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【講演レポート #11】食物アレルギーの事故を、調理現場、保育所、学校で、どう防ぐか?

「2019年度全国栄養士大会」講演レポート ♯11

シンポジウム名:食物アレルギーと管理栄養士・栄養士の役割
座長:柵木嘉和氏((公社)日本栄養士会常任理事、食物アレルギー管理栄養士・栄養士認定制度委員長)
シンポジスト:迫和子氏((公社)日本栄養士会専務理事)、鈴木梨絵氏((株)メフォス東北事業部)、渡邉恭枝氏(川崎市こども未来局子育て推進部幸区保育総合支援担当、幸区役所地域みまもり支援センター保育所等・地域連携担当)、中田智子氏((公社)日本栄養士会理事、食物アレルギー管理栄養士・栄養士認定制度副委員長)

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 (公社)日本栄養士会は2018年度、「食物アレルギー管理栄養士・栄養士」認定制度をスタートさせ、リスクマネジメントを考慮した安全な食の提供と栄養教育の専門家として食物アレルギー栄養士111名が合格しています(2019年9月12日現在)。本シンポジウムでは、この認定制度の紹介とともに、学校や保育所で給食にかかわる3人の管理栄養士から、現場での事例をもとに、食物アレルギーに対応できる管理栄養士・栄養士の必要性を解説しました。

国がアレルギー疾患の対策を進める中、認定制度がスタート

 2014年に「アレルギー疾患対策基本法」が成立し、各都道府県にアレルギー疾患医療拠点病院を整備する方針が打ち出されるなど、国はアレルギー疾患の総合的な対策を進めています。こうした時代背景のなか、多くの人に食事を提供している管理栄養士・栄養士は、食物アレルギーに対する正しい知識を持ち、最新の情報に基づいた給食管理業務や保健指導ができているでしょうか?
 シンポジウムの最初に、(公社)日本栄養士会専務理事の迫和子氏が、「日本栄養士会では、特定分野管理栄養士の認定を行うことで、その領域の特定分野における実践活動でより優れた成果を生み、資質向上に向けた研鑽を行うことができる人材育成に取り組んでいます。その1つとして昨年、『食物アレルギー管理栄養士・栄養士』の認定制度をスタートさせました」と、制度の概要を説明しました。
 認定制度は、「食物アレルギー栄養士(給食管理分野)」と「食物アレルギー管理栄養士」の2つに区分されます。食物アレルギー栄養士(給食管理分野)は、食物アレルギー基礎研修を修了し、課題レポートの提出など一定の条件を満たし、認定審査に合格すると認定されます。また、食物アレルギー管理栄養士は、食物アレルギー栄養士(給食管理分野)の資格をもつ管理栄養士がさらに研修を重ね、実践報告をし、認定審査にパスすることで認定に至ります。ともに、5年ごとに更新が必要です。
 迫氏は、「小児期の食物アレルギー罹患率は増加傾向にあり、医療機関だけでなく、保育所、学校、行政など多分野で活躍する管理栄養士・栄養士がそれぞれ食物アレルギーに関する正しい知識と対応技術を持つことが求められています」と、その必要性を話します。

2019091201_02.jpg(公社)日本栄養士会 食物アレルギー管理栄養士・栄養士認定制度の概要

 食物アレルギーは、多くの患者さんにおいて寛解に導く根本的な治療法がないため、原因となる食物の回避が治療の基本とされています。一方で、原因食品の量的安全、質的安全が担保できれば、その範囲内で摂取してもよいという考え方もあります。こうしたなか、管理栄養士・栄養士の役割は、指示された「食べられる範囲」から、食べられる献立の幅を広げ、楽しい食事の場になるようにしていくことが期待されています。
 迫氏は、「認定制度のファーストステップである食物アレルギー基礎研修の修了生を、2022年までに1,000人にしたいと考えています。保育所や幼稚園、学校で働く栄養士・管理栄養士の皆さんに受講していただいて、すべての子どもたちが給食の時間を安全に、かつ楽しく過ごせるようになってほしいのです。また、どの地域でも食物アレルギーについて相談できる仕組みづくりも進めてほしいと考えています」と、呼びかけました。
 さらに、「現在は子どもを対象とした研修内容ですが、今後は、成人や高齢者など対象を幅広くとらえていく予定です。食物アレルギーを抱えるすべての人を地域で支え、食物アレルギーがあっても外食を楽しみ、災害時でも心配なく過ごせる、そんな世の中にしていきたいと考えています」と展望を語りました。

給食サービスのケース 確認は指差し、声に出して「よし!」

 続いて、現場での食物アレルギー対応について、幼稚園、保育所、学校、病院など全国2500カ所で給食サービスを受託している(株)メフォス東北事業部の鈴木梨絵氏が発表しました。
 鈴木氏は、給食喫食に至るまでのプロセスで、同社内でいつ「ヒヤリ・ハット」事例が起こったのかをグラフで示しました。もっとも多いのが「調理」(22%)ですが、献立作成から教室でのおかわりまで、あらゆる工程で発生していることを報告しました。
 さらに、このヒヤリ・ハットの具体的な事例として、入学直後の小学1年生でアレルギー対応が必要な児童に対してアレルギー食品を除去せずに提供してしまった事例などを紹介しました。
 鈴木氏は「担任と保護者の面談で作成した『アレルギー対応表』の最新版が調理側に渡っていなかったことが原因でしたが、調理側でひと言、『4月ですので、新入生や転入生でアレルギー対応の児童はいませんか?』と聞くことで防げた事例です」と振り返り、実際はほとんどの事例が「ヒューマンエラー」であると指摘しました。

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 その後の防止策として、調理時や配膳時にアレルギー対応をする際には、単に決められたことを目で見て作業をするのではなく、その場で対象を指差し、声に出して確認し、確認できたら「よし!」と唱えて右腕を振り下ろす「指差呼称」を行っていると説明しました。鈴木氏は、「指をさし、声に出すことで集中できますし、『アレルギー対応を始めます』など実施状況を声で伝えることで、その場にいる全員が耳で確認するという仕組みです」と、指差呼称の効果を説きました。

調理担当者向け食品表示クイズ

 鈴木氏は、調理現場では入社間もないパート職員の中には食物アレルギーについての理解が少ないスタッフもいるため、定期的に研修などを実施していると話し、パート職員向けの「加工食品のアレルゲン表示クイズ」を会場の参加者にも出しました。
 「原材料がコーン、牛乳、マーガリン、小麦粉、生クリーム...のコーンコロッケを、卵アレルギーの児童に給食で提供できるか?」の問いに、できる、できない、わからないの三択で挙手を求めると、参加者全員が"できる"に手をあげました。また、「同じコーンコロッケを乳アレルギーの児童に出すことはできるか?」の問いには、全員が"できない"に挙手しました。
 鈴木氏は笑いながら、「管理栄養士・栄養士の皆さんには簡単すぎる問題ですね。しかし、パートさんの中には食品表示をきちんと見るのは初めてという方もいます。パートさんからは『"デキストリン"など見慣れないカタカナが出てくると、表示を見るのが嫌になる』、『乳化剤や乳酸発酵酵母パウダーの"乳"の字に惑わされて、乳アレルギーの子どもには出せないと思った』などの声もありました」と、現場の実情を紹介しました。
 「原材料の表記を流し読みしてしまい、端に書いてあったアレルゲンの記載を見落とすミスもあります。だからこそ、指で追って、声に出して確認することが必要なのです」

保育所のケース 給食やおやつ以外にもリスクは潜む

 次に、川崎市こども未来局子育て推進部幸区保育総合支援担当の渡邉恭枝氏が、「保育所におけるヒヤリ・ハット事例と食物アレルギー対応について」と題して報告しました。

 渡邉氏は、保育所でアレルギー対応が必要な場面として、給食やおやつの時間だけでなく、カレー作りなどの食育・調理活動、小麦粉粘土や卵・牛乳の空きパックを使った工作の時間、夏祭りやバザー、遠足、豆まきといった行事、地域の親子対象の食育講座などがあると説明。「事故は日常の保育とは違った活動で起こりやすいので、注意が必要です。また、園児ではない地域のお子さんを交えた活動で、食品を扱う場合には、食物アレルギーについての確認を徹底することが大事です」と話しました。

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 続けて、川崎市の保育所で実際に起きたヒヤリ・ハット事例を2つ紹介しました。
 1つは、乳アレルギー対応児のトレーに、乳を含むパンを配膳してしまった事例です。これは、業者からこの日に限って乳入りのパンしか納品できないと栄養士が連絡を受け、給食担当者や保育士に周知していたにもかかわらず、配膳時の確認不足が原因でした。渡邉氏は、「普段は乳と卵を使わないパンが納品されていたため、『パンは大丈夫』という"思い込み"がありました。どんなときでも献立表と照らし合わせて、複数人で確認することが必要です」と、教訓を伝えました。
 もう1つは家庭での事例で、父親がアジの開きを食べたのちに麦茶を飲み、その同じコップで麦茶をひと口飲んだ2歳の男児が、魚アレルギーを発症して救急車で運ばれたというケースです。
 「この事例から、実際に食べなくても、同じコップを使うことで症状が出ることがわかりました。保育所では、コップ、歯ブラシ、台ふきんなど、子どもの口に入る可能性があるものは他児と別の場所に置くように全職員で決め、保護者や子どもたちにも伝えました」

事故防止のためのマニュアルと徹底した実践

 川崎市では、こうしたヒヤリ・ハット事例などをもとに、保育所での食物アレルギー対応のマニュアルを作っています。
 マニュアルでは、まず事前準備として、管理栄養士・栄養士とアレルギー対応児の保護者とで翌月の献立を確認し、月末までに「個別の献立表」を用意し、保育士全員で把握します。次に、調理室では「除去食・個別対応一覧表」を大きく掲示し、アレルギー対応児の「個別の献立表」と「調理用献立表」に相違がないか、複数の職員で確認します。

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川崎市 食物アレルギー対応マニュアルの使用例

 当日の朝、調理担当者と保育士は、アレルギー対応児の出欠を口頭と出席人数記入ボートで確かめます。出席していれば、保育士と調理担当者で該当児名、アレルゲン、除去食事の内容を確認し、弁当を持参している場合は、ほかの給食材料と混在しないように調理室のあらかじめ決めた場所に置きます。
 配膳時には、アレルギー対応食を先に配膳することをルール化しており、クラス名・名前・アレルゲンを書いた除去食専用名札と専用のトレーを使い、「個別の献立表」のとおりになっているかを栄養士と調理員など複数で確認します。検食者や保育士に食事を受け渡すときにも、該当児名と内容を声に出して伝え、チェックを重ねます。
 「除去食がある無しにかかわらず、別トレーで配膳することで、誰もが一目でアレルギー児用のものであることや、日々の変更内容をわかるようにしています。また、食事の時間は該当児と保育士の座る場所を決めておき、食事中にアレルギー児が他児のものを食べないように目を配るようにしています。また、臨時職員や実習生、他クラスの園児など、クラスにいつもと違うメンバーが入ると誤食が起きやすいので、注意が必要です」
 おわりに、渡邉氏は「誤食事故を防止するためには日々の職員間の連携が不可欠で、すべての職員が『自分が誤食事故を防ぐ』という気持ちでそれぞれチェックを行うことが、子どもに安全・安心な食事を提供することにつながります」とまとめました。

小中学校のケース 医師会や消防機関とともに対策

 最後に登壇したのは、栃木市教育委員会教育部保健給食課課長補佐兼指導主事の中田智子氏です。中田氏は当会の理事であり、食物アレルギー管理栄養士・栄養士認定制度の副委員長も務めています。今回は学校(市教育委員会)の立場から発表しました。

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 栃木市は2013年8月に「食物アレルギー対応マニュアル」を作成し、食物アレルギー対応のルールと正しい情報を共有するための様式などを取り決めています。また、万が一事故が起きてしまったときの備えとして、給食時や緊急時の対応方法やエピペン®(*注)の扱いについて、保護者との面談や「食物アレルギー対応委員会」で対応を決定し、学校全体での共通理解を図っています。
 さらに、エピペン®を処方された児童生徒が在籍するすべての小中学校では、突発的な事態が起こったときに、現場に居合わせた人の行動を促したり、適確な判断を導いたりするための事前指示書「アクションカード」を作成。消防機関と協力して、アクションカードを使った緊急時のシミュレーション研修も行っています。
 中田氏は、「食物アレルギー対応は、保護者や学校現場だけの問題ではありません。栃木市では、医師会や消防機関、保健所、学童保育、保育所、保護者などが連携する仕組みとして、『学校給食食物アレルギー対応調整会議』を定期的に開いています。また、アレルギー疾患のある子どもの症状を把握する『学校生活管理指導表』の発行手数料を公費で助成したり、食物アレルギー対応アドバイザーを設置したりと、横断的な施策に取り組んでいます」と紹介しました。

2019091201_07.jpg栃木市学校給食食物アレルギー対応調整会議

乳アレルギーの事故はなぜ起きたのか?

 こうした取り組みの結果、栃木市では、食物アレルギー対応の児童生徒数、学校生活管理指導表の手数料助成の申請件数とともに、エピペンⓇ研修出席者も年々増加しています。
 中田氏は、「対応が必要な児童生徒に対しての代替食を提供し、市内全小中学校でアクションカードの作成と研修会を実施することができました。緊急時への備えもできていたと思います」と話しました。
 しかし、続けて「それでも、本当に申し訳ないことなのですが、昨年9月に、乳アレルギーの女児が誤食によってショック症状を起こし、救急搬送される事故が起こってしまいました」と報告しました。
 事故の直接の原因は、調理委託業者が「乳なし」のカレールウを発注したにもかかわらず、納入業者から「乳入り」のルウが誤配送されたことでした。しかし、「経過を追うと複数のヒューマンエラーが重なるという、市教育委員会の管理監督が至らなかった結果だった」と中田氏は指摘します。
 納入業者の段階では、①職員が棚から商品を取り間違える、②配送員が積み込みの際に確認しなかった、③配送員が給食センターに積み下ろした際にも確認しなかったことが挙げられます。さらに、調理委託業者の手に渡る時点でも、①受け渡しの際に食品表示の確認を怠った、②調理前にも食品表示の確認を怠った、という事実があります。
 中田氏は「乳入りのカレールウを食べた女児にアナフィラキシーが疑われたにもかかわらず、学校にエピペン®がありませんでした。入学前の面談では、処方された2本のエピペン®を1本は家に、1本はランドセルに入れて女児が毎日持ってくることになっていましたが、この日、ランドセルにはエピペン®が入っていませんでした。実際には、学校も今までの研修と訓練を活かしてアクションカードを使い、保護者へすぐに連絡してエピペンⓇを持ってきてもらい、消防へ通報し、命を守ることができました」
 事故後、栃木市では、調理業者への研修会を開催し、第三者の大学教授を交えて事故調査委員会を発足させました。「食物アレルギー対応マニュアル」も改編し、緊急連絡図に学校から市教委に報告することや、消防署から市教委に通報があったことを連絡することを追記。エピペン®を処方された児童生徒には、学校が1本を保管することを原則として、緊急時に学校にエピペン®がないという状況を発生させないことを盛り込みました。

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 中田氏は、緊張感をもって耳を傾けていた管理栄養士・栄養士に向かって、「マニュアルをどれだけ細かく作っても、実際にそれを運用するのは人です。私たちは、安全な給食提供ができるようにマネジメントができる管理栄養士・栄養士となり、児童、生徒、保護者の不安を安心に替えていきたい」と語り、講演を締めくくりました。
 シンポジストの発表を終え、座長を務めた柵木氏は、「保護者は子どもたちのために必死になって日々の食生活を送っており、管理栄養士・栄養士の指導と助言を待っています。一人でも多くの管理栄養士・栄養士が食のプロとして患者と保護者に手を差し伸べられるように、一緒に頑張りましょう」とまとめ、シンポジウムを閉じました。

(*注)エピペン®
食物アレルギー反応などでアナフィラキシー症状が現れたときに使用し、医師の治療を受けるまでの間、症状の進行を一時的に緩和し、ショックを防ぐための補助治療薬(アドレナリン自己注射薬)。

講師プロフィール
迫和子氏((公社)日本栄養士会専務理事)
1972年、神奈川県に入庁。保健所、保健福祉事務所、衛生部などの勤務を経て、現在は(公社)日本栄養士会専務理事。厚生労働省、内閣府、農林水産省、日本医師会などで各種検討委員会等の委員を務める。

鈴木梨絵氏((株)メフォス東北事業部)
県立長崎シーボルト大学(現・長崎県立大学)看護栄養学部栄養健康学科卒業。株式会社メフォス東北事業部栄養主査として、従業員教育、現場指導・支援等の業務を担う。

渡邉恭枝氏(川崎市こども未来局子育て推進部幸区保育総合支援担当、幸区役所地域みまもり支援センター保育所等・地域連携担当)
女子栄養大学栄養学部栄養学科栄養科学専攻卒業。1996年、川崎市役所に入庁し、市内の公立保育所7園に勤務。2016年、川崎区役所川崎区保育総合支援担当、2017年より現職。

中田智子氏((公社)日本栄養士会理事、食物アレルギー管理栄養士・栄養士認定制度副委員長)
栃木市立栃木東中学校、同市立大宮北小学校にて学校栄養士、都賀町立都賀中学校にて栄養教諭を務め、2013年より栃木市教育委員会教育部保健給食課課長補佐兼指導主事。2018年より(公社)日本栄養士会理事。

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