【講演レポート #02】栄養指導の質をグっとあげる、管理栄養士・栄養士のためのコーチング術
2018/08/09
「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯02
講演名:相手を伸ばす栄養指導-コーチングからのヒント-
講師:藤田潮氏(and Cs代表、生涯学習開発財団認定マスターコーチ)
「コーチング」とは、語源は「coach(駅馬車)」にあり、相手の行きたいところに連れていく意味を指します。スポーツやビジネスの世界でよく耳にする用語ですが、管理栄養士・栄養士の栄養指導や食育の現場においても、患者さんやそのご家族、児童・生徒、または同僚・部下の意識や意欲を引き出す手法として、有効的に使えると考えられます。コーチングの概要を理解し、現場での活用につなげることを目的として、and Cs代表でコーチングのプロである藤田潮さんが講演を行いました。
コミュニケーションは質より量、まず聞く
「言葉で人のやる気を伸ばすプロ」。そう紹介されて登壇したのは藤田潮氏。これまで2,500時間以上に及ぶ個人へのコーチング、1,000回以上の講演を行ってきた藤田氏は、親しみやすい笑顔と、テンポの良い話術で、参加した管理栄養士・栄養士の心を瞬時にとらえました。
「まずはお隣の方とお互いに自己紹介をしましょう。どこから来たのか、どんな仕事をしているのか、どんな些細なことでもいいです。この会場でひとりぼっちの方がいないようにしましょう」
藤田氏の明るい掛け声のもと、参加者らは少し照れた様子を見せながらも互いに声をかけ合い、講座は和気あいあいとした雰囲気で始まりました。そして、コーチングについて説明をする前に、藤田氏は参加者に向けて、チームワークについていくつかの質問を行いました。
「チームワークが良いチームとは?」
―青学の駅伝チーム、カーリング女子、ドラえもんと仲間たち、うちの学校のPTA...。
「そうしたチームの特徴は?」
―居心地が良い、楽しい、前向きな空気が生まれる、アイデアが生まれやすい、人が育つ...。
「チームワークの良いチームを学校に置き換えると?」
―子供たちが伸びる、行事が楽しくなる、問題が発生しにくい、能動的な授業ができる、職場の風通しが良くなる...。
栄養教諭や学校栄養職員も多くを占めた会場内では、学校の内容に話が及ぶと一層前のめりになる姿も見受けられました。前向きな意見が次々に飛び交い、会場はポジティブな空気に包まれました。
「チームワークが良いチームを作るには、何より一人ひとりがコミュニケーションをとることが大事。コミュニケーションはまず質より量。とにかくたくさん聞き、話し、語るようにしましょう。コーチングとはまさにコミュニケーションです」と、参加者の回答から藤田氏がまとめ、チームワークの大切さについて参加者の理解が深まったところで、いよいよ本題のコーチングに話が進みます。
一人で始められるコーチングの5つ
藤田氏は会場を見渡しながら、ひときわ大きな声でこう語りかけました。
「私たちが変えられるのは、今の自分だけ。他人の人格や過去の事実を変えることはできませんが、それらをどう捉えるか、自分の受け止め方を変えることはできます」
コーチングとはすなわちコミュニケーション。つまり、相手の個性を尊重すること、と藤田氏は繰り返します。
「コーチングと聞くと、むやみに褒めることのように受け止められることもあるが、それは間違い。コーチングにおいて最も大事なことは、まず認め、声をかけ、ともに未来を描き、よく聴き、よく問いかける」
藤田氏はそう説明したうえで、自分一人で今日からすぐに始められる5つのことを紹介しました。
① 相手を知ろうとすること
あなたは相手の誕生日や家族構成を知っていますか? 相手の価値観ややる気の出る褒め方を把握していますか? 人間関係がうまくいかない、職場に居づらいという方は相手のことを知らないだけかもしれません。人は他人のことはよく分からないものとはいえ、相手を知ることで解決することが多いのも事実です。まずは相手がどんな人か知ることから始めましょう。
② 一人ひとりに向き合うこと
コーチングには、自己主張と感情表出の軸で分けられた4つのタイプに合わせて、それぞれの受け入れやすい言葉や方法でアプローチするという手法があります。何か同じことを伝えるにしても、具体的な数値や結果を示すことで動く人もいれば、楽しそうだと感じたときに動く人もいます。ほかにも、出身地や職業など、1つでも多くの情報から相手の個性を知り、それに応じた接し方をするといいでしょう。
③ 相手を大切にすること
人は承認され、自分が大切にされていると感じることで、自己肯定感や自尊心が生まれます。そして、その気持ちは自分自身に対する自信や、他人への思いやり、信頼につながります。あなたがいかに相手のことを大切に思っていても、あなた自身が口にしなければ伝わりません。相手への興味や関心を相手に分かるように伝える努力を怠らないでください。
④ 相手とたくさん対話すること
まずは目を見て、自分から話しかけ、相手の話を聞くことが大切です。コミュニケーションはまずは質より量。何を話すか、どう話すかと悩むよりも、とにかくたくさん対話することを意識しましょう。相手が話しにくそうにしている場合は、相手が答えやすい質問に変えるなど、工夫してみることも大切です。
⑤ まず自分が満たされていること
あなたが普段エネルギーを注いでいることを想像してみてください、仕事や育児など大変だと感じることだけではなく、友人との時間や趣味など楽しいことをしているときも含めて――。人は誰でもいろいろなことにエネルギーを注いでいます。しかし、疲れていたり、健康状態が悪化していたりすると、その力は失われてしまいます。それを避けるためにも、まずは自分を満たしてあげること。おしいものをたくさん食べて、よく寝て、自分を不当に傷つける人を避け、自分を満たしてあげてください。
ワークショップ形式を中心に進行した講演が終わると、参加した管理栄養士・栄養士たちが明るく声をかけ合う姿も見られ、講義を通じて藤田氏が一貫して伝え続けた「ここで観て、聴いたことはすべて自分から実践すること」をスタートさせていました。相手に自ら気づきを与える傾聴型の栄養指導、みなさんの活動にも、ぜひ、取り入れてみてください。
講師プロフィール:藤田潮氏(and Cs代表、生涯学習開発財団認定マスターコーチ)
プロコーチ。講師。立教大学卒業後、株式会社ベネッセコーポレーションを経て、2004年に事務所and Cs(アンドシーズ)設立。国内外含め4歳から87歳の受講者に対し、行政・金融・福祉・教育・医療等業種や団体を限定せず約1,000回以上の研修講演に登壇、個人セッションは2,500時間以上を数える。
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次回講演レポートは、8月21日(火)に掲載を予定しています。