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"究極の食育"がここに!? 中村丁次会長が小学生へ初めての授業

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 2022年6月、東京都江東区南陽小学校に(公社)日本栄養士会の中村丁次会長が訪れ、体育館に集まった6年生に栄養の出前授業を実施しました(5年生はオンラインで、教室で視聴)。タイトルは「食事の改善(好き嫌いなく食べる)で、強くなる」。中村会長が話題に挙げたのはメジャーリーグで活躍するスポーツ選手からパンダに猿、さらにはゴキブリまで!? 子どもたちへの授業は、食育の神髄がたっぷり詰まっていました。

「人はなぜ、栄養が必要なの?」

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 授業の冒頭、中村会長はまず、自身がベトナムを訪問した時に撮った男の子の写真を見せませした。「この子は栄養失調になって病院に運ばれてきました。右手に包帯をしているけれど、ケガをしているわけじゃないんです。なぜだと思う?」すると、6年生の男子がすかさず答えました。「腕に刺したチューブから栄養を入れている!」即座の回答に、中村会長も「すばらしい答え! みんな拍手!」と大喜びの表情。そして、こう解説しました。
 「写真のこの子は口から栄養を入れても、胃や腸で消化・吸収する力がなくなってしまっているから、血液の中に直接、栄養を入れているんです。皆さんもしっかり食事をしないと、こうなってしまうんですよ」
 そのうえで、中村会長は自身が管理栄養士になった経緯を紹介しました。
 「私は医師になって病気を治せる人になりたいと思っていたのです。その夢を学校の先生に話ししたら、『もっとすばらしい仕事は、病気にならない世の中を作ることだよ』と言われました。人も動物もたった1つの栄養素がなくなっただけで病気になってしまいます。それで、管理栄養士になって、栄養の専門家の道を進んできたのです」。

「なぜパンダは、笹の葉だけ食べて生きていけるのか?」

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 続いて中村会長は、メジャーリーグで活躍するスポーツ選手がアメリカで活躍する今も、日本の管理栄養士のアドバイスを受けていること、ますます強くなっていることを説明し、こう質問しました。
 「パンダは笹の葉しか食べないけれど、筋肉隆々なのはなぜだと思う?」
 子どもたちからは、「木登りで運動しているから筋肉がついた」、「体が十分に大きいから自分で栄養を作れる」など、さまざまな意見が出てきました。
 一人ひとりの回答に頷きながら、中村会長は解説しました。
 「パンダは熊の一種だから、大昔は肉も魚も食べていました。それが、何かに襲われて山奥に逃げなければならなくなり、笹を食べるようになりました。そして、笹に付いた微生物・菌を食べ、体の中で細菌が一緒に生きることで、必要な栄養を作り出すようになったのです。草を食べる馬やキリンも同じです。長い消化管の中にたくさんの菌が生きています。でも、草食動物は起きている間ずっと食べ続けなければ、栄養が足りなくて死んでしまいます。私たち人間はいろいろなものを食べるから、消化に時間をかけず十分に栄養をとることができ、だからこそ、勉強したり遊んだりする時間があるのです。これだけは覚えておいてくださいね」

「人間は、食事を正しく選ぶための知恵が必要になったのです」

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 中村会長は次に、猿から人間への進化の話をしました。
 2本足で立つようになったことで、前足が手になり、遠くまで見えるようになり、遠くまで歩けるようになりました。遠くにある食べ物を見つけ、取りに行くことができます。運ぶことができ、道具が使えるようになったのも、手があるからです。いろいろなものを食べるようになったことで、人間はどこででも生きていけるようになり、脳を発達させ進化してきました。陸にあるものだけでなく、海に潜って貝や魚、海藻を捕り、食べられるものの種類を増やしてきました。
 人間の進化と食事の変化を解説したところで、中村会長は子どもたちに問題を投げかけました。
 「人間はいろいろなものを食べられるようになった代償として、食事を正しく選ぶための知恵が必要になったのです」
 そして、好き嫌いなく食べるとなぜ栄養のバランスが良くなるのかについて、現在解明されている40種類ほどの栄養素のうちたった1つが不足しても体調が悪くなること、したがって約40種類の栄養素のどれもとらなければならないこと、ただし約40種類すべての栄養素を含む特定の食品は存在しないことを挙げ、いろいろな食材から栄養素を満遍なくとる必要があることを解説しました。そして、好き嫌いなく食べることのメリットとして、以下の7つを紹介しました。

①身長が伸びて、体格がよくなる
②勉強ができるようになる
③元気が出て、体力がつく
④精神的に強くなれる
⑤スポーツが強くなれる
⑥抵抗力がついて、病気にかかりにくくなる
⑦将来、長生きできて、お金持ちになれる

 子どもたちから「ほんとう!?」の声が飛び、実際に研究されて科学的に証明されていることを中村会長が話すと、子どもたちは驚いた様子ながらも納得して聞き入っていました。

食べ物の好き嫌いをなくすヒントを伝授!

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 好き嫌いなく食べることがどれほど大切かを理解したとしても、すでに苦手な食材がある子どもたちにとっては、「我慢して食べなければならないもの」には変わりありません。
 そこで中村会長は、突然「テントウムシは好き? ちなみにゴキブリは?」と子どもたちに尋ねました。6年生のほとんどが「テントウムシは好き!」と答えたものの、ゴキブリには「うえぇ~」、「ひいぃ~」と反応。次の瞬間に中村会長がスライドで映したのは、「テントウムシのような姿をしたゴキブリ」です。背中にテントウムシのような斑点があるもののヒゲ(触角)が生えています。
 中村会長が、「この虫はゴキブリです。なぜテントウムシに化けたのでしょう?」と問うと、男子の1人は「人間に潰されずに済むから!」と答え、もう1人は「生きるために必要だったから!」と答えました。
 「実は、ゴキブリはおいしいんです。乾燥したゴキブリを食べる国もあります。でもテントウムシは他の虫が食べてもおいしくない。このテントウムシ型のゴキブリは、他の虫に食べられず済むためにテントウムシに化けているんです。テントウムシはかわいい、ゴキブリは嫌いというのも好き嫌いの一種で、これは先入観が関係しています。先入観というのは、過去に好きあるいは嫌いになる体験があったから作られます」
 中村会長は、続けて脳の仕組みを解説します。
 「『これ食べたい!』という指令を出すのは脳です。脳の真ん中に食欲中枢があり、そこには食欲が増すボタンと食欲を抑えるボタンの2つがあります。そして、その周りに心配事やストレスを感じる部分があります。先入観もここです。ですから、食欲のボタンの周りにある先入観を少し変えてあげること。今は、ピーマンは大嫌いだけど、頭がよくなるらしい、サッカーがうまくなるらしい、メジャーリーグのスポーツ選手のようになれるらしい、そうやってピーマンに良いイメージを持たせてあげると、食欲が増すボタンのほうが押されるようになり、少しずつ食べられるようになっていきます」
 人間の歴史を学び、人体への興味を持ち始め、スポーツ選手への憧れもある小学6年生には、社会や理科、そして世界ともつながる食育の授業となりました。中村会長は最後に、「皆さんには偏食もしないでほしいけれど、"偏人"にもならないでくださいね」と結びました。「友だちも偏らずに、どんな人とも仲良くなり、たくさんの友だちを作ってください。君たちにとって、大勢の友だちとのかかわりは健康で幸せな人生につながります」
 授業終了後、子どもたちの笑顔と盛り上がりに、「この授業は、このあと各地で展開してもいいかもねえ」と中村会長。次回にも注目です。

■授業の様子を動画で見る(前編)
■授業の様子を動画で見る(後編)
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