なぜいま、「摂食嚥下リハビリテーション」なのか? 2025年の専門職に必要な視点、スキルを、"プロ"たちが解説
2017/10/25
左から田中弥生氏(日本栄養士会常任理事)、田中早苗氏(厚生労働省健康局健康課栄養指導室)、石川祐一氏(日本栄養士会常任理事)、上島順子氏(NTT東日本関東病院)、手塚文栄氏(医療法人たかぎ歯科)、安田和代氏(医療法人かがやき 総合在宅医療クリニック)、江頭文江氏(地域栄養ケアPEACH厚木)
動き始めた「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」。「日本摂食嚥下リハビリテーション学会学術集会」が開催
脳血管疾患などの疾病の後遺症や老化によって、噛むこと、飲み込むことが困難な(摂食嚥下障害のある)高齢者が増えています。人生100年時代とも言われ、超高齢社会である現在の日本では、こうした障害を抱える人たちに対応できる専門職が求められています。「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」は、昨年平成28年度に日本摂食嚥下リハビリテーション学会と日本栄養士会の協働で作られた、対象者の嚥下状態を把握し、適正な食事をマネジメントする専門性を有する、新たな認定資格です。
平成29(2017)年9月15日・16日に開催された同学会の学術集会でのパネルディスカッション等から、この摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士が設立された経緯、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の現在の活動状況、そして今後の期待についてレポートします。
地域のなかでリーダーとなり、医療・介護と暮らしをつなぐ。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の使命
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士制度は、厚生労働省から日本栄養士会に委託されている管理栄養士の専門分野別育成事業の一つで、平成27(2015)年に制度構築についての議論がスタート。平成28(2016)年から運用が開始され、昨年(2016年)度は27名の摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士が誕生しました。
この資格が創設された現状として、厚生労働省健康局健康課栄養指導室の田中早苗氏は「医療施設から戻る先は約7割が家庭であるというデータがあるが、そのうち約4割が食事について困りごとや心配事を抱えていると回答している」と話し、厚生労働省では今年3月に「地域高齢者等の健康支援を推進する配食事業の栄養管理に関するガイドライン」を公表し、栄養管理のあり方を国として初めて整理したと報告しました。また、「平成28年度の診療報酬改定においては、外来・入院栄養食事指導料初回の倍増や、摂食嚥下機能低下の患者に対しても個別栄養指導の対象に含める等、嚥下機能が低下した方への充実を図っています」と説明しました。
こうした背景をもとに、がん病態栄養専門管理栄養士、腎臓病病態栄養専門管理栄養士に続いて、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の認定制度がスタートしたと述べ、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士は、摂食嚥下リハビリテーションに関する知識と栄養管理に関する技術を修得して、医療機関や介護施設で、そして在宅でも患者とその家族に対して積極的な栄養支援を行うことで、QOLの向上に貢献できる人材である」と位置づけました。そして、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士は、栄養・食生活の支援を通じて、支援に関するエビデンスを蓄積していくことが重要。エビデンスが充実することで、効果的な介入方法が確立され、役割が拡大し、さらに体制づくりが進み、管理栄養士・栄養士が働きやすい環境づくりにもつながっていく」と強調しました。
なお、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の資格は、管理栄養士であり、「日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士」資格を取得し、実務経験5年以上(うち3年以上は摂食嚥下障害患者に対応)で、5例の症例提出、研究の報告として学会発表や論文発表をしたうえで、さらに「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門研修」を受講することで認定試験が受験でき、合格して摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士と認定されます。
日本栄養士会常任理事の石川祐一氏は、「日本栄養士会がめざす専門管理栄養士像と専門管理栄養士への期待」について講演し、摂食嚥下リハ領域で管理栄養士に何を期待したいかを語りました。
まず、「国は地域包括ケアシステムを進めており、医療施設、介護施設、住まいをつなぐことが大事だと言われている。地域のなかでリーダーとなることが、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の使命の一つではないか」と提起。「嚥下調整食学会分類2013」ができたことで0~4というコードを用いて地域で食形態を統一することが可能になったものの、「この分類は段階のみが記されており、食べる前後の栄養状態の把握や栄養成分、量について設定ができるのは管理栄養士という専門職のみ」と伝え、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士が活躍するシーンを挙げました。
資格取得者から見た、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士とは?
パネルディスカッション後半では、平成28(2016)年に摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士に認定された3名が登壇し、資格を得たうえでの活動状況について報告しました。
NTT東日本関東病院の上島順子氏は、急性期病院からの視点として、「昨年度、当院28診療科のうち眼科と産科、入院がない小児科以外、すべての科に摂食嚥下障害の患者さんがいた。つまり、私たち医療施設に勤務する管理栄養士は、摂食嚥下障害の患者さんに接する機会が必ずある」との現状を示しました。このような背景のもと、「多くの管理栄養士に摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士をめざしていただき、摂食嚥下機能評価をしたうえで栄養管理を行い、さらに地域の管理栄養士同士や多職種とつながって、シームレスな栄養管理をめざしましょう!」と会場の管理栄養士・栄養士に呼びかけました。
続いて、たかぎ歯科に勤務する手塚文栄氏が「歯科勤務栄養士の立場から」という題目で話し、「高齢者にはもともとあった機能を回復させるためのリハビリになるが、小児の患者の場合は新たに摂食嚥下機能を獲得していくことの支援になる」と歯科での管理栄養士の役割を紹介。「栄養評価をし、簡単な料理の作り方など家族への食生活の提案と支援、そして子どもに対しては遊び心も必要である」と小児の嚥下障害にかかわるうえでの重要なポイントをまとめました。
最後に、岐阜県の総合在宅医療クリニックに勤務する安田和代氏が、在宅での管理栄養士の役割について講演し、「地域ではマンパワーの限界があるため、食事環境のマネジメント力が必要と考え、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士をめざした」と、資格取得の動機を述べました。自らが関わった80歳代のがん末期の患者と家族への食支援について詳しく紹介し、近隣の温泉旅館への家族旅行も実現させたことを報告。在宅では細やかな支援が必要となることから、摂食嚥下障害の患者における緊急時・必要時における訪問回数の緩和が必要であると問題提起し、「誤嚥性肺炎の発症を防ぐことができれば医師の緊急往診の回数を減らすことができ、医療費の削減につながるはず。そのくらいの専門性を持って、私たちは活動していきたい」と抱負を語りました。
地域で活動するために、コンビニ、スーパーの商品に注目
交流集会では「コンビニ、スーパー等の市販品は嚥下調整食として利用できるか?」について話し合いが行われました。演者の一人、医療法人かがやき総合在宅医療クリニックの安田和代氏は、自分の訪問地域の約20件のコンビニ店舗をまわってアンケート調査を実施した結果を報告。「客の4~5割は高齢者が占めているという店が多く、すでに売られているさまざまな商品に嚥下調整食として可能なことがわかる表示がなされると良い。コンビニのイートインで高齢者がお茶をしている様子も多く見かけ、高齢者の外出先としてコンビニを勧めることもある」と話しました。松林ケアセンターの清水宏美氏は、デイサービスで使用している市販の介護食品と手作り料理の組み合わせについて紹介し、「食べている人をよく観察し、食品の特性を理解したうえで、食卓の助っ人として活用することが大事」と述べました。
最後に座長を務めた江頭文江氏が、自身の経験から「コンビニで売られている煮魚のチルド商品を在宅に持っていき、調理することもある」と事例を紹介。「私たちは引き出しとして、コンビニ、スーパーの商品、介護食品などさまざまなものを知っておくこと。ご利用者やご家族がどんなものを望んでいて、どんなものなら食べられそうなのか、そういう視点で店内を見ていただくとよいでしょう」とまとめました。
あと数年で団塊の世代が後期高齢者となることから、摂食嚥下障害を抱える人はさらに増加すると見込まれています。摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士制度はまだスタートしたばかりですが、医療施設、高齢者施設、そして在宅の場で、この専門性を兼ね備えた人材の需要はすでに高まっています。診療報酬・介護報酬同時改定、地域包括ケアシステムの充実など、フォローの風が吹く中、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の資格取得をめざし、自らの力で、時代のニーズに応えていきましょう。