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【講演レポート #12】子どもにも及ぶ「栄養障害の二重負荷」基礎疾患に応じた肥満予防の実際

「2019年度全国栄養士大会」講演レポート ♯12

講演名:子どもの肥満を予防・改善する食生活~障害特性に応じた個別指導~
講師:西本裕紀子氏(大阪母子医療センター栄養管理室副室長)

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 (公社)日本栄養士会の重要課題でもある「栄養障害の二重負荷」。若年女性のやせ、中年男性の肥満、高齢者の低栄養の3つが、現代の栄養課題のなかでももっとも解決をめざすべき対象として位置づけられていますが、この問題は子どもたちにも及んでいます。本講演では、母子専門病院での栄養管理および栄養指導に長年のキャリアがある西本裕紀子氏が、子どもの肥満を予防するための着眼点や、継続的な指導のコツ、障害に対応した家族支援の方法を伝授しました。

やはり小児期からの食育が重要

 西本氏が勤務する大阪母子医療センターは、病床数が小児215床、周産期160床で、まさに母子を専門とした高度先進医療病院。西本氏は同院で30年以上、母子の栄養管理および栄養指導をしてきたスペシャリストです。
 大阪母子医療センターでは、2005年にNST(Nutrition Support Team:栄養サポートチーム)を発足させ、栄養管理の充実を図り、栄養指導件数は右肩上がりに伸びています。栄養指導のうち、もっとも件数が多いのが肥満と肥満予防を対象にした指導です。
 昨年(2018年)では、小児部門での栄養指導総数3,768件のうち、肥満および肥満予防での指導は1,517件で、このうち8割が基礎疾患を有するといいます。基礎疾患には、プラダーウィリー症候群、ダウン症候群、ターナー症候群などの先天異常症候群をはじめ、内分泌疾患、発達障害、血液疾患、脳神経・筋疾患、心疾患、消化器疾患などがあり、さまざまな疾患を抱える子どもたちとその保護者に基礎疾患に応じた指導をしています。 20190912_02.jpg
大阪母子医療センターの栄養指導件数の年次推移と栄養指導内容別件数

 基礎疾患のない肥満・肥満予防の指導は、昨年は362件ありましたが、そのうち低出生体重児に対しても54件実施しました。西本氏は、「Adiposity rebound(BMIリバウンド)と呼ばれる、生後にBMIが上昇に転じるタイミングが早いほど12歳時点でのBMIが高いという研究結果があり、ARが早期に起こる子どもは将来肥満になるリスクが高くなります。また、低出生体重で生まれて過体重になるとメタボリックシンドロームのハイリスクになることから、小児肥満症診療ガイドラインにも低出生体重児は肥満症診断の参考項目として挙げられています」と話し、低出生体重児には肥満予防を視野に入れた栄養指導を実施していると説明しました。
 DOHaDDevelopmental Origins Health and Disease)仮説は、女性のやせなど母体の低栄養により、妊娠中に胎児に栄養が行き渡らず、倹約遺伝子が働くことで胎児が「省エネ体質」の状態で出まれ、成長とともに過栄養な環境に適合できずにメタボリックシンドローム(糖尿病、高血圧、脂質異常症)のリスクが高まるというものです。女性のやせを"栄養障害の二重負荷の解決をめざす"対象としている理由もここにあります。
 「胎児の段階から適切な栄養状態で育てるためには、女性が妊娠前から適切な栄養状態でいることが大切。そのためには、やはり成長段階である小児期からの食育が重要です」と、西本氏は強調しました。

知的障害、発達障害に対応した栄養指導の工夫

 西本氏は、肥満につながりやすく、家族のサポートが重要となる代表的な基礎疾患として、ダウン症候群とプラダーウィリー症候群を挙げました。
 大阪母子医療センターでは、乳児期にこれらの疾患の診断がされたあとすぐに管理栄養士が介入し始めるといい、「肥満発症が遺伝と密接にかかわるダウン症候群やプラダーウィリー症候群は、のちに修正するのが難しい食行動が生じやすいため、小さいうちから適切な食生活が身につけられるように家族をサポートしています」と、その理由を話します。
 何らかの障害があると摂食機能の発達もゆっくりなペースとなる傾向があり、ダウン症児では咀嚼が苦手なために丸飲みしやすく、咀嚼力が必要な肉や野菜、きのこ類が食べにくいために軟らかくて食べやすい主食が過多になりやすいという課題があります。また、「できるだけ栄養のあるものを」という保護者の気持ちから水分補給に主に牛乳を飲ませることで栄養が過剰になっていたり、便を出す力が弱くて便秘になりやすいという傾向もあります。
 西本氏は、「ダウン症の子どもたちには、初期は発育不良に応じた栄養指導から、成長していく段階で肥満予防のための栄養指導に切り替えます。ダウン症の子はぽっちゃりしている印象があるかもしれませんが、肥満でよいわけではありません。幼児期から食事のルールを作り、家族みんなで取り組めるように指導していくことが大切です。私たち管理栄養士が早期から介入できている子たちには、野菜嫌いの子はいません」と話し、決まった時間に食べる、家族と一緒にゆっくり食べる、用意された分だけ食べる、家にあるものを勝手に食べないといった、ダウン症児の家族と共有しているルールを紹介しました。
 また、西本氏らの調査では、身体計測値や活動量から換算して、ダウン症の子どもの食事量は標準児の8割程度が適切であるという結果を示しました。

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 プラダーウィリー症候群は、15番染色体の一部の遺伝子の機能不足によって起こり、出生児1万~1万5,000人当たりに1人の割合で見られる疾患です。乳児期には筋緊張の低下や哺乳障害によって経管栄養が必要なケースがあり、また、成長段階の幼児期には食欲が亢進して、肥満が出現しやすいという特徴があります。そのため、大阪母子医療センターでは診断後すぐに年2~4回の頻度で栄養指導を継続し、摂取エネルギー量は10kcal/身長(㎝)を目安に調整しています。
 プラダーウィリー症候群の子どもたちは、食への執着心が高いため自分で食欲をコントロールすることが難しく、「盗食(食物探索行動)」をすることがあります。栄養指導では、子どもに対しては食欲が出てくる幼児期から食事のルールを理解度に合わせて繰り返し教え、保護者に対しては可能なかぎりストレスをためないように、問題行動を起こさせない家庭スタイルの構築をサポートしていくといいます。
 また、子どもが学童期になると、疾患が引き起こす障害として隠れ食いや盗み食いといった問題行動が目立ち始めるため、小学校宛てに「給食の調整方法、盛り付け(おかわり)、給食以外の食事を伴う学校行事、運動」について厳格な管理を必要とする協力依頼の手紙を管理栄養士から提出しているとして、その文面を紹介しました。
 西本氏は続いて、広汎性発達障害での栄養指導の事例を報告しましたが、上記2つの疾患と異なり早期の診断が難しいという現状があります。そのため、「診断がなくても、こだわりや偏食が強い広汎性発達障害では、肥満になってからの改善が非常に難しくなるため、幼少期から適切な食習慣を獲得できるように管理栄養士がかかわることが必要です」と述べました。

家族支援を継続してあきらめないこと

 西本氏は最後に、「どのような基礎疾患を抱えていても、肥満は"食べてしまう環境がある"ことで起こるため、その家庭環境を作る両親を中心とした家族全体を視点に置き、きめ細やかで継続的な、あきらめない支援が必要。管理栄養士は特に、親が子どもの疾患・障害を受容していく過程を把握することが前提で、そのときにベストな回答ができなくても一緒に悩み考える姿勢が大事です」とまとめ、疾患ごとに多様で、成長発達段階と子どもの理解度に合わせた小児の栄養指導の難しさとともに、管理栄養士がかかわる意義を伝えました。

講師:西本裕紀子氏(大阪母子医療センター栄養管理室副室長)
大阪市立環境科学研究所附設栄養専門学校卒業、大阪府立大学大学院総合リハビリテーション学研究科博士後期課程修了。1986年より、大阪府立母子保健総合医療センター(現・大阪母子医療センター)勤務。大阪府立大学総合リハビリテーション学部臨床講師、同志社女子大学嘱託講師、武庫川女子大学非常勤講師を併任。

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