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【講演レポート #04】糖尿病重症化予防事業で、行政栄養士が連携のハブになるには?

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯04

講演名:糖尿病重症化予防事業の進め方と地域連携の推進
講師:
岡村智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授)

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 糖尿病が強く疑われる者は約1000万人、糖尿病の可能性を否定できない者(糖尿病予備群)も約1000万人と推計される糖尿病大国・日本(平成28年国民健康・栄養調査)。管理栄養士・栄養士は病院、診療所、保健所等さまざまな現場で、糖尿病患者や予備軍の方と接し、重症化を予防するための「栄養の指導」を行っています。「糖尿病性腎症重症化予防プログラム」の策定に関わった慶應義塾大学の岡村智教教授の講演では、地域連携をテーマに、管理栄養士・栄養士の予防事業へのかかわり方が指南されました。

個人と地域、いずれも現状を正確に把握することが重要

 岡村氏はまず、地域連携には医療に関連する専門家に限らずさまざまな職種がかかわり、皆が必ずしも医学的なエビデンスに精通しているわけではないことから、知識と情報の共有化が不可欠であることを説明しました。そのうえで、まず病態の理解が大前提であるとして、糖尿病についての解説から講演をスタートさせました。

 増加が止まらない2型糖尿病については、「依然として40歳以上に罹患者が多いものの若年発症が増加していること、複数の因子が関与しており家族歴も影響するが、家族歴があれば必ず発症するわけではないこと」等を説明。「運動不足や過食等の環境因子が加わって起こるので、予防や治療が可能な疾患である」と、改めて予防の重要性を説きました。
 そして、糖尿病の分類として、空腹時血糖値およびOGTT2時間血糖値の2軸から判断する、「正常型、正常高値、IFG(空腹時高血糖)、IGT(耐糖能異常)、糖尿病型」の5分類を説明し、「管理栄養士・栄養士の皆さんが病院やクリニックの医師たちと話すときは、この分類によって糖尿病の用語をしっかり分けて話ができないといけない」と強調しました。

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 さらに、糖尿病の検査で一般的に利用されているヘモグロビンA1cの値について、「赤血球の寿命が約120日であることからヘモグロビンA1cは過去1~2か月間の数値を反映しているため、短期間の保健指導でこの値だけを参考にするのは適切とは言えない。ヘモグロビンA1cはもともと糖尿病の有病者で長期間の治療経過を見るための指標。できれば血糖値とセットで確認するほうが望ましい」と保健指導時に血液検査を再測定する際の注意点を呼びかけました。

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 岡村氏は続いて、糖尿病に起因する合併症を細小血管障害と大血管障害(脳・心血管疾患)に分けて解説し、今回の重症化予防事業の主要目標である糖尿病性腎症も細小血管障害であり、細小血管障害は糖尿病に特異的な疾患であると説明しました。また、新潟大学がホームページ上で医療従事者向けに提供している「糖尿病合併症リスクエンジン」を紹介。これは、日本人の2型糖尿病患者の検査値等を入力することで、今後何年後にどのようなリスクが生じる可能性があるかを調べられるというもので保健指導の動機づけに使えます。
 「また過去のデータを参考に皆さんが所属している自治体で、数年後にどのくらいの割合で糖尿病性腎症を発症する人が生じるのかを検索してみるといいでしょう。5年間で数人しかいないという結果が出た場合に、糖尿病重症化予防事業だけに多大な期待をかけるのは問題と言える。一度、業務全体の棚卸をする必要があるでしょう。年間でどのくらいの人たちをどのように予防していくのか、事業の目標設定の参考資料となるだろう」と、持つべき情報を精査する必要性を述べました。

 また、全死亡者のうちリスクが原因で死亡した人の割合を示す人口寄与危険割合(Population attributable fraction: PAF)の計算式を解説し、「いくら重篤な疾患でも町で数人しか死亡しないような疾患の予防事業をしても町民全体には広く適応することができない。こうしたデータは対策をするうえでの指標として不可欠だ」と話しました。

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クレアチニン検査への期待とその課題

 後半は特定健康診査・特定保健指導の在り方に関する検討会で、選定基準が見直された心電図と眼底検査、新規に導入された腎機能のクレアチニン検査について、岡村氏は詳しく解説しました。

 クレアチニン検査は腎機能障害の重症化を早期に評価するための検査として、臓器障害の一種であることから詳細な健診の項目へ位置づけられました。
 これに対し、岡村氏は「厚生労働省から『尿蛋白及び血清クレアチニンに関するフィードバック文例集』が出ているので、皆さんにも確認しておいてほしい。ただしeGFRでは慢性腎臓病に該当する人でも血圧は正常、脂質異常もない、太ってもいない、たばこも吸わないという人が存在する。その方たちに『生活習慣の改善を』とフィードバックするには、具体的に何を伝えたらよいのだろうか?保健指導を担う管理栄養士の皆さんはあらかじめこの点を考えておき、受診者に行動変容をうながす適切な言葉をかけなければならない」と問題提起をしました。

ターゲティングと短中長期の目標設定を

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 岡村氏は最後に、糖尿病性腎症重症化予防プログラムについて詳説し、「まず、糖尿病性腎症の臨床経過は非常に時間がかかるものであると周囲に伝える必要がある。土木・建築等の事業と異なり、対策をして翌年すぐに結果が出るものではないことを事務担当者等と共通理解を持っておかなければならない。一方で、長期的に見ることによって、老化による悪化が因子として加わってくる。必ずプログラムの非参加群との比較を行い、参加群は透析導入症例が少ない、透析導入が遅い等の結果を出していくことが大切だ」と、事業を中・長期的に円滑に進めるためのポイントを提示。重症化予防の目標設定の考え方としては、栄養・食生活、禁煙、治療の継続、過量飲酒の減少、運動と「基本的には健康日本21と同じ構造」であるとして、そのうえで腎機能を低下させる薬剤の服用を避ける等の危険因子を低減し、糖尿病性腎症による年間新規透析導入患者数の減少をめざすことを掲げました。

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 糖尿病性腎症重症化予防プログラムをこれから展開していく行政栄養士に対し、「対象者は健診受診の有無、レセプトの有無によって4通りに分けられる。一度にすべての対象者にプログラムをスタートさせるのは自治体にとっても皆さんにとっても難題。自分の町ではまずどこをターゲットにするかを決めるのもいいだろう。また、1年~数年以内の短期目標を立てるのか、将来の透析導入率の減少を目標にするのかによって、保健指導や医療との連携の内容も異なる。医療機関も受診せず健診も受けていない人をどうやって見つけるかも課題だ。糖尿病の重症化予防には医療との連携も不可欠であるため、自治体の管理栄養士や保健師が連携のハブの役割を担い、地域の実情を踏まえた包括的な取り組みが必要だ」とまとめました。

講師プロフィール:岡村智教氏(慶應義塾大学医学部衛生学公衆衛生学教授)
医師。医学博士。筑波大学医学専門学群卒業後、厚生省、大阪府立成人病センターを経て、滋賀医科大学福祉保健医学講座助教授、国立循環器病センター予防検診部長等を歴任。2010年より現職。厚生科学審議会専門委員(健康日本21(第二次)推進専門委員会)、国民健康・栄養調査企画解析検討会構成員、日本動脈硬化学会理事、日本公衆衛生学会評議員等、要職多数。

次回講演レポートは、8月28日(火)に掲載を予定しています。

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