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【特別対談】栄養・食が人の心と未来を繋ぐ、連続テレビ小説『おむすび』

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 NHKの2024年度後期 連続テレビ小説『おむすび』の放送が2024年9月30日(月)から、はじまりました。栄養士に光を当てた理由、ドラマのテーマである「人は食で作られる。食で未来を変えていく。」に込められた思いは何か。
 NHKの2024年度後期 連続テレビ小説おむすび制作統括の宇佐川隆史さんをお迎えして、公益社団法人日本栄養士会中村丁次会長との対談の模様をお届けします。

栄養をテーマに、「一歩先に進んだ食」を描く

中村:宇佐川さん、今日は朝ドラ制作でご多忙の中、対談の機会をいただき感謝申し上げます。まさか、栄養士が朝ドラの主人公になる日が来るとは思っていませんでした。なぜ、管理栄養士・栄養士を主人公にしようと思われたのですか。
宇佐川:今回の連続テレビ小説『おむすび』は、食をめぐる物語にしようと考えましたが、そこでひとつ疑問が湧きました。これまでも食をテーマにした朝ドラはありますが、その多くが昭和前後を舞台に「食べることは生きること」をテーマにしてきました。令和という時代を考えた時、平成・令和を舞台に、「一歩先に進んだ食」をテーマにしたドラマを作れないだろうか。そう考え、食にまつわる取材を重ねるうち「栄養」というキーワードにたどり着き、管理栄養士・栄養士の存在に強く心が惹かれました。

中村:一般的には「栄養士=給食を作る人」のイメージを持つ方がまだ多いでしょう。ドラマの主人公として成立すると思われたのはなぜですか。
宇佐川:当初は正直、手探りでした。しかし「管理栄養士・栄養士の仕事って何だろう、仕事の裏側にどんな苦労があるのだろう」と思うようになりました。栄養学や管理栄養士・栄養士について調べを進めていく中、手に取ったのが中村会長の著書『臨床栄養学者中村丁次が紐解く ジャパン・ニュートリション』でした。
中村:ありがとうございます。日本は、明治以降から栄養学を導入し、栄養密度の高い食品や料理を取り入れることで栄養不良を解決してきました。第二次世界大戦による飢餓の中で栄養士制度をつくり、自然を尊重する伝統的な食文化を継承しながら、健康長寿の近代国家を形成しました。こうした日本独特の栄養改善がジャパン・ニュートリションです。ジャパン・ニュートリションの実践によって培われた力は、今、国際的に求められています。

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宇佐川:なにもない状態から、栄養士を養成し栄養学を普及するという、未知のものに向かって進む中で当然壁もあったはずです。こうした歴史と中村さんご自身の人生が重なり合い、ワクワクしながら読み進めていった結果、「日本が世界に誇れるものとして管理栄養士・栄養士があり、ドラマにしたらおもしろくなる」と確信しました。
中村:管理栄養士・栄養士の仕事の特徴として、すべてのライフステージにおいて健康の維持・増進、疾病の予防と治療の支援に関わり、活動場所が非常に幅広いことが挙げられます。著書にも記しましたが、戦後、人材育成に注力した賜物だと言えます。
宇佐川:取材を重ねるほど、私たちの生活のいたるところに管理栄養士・栄養士は存在して支えてくださっていることが分かってくる。それなのに、私も世間もその活躍を見た記憶がない! まるで忍びのようだと思いました。
中村:忍び! 管理栄養士・栄養士の皆さんは謙虚で目立とうとしない点で言い得て妙ですね。
宇佐川:ただ、栄養学は知識として私たちに浸透しています。夜中におなかがすいてコンビニで商品を選ぶとき、「もう遅いから」とサラダやスープ等軽いものにしようと思いますよね。これは私たちに刷り込まれた栄養学の知識によるものだと気付き、ハッとしました。
中村:日本人は栄養学の知識が刷り込まれていることに気づいていませんが、これは栄養教育の成果であり、その活動を支えてきた管理栄養士・栄養士の尽力によるものだと思います。

命と食の繋がりと、ジャパン・ニュートリション

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宇佐川:管理栄養士・栄養士の仕事を調べるうちに東日本大震災をきっかけに設立された「日本栄養士会災害支援チーム(JDA-DAT:Japan DieteticAssociation - Disaster Assistance Team)」の栄養・食生活支援活動を知りました。また、新型コロナウイルス感染症拡大時には、自宅待機者に配布する食品選定にも管理栄養士・栄養士が関わっていたことが分かり、活動範囲の広さに感嘆しました。命と食は人生のあらゆるシーンで繋がっていることを再認識しました。
中村:コロナ禍では、感染リスクと重症化リスクの両方に栄養状態が関わっていることが推測されました。低栄養状態では免疫機能の低下に加え、免疫機能のバランスを保つために重要な役割を担っている機能も低下し、生体バリア機構の脆弱化等が起こります。これらが複合的な要因となって、感染症にかかりやすくなります。一方、過剰栄養による肥満は、炎症をすすめるサイトカインの分泌を亢進し、糖尿病や高脂血症、高血圧などの慢性疾患を引き起こし、それが重症化リスクになっていることが指摘されています。

宇佐川:海外と比較すると日本国内の死亡数は少なかったんですよね?
中村:日本でも低栄養、過剰栄養の問題はありますが、海外に比べればまだ深刻ではありません。
宇佐川:どういうことでしょうか。
中村:古来、日本の食事は低栄養であり、江戸時代の平均寿命は約50歳、明治時代の人は身長が低く、ビタミン欠乏症によるしもやけ、あかぎれ等に悩まされていました。明治時代に栄養士の養成が始まり、栄養学の普及と栄養改善活動が始まります。その後、高度経済成長期に食事の欧米化が見られ、肥満の増加が社会問題となりましたが、管理栄養士・栄養士の啓発活動によって洋食化にブレーキをかけたという経緯があります。
宇佐川:洋食化の悪いところにはブレーキをかけ、よいところは取り入れるというミックスの仕方が非常にうまかったのですね。こうしたお話をうかがうと、栄養学と管理栄養士・栄養士の活動は、日本の戦前戦後からの宝だと痛感します。
中村:そう言っていただけるとうれしいです。

宇佐川:もう1つ大きな驚きだったのは、栄養学は定説であったことが、数年後にはエビデンスのある研究成果を持って塗り替えられていることです。先程、今回の朝ドラでは、「テーマを一歩先に進める」とお話ししました。栄養学が日進月歩の進化を続けていることを知り、平成から令和という現代史の歩みと、栄養学、管理栄養士・栄養士の歩みをリンクさせてダイナミックな世界観を描きたいと思っています。そして新しく誕生したテーマは「食べることは、あなたの未来をつくること」です。食べることは人と繋がること、未来を変える力があることをお届けしたいと思います。
中村:主人公がどんな管理栄養士・栄養士に成長していくのか、ドラマの展開が楽しみです。

橋本環奈さんの人間力と、栄養士の共通点

中村:橋本環奈さんが管理栄養士・栄養士を演じると聞いて大変うれしかったのですが、なぜ橋本さんを選んだのですか。
宇佐川:第74回NHK紅白歌合戦で司会を務める橋本さんを画面越しで観て、可愛らしさ以前に物おじせず、自分が目立つことよりも他の出演者のことを一番に考えて進行するたたずまいに尊敬の念を抱きました。こうした橋本さんの人としての在り方と、取材を重ねて得た管理栄養士・栄養士への思いが合致したことから出演を依頼しました。

中村:管理栄養士・栄養士を演じることについて、どうおっしゃっていますか。
宇佐川:おもしろそうな仕事だと興味を惹かれたそうです。ちなみに、ドラマのキャスティングは、役者さんが人として持っているものと、役柄との間に重なる部分があることが重要です。重なる部分がないと、視聴者は「演技がうまい」とは思うけれど「応援したい」とはなりにくいものです。タイトルの「おむすび」、主人公の名前である米田結(ゆい)の「結」の文字には楽しく、明るく、時に悩んで突っ走りながら主人公が「結んでいく"もの"と"思い"」が託されています。橋本さんの人間力に裏付けされた主人公の魅力とともに、注目していただきたいです。

ドラマを通して栄養の大切さを伝えたい

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中村:管理栄養士・栄養士の仕事は、派手ではありません。ドラマではどう伝えられますか。
宇佐川:栄養学や管理栄養士・栄養士という視聴者が気づいていない存在がテーマですから、伝えることは簡単ではありません。しかし、私たちはマスメディアとして、今回ドラマにすることで、人々に栄養の大切さを分かりやすく知らせることが役目だと思っています。1話は15分間なので、取材したことの一部しか伝えられませんが、栄養士や管理栄養士の資格を取るのはどれほど大変なことなのか、管理栄養士・栄養士の仕事は楽ではないが素晴らしいものであること。そして自分たちに刷り込まれている栄養・食の知識は、こうした人たちが支えていること等について、ドラマの中でにじみ出るようにしようと思っています。このドラマは管理栄養士・栄養士の人々が、社会へ飛び出す扉になると思います。この扉を、皆さんと一緒に開いていけたらと思います。

中村:常々、管理栄養士・栄養士はもっと社会に訴える力を持つ必要があると思っています。私は人間の生命維持において空気、水の次に大切なのは栄養だと考えていますが、栄養を意識して生活している人はほとんどいないのが現状です。しかも栄養学は医学、農学を軸にした広大で深遠な学問です。管理栄養士・栄養士は進化を続ける栄養学を学び続けてほしいし、栄養学をわかりやすく伝える翻訳者であることを忘れずにいてほしいと思います。
宇佐川:朝ドラの役目は、日本の朝を元気にすることであり、人々の生活と日本の未来を明るくするという、大きな目的があると思っています。私たちスタッフがこれらを達成するために真剣に取り組む気持ちと、栄養学、管理栄養士・栄養士の在り方もまた合致しているのではと感じます。
中村:人間力あふれる橋本環奈さんが演じる管理栄養士・栄養士像に大いに期待しています。朝ドラを機会に各病院・施設・地域に橋本環奈さんのようなキラキラした「この人のいうことなら聞いてみよう」と思える管理栄養士・栄養士が増えてほしいと思います。今日はすばらしい対談をありがとうございました。

 日本栄養士会では『おむすび』応援企画として、ドラマ放映にあわせて特設ページを公開!管理栄養士・栄養士管理栄養士・栄養士のシゴトにフォーカスした様々企画を随時更新していきます!

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