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【講演レポート #06】食べる機能と食形態を合わせる 管理栄養士の介入の一歩に必要な視点

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯06

講演名:摂食嚥下障害の評価と訓練の実際
講師:
戸原玄氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系口腔老化制御学講座高齢者歯科学分野准教授)

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 団塊世代の多くが75歳以上の後期高齢者になる2025年を控え、国は高齢者が住み慣れた"地域"を重視した医療・保健・福祉制度を進めています。(公社)日本栄養士会においても、在宅訪問管理栄養士および栄養ケア・ステーションの認定制度を作り、地域で活躍できる管理栄養士・栄養士を育成しています。「地域で"口から食べる"経口摂取を支えるために、専門職ができることは何か?」について、訪問歯科診療を長年にわたり実施している歯科医師の戸原玄氏が示しました。

嚥下障害があっても外出したくなる地図

 大学に勤務しながら、在宅や高齢者施設へ往診をして摂食・嚥下障害が疑われる高齢者等に訪問歯科診療をしている戸原氏。冒頭で、「当初は患者さんに大学病院にまで受診しに来てもらっていた。嚥下機能が低下している方の多くは体調もあまりよくない。病院に来るだけで疲れてしまっている高齢患者さんに水飲みテストをして、激しくむせてしまったりすることも多く、日常の場所へ私が往診するようになった」と、摂食・嚥下障害の方に訪問歯科診療を始めた経緯を話しました。
 そして、自身が業務主任者としてかかわる「高齢者の摂食嚥下・栄養に関する地域包括的ケアについての研究」(厚生労働科学研究委託費長寿・障害総合研究事業)で作成した「摂食嚥下関連医療資源マップ」を紹介。嚥下訓練や嚥下内視鏡検査等を実施している医療機関、訪問診療をしている医療機関とその対象地域がWEB上で探せるようになっており、現在1400ほどの医療機関が登録されています。このマップには、さらに「介護食対応レストラン」も40軒ほど掲載。街中の飲食店だけでなく、ディズニーランドや温泉旅館まで登録されています。

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 「『嚥下障害があってもリハビリをすればミキサー食が食べられるんですよ』と言われても、それほど喜べない。『リハビリをすれば、ディズニーランドに行けますよ、温泉に泊まれますよ』といった声かけが生きる意欲につながると思う。要介護状態の方はそもそも出かける理由がないので、外出の機会を用意したくてこのページを作りました」
 戸原氏は会場にいる管理栄養士・栄養士に対し、「皆さんが勤務する病院でVE(嚥下内視鏡検査)・VF(嚥下造影検査)や訪問診療をしていたらぜひこのマップに登録してほしい。また、まわりで嚥下障害に対応した食事が出せる飲食店があれば、そちらにも協力をお願いして登録していただきたい」と、摂食嚥下関連医療資源マップの充実を呼びかけました。

「口を見せてください」の前に観察を

戸原氏は、これまで摂食嚥下障害のある患者さんや高齢者を1万人以上診察してきたといいます。そのうちの1症例で、原疾患がくも膜下出血で部分的に介助が必要だった69歳女性について話を進めました。

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 女性は、くも膜下出血発症後に誤嚥性肺炎を2度発症したことから、胃ろうを造設していました。戸原氏が訪問診療で初めて介入したのは、発症後8か月を経過したとき。初診時での嚥下造影検査により、嚥下機能は直接訓練可能なレベルと判断し、1日1回お粥から経口摂取の訓練をスタートさせました。徐々に摂取量、食形態ともアップさせて、3カ月後には1日3食常食摂取が可能となりました。


 この症例を踏まえ、戸原氏は「嚥下障害は放っておくと悪くなる印象があるかもしれないが、よくなっている症例もある。この女性はくも膜下出血を発症してからの8か月間、嚥下障害については放置されてしまっていた。このように嚥下障害が残存している状態で在宅へ移行する方が多いが、その先で何も行われなくなったり、退院時の状態が永続的なものとして対応されてしまっていることが問題。退院後、"ただそのまま"になっている方は誰がフォローするのだろうか」と問題提起をしました。
 そして、「急性期病院で経管栄養となり禁食と言われた後、食べる機能があるのにもかかわらず経管栄養のままでいる方や、食べる機能が低下しているのに普通の食事を摂取している方もいる。介入の第一歩は、この視点。機能と食形態を合わせることだ」と、急性期以降の専門職が食べることを評価して、リハビリにつなげる必要性を訴えました。  そのうえで、「訪問診療に学生を連れていくと、現地に着くなり『口を見せてください』と言う学生がいる。その一言の前に、相手を一見して得られる情報を収集しよう」と、項目を挙げました。

《一見して得られる情報》
・目がはっきりと覚めているか
・普通に深い呼吸ができるか?
・異常にやせていないか?
・異常な円背はないか?
・首は硬くないか?
・声は普通に出るか?
・普通にしゃべれるか?
・よだれや痰はないか?
・口が異常に汚くないか?

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 「これらを観察することにより、嚥下関連筋障害の有無や嚥下反射惹起性の低下、口腔咽頭機能の低下に限らず、栄養不良や脱水症状の有無、呼吸器障害の有無、筋力の低下などに気づくことができる。猫背がひどければ、姿勢を正して座れるようにクッションを使ってみたり、ストレッチをさせてあげたり。摂食嚥下障害と一言で言っても、その状況・状態はさまざま。医師や歯科医師、リハの専門職につなげるだけでなく、自分で観察をして対応できそうなところをまず探していくことも大事。そうすると少しずつ正解に近づいていくこともある」と戸原氏は話し、会場の管理栄養士・栄養士とともに腕や指を組んで上に上げて肋骨のあたりを伸ばすストレッチ等をして、食べる前の環境づくりを説明しました。

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口を開ける訓練で「おいしい!」を感じた

 戸原氏は、自身がかかわった「開口力」と「開口訓練」の研究をいくつか解説しました。訓練では、口を最大限に開いて10秒保持します。嚥下障害のある患者さんに1日に5回2セットを行うことで、舌骨挙上量、食道入口部開大量、咽頭通過時間、咽頭残留等に改善がみられたといいます。また、同じ開口訓練を介護予防教室に参加した高齢者に1か月継続してもらったところ、開口力は有意に増強したというデータも説明しました。研究に参加した高齢者からは「口を開けるトレーニングをしてよかった。毎日がおいしくて、おいしくて...」という感想があったといい、管理栄養士・栄養士にもできるリハビリの1つとして参考になります。


 最後に、戸原氏は2013年9月に毎日新聞に自身の取り組みが掲載された「5年ぶりに食べられる喜び」という記事を紹介。「私がかかわった症例で最も長かったのは、『ごくん』と飲み込めるまでに8年かかった患者さん。このような症例に出会うたびに、現状を見ただけで『食べられない』と簡単にあきらめている場合ではないと痛感する。『今は食べることは難しいけれど、食べられる可能性はありますよ』と光を当てる。摂食嚥下障害に関わる管理栄養士の皆さんにはそういう仕事をしていただきたい」と期待を寄せました。

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講師プロフィール:戸原玄氏(東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系口腔老化制御学講座高齢者歯科学分野准教授)
歯科医師。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科老化制御学系専攻高齢者歯科学分野修了。同大学歯学部付属病院高齢者歯科医院、助手、摂食リハビリテーション外来医長を経て、日本大学歯学部摂食機能療法学講座准教授。2013年より現職。

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次回講演レポートは、9月4日(火)に掲載を予定しています。

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