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【講演レポート #10】「起業する!」その前に管理栄養士・栄養士が知っておきたいこと

「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯10

講演名:起業に必要なマインドとノウハウ パネルディスカッション
講師:
井手美由樹氏(株式会社IdealWorks代表取締役・中小企業診断士)
パネリスト:安達美佐氏(栄養サポートネットワーク合同会社代表・管理栄養士)、中野ヤスコ氏(食の学び舎くるみ代表 管理栄養士・公認スポーツ栄養士)

 働き方が多様になっている現代、管理栄養士・栄養士として起業される方も増えています。管理栄養士・栄養士が起業するために必要なことは何か?この講演では「起業」をテーマに、経営コンサルタントの目線から、そして実際に管理栄養士・栄養士として起業している立場からお話いただきました。

起業とは自ら商品やサービスを作り出し、販売すること

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 はじめに、株式会社アイデアルワークス代表で中小企業診断士の井手美由樹氏が講演を行いました。
 「今日ここへお集まりの管理栄養士・栄養士の皆さんは、組織に属するのではなく、自分で何かしたいと考えていらっしゃる方が多いと思います。もうすでに起業されているという方はいらっしゃいますか?4~5名いらっしゃいますね。では、3年以内に独立したいとお考えの方は? 6~7名でしょうか。期限を決めていないけれど、ゆくゆくは何かしてみたいと思っていらっしゃる方?10名以上いますね。では、何をもって起業と言うのかを考えていきましょう。」

 「洋服のように形のあるモノも、コンサルタントのように形がないサービスを売るのも基本は同じです。まず、事業者は自分が売る商品を用意します。消費者はそこへお金を持っていく、あるいはインターネットでポチッとするだけです。売る側は、まずは自分の持ち出しで商品やサービスを作っていかないといけません。次にお客様から対価をいただきます。ここがゼロだと起業とは言えません。ですから、お客様からは「できるだけ高い金額」をいただくという意識を持ってください。対価が低いと利益を残すことができませんから。出た利益で次の投資を行います。たとえば製造業なら機械を買って、製造量を増やすような投資をして、またモノやサービスを作って売る、それが経営です。」

 「皆さんは何のために起業をしますか? ここに縦軸と横軸があります。縦軸の上が利益追求。どんどん事業を拡大して、利益を追求していくという考えです。縦軸の下は、利益追求や組織拡大がそれほど強くないケースです。横軸は自分視点と市場視点。自分視点は、私はこれをしたいとか、私はこれができる、という起点から事業を考えていくもの。市場視点は、世の中にこういう商品やサービスがないから私がやるというものです。
 例えば、株式会社は利益を追求し、どんどん組織を拡大し、税金を納め、人を雇用するというスタイルなので、縦軸の一番上です。個人事業主・フリーランスは、組織に属さない働き方です。誰かが仕事を振ってくれるわけではないので、自分で仕事を作っていかなければなりません。何もしなければ収入は0です。そういう意味では、株式会社の社長も同じです。ただし、個人事業主は利益追求の点でいうと株式会社より縦軸の下のほうに位置します。」

 「利益を追求しないということであれば、NPO法人や社団法人というやり方もあります。最近はおうち起業、週末起業、副業OKという言葉もあるほど起業のスタイルはさまざまです。それぞれの組織やスタイルに良い悪いはありません。ご自身に一番合うと思うものを選べばいいだけです。」

想いを事業として継続させる仕組みづくり

 「起業を考え始めたら、ぜひ熱い想いを言葉にしてください。それが理念になります。ただし、やりたいという想いだけでは事業としてお金を稼いでいくことは難しいです。熱い想いや目標をどうやって事業にして、継続していくか。そのための仕組みを考えていきたいと思います。
 まず、具体的に事業の目標とは何か。これはざっくり言うと、「私はこの事業でいくら稼ぎたいか」ということです。次にその事業を「どれぐらいの規模にしていきたいか」。年商にして何百万円、何千万円、何億円。数字の大きさは人それぞれなので、周りの人は関係ありません。大事なのは、自分の目標を達成するためにどうすればいいのかを考えることです。」

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 「次に、目標を実現していくために方向性を考えます。事業の方向性を考える際に最も重要なのは「誰に売るか」。つまり、「お客様は誰か」ということです。あなたのサービス・知識を理解して、喜んで買ってくださるのは誰なのか、きっちり研究してください。
 そして、「事業を行ううえで自分の強みはどこにあるか」という内部評価と、「自分の強みはどこに活かせるか」という外部評価を考えます。皆さんは「管理栄養士として何が得意ですか?」と、聞かれることがあると思います。そのときに「何でもできます」と答えてはいけません。子どもへの食育、糖尿病患者さんへの栄養指導、高齢者の食介護等、得意分野をはっきりと言うことで、そう認識してもらえます。それが外部評価です。自分のやりたいこと、自分の得意なことをどのように見せていくかが重要です。」

知ってもらうためのプロモーション

 「そして、ここに商品、価格、場所、プロモーションなどマーケティングの基本的な考えを加えていきます。あなたの提供するサービスは何ですか? それをいくらで売りますか? どこで提供しますか? いくら素晴らしいサービスがあっても、知ってもらわないことには事業になりません。ですから、お客様になる方との接点も考えていくことになります。それがプロモーションです。
 どんな商売でも、ホームページやSNSを使うのが普通です。「苦手です」とか「できません」とは言っていられません。ホームページを作って、自分の言いたいことをきちんとPRできる場所を作ってください。お客様に見てもらうためには、検索の上位に来るようにSNSを駆使して自分のホームページまでの導線を作ることが重要になります。」

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 「事業で最も大切な要素がお金です。お金のことを考える時は、2つ考えてください。1つは「その事業を始めるためにいくら必要か」、もう1つは「その事業でいくら儲かるか」。

 いくら必要かということですが、仮に事業所や店舗を借りると敷金・礼金が必要になります。そのほか、パソコンやデスクなど事業を始めるにあたって必要なものをリストアップします。仮に必要合計額が450万円だとします。自分の貯金が200万円、親兄弟が出世払いで出してくれるお金が50万円だとすると、あと200万円を何とか調達しないといけない。銀行から借りるのか、あるいはクラウドファンディングといってインターネットでプロジェクトを宣伝して寄付を募る仕組みがありますが、それらを組み合わせたりして、足りない分を調達しないといけません。

 いくら儲かるかについては、例えば1枚2000円のTシャツが1日10枚売れるとすると、2000×10×営業日数、これが1ヶ月の売上高です。私のようなコンサルタント業ですと、セミナーで1回講演するといくら、顧問先の企業さんで顧問料がいくらということの積み上げです。そして、それに対してどのくらい費用がかかるか。売上高から費用を引いて残ったお金が自分の取り分です。」

 「自分はそこまで稼がなくてもいいという方もいるかもしれません。よく103万の壁とか130万の壁という言葉を耳にされるかと思いますが、これはこの金額以下なら旦那さんの扶養家族のままでいいが、この金額以上は社会保険を払わなければいけないというボーダーラインです。起業して個人で稼ぐと保険料で損をすると心配する人がいますが、社会保険料を払うとなると短期的には損をしているように思われるかもしれませんが、雇用保険を自分でも払うことで年金はその分増えます。私は長期的に考えて、そのほうがいいのではないかと思います。
 これから事業をされる方であれば、私はまず「目指せ200万」と言いたいです。200万円稼いで旦那さんの扶養から外れることを目標にすれば、損をしないと思います。自分の取り分の目標をいくらにするのか、事業のあり方とともに考えていきましょう。」

起業のための3つの条件は環境、お金、覚悟

 「最後に、起業には3つの条件というものがあります。1つは環境、1つはお金、そしてその上にくるのが「覚悟」です。
 環境は、時間と考えています。単に商品やサービスを提供できる時間だけではありません。事業を続けていくには集客方法、お金の計算、税金の支払い、いろいろなことを考えないといけません。それに対して、どれくらいの時間を使えるのか。正直、ある程度の時間を割けないと難しいと思います。となると、やはり家族の協力や理解がとても重要になってきます。
 お金については、最初は出ていくばかりですので、資金計画にはできるだけ余裕があったほうが安心して始められますし、安心して続けることができます。そして、お金のことを好きになってほしいです。どうしたらもっと利益が出るか、どうしたらもっと自分の取り分が増えるのかということを常に考えてください。
 最後が覚悟ですが、当然ですが、自分が引き受けた仕事は絶対にやらなければいけない。もし、今日私がここに来ることができなければ、いろんな方に迷惑をかけて信頼を失うということをいつも考えなければいけません。ですから、風邪も怪我もできません。大変ですし、リスクもあります。必ずしもお金をいただけるとは限りません。それを全部背負える覚悟がないと、事業はできない。」

 「それでも「その事業をやりたいですか?」と聞かれて、やりたいと思うのなら、ぜひ始めてください。個人事業主は明日にでも税務署に開業届を出すだけで、なることができます。起業は楽しいことも楽しくないこともあります。ですが、"自分でできる"、"自分で決める"というのは非常にうれしいことだと思います。こんな不安定な世の中で、確実なものはありません。ちょっとくらいの失敗はつきものです。一つずつ考えたことを実行しながら、失敗しながら、成功しながら、進めばいいのです。今日ご参加の管理栄養士・栄養士の皆さまには、ご自身のスタイルを見つけて、頑張っていただきたいと思います。」

栄養士の社会的地位向上を目指して

 二人目は「事業を継続する」という立場から、栄養サポートネットワーク合同会社代表・管理栄養士の安達美佐さんに講演いただきました。

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 「私の起業の原点は、17年前にアメリカの管理栄養士の活動を調査・視察したときに、84名のうち8割以上が「管理栄養士は社会的に認識されている」と回答していたことです。管理栄養士という職業が社会的に認識されていると実感するのは「専門的なニーズがあったとき」が一番多い回答でした。
 アメリカの管理栄養士は、自分の専門領域を2つぐらいに限定していました。例えばアルコール障害と摂食障害とか、糖尿病教育、という風にです。また、どの領域にも共通して多くみられた仕事内容はManagement,Assessment,Evaluationで、NCM(栄養ケア・マネジメント)に沿った一貫性のある仕事をしていることを知りました。一般の方たちへの講話ではきちんとエビデンスに基づくデータをもとに説明し、栄養カウンセリングについては、指示的なコンサルではなく、個人の考えを尊重し生活に密着した実用的な教育などを見ることができました。アメリカの栄養士がよく言っていたのは、「自分ができることは限られているから、できないことはできる人に振る」ということでした。
 私は当時、何でも対応する管理栄養士として仕事をしていましたが、それぞれ得意分野がある管理栄養士を集めて、より専門性の高いものを提供できれば、日本でも管理栄養士の社会的認識と価値を高められると思いました。また、管理栄養士が活躍する場はたくさんあると分かり、そういう環境を作りたいという想いで起業しました。」


 「会社は12年前の10月に設立しました。本拠地は神奈川県相模原市です。構成メンバーは社員が代表・副代表・事務・経理で4名と、経営コンサルタントと顧問が1名ずついます。それから、各地域で活動している管理栄養士の方々と業務契約を結び、仕事をしていただいています。それぞれ乳幼児、スポーツ、高齢者、臨床等の得意分野を持つ方々を適材適所で配置しています。
 創業当初は皆で手分けをしてクリニックや在宅訪問で継続的な栄養相談ができるようなサービスや特定保健指導への対応を始めました。最近は、これらに加えて、自社企画のセミナーのほか、地域の介護予防事業や管理栄養士を抱える企業から依頼されるスキルアップ研修、デイサービスの栄養管理、食事調査、研究活動等、幅広く展開しています。
 特に最近増えているのが、管理栄養士が直接栄養相談をするだけではなく、継続的に患者さんや高齢者の食習慣を改善する仕組みづくりです。例えば、薬局での栄養相談をどのように根付かせていくかとか、訪問介護ステーションやデイサービス等の管理栄養士がいない組織で食事や栄養の課題を部分的にサポートするといったニーズが増えています。

理念に共感してくれる人とともに

 「会社の理念として「すべての人がより健康的に充実した人生を過ごすことができる社会の実現に貢献する」を掲げています。弊社はライフスタイル改善の成果を導く専門的プログラムの提供、プログラムを実践できる管理栄養士の人材育成を行うことで、理念を実現しようとしています。専門的プログラムというのは、医療機関や在宅訪問で行われる栄養相談の手順と方法で、いわゆる特定保健指導の積極的支援のような介入を行う、血糖コントロールやメタボリックシンドローム改善のためのプログラムです。そして、現場で得たデータを栄養学の視点から科学的に検証し、管理栄養士が関わると良い成果を得られることを実証しています。
 起業して、それを法人として継続するためには、プログラムを標準化して効率化を図ることで提供するサービスの質を保ち、依頼主に満足していただくことが大事です。そのためには、メンバー一人ひとりが同じ理念のもとで最高のパフォーマンスを提供する。そして、メンバーが一人ですべてを抱えなくてもいいようにすることも必要です。
 社会のニーズを素早くキャッチし、適材適所に人を投入する。そうすることで依頼主に地域の管理栄養士が役立つ存在だと感じていただくことが目標です。」

やっぱり食の仕事がしたい、と考え勢いで独立

 三人目は「オンリーワン事業を目指す」という観点から、公認スポーツ栄養士で食の学び舎くるみ代表の中野ヤスコさんにお話しいただきました。

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 「私は、大学卒業後に食品会社に就職をしたのですが、会社がすぐに傾いてしまい、食品とは無関係の会社に入りました。その間、知人のお手伝いで料理教室の先生もしていたのですが、2005年に食育基本法が制定されると、仕事がたくさん舞い込んできたのです。「やっぱり食に関する仕事がしたいし、これなら独立してやっていけるかも」と思って会社を辞めたのですが、そんなに甘くはなかったですね。
 子どもたちもまだ幼く、起業しながらアルバイトもするという形で、管理栄養士として特別養護老人ホームでパートを始めました。それまで大量調理の経験がなかったので、これはとても良い経験となりました。その頃、さまざまな食品の展示会に足を運ぶうちに、私は大豆に興味を持ち、無謀にもお店を開いてしまいました。そんなこんなで今に至り、静岡県のJR藤枝駅の近くで「くるみキッチンプラス」というお店を開いています。」

 「2015年には公認スポーツ栄養士の資格を取得しました。きっかけは高校野球の監督をしている高校時代の同級生から、自分たちのチームで栄養教育をしてくれと依頼されたためです。その後、マラソンの実業団で栄養士をしている知人から、ほかのチームで管理栄養士を探しているという話があり、3年間のアメリカやスイスでの高地トレーニング合宿、世界陸上の北京に帯同したり、ドーピングの検査に立ち会ったりと、たくさんの経験をしてまいりました。
 スポーツ栄養に関しては、依頼が多くあります。筋肉をつけるための食事やサプリメントについての相談等もありますが、アスリートに合う野菜を作りたいという農業関係者からの依頼もありました。」

自分にしかできないことを考える

 「6次産業関連の仕事が増え、国や県から商品開発の依頼が入るようになりました。静岡県は海も山もあり、食材の宝庫です。多くの人に静岡の食材の魅力を伝えていくこと、これが自分にしかできないことと考えています。私は、静岡県、特に藤枝市でいろんな産業をつなげていきたいという想いがあります。トップアスリートのサポートと同じように、地域の子どもたちの食育を、農業をはじめとするいろいろな産業と結びつけて発信をしていきたいです。そのために必要なのが、発信の場となる自分のお店と考えています。」

 「お店は正直なところあまり儲からないのですが、自分の活動を知らせる"媒体"と位置づけて運営しています。飲食店で儲けるというのは本当に大変なことです。なので私は、黒字じゃなくていいから赤字にはしない、プラスマイナスゼロでお店を経営していくことを目標にしています。依頼される仕事は、仕入れもないし経費はほとんどかかりません。でも、飲食店は人件費も場所代もかかる、売上予測は立てられないし、とにかく大変です。だけど、なぜ飲食店をやるかと言うと、自分がほかの飲食店のコンサルをする立場のときに、社長さんや店長さんと自分の経験を共有できることが私の強みだからです。
 現在、全国高等学校総合体育大会が行われており、藤枝市は女子サッカーの開催地となっています。私のお店はビジネスホテルの1階にあるのですが、ちょうど明日から高校女子サッカーの選手たちが宿泊し、10日間ほど彼女たちの食事を対応します。母校である地元の藤枝東高校サッカー部の選手たちにも、単発の指導だけでなく、アセスメントを取って結果を出せるように、一人ひとりにカルテを作り保管しています。これまで自分が描いていたヴィジョンが、ようやく形になってきていると感じているとことです。栄養指導ができるような地域に根づいた店舗運営をしつつ、多方面から依頼をいただくコンサルタントの仕事と両輪で進めています。」

自分の事業のバトンをどう繋ぐ?

 三者の講演の後、質疑応答の時間が設けられ、実際に起業されている管理栄養士・栄養士の方から質問があがりました。

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質問(1)「北海道釧路市で6年前から小さな食堂を営んでおります。体を壊したのを機に栄養学を学ぼうと49歳で地元の短期大学に入学し、地域再生コンソーシアムの助成金を受けて起業しました。全国栄養士大会に初めて参加しましたが、今回の一番の目的は、中野さんにお会いすることです。私はゼミで「スポーツ弁当」を研究していまして、同時期に起業された中野さんをずっとホームページで追いかけていました。6年目になって自分のやりたい事業が見えてきたと同時に、自分ができなくなったら終わりになってしまう事業でいいのだろうかということを悩んでいます。起業されている皆さまは、事業のバトンを渡していくということを、どのようにお考えでいらっしゃいますか?」/佐藤あゆ美さん(栄養士・調理師・健康キッチン・ループ代表)

中野 飲食店の部分だけで言うと、私は普段は店舗に立たず、注文が多いときにだけ手伝うというスタンスにしており、実際の運営は任せています。先ほどお話ししたように、飲食店はプラマイゼロなので人件費を支払うと終わってしまいます。なので、私に依頼が来る講演やコンサルタントのほうで稼いで、飲食店が回ればいいと思っています。

井手 私は今53歳なので、あと10年頑張るとして、その先この会社を任せる人に5年くらいかけてバトンタッチをしたいと思っています。それは家族でも誰でもいいのですが、理念を共有できて、一緒にやってもいいと言ってくれる人をぼちぼち探さなきゃと思っています。

安達 私は創業して13年、ここまで信頼を得てきたのだから、後継者を作って必ず理念をつなげていきたいと思っています。私は、常にうちの会社を手伝ってくれる人はいないかな、できれば本当に後継者になってくれる人はいないかなと考えていて、実際に探しています。当社のホームページを見ていただければ、考え方や結果も書いてありますので、引き継ぎたいと考えてくださる方がいればぜひご連絡ください。

報酬が低い仕事も断らず受けていくべきか

質問(2)「熊本で個人事業主として起業し、今年3年目を迎えます。主にコンサルタント、講演、料理教室をしています。市役所関係の保健指導・保健センターの仕事を月2回していますが、収入がなかなか上がりません。皆さんにお伺いしたいのは、今後も一回あたりの報酬がかなり低い仕事も受けていくべきかどうかということです。それと、私のような者でも、中小企業診断士の先生にお金をお支払いして相談に行くべきでしょうか?」/松下みゆきさん(管理栄養士・保育士・熊本地域糖尿病療養指導士)

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中野 私は20年前、料理教室の仕事を税込み5000円で受けていました。実績になりましたし、それがあって今の自分があると言い切れます。当時は、仕事は金額に関わらず受けていましたが、今は受けません。今は若い栄養士の実績にしてほしいと思っているので、彼女たちにまわしています。2つ目のご相談については、私は商工会議所に通っていました。無料の講座や安く使える制度がありますし、専門家からアドバイスもいただけました。

井手 安い単価の仕事を受けるか受けないかは、起業されてしばらくは悩まれる方が多い問題です。長くやっていると、自然に相手が単価を上げてくれることも少なくありません。「単価より数」という時期は確かにありますが、余裕が出てくると仕分けするようになると思います。先ほどお話しした軸の話ですが、私は「楽しい・楽しくない」、「儲かる・儲からない」という2つの軸で考えています。楽しくて儲かる仕事がもちろん一番。楽しくなくて儲からない仕事は来年はやめようというふうに考えて、続けてきました。
 中小企業や起業家を支援する機関は必ず地域ごとにあります。そこで無料相談が受けられたり、補助金の情報を得られたり、融資を受けられたり、いろいろなサポートがあります。管理栄養士・栄養士の方にとっては最初はハードルが高いと感じられるかもしれませんが、行けばすごく歓迎してもらえると思います。特に女性の起業は国の方針として応援されているので、喜んで支援してくれるはずです。

安達 私はどんな金額であってもお断りはしていません。まず顧客主義という観点から、その組織の予算を理解してあげなければいけないと思います。報酬は高い仕事もあるし、低い仕事もあります。大事なのは、損がない働き方をするということ。手を抜くというわけではありません。1回で10万円、20万円といった高額報酬の講演は、求められるものがその金額に相当するものですから、手間もリサーチも時間や経費がかかります。ですから相手の予算に合わせた働き方をすることが大事です。また、今は管理栄養士・栄養士にお金を出したいと言う組織はたくさんありますから、そうした組織に対して予算を交渉していく力も必要だと思っています。

講師プロフィール:

井手美由樹氏(株式会社IdealWorks代表取締役・中小企業診断士) 
金城学院大学文学部卒業後、靴小売チェーン店に勤務。1997年に中小企業診断士資格を取得し、経営コンサルタントとして独立。全国各地で講演、研修、コンサルティングを行う。

安達美佐氏(栄養サポートネットワーク合同会社代表・管理栄養士)
日本公衆衛生学会認定公衆衛生専門家。神奈川糖尿病療養指導士。病院、保健所に勤務後、2006年に法人を設立。帝京大学大学院公衆衛生学研究科客員研究員も務める。

中野ヤスコ氏(食の学び舎くるみ代表 管理栄養士・公認スポーツ栄養士)
1997年、東京家政大学家政学部栄養学科管理栄養士専攻卒業。食品会社、特別養護老人ホーム等での勤務を経て、2008年に独立、開業。

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講演レポート#10-1 起業に必要なノウハウを身に付ける~事業を始めるための3つの条件~
講演レポート#10-2 起業を生業とする 会社運営を維持する立場から
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