【講演レポート #11】管理栄養士・栄養士のデータ分析力を強化するヒント
2018/09/11
「平成30年度全国栄養士大会」講演レポート ♯11
講演名:国民の健康確保のためのビッグデータ活用推進 ―保健・医療・介護のデータを活用して『より健康的な』を実現する―
講師:横山徹爾氏(国立保健医療科学院生涯健康研究部部長)
日本の生活習慣病対策は、科学的根拠に基づいて進めることがますます重要になっています。健康日本21(第二次)や特定健診・特定保健指導等の事業では、各種のデータを効果的に活用し、根拠に基づいた計画の策定と実施、評価を行うことを求められており、管理栄養士・栄養士が、健診・医療・介護等で活用できるデータも増えています。そこで、国立保健医療科学院生涯健康研究部長の横山徹爾氏が、公衆衛生事業に関わる管理栄養士・栄養士が使えるビッグデータを紹介するとともに、データの解析・解釈で役立つツールについて指南しました。
事業の評価にもビッグデータを活用
はじめに、横山氏は「ビッグデータ」について、「多量性、多種性、リアルタイム性等の特徴を持ち、上手に分析し活用すれば様々な政策や業務が効率的、効果的に推進できるようになると期待されるデータです」と定義付けました。地域における保健活動は、ビッグデータを活用したうえで、計画や目標値の設定(Plan)、各種保健事業などの実施(Do)、評価(Check)、見直しや更新(Act)の「PDCAサイクル」のステップを踏む必要があることを示しました。
横山氏は、PDCAサイクルを紹介しながら「集団における健康問題の発見や健康課題の明確化には、ビッグデータの分析が欠かせません。事業を実施した後の"評価"にもまた、ビッグデータの分析が必要となります」と説明。その理由として、2013年に策定された健康日本21(第二次)では、「各種統計、診療報酬明細書(レセプト)の情報、その他の収集した情報などに基づき、現状分析を行うとともに、健康増進に関する施策の評価を行う」と記されていることや、医療保険者が作成する「データヘルス計画」にも、「特定健診等の結果、レセプトデータ等の健康・医療情報を活用して、PDCAサイクルに沿って運用するものである」と記載されていることを紹介しました。
さらに、評価(Check)のデータ分析時に注意しなければならない点について、次のグラフを示しながら説明しました。
「左のグラフでは、糖尿病が強く疑われる者が年々増えていると読み取れます。しかし、超高齢社会となり、高齢者数が増加すると多くの病気の罹患者も増えます。ですから、単純推計ではなく、性年齢調整をする必要があるのです。調整後のグラフが右です」横山氏は、人数で考えずに割合や有病率で見ること、男女を一緒にすると解釈が難しくなるのでデータは男女別にすること等の具体的な注意点をいくつかあげ、聴講していた管理栄養士・栄養士たちは熱心にメモをとっていました。
大規模データの加工・集計に役立つサイト
さらに横山氏は、保健事業を推進するためのデータ活用には「4つの段階が必要」だとして、次のスライドを掲げ、具体的に説明していきました。
②の大規模データを加工・集計する際に役立つサイトとして、横山氏が挙げたのが「政府統計の総合窓口(e-Stat)」です。
e-Statは、各府省などが公表する統計データを一つにまとめたサイトで、統計データを検索したり地図上に表示したりと、統計を利用するうえでたくさんの便利な機能を備えたポータルサイトとなっています。横山氏は「ExcelやCSVなどの統計表ファイル、統計データ等で各種統計関係情報が公開されていて、2次加工して利用しやすいのでお勧めです」と言います。
また、国保データベース(KDB)の運用について、「膨大な集計結果を専門職の観点から分析・活用する能力を持つ人材の育成が必要です」と強調し、「医療保険者に集まる健診・保健指導データとレセプトデータを突き合わせたデータ分析によって、優先するべき対象者の抽出や事業の評価を行い、PDCAサイクルを展開して効果的に保健事業を実施することが可能になります」と話しました。
ほかにも、「レセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)」についても、「個票データを扱うには高度な情報処理技術が必要ですが、NDBオープンデータ(汎用性の高い基礎的な集計表)はExcel形式で公開されており、2次加工が可能で利用しやすいです」と紹介しました。
データを読み解くにも専門性が鍵
横山氏は「これまで紹介してきたe-Stat、KDB、NDBは、年齢調整、検定などの統計理論に未対応なので、これらの統計処理をしたうえで"見える化"しなければなりません。簡単に使えるツール類の開発や、そのための協力体制・人材育成が必要です。また、多種多様な集計表や膨大な情報量の中から、どの集計表の、どの部分を、どの順番で、どのように読み解いていったらよいのか。具体的な手順書の作成や、読み解きができる人材育成も必要となります」と問題提起しました。
前述した4つの段階のうちの、③の統計学・疫学理論に基づく「最適な解析・見える化」や、④の「解析結果の解釈・分析」を行うためには、保健医療専門職の能力の強化が必要となります。特に、実際に地域の保健活動に関わり、地域の食文化・食習慣や社会的な背景を理解している管理栄養士・栄養士が、専門知識を用いて集計結果を読み解くことは、地域の保健事業の企画・立案・評価・見直しのために欠かせません。
横山氏は、管理栄養士・栄養士がこうした各種データを活用できるようにするために、国立保健医療科学院が行っている研修や、データ分析の手順を整理したマニュアル・教材・ツール集について紹介しました。
横山氏は「このデータ活用マニュアルの全文は、国立保健医療科学院のホームページで公開しています。また、健康・栄養調査等各種データを用いた健康増進計画等の推進状況モニタリング分析技術研修や、保健医療データ分析専攻科などの研修を行っていますので、公衆衛生事業に関わっている管理栄養士、栄養士の皆さんには活用してほしいと思います」とまとめました。
横山氏の説明にあがったビッグデータ活用法を試し、多職種で検討したうえで、各自治体、地域の特性に合わせた公衆衛生事業を展開していく必要があります。
講師プロフィール:横山徹爾氏(国立保健医療科学院生涯健康研究部部長)
医師。医学博士。東京医科歯科大学難治疾患研究所社会医学研究部門(疫学)助手を経て、国立保健医療科学院主任研究官、研究動向分析室長、人材育成部部長を歴任し、2011年より現職。健康日本21(第二次)推進専門委員会委員、日本人の食事摂取基準(2020年版)策定検討会構成員等の委員も多く務める。
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