可欠です。また、企業と連携しドラッグストアやコンビニエンスストア、スーパーマーケットなどに栄養ケア・ステーションを設置できれば、より国民の皆さまにとって利用しやすい存在となるでしょう。

情報発信を強化する「世論形成」と法律の整備を進める「政策形成」

3番目に「世論形成」に向けた取り組みですが、これは私たちから積極的に情報を発信することで、管理栄養士と栄養士が高度な専門職であり、国民の皆さまの健康を守る存在であることを広く認識していただくための活動です。

そのためにホームページを刷新し、より分かりやすく、また活用しやすい内容にする必要があり、今回その第一弾のリニューアルが実現しました。今後、さらに国民の皆さま、当事者である管理栄養士・栄養士、関連するさまざまな専門分野の皆さまに情報発信を行っていく所存です。

また、関連学会や関連職能団体、管理栄養士と栄養士の養成施設、企業、マスコミの皆さまと連携を取り、管理栄養士・栄養士への理解を深めていただけるよう、積極的に働きかけを行っていきたいと考えています。

最後に「政策形成」に向けた取り組みですが、将来構想の実現に向けた活動を着実に進めていくためには、法律の整備が必要になってくるかもしれません。各種制度のあり方を検討し、より国民の皆さまにとって有益になる活動ができるよう、関係機関・団体との調整を進めます。

管理栄養士と栄養士がともに考え、学び、成長しあえることを願って

日本栄養士会では、このような問題意識と課題のもと、平成30(2018)年度までの将来構想を打ち立てて、日々活動をしております。今後ますます管理栄養士・栄養士の活躍が求められる中で、日本栄養士会では会員向けの研修や情報提供に力を入れ、さらなるスキルアップと意識づけを促していきたいと考えています。

一人でも多くの管理栄養士と栄養士が私たちの仲間となり、共にに考え、学び、成長しあえることを願っております。
国民の皆さま、管理栄養士・栄養士の活動にご理解を、そして、ぜひご期待くださいますようお願い申し上げます。


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