保育園児の力で高齢者の引きこもりを防ぐ!
「ほっこりふれあい食事プロジェクト」を全国へ
2017/01/10
「ほ」いくしょを「つ」うじて「こ」うれいしゃが「り」ようする・「ふ」っこうにむけて「れ」んけいし、「あ」すを「い」きる、食事プロジェクト――。そんな意味合いから平成26(2014)年に岩手県、宮城県、福島県でスタートした「ほっこりふれあい食事プロジェクト」が全国に広がろうとしています。
東日本大震災の被災地3県では、被災して仮設住宅や公営住宅に移り住んでいる高齢者の方たちが外出の機会が少なく、生活不活発病(廃用症候群)などが懸念されています。避難により、家族と離れて暮らすようになった高齢者も多く、「孤食」による調理意欲の低下、それに伴う食事摂取量の低下、活動意欲や活動量の低下、そして低栄養が心配されています。さらに、避難のための引っ越しにより新たなコミュニティに加わることが難しく、人との触れ合いが減り、判断力や認知力の低下も見受けられます。これは、被災地の高齢者に限ったことではなく、全国的な問題ともいえます。
子どもとの交流から生まれる「笑顔の連鎖」
「高齢者の方が外出を楽しみにしてくれるような、笑顔になれるような食のイベントは何か? 地域で栄養のバランスが良い食事を楽しめる場所はどこか? その"食を通じた楽しさ" を追求して考えたときに思い当たった場所が、保育所なのです」と、当会の下浦佳之常務理事は話します。
保育所には、調理施設があり、管理栄養士・栄養士、調理師の専門職も配置されています。そして、避難先での独居生活や高齢者だけの世帯ではなかなか接することがない子どもたちの笑顔や元気に走り回る姿も見ることができます。その点に着目し、日本栄養士会では復興庁の「新しい東北」先導モデル事業 東北発「ほっこり食事プロジェクト」として企画し、当初は「高齢者の方たちに保育所に夕食(弁当)を受け取りに行ってもらう」こと(※下図)を保育所側に提案しました。しかし、保育所からの返答は「お弁当ではなく、子どもたちと一緒にお昼ご飯を食べましょうよ!」という、より交流できる企画だったのです。
ほっこり食事プロジェクト概要図
みんなで一緒に食事することで、高齢者も楽しく、食事が進む
福島県内でJDA-DAT(日本栄養士会災害支援チーム)のメンバーとして震災直後から精力的に活動してきた福島県栄養士会の三森美智子副会長は、原発事故の影響から避難生活を送っている浪江町、双葉町、富岡町の住民と地元の住民とをつなげるために、この「ほっこりふれあい食事プロジェクト」をコーディネートし、継続してきました。三森副会長は、自治体やNPO団体、福島県栄養士会の賛助会員など、多くの組織や団体と連携し、それぞれの役割を明確にし、縦割りを越えて地域における協働体制を構築。避難住民を対象に始まった事業ですが、孤食や人との触れ合いの不足は高齢者には共通した健康課題であることから、地元の老人会にも声をかけ、地域住民のコミュニティづくりに大きく寄与しています。
福島県内で「ほっこりふれあい食事プロジェクト」を先導している福島県栄養士会の三森美智子副会長(右)と日本栄養士会の下浦佳之常務理事(左)
「ある保育所では、盆踊りや餅つきなど保育所の年間行事の中に"ほっこりふれあい食事プロジェクト"を組み込んでもらっています。"ほっこり"用に保育所が新たにイベントを企画するよりも手間が少ないからですが、そうなると保護者の方たちも参加するので、高齢者の方と親御さんたちとの交流もできます。子どもと被災された高齢者をつなげることで、周りの大人たちがつながることができるのです」と、三森副会長はその成果を話します。
平成28(2016)年11月、白河市立わかば保育園では市内に住む浪江町、双葉町、富岡町の被災高齢者とともに「りんご狩り」を実施しました。子どもたちとともにバスでりんご農園に出かけて収穫し、保育園に戻ってから給食とおやつを食べ、りんごにまつわる話を聞き、子どもたちの歌の披露もありました。アンケートでは、参加した高齢者16名全員が「とても楽しかった。また参加したい」と回答しており、「子どもの楽しい声を久しぶりに聞いて、嬉しくて涙が出てきました。お昼もおいしく、お腹がいっぱいになりました」などの感想が寄せられています。
こうした企画をすることで、これまで挨拶をすることもなくすれ違っていたかもしれない高齢者と親子が、町のなかで挨拶をしたり立ち話をしたりする可能性が生まれます。それにより、被災した高齢者が避難してきた新しい土地でもコミュニティを感じることができ、疎外感や引きこもりを防ぐことになるのです。
りんご狩りを楽しむ保育園児と参加者
笑顔を全国に広げる~プロジェクトの全国展開~
「ほっこり・ふれあい食事プロジェクト」は平成26(2014)年度には、岩手県、宮城県、福島県の3県の保育所など4カ所で計9回実施し、延べ105名の高齢者が参加しましたが、平成27(2015)年度には活動が広まり、同3県の12カ所で計30回実施、延べ393名が参加しました。
下浦常任理事は、「まさに"ほっこり"できる、ぬくもりが感じられるプロジェクトに育ってきました。今年度からは復興庁のプロジェクトを離れ、日本栄養士会の独自企画として今後は全国に展開していきます。保育所などを栄養ケア・ステーションとして、高齢者の低栄養予防のほか、妊娠期・子育て期の食育など各ライフステージに"ほっこり"を届けられる仕組みを構築していきたいと考えています」と展望を語ります。
平成27年度「新しい東北」先導モデル事業報告書 保育所を活用した生活不発病防止給食受け取りシステムの構築を見る 前編PDF(8MB)/ 後編PDF(11MB)