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【講演レポート #06】がんゲノム医療「元年」、がん病態栄養専門管理栄養士への期待

「2019年度全国栄養士大会」講演レポート ♯06

講演名:栄養管理によるがん予防とがんとの共生、がん診療の最近の話題
講師:河田健司氏(藤田医科大学医学部臨床腫瘍科教授)

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 201710月、第3期がん対策推進基本計画が発表されました(20183月に一部変更)。「がん予防」と「がん教育」が個別目標に盛り込まれ、望ましい生活習慣によって「がん予防」を行うことと、子どもの頃から健康とがんについての教育を受ける「がん教育」の重要性が高まり、管理栄養士・栄養士にもその役割が求められています。そこで、藤田医科大学医学部臨床腫瘍科教授の河田健司氏に、栄養管理によるがん予防と、がん教育の現状、そして最新のがん診療について、お話してもらいました。

栄養指導に反したら、法律違反!?

 「がん対策基本法の第六条は、国民の責務です。『国民は、喫煙、食生活、運動その他の生活習慣が健康に及ぼす影響等がんに関する正しい知識を持ち、がんの予防に必要な注意を払うよう努める(以下略)』と定めています。つまり、管理栄養士・栄養士の皆さんの栄養指導に反するような行動をしている人は"法律を守っていない"ことになるのです。ただし、罰則規定はありませんが(笑)」
 講演は、河田氏のこんな冗談交じりの言葉で和やかに始まりました。
 日本において、がんは1981年から死因の第1位となっており、2015年には年間約37万人ががんで亡くなり、生涯のうちに約2人に1人が罹患すると推計されています。
 こうした背景から、政府はがん対策の一層の充実を図るため、2006年6月にがん対策基本法を制定(2007年4月施行)し、2007年6月には、がん対策を総合的かつ計画的に推進するための第1期「がん対策推進基本計画」を策定。2012年の第2期基本計画を経て、2015年12月には、がん対策において取り組みが遅れている分野について一層の強化を図るため、「がん対策加速化プラン」も作りました。

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 しかし、2007年から10年間の目標である「がんの年齢調整死亡率(75歳未満)の20%減少」を達成することができませんでした。その原因として、喫煙率の減少やがん検診受診率の増加が目標値に至らなかったことなどが指摘されています。
 そこで、2017年の第3期がん対策推進基本計画では、「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す。」ことを目標とし、2022年までの分野別施策と個別目標を定めました。
 
河田氏は「世界保健機関(WHO)によれば、がんの約40%は予防できるため、がん予防はすべてのがん対策において、もっとも重要で費用対効果に優れた長期的な施策と言われています。そこで、第3期の基本計画には、個別目標として"がん予防"と"がん教育"が盛り込まれました。望ましい生活習慣によってがん予防を行うことと、その生活習慣を小さいころから身につけることがいかに重要か、ということがわかります」と解説しました。

がん予防のための肥満と糖尿病対策

 「がんのリスクを減少させる1次予防は、がん対策の第一の砦です。科学的根拠に基づくがんの危険因子としては、喫煙、肥満・やせ、野菜・果物不足、塩蔵食品の過剰摂取などが挙げられます。管理栄養士・栄養士の皆さんには当たり前のことでしょうが、やはり食事は偏らずにバランスよくとること、塩分は少なめにすること、運動すること、これらの周知徹底が、がんの罹患者や死亡者の減少につながります」
 河田氏はこう話し、教育現場では、子どもが自らの健康を適切に管理し、命の大切さに対する認識を深めるために、全国のモデル校において、医師やがん経験者を外部講師として派遣したり、専用の教材を活用したりする「がん教育」が実施されている事例を紹介しました。
 なかでも、喫煙については、喫煙者は非喫煙者に比べて血流が悪くなることから、血色などの美容面からもマイナスであることや、がん治療の際にも抗がん剤が効きにくくなることを説明。自分が喫煙しなくても、他人の煙草の煙からの「受動喫煙」で肺がんのリスクが高まることを、子どもたちに知ってもらう取り組みが進んでいることを話しました。
 また、肥満や糖尿病は、がん発症のリスクとなるため、がん発症の予防という視点からの栄養指導も必要だ、と指摘します。
 「乳がんの場合、脂肪により慢性炎症が起こり、それが発がんするということが証明されています。また、このことは乳がんだけでなく、がん全体に言えるということもわかってきています。日本では、BMI30以上の肥満の人の割合は3~4%とそう多くはありませんが、アメリカでは肥満率の高さが大きな問題となっています。2030年の予測データによると、肥満率が高い州では65~70%の人がBMI30以上、もっとも肥満率が低い州でも40%以上がBMI30以上となり、がん発症リスクを上げると推測されています」

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 河田氏によると、この解決のために、がん関連の学会では最大規模の「アメリカ臨床腫瘍学会(ASCO)」のCEOが、副作用のほとんどない健康食品の摂取によって慢性炎症を抑え、がん予防につなげるという研究を進めているそうです。しかし、現在のところ、有用な結果は出ていません。
 続けて、河田氏は生活習慣とがん予防との関係について、いくつかの研究例を紹介しました。たとえば、「ビタミンDの摂取が、がん予防になるか?」、「大腸がん患者で1日にテレビを3時間以上見ている人は、見ていない人に比べて再発の可能性が高い」、「糖尿病の血糖コントロールのよい乳がん患者はコントロールがよくない患者と比べ再発しにくい」―。
 河田氏は、これらの研究について解説しながら、「規則正しい生活が、がん予防やがんの再発予防につながる可能性があると考えられます。また、仮にがんを発症したとしても、そのステータスを低い状態で抑えることができるかもしれません。やはり生活習慣を改善して、がんを予防する、がんと共生することが大切なのです」と結びました。

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「がん病態栄養専門管理栄養士」への期待

 河田氏は、「管理栄養士、特にがんを専門としているがん病態栄養専門管理栄養士には、栄養管理による、がん発症の予防・再発予防・がんとの共生の『システム化』をお願いしたい」と期待を込めます。
 「システム化とは、"自分がいないとできない"仕事の仕方ではなく、自分がいなくなっても機能する仕組みを作ることです。自分が何をしたいかではなく、社会にどんな業務が必要かを考えて、仕事をすることが重要なのです」
 さらに、栄養管理による、がん予防や再発予防、がんとの共生が「公的な必要性を満たせる形」として機能するためには、基盤に組み込むことが必要だと解説。基盤の一つとしてPDCAサイクルを紹介しました。「厚生労働省の通知によって、2014年以降、がん診療連携拠点病院ではPDCAサイクルを実施しています。PDCAサイクルで重要なことは、Planを十分に検討すること、数値で測定すること、そして視覚化・明文化することです」と話しました。 
 講演のおわりに、河田氏は、がん診療の最先端のトピックスとして「がんゲノム医療」について紹介しました。
 近年、個人のゲノム情報に基づき、個人ごとの違いを考慮した医療への期待が高まっています。河田氏は「これまでは、限られたがん腫のみゲノム検査が実施されてきましたが、2019年6月より『がん遺伝子パネル検査(*注)』に公的医療保険が適用されることになりました」と説明。第3期がん対策推進基本計画にのっとり、ゲノム情報と臨床情報を収集し分析することで、革新的な医薬品などの開発が進む可能性を説きました。
 このように「がんゲノム医療元年」とも言われる今年は、第3期がん対策推進基本計画にある「がん患者を含めた国民が、がんを知り、がんの克服を目指す。」という目標に対し、専門職として、一人ひとりにどうかかわっていくかを改めて見直す時期かもしれません。非がん患者のための予防指導、がん患者のための再発防止の指導、がんとの共生のための指導など、対象者の状況によって介入の方法は変わっても、栄養管理および栄養指導を整理して、汎用性を高める"システム化"が管理栄養士に求められていると言えるでしょう。

(*)がん遺伝子パネル検査
 がんの発生に関わる数多くの遺伝子を一度の検査で網羅的に解析する検査。

講師プロフィール:河田健司氏(藤田医科大学医学部臨床腫瘍科教授)
1997年、山梨大学卒業。社会保険中京病院で研修医を務めた後、トヨタ記念病院、国立がんセンター東病院、名古屋大学、名古屋第一赤十字病院を経て、2012年より現職。がん薬物療法専門医および指導医、日本内科学会認定医、日本緩和医療学会暫定指導医。

次回講演レポートは、9月5日(木)に掲載を予定しています。

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