【栄養ケア・ステーションの最前線 #03】京都市から京都府へ、年間800件の在宅訪問栄養食事指導を担う
2020/02/21
栄養ケア・ステーションの最前線 #03
認定栄養ケア・ステーション 京都訪問栄養士ネット
認定栄養ケア・ステーションで広がる可能性
「京都訪問栄養士ネット」は主に京都市で、在宅訪問栄養食事指導(介護保険では居宅療養管理指導)を主軸に活動している認定栄養ケア・ステーションです。2012年に、代表を務める管理栄養士の樹山敏子さん(写真左端)と副代表で管理栄養士の荊木文子さん(写真左から2人目)が京都市山科区で在宅訪問栄養食事指導の活動をスタートさせて以降、共に活動をするメンバーを徐々に増やし、現在の登録メンバーは管理栄養士17名。京都市全域および宇治市、木津川市、城陽市、亀岡市といった周辺地域にまで対応できるようになっており、年間で約800件の在宅訪問栄養食事指導を担当しています。
2015年に(公社)日本栄養士会が認定栄養ケア・ステーションのモデル事業を募集した際にエントリーをした団体の一つが、この京都訪問栄養士ネットでした。代表の樹山さんは、「在宅訪問栄養食事指導を中心とした私たちの活動が個人的な思いだけで実施しているのではなく、全国的に必要とされ、日本栄養士会の一員として責任を持って担っているものであると対外的に示すことができました」と、認定栄養ケア・ステーションに手を挙げた意図を話します。認定栄養ケア・ステーションという肩書きを得たことで、「この地域には、管理栄養士・栄養士の専門職集団がここにいます」と存在をアピールでき、社会的信用を高めることができたといいます。
「京都訪問栄養士ネット」は、その活動を「おいしくたべて」の7文字でわかりやすく表現しています。
お:おいしく咀嚼嚥下機能に合った食形態および食事内容の指導
い:いろいろな慢性疾患に合った食事指導、献立提供
し:支援者(家族・ヘルパー)や本人への調理指導
く:具体的かつ負担感を軽減する支援
た:他職種や介護施設との積極的な連携
べ:便利な栄養補助食品の紹介
て:丁寧な観察・聞き取りによる栄養摂取状況・栄養状態の確認
樹山さん、荊木さん、そしてもう一人の副代表である管理栄養士の宮崎圭子さん(上写真右端)は、それぞれ病院勤務の経験があります。しかし、「病院の栄養指導と在宅での栄養指導は、内容がまったく異なる」と声をそろえます。宮崎さんは、「病院で管理栄養士が実施している退院指導の内容を患者さんやご家族が実際に自宅できるかどうかは、在宅に出向かなければわかりません。したがって、在宅訪問栄養食事指導を担うには、その方の病態に関する知識に加えて、今の健康状態や食べる力、ご家族を含めた環境などから、具体的に何をどう変えればより良い状態に維持できるかを見極めて、伝える力が大切です」と話します。
小原さん(上写真右から2人目)は京都府栄養士会の育成講座修了者で、同行訪問などを経験しながら京都訪問栄養士ネットの仲間に入りました。介護福祉士の経験も生かしながら、管理栄養士として患者さんやご家族を支援したいと話します。
在宅介護は食事が基本、その司令塔が管理栄養士
その「おいしくたべて」を実践する在宅訪問栄養食事指導の現場に同行しました。
一件目は、多系統萎縮症を患う82歳の藤美さんのお宅です。2年前に倒れて入院し、入院中の1年間は経鼻栄養のみ。娘の淳子さんは、「家に帰ったら好きな物を食べようねと、母を励ましてきました。退院時の栄養指導では食事をミキサーにかけて、とろみをつけてくださいと教わったものの、食べることが好きな母に安全で喜んでもらえるものを用意できるのか不安でした。ケアマネジャーさんに相談したところ、認定栄養ケア・ステーションから管理栄養士の樹山先生が来てくださることになり、栄養指導の初回から7品ほど教えていただき、今では1日3食を口から食べて楽しんでいます。初めは栄養補給のために1日3回胃ろうから栄養剤を注入していましたが、今では1回となり、母はとても喜んでいます」と、自宅で藤美さんの状態が上向きに安定していると話します。
樹山さんはベッドで療養している藤美さんに声をかけ、ふくらはぎと上腕の周囲長を計測し、「いい状態を維持できてますね~」と伝えました。そして、自宅で作って持参してきた「抹茶ミルクくずもち(ゼリー状に仕上げたもの)」の話をし、淳子さんに作り方を解説しました。
藤美さんの台所の冷蔵庫には、今、冷凍してある手作りミキサー食のメニューが書かれたホワイトボードが掛けられています。
魚:かれい煮付け、さばと里芋、いわし塩焼き、さんま蒲焼き、うなぎ、ぶり大根
肉:肉じゃが、とり団子、ハンバーグ、コロッケ、焼豚
野菜など:味付け油揚げ、野菜炊き合わせ、ポテトサラダ、ひじき豆、だし巻き、金時豆、焼いも
自営業の淳子さんは帰宅が遅いため、休日などに数種類を作り置きしておき、食事の時間になるとホームヘルパーがこのホワイトボードをベッドで療養する藤美さんに見せ、食べたい料理を選んでもらっているのです。
藤美さんが食事をしっかり食べられるようになってきた影響もあり、「リハビリの先生も『どんどん力が付いてきていますね』と驚いています。母も自力で食べたい気持ちがあるようで、利き手の左手を口に近づける練習をしているんです」と、淳子さん。「樹山先生は、食べさせるだけでなく、食べることによって身体にどのような影響が出ているのかまで見てくださり、健康管理全般をお任せしています」と信頼を寄せています。
二件目は、脳梗塞の後遺症のある80代の男性Aさんの一人暮らしの自宅です。樹山さんはこの日、娘さんとケアマネジャー、言語聴覚士、訪問介護事業所の担当者との月1回の担当者会議に参加しました。
主な議題は、Aさんの食事準備について。朝食はAさんが市販の蒸しパンを好んでいるため家族やホームヘルパーが買い置きできるのですが、課題は昼食と夕食です。近所に住む娘さんの話では、最近のAさんは「一品でいい」と食欲がわかない様子。食べやすいやわらかさのご飯を誰が何曜日に炊き、おかずをどうするのか。不足しやすいエネルギーは何で補い、半月ほど悩んでいる便秘に対しては何ができるか話し合いました。結果として、水曜日と土曜日の担当ホームヘルパーが米2合に対して3.5カップのやわらかめのご飯を炊き、肉や卵を含む主菜を載せた雑炊のようなものを一品×2食分、昼のホームヘルパーが用意して、夜はAさん自身が電子レンジで温めて食べるという流れにし、粉飴(甘さが低い糖でエネルギー補給に使う)や食物繊維の粉、エネルギーアップのゼリーやドリンクなども使っていくことに決めました。
担当ケアマネジャーの布施美幸さんは、「在宅介護は食事が基本なので、その司令塔となる管理栄養士さんは重要です。利用者さんの健康状態が変動したり、担当のヘルパーさんが変わることも少なくないので、居宅療養管理指導の算定は月2回までではなく、状況に応じて増回できるなど、柔軟な対応ができるようにすべきだと思います」と話し、管理栄養士との連携をより強化させたいといいます。
京都府全域で在宅訪問栄養食事指導を実施するために
布施さんが管理栄養士への期待を示すように、京都訪問栄養士ネットへの打診は、ケアマネジャーからがもっとも多くなっています。ケアマネジャーの研修に呼ばれる際には、バーミキサーを持参して「里いもと魚の缶詰を使ったミキサー食」といった料理をその場で実演し、「介護をしている家族に金銭的な負担も手間も少なく、栄養のあるもの、お通じにつながるものが用意できる」などと、症例ともに在宅ならではの管理栄養士の役割を紹介するようにしています。
実際の訪問には主治医の指示によることが必須のため、主治医の元に樹山さんと担当管理栄養士が出向き、医療保険の場合と介護保険の場合で必要な事務作業について説明し、医師と在宅訪問栄養食事指導(または居宅療養管理指導)の契約に至ります。京都府国保連合会が、居宅療養管理指導の保険請求のためのシステムフォーマットを医療機関に無料配布しているという状況は、契約の後押しになっているといいます。
樹山さんは、「京都府栄養士会とも連携し、在宅訪問栄養食事指導の活動を京都府全体に広げ、医療圏域ごとに認定栄養ケア・ステーションを設置できるようにしたいです。そのためには、在宅訪問ができる管理栄養士の人材育成が急務です」と話し、主催する勉強会には病院や高齢者施設勤務の管理栄養士を誘ったり、病院事務長に病院管理栄養士が在宅訪問栄養食事指導を始めるメリットを説明したりするなど、日々の在宅訪問と並行して、その輪を広げるための取り組みにも力を入れています。