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【講演レポート #07】今日から使える!最強のアンケートを作る、4つのポイントとは?

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯07

講演名:実践に役立つアンケートのとり方まとめ方
講師:
中谷弥栄子氏(鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科教授・学科長)

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 管理栄養士・栄養士の現場で普段接する対象者(患者、高齢者、児童・生徒とその保護者、アスリート等)は、どんなことを悩み、考え、どんな要望を持っているのでしょうか。それを知る手立てがアンケートです。しかし、実際にアンケートをとったことがある管理栄養士・栄養士でも、その結果を十分に活かしきれている人は多くはないかもしれません。実践に役立つアンケートの取り方とまとめ方について、公衆栄養学や食育を専門とする中谷弥栄子氏に教えてもらいました。

アンケートの質を左右する「計画書」の作り方

 「なんのためにアンケートを行うのか、調査目的を常に意識してください」と、中谷氏は冒頭から繰り返し強調しました。調査目的が不明瞭なアンケートは、質問内容に齟齬が生じて対象者が答えにくいアンケート票になってしまったり、せっかく回収しても有意義なデータが得られず自己満足で終わってしまうことになりかねないからです。
 「アンケートを実施する前に、誰に対して行うのか、どうやって実施するのか、調査対象者数や予算、スケジュール、期間などを具体的に決めておきましょう」それが、事前に細やかに作成する計画書。そこからようやくアンケート票の作成に取りかかります。
 では、実際にアンケート票を作る際には、どのようなことを注意するといいのでしょうか。中谷氏は、「アンケートを通じて、実証しようとする課題をあらかじめ明らかにしておくこと。そして、その課題を解決するためにはどういう調査内容にすればいいのか、仮説を立てるところから始めます。仮説を立てたら、調査項目の柱を決め、それをブレイクダウン(細分化)して実際の質問項目を作っていきます」と説明しました。

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 中谷氏は「20代の朝食欠食の原因を調べるためのアンケート」を例に、実際のアンケート票作成のポイントを解説しました。「朝食を食べない原因を探るには、例えば【食意識】と【食行動】に関する項目の柱を太めに設定するといいでしょう。【食行動】の柱をブレイクダウンして【朝食】の項目を作り、さらにそこから【何を食べるか】、【何分程度かけて食べるか】というふうに深めていきます」 
 質問を作成しているとあれもこれもと聞きたいことを詰め込んでしまう管理栄養士・栄養士もいるでしょう。自分で質問が多すぎるなと感じたら、調査目的に立ち返り、必要性の高い質問を優先的に採用し、下位は削除します。「質問は1問1分程度で答えられるものを40問程度が理想」と、中谷氏は解説します。

鉄則!回答しやすい質問から並べよう

 質問の順番にも悩む管理栄養士・栄養士は多いでしょう。
 「アンケートでは、はい/いいえで答える単純な質問には回答しても、考えないと答えられないような特殊な質問は避けられる傾向があります。それを回避するために、質問の配列は"事実が先で意見は後"。これが鉄則です」
 事実に関する質問とは「朝食を食べるか・食べないか」というようなものを指します。一方、意見に関する質問とは「あなたにとって朝食とは何ですか?」というようなもの。回答者が答えやすいように、事実を先にして意見を後にする質問の配列は、非常に大切になります。そのためにアンケートでよく用いられる手法が、スクリーニング質問(Sub Question)です。

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 スクリーニング質問とは、「朝食を食べるか・食べないか」をまず問い、「いいえ」と答えた人にだけ、さらにその理由やきっかけを聞き、回答をどんどん掘り下げていくという手法です。ここで重要なのは、朝食を食べる人ではなく、食べない人の回答を深めることです。調査目的が、「朝食欠食の原因を探ること」だからです。

質問・回答の文章の言葉遣いも重要

 質問項目を決定できたら、次はワーディング(言葉遣い)です。アンケート票は、誰が読んでも同じ解釈をしてもらうために、まぎらわしい表現は避けるべきと中谷氏は言います。
 「たとえば、『今の食生活は良いと思いますか?』という質問。良いという言葉は、バランスがとれている、規則正しい時間に食べている、主菜・副菜が揃っているなど、さまざま解釈が可能なので、避けるべき表現です。また、『あなたは喫煙や飲酒をするか』のように、1つの質問に2つ以上の内容を入れる質問もやめましょう。頻度や時期をたずねる質問では、『ほとんど』『最近』などの漠然とした言葉ではなく、『週に1回』『過去半年以内』など具体的な数字で表すことが必要です」

 ほかにも、「飲酒は健康に悪いのでやめるべきか」というような質問は回答を誘導しているのでNG、同じ意味でも顕著に良い・悪いどちらかのイメージを与える言葉や表現(例:「公務員の天下り」)は回答を左右するのでNG、「運動することは健康に良いか?」という問いの答えは人によって異なるので「あなたにとって」等と個人的な意見を聞く文章にする―と、中谷氏から具体的な注意事項が続きます。

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3つの回答形式、どれを使う?

 質問と同じくらい大切なのが、回答形式です。回答形式は大きく分けて3つ。
 
 1つめは、単一回答。「単一回答の場合、選択肢の数は5つ程度が適切。選択肢間の関係は同次元にすること」と中谷氏は指摘します。「たとえば、『卵』と『卵焼き』は同じ卵でも、一方は食材、一方はメニュー名なので、正しい選択ができません。卵には『肉』や『魚』、『卵焼き』には『ゆで卵』や『目玉焼き』などの選択肢が同次元といえるでしょう。また、選択肢には『その他(具体的な答えをご記入ください)』の欄を設けることで、すべての回答を網羅できます。選択肢は複雑なものにせず、一読で内容を把握できるものにすることです」
 
 2つめの回答形式は、多肢選択。こちらは、①いくつ答えてもいい複数回答(例:当てはまるものすべてに〇をしてください)、②強い選択を知りたい場合に用いる限定回答(例:5つのうち、3つまるをつけてください)、③1位は3点、2位2点のように得点化して集計化する順序付け回答(例:上位3位を教えてください)、の3つがあります。
 「好み・評価の程度を知りたい場合には、多肢選択の1つである評定尺度が便利です。評定尺度には『そう思う、ややそう思う、普通、あまり思わない、思わない』という5部尺度と、普通を除く4部尺度があります。日本人を対象者にしたアンケートでは、5部尺度だと回答が中央(普通)に集まりやすいという傾向にあります。一方、4部尺度では肯定的・否定的どちらかの回答になるため調査結果が白黒はっきりします」

 3つめの回答形式は自由回答。自由記入欄は回答者の心理的な負担が大きく「無回答」になりやすいというデメリットがあるものの、「仮説になかったものや、想定外の本音を聞けるというメリットもある」と中谷氏は付け加えます。「いずれの方式も、質問項目を作る際に同時に考えておくことで、アンケートを作成する全体的な作業がスムーズに運びます」

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 アンケート票が完成したら、第三者にプリテストをしてもらい、ケアレスミスがないかを確認します。「票を集計し、仮説を実証させるまでがアンケ―ト。決して回収するだけで満足せず、結論を出してください」と、中谷氏は会場の管理栄養士・栄養士に強調しました。
 当日は立ち見が出るほど盛況であった本講演。質疑応答では、「間食についてはどう尋ねるべきか」、「個人情報の利用はどうしたらよいか」などの質問が上がり、参加者自身の業務にさっそく取り入れるためのヒントを得ようとする姿が見られました。皆さんもぜひ、今日から実践してみてください。

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講師プロフィール:中谷弥栄子氏(鎌倉女子大学家政学部管理栄養学科教授・学科長)
医学博士。管理栄養士。東京農業大学大学院農学研究科食品栄養学専攻修士課程修了。(公社)日本栄養士会、東邦大学医学部、杏林大学保健学部を経て、2006年より現職。鎌倉市食育推進会議副会長、NPO法人神奈川県食育協会理事長など要職多数。第43回日本栄養改善学会にて奨励賞受賞。

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次回講演レポートは、9月4日(火)に掲載を予定しています。

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