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栄養不良の撲滅のために、アジアが連携してつくる未来

~第8回アジア栄養士会議(ACD2022)~

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 2022年8月19日(金)〜21日(日)、第8回アジア栄養士会議(The 8th Asian Congress of Dietetics;ACD2022)が横浜市のパシフィコ横浜で開催されました。コロナ禍により、国内外の学術集会、大会等がオンラインで実施されるなか、ACD2022は対面での開催を実現しました。
 「アジア栄養士会議(ACD)」は4年に1度、アジア栄養士連盟(Asian Federation of Dietetic Associations;AFDA)加盟国において開催され、日本で開催されるのは今回がはじめてとなります。AFDAは公益社団法人日本栄養士会の他に台湾、香港、インド、インドネシア、韓国、マレーシア、フィリピン、パキスタン、シンガポール、タイ、オーストラリアの栄養士会が加盟しています。
 ACD2022のテーマは「明るいアジアの未来のために持続可能な健康社会の実現を目指して ~現代の課題解決のために、混乱する栄養情報への対応~」。日本をはじめアジア17カ国の栄養士や栄養学者等、1,137人が一堂に会し、23の講演・シンポジウム・ワークショップ、272題のポスター発表を中心に、各国の栄養課題やその対策、施策について議論が交わされました。

奇跡の国際会議がはじまる

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 ACD2022は第8回アジア栄養士会議組織委員会(以下、ACD2022組織委員会)副委員長の鈴木志保子氏の「I hereby declare the opening of ACD2022(ACD2022の開会を宣言します)」の高らかな声とともに、幕を開けました。
 開会式では、渡航規制により来日できなかったAFDA会長のGordon Cheung氏がビデオメッセージを寄せ、会場の参加者に「ACD2022のプログラムを楽しみ、アジアの栄養士同士で友情を育んでほしい」と呼びかけました。
 また、ACD2022組織委員会委員長の中村丁次氏は、「皆さん、ようこそ日本へ。開催できましたよ。これは奇跡の国際会議です」と、前回の香港での開催から4年ぶり、日本国内でもおよそ3年ぶりとなった対面での栄養士の集いが行えることの喜びを伝え、「栄養は健康のためだけでなく、教育や経済、ジェンダー等とも関わりがあり、世界中で実現に向けて動いているSDGsを下支えするものであることがわかってきました。アジアの栄養不良の二重負荷を解決するには、栄養改善のリーダーとなる人を育て、各国各地隅々に配置することが必要です。アジアの人々が健康でより幸福になることを目的に、この3日間、活発に議論をしていきましょう」と主催者として挨拶しました。
 開会式の来賓として、厚生労働大臣 加藤勝信氏の代理として厚生労働省健康局健康課栄養指導室室長の清野富久江氏、神奈川県知事の黒岩祐治氏、横浜市副市長の城博俊氏、特定非営利活動法人日本栄養改善学会副理事長の塚原丘美氏、一般社団法人全国栄養士養成施設協会会長の滝川嘉彦氏が出席し、開会を祝しました。
 開会式と合わせて実施された表彰式では、Dr. Chwang Leh-Chii Asian Dietetics Awardに日本栄養士会の山本茂氏とタイ栄養士会のChanida Pachotikarn氏が選ばれました。また、45歳以下の若手栄養士に贈られるDr. Ching-Hwa Chiu Asian Outstanding Young Dietitian Awardには、香港栄養協会のFrankie Pui-Lam Siu氏が選ばれました。Frankie氏はオンラインで登壇し、「私の夢はアジア各国の栄養士の皆さんとつながって学び合い、それを患者へのアドバイスに還元していくことです。私たち栄養士は自分たちの知識や情熱をアウトプットすることで、大きな力を生み出すことができると信じています」と抱負を述べました。

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ジャパン・ニュートリションが与えるインパクト

 特別講演では、中村丁次委員長が「ジャパン・ニュートリション」という演題で、日本のこれまでの栄養政策と栄養士の活躍を発表しました。「1926年にはわずか13人しか栄養士(当時は栄養手)がいなかったのが、現在の日本には100万人超もの管理栄養士・栄養士が存在する」という説明には、座長を務めたAFDA名誉会長のChwang Leh-Chii氏も驚きを示し、「国内に栄養士が100万人もいることがまず素晴らしい功績だ」と讃えました。
 中村委員長は、日本が第二次世界大戦後の食糧難の時代に、米国の食料政策を日本国内で栄養政策に転換して、食料の適正な供給と分配を実施し、栄養の専門職を行政、医療、学校、福祉施設、企業、自衛隊、刑務所、大学等、国内のさまざまな機関に配置して、国民への栄養教育を基本とした総合的な栄養改善を継続してきたことで、現在の長寿国・日本が存在していることをアピールしました。そして、「ジャパン・ニュートリションは、誰一人取り残さない持続可能なもので、健康長寿を可能にするものだと確信しています。アジアの皆さんは私の意見に同意してくれるのではないでしょうか。私たちはより緊密に、友好的に活動し、アジアに貢献していきましょう」とまとめ、会場からの大きな拍手で賛同を得ました。また、講演の最後には前参議院議長の山東昭子氏が登壇され、祝辞とともに、アジアの栄養改善のためにできる限りのバックアップを行うと述べました。

アジアの"Dietetics"を相互に学び、議論する

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 3日間のプログラムは、特別講演1、基調講演2、教育講演4、シンポジウム9、ワークショップ7、計23のコンテンツで構成され、テーマは糖尿病や、肥満、感染症、フレイル・サルコペニアといった臨床栄養・公衆栄養分野の内容から、災害支援、給食制度、栄養士養成等の施策・制度に関する内容等多岐にわたり、各国の若手栄養士による未来の栄養士像を語り合うワークショップもありました。
 プログラムの1つ、ワークショップ2「肥満対策における栄養士の活動」では、インドネシア、タイ、日本の栄養士が登壇し、それぞれが各国の政策や現状を説明した後に、会場の参加者を含めたディスカッションが行われました。インドネシアの栄養士、Miranti G. Sumapradja氏は、インドネシア人が料理に塩と砂糖、ココナッツミルクを多用し、揚げ物を好む食習慣と、国内には公園が少なく屋外に運動をする場所がない環境を挙げ、「栄養に関わる専門職は5万人ほどいますが、栄養士はそのうち10~15%しか存在せず、1億7千万人の人口に対してごくわずか。政府はより多くの栄養士を養成しようとしているところで、1万人当たり栄養士が1人いれば、現状21.8%の肥満発生率をもっと下げることができるでしょう」と訴えました。さらに、「インドネシアではぽっちゃりした乳幼児は、『母親によく面倒を見られている』ととらえられる慣習がある」ことを挙げ、肥満対策には文化的な側面からもアプローチが必要であると話しました。また、タイの栄養士、Samitti Chotsriluecha氏も「日本人は若い人も年配の人もよくウォーキングをしていると感心します。タイでも甘い食べ物が好まれており、身体運動が少ないことが、とりわけ中年女性の過体重が増えている要因だと思います」と現状を述べました。
 アジア各国の状況がさまざまなセッションで発表される中、中村委員長はワークショップ3「『東京栄養サミット2021』のコミットメントの実現に向けて」の中で、「Asian Congress of Dieteticsの"Dietetics"という言葉は、Nutritionだけでなく文化や経済、嗜好等も含まれていて日本語訳が難しい。欧米発信の基準やガイドラインに頼らずに、アジア発の"Dietetics"を発信していく時がきている」と提言しました。

ポスター発表や展示で親交を深める

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 展示ホールでは272題のポスター発表がなされ、発表者は用意されたラウンドテーブルの上にノートパソコンを開いて、集まった参加者にそれぞれの研究結果を発表しました。ポスターはオンライン上に掲示されているため、参加者は離れた場所にいても各自の端末で閲覧でき、チャットルームを通じて発表者とコミュニケーションがとれるようになっていました。
 また、展示ホール内では、株式会社ヤクルト本社、味の素株式会社、株式会社明治、カリフォルニアくるみ協会、「米粉でやさしい嚥下食」コンソーシアム、Friesland Campina Institute、長谷川化学工業株式会社、キッコーマン食品株式会社、株式会社ニップン、一般社団法人日本スポーツ栄養協会、栄養サポートネットワーク合同会社が出展し、来場者に自社の取り組みをPRしました。その他、簡単に茶道を体験できるブースやヨガでリラックスできるブース、記念写真を撮影できるフォトブース、休憩所とドリンクコーナー等、多彩な「おもてなし」を行いました。

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「Yokohama Declaration(横浜栄養宣言2022)」の締結

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 3日間の白熱した議論で親交を深めた各国の栄養士たちは、名残惜しい中、21日(日)の閉会式を迎えました。中村丁次委員長は閉会の言葉として、関係者に謝辞を述べた後、以下のように続けました。
 「ACD2022で議論を深める中で明らかになったことがあります。世界の栄養不良を解消するために経済・食料支援はもちろん必要ですが、それと同時に、専門職の教育・養成が必要であるということです。専門職としてしっかりとした教育を行い、栄養士の社会的認知を高めることが求められています。アジアは世界で最も人口増加率や経済成長率が高い地域です。そのことにより、食生活が大きく変化しています。アジア全体で情報共有を行い、協力して問題解決することが必要です。3日間かけて皆さんと一緒に議論ができたことは成果です。『栄養の力で人びとを健康に、幸せにする』。4年後にまたインドでお会いしましょう」

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 その後、ACD2022組織委員会執行委員会委員長の木戸康博氏より、ACD2022の参加者数等のまとめとポスターアワードの発表がありました。13名の発表者が表彰され、受賞者を代表してマレーシア栄養士会のYing Qian Ong氏がスピーチし「多くの方の協力によって研究が認められました。この賞は協力いただいたみなさまに送りたいです」と謝辞を述べました。壇上で表彰された若い受賞者たちは一様に笑顔で受賞を喜び、アジアの栄養士の未来の明るさを象徴しているようでした。
 さらに、本会議の成果として、「Yokohama Declaration(横浜栄養宣言2022)」が発表され、各国の代表者が壇上に上がり、調印しました。

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 最後に3日間の記録をまとめた動画と次回開催国のインドのプロモーションビデオが上映された後、ACD2022組織委員会副委員長斎藤トシ子氏の閉会宣言により、盛会のうちにACD2022は閉会しました。
 「Yokohama Declaration(横浜栄養宣言2022)」に記載されているとおり、栄養はSDGsを達成するための基盤となります。また、栄養不良を撲滅することはすべての人の健康と福祉にとって不可欠です。ACD2022会期中に行われたAFDA総会において、これから2026年まで日本がAFDAの議長国となり、日本栄養士会会長の中村丁次氏がAFDA会長に就任することが決定しました。日本栄養士会は「東京栄養サミット2021」でコミットしたとおり、今後アジアを中心に「持続可能な栄養改善基盤構築のための食・栄養の専門職の養成と配置」を推進していきます。ACD2022で育んだ各国との相互理解と交友を推進力として、新たな取り組みを展開していきます。

■「Yokohama Declaration(横浜栄養宣言2022)」を詳しく見る
■「東京栄養サミット2021」日本栄養士会が開催した公式サイドイベントの様子を見る
「東京栄養サミット2021」の日本政府のイベントの様子を見る
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■アジア栄養士連盟(AFDA)を詳しく見る

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