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膵臓がんの克服を目指して、三重大学附属病院栄養診療部が啓発イベントに参加

トップランナーたちの仕事の中身♯061

三重大学医学部附属病院栄養診療部の管理栄養士の皆さん

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 「パープルリボンウォーク&セミナー」は、三重大学医学部附属病院栄養診療部が力を入れて取り組む活動の1つです。これまで、膵臓がん患者さん・家族一人ひとりの食事に対する心配や相談に寄り添い栄養食事指導を行ってきた管理栄養士たちの周りには、参加者の笑顔があふれていました。

再会を喜びあったパープルリボンイベント

 秋晴れの2022 年11 月6 日(日)、三重大学医学部のキャンパスに紫色のTシャツを着た老若男女が集まりました。3 年ぶりに現地開催がかなった「パープルリボンウォーク&セミナー2022 in 津 ~膵がんの克服を目指して~」(以下、パープルリボンイベント)。会場には「やっと会えたね」、「元気やったか?」、「先生もちょっと老けたな(笑)」と、再会を喜びあう声があふれました。
 このイベントは三重大学医学部肝胆膵・移植外科と学生ボランティアが中心となり企画しているもので、主な参加者は膵臓がんの患者さんとその家族、地域の医療関係者、そして一般の市民。がんの中でも発見が難しく進行が速いことから5年生存率が低い膵臓がんについての知識を普及させ、早期発見・早期治療に結びつけるための取り組みです。10回目を迎えた今年は、コロナ禍の影響がまだ残っており、例年より少ない約250人の参加で開催されました。三重大学附属病院栄養診療部の管理栄養士たちも、この取り組みにボランティアで参加しており、参加者と一緒に大学構内を2kmほど歩くウォークイベントに参加する傍らで、看護師や薬剤師等の他職種と並んでブースを出展し、栄養や食事の困りごとについて無料で相談に応じました。ブースでは「三重パープルリボンオリジナル菓子」の販売も行われましたが、これはパープルリボンイベントのスタート時からの取り組みです。肝胆膵・移植外科病院教授の岸和田昌之医師からの依頼がきっかけでした。
 「以前は、退院後の患者さんがやせてしまうことを課題に感じていました。膵臓の摘出によって膵性糖尿病になることから、糖尿病患者さんへの食事療法と同じく食事制限が主流だったことが要因の1 つです。そこで、管理栄養士の皆さんと膵臓がんの患者さんへの適切な食事療法について考え始めたことがこの取り組みのきっかけとなっています。薬をうまく使用すれば食事に大きな制限は必要なく菓子も食べられることを患者さんに伝えたくて、オリジナル菓子の提供を管理栄養士の皆さんに依頼しました」(岸和田医師)
 今年準備したのは「パープルもち」、「パープルせんべい」、「パープルケーキ」の3つ。同院がある津市内の市民であれば誰もが知る名店に発注して作ってもらいました。同院内で調理するのではなく、市内の事業者に発注するのは、市民と一緒にこのイベントを作り上げたいという考えから。参加者に喜んでもらえるような菓子を事業者と相談しながら企画しています。この販売を毎年楽しみにしている参加者も多く、今年もお昼ごろには完売しました。
 「パープルせんべい」には、パープルリボンのマークに「Pancreatic Cancer」という膵臓がんを意味する英語と、このイベントの合言葉である「Know It! Fight It! End It!」が焼印で押されています(訳:膵臓がんを知って、闘って、撲滅する)。参加者が持ち帰った菓子をきっかけに、膵臓がん撲滅に向けたイベントがあることや、早期発見・早期治療が大切であることが話題に挙がり、より多くの人に伝わることを期待しています。このせんべいの焼き型は、今はもう亡くなった膵臓がん患者さんの寄付により制作されたもの。後々までに役立つ何かを残したいとの意向を受けて、提案しました。医療スタッフだけでなく、患者・家族等、多くの人びとの協力によりイベントが成り立っています。

体重減少を防ぐ栄養食事指導

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 栄養診療部では、膵臓がん患者に対して、「食べること」を重視した栄養指導を実施しています。肝胆膵・移植外科病棟担当の管理栄養士、森貴宣さんは「下痢やおなかが張るといった腹部症状をしっかり聞き取った上で、不安や心配が少なく食べられそうな食材や料理の提案をしています」と話します。また、パープルリボンイベントの立ち上げ当初より関わり、今回の参加が10回目となる管理栄養士の服部文菜さんは、「消化酵素製剤やインスリン等の薬の使用状況に応じた提案をしています。例えば、消化酵素製剤の服薬が食事のタイミングのみの患者さんには、補食として脂質含有量の少ないものを提案します。パープルもちのような和菓子がおすすめですね」と、自身が企画を担当したオリジナル菓子を例に教えてくれました。
 外来栄養食事指導の目標は「次回、外来で再会するときまで体重を減少させない」こと。栄養診療部全体で積み重ねてきた経験をもとに、管理栄養士ならではの知識と技術で患者の栄養と食生活を支援しています。
 イベント中に設置された無料の栄養相談ブースでは、以前、栄養診療部で勤務していた管理栄養士の原なぎささんが佐賀県からオンラインシステムを用いて参加し、親交のある患者さんとやりとりをする場面もありました。また、原さんと同様に、以前、栄養診療部で勤務していた管理栄養士の石留真寿美さんもイベントに駆けつけ、患者さんとその家族や他のスタッフとの再会を楽しみました。栄養食事指導を通じた患者さん・家族と管理栄養士の関わりで築かれた絆が、パープルリボンイベントでの同窓会のような和やかな盛り上がりにつながっているようでした。

他職種と共に、管理栄養士として行う支援

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 パープルリボンイベントの午後に開かれたセミナーには、医師、薬剤師、管理栄養士等の専門職が治療や食生活のポイントを解説した他、患者さんからの治療体験談の発表もありました。初期症状がわかりにくい膵臓がんの早期発見には、病院と地域の診療所との連携が必要であること、糖尿病や慢性膵炎の既往や、両親や兄弟姉妹に膵臓がんの患者さんがいる等のリスク因子がある場合は症状がなくともかかりつけ医に早めに相談する必要があることが、さまざまな職種から呼びかけられました。
 セミナー登壇者の一人、がん病態栄養専門管理栄養士の三澤雅子さんの『膵がん診断時から気を付けたい栄養の話』と題した講演では、患者さんの多くが自分自身に食欲がないことをあまり重大な問題と捉えていない傾向があることを挙げながら、「体重減少には特に注意してください。体重減少が治療の成功期間の短縮要因とされているからです。体重が維持できる量でバランスのよい食事、できるだけいろいろな食材を、少量ずつ回数を分けて食べ、よく噛んでいただくことが大事です。また、水分補給もとても大切です」と話しました。また、食欲不振や体重減少に困るときには、管理栄養士が栄養・食生活の面で患者さんと家族を支援できることを説明しました。

 今回のパープルリボンイベントには、公益社団法人日本栄養士会から、がん病態栄養専門管理栄養士である原純也常任理事と須永将広医療事業推進委員会副委員長が応援に駆けつけ、共に栄養相談ブースで対応しました。また、がん患者さんや家族に向けて管理栄養士ができる支援内容を紹介したリーフレットを会場内で配布しました。
 がん病態栄養専門管理栄養士は日本栄養士会と日本病態栄養学会による認定資格で、がんの予防・治療・ケアのどの場面においても食と栄養の面からサポートでき、多職種連携でのがん治療に貢献できる管理栄養士です。各病院、地域での膵臓がんの克服を目指す「Know It! Fight It! End It!」にも貢献していきます。

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