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【ACD2022講演レポート2】東京栄養サミット2021のコミットメント実現に向けて、4団体が進捗を発表

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 第8回アジア栄養士会議(The 8th Asian Congress of dietetics;ACD2022)のワークショップ3では、昨年(2021年)12月に開催された東京栄養サミット2021で発出されたコミットメントの進捗についての講演があり、議論が交わされました。
 当ワークショップのタイトルは「The Tokyo Nutrition Summit 2021: Realizing Our Commitments(「東京栄養サミット2021」のコミットメントの実現に向けて)」。東京栄養サミット2021では、世界の栄養課題を解決するために181のステークホルダーから396のコミットメントが掲出され、270億ドル以上の資金が集まりました。このワークショップではそのうち4つのステークホルダーの代表が登壇し、それぞれのコミットメントと実状が紹介されました。
 冒頭で、座長を務めた藤田医科大学教授の三浦公嗣氏から、「コミットメントはただの声明ではなく、義務として達成するもの。今日は演者から自分たちのコミットメントにどのように対応しているのかをお聞きしていきたい」と期待が寄せられました。

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 はじめに登壇したのは、国立研究開発法人医療基盤・健康・栄養研究所理事の津金昌一郎氏で、「Food-based Dietary Guideline for Sustainable Healthy Diets: Lessons from Japanese Diet and Longevity toward SDGs(持続可能で健康的な食事のための食事指針日本食と長寿から学ぶこと―)」の演題で話しました。津金氏はまず、「日本では各栄養素ごとに日本人の食事摂取基準を出しているが、WHOでは持続可能性を加味した食品ベースの食事指針を示すことを求めている。私たちは2030年までに新たな食事指針を提言することをコミットメントとしており、健康的とされている日本の食事を科学的根拠に基づいて示すことによりアジアや世界のモデルとなるようにしたい」と意気込みを述べました。
 そして、現状の日本での食事は、EAT-Lancet委員会が提言する「持続可能で健康的な食事」の推奨値に比べて卵と赤肉が高く、全粒穀物とナッツ類が低いものの、それ以外は推奨値とほぼ同じレベルであると伝え、「国際的に見れば赤肉と卵の消費量は多くなく、また、日本食では肉類の1つのポーションは少なく、野菜と一緒に食べているのが特徴。砂糖の入った飲料をあまり飲まず緑茶を飲む習慣があるのも良い点だが、欠点は塩分摂取量が多いこと」と、数々の調査結果を公表しました。そして、日本食が持続可能であり続けるためには、若年層に動物性食品の摂取が多いので、『持続可能な食品ベースの食事指針』の構築を急ぎたい」と強調しました。

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 続いては、日本栄養学学術連合を代表して、女子栄養大学教授の武見ゆかり氏が「The Commitment and Its Progress of the Federation of Japanese Nutrition Societies(FJNS)(日本栄養学学術連合のコミットメントと進捗)」を語りました。日本栄養学学術連合は国内の栄養に関係する15の学会が集まる学術団体で2017年に設立されたもの。各学会の代表者が集まり1年以上をかけて話し合って決定したというコミットメントは大きく分けて2つあり、1つは「各学会がこれまで取り組んできた日本の栄養課題の解決に関する膨大な研究成果を整理し、日本の食事の有効性を示すこと」、もう1つは「そのエビデンスに基づいた栄養改善を研究から実践につなげる人材を育成して、世界の栄養課題の解決に資すること」。そしてその人材育成のためのeラーニングや海外派遣・交流などのプログラムを作成し「2030年までに合計300人以上の参加を見込む」と武見氏は説明しました。現在は各学会で研究結果の整理や人材育成のための作業が進められているところで、「栄養学は実践されてこそ意味があるものなので、研究者だけでなく現場の管理栄養士・栄養士にもこのコミットメントを共に進めていってほしい」と会場の参加者に呼びかけました。

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 3人目には味の素株式会社の畝山寿之氏が、「Nutritional Commitment of Ajinomoto Group―Nutrition Without Compromising Taste Toward Responsible Nutrition―(味の素グループの栄養コミットメントー責任を持つ妥協なき栄養―)」という演題で、民間企業の取り組みを紹介しました。畝山氏は先に「加工食品企業への期待とともに責任が高まっている」と時代背景を述べ、「うま味による減塩の認知を高めること」や「栄養価値を高めた製品の割合を2030年までに60%に増やす」などの同社が発表したコミットメントと課題解決のための実践例を説明しました。そして、今後は栄養と環境の両立に向けて、「製品・サービスの環境負荷への説明責任も果たしていきたい」と語りました。 

社会の隅々に栄養の専門家を配置する

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 最後に登壇したのは(公社)日本栄養士会会長の中村丁次氏で、「Promote and Develop the Dietetic System in Asia Countries(アジア国々に対する栄養士制度の促進と発展)」という演題で発表しました。はじめに「アジア各国での栄養不良の二重負荷は、貧困・栄養欠乏と過食が同時期に起きていることで、そのことにより問題が複雑になっている。栄養士制度の創設で解決できると思う」と述べました。そして、栄養課題の解決策を9つ挙げたうえで、「解決にはさまざまな手段と方法が必要だが、一番大切なのはこうした政策を立案し、実行・評価できる人材の育成だ」と主張しました。
 日本栄養士会が発表したコミットメントは「持続可能な栄養改善基盤構築のための、栄養の専門職の養成と配置」で、「(1)アジアを中心に、正式な依頼があった国に対して、管理栄養士・栄養士等の教育、養成、さらに栄養士制度の創設や、持続可能な栄養改善の基盤を構築することを支援します。(2)既に栄養士制度が存続する国には、研修、留学等による人材のスキルアップを支援します」と掲げています。このワークショップにおいても、中村氏は「日本栄養士会のコミットメントのポイントは、専門人材を社会の隅々に配置すること」と述べ、栄養の専門職の「養成」にとどまらず「配置する」点を強調しました。
 (公社)日本栄養士会に正式に依頼があったラオス人民民主共和国の栄養改善プロジェクトでは、第1期(2022〜2024年)がラオスの情報収集と両国の人材交流、第2期(2022〜2025年)が自立した学校給食制度の創設、第3期(2025〜2029)が教育機関における栄養士養成、第4期(2029〜2030)が卒業生(栄養士)の就業と予定されていますが、中村氏は現状として「2023年から学校給食の改善に取りかかるための準備を進めており、来月にはラオスの関係者たちとオンラインでシンポジウムを開き、今年(2022年)中にプロジェクトを組織化するところだ」と説明しました。
 そして、「日本の今の健康長寿は、国策として栄養の専門職を生活のあらゆる場面に配置して、すべての国民が健康的な食事と栄養にアクセスできる社会を作ったから。これをアジア全体に広めていきたい」と抱負を語りました。

"dietetics"の幅広さ・奥行きで活動していく

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 最後に座長の三浦氏と上述の4名が登壇し、ワークショップでの話題を振り返り、意見を交換しました。
 三浦氏は、「国民健康・栄養調査は長い歴史がある。戦後の厳しい状況から継続してきたのは大変なことだったと思うのですが、今であればほかの多くの国でも実施できるのでないでしょうか? 海外への技術支援ができそうですが」と見解を示しました。これに対し津金氏は、「こうした調査を毎年実施しているのは日本くらいで、正確ではあるが多くの労力を要するので、安易には技術移転は出来ないかもしれない。イギリスや韓国などの実施国でも数年に一度です。日本もコロナ禍で保健所の負担が大きいため、昨年と一昨年は中断しました。もっと簡易化して、精度の高いデータが得られる調査方法を研究しているところです」と答えました。
 また、津金氏は「地中海食がいいという見解をよく耳にしますが、それはエビデンスが数多く出されているからですよね。日本食、アジアの食事のエビデンスを英語の論文で出していく必要があります」と呼びかけました。中村氏は、「アジア栄養士会議の英名"Asian Congress of dieteticsの"dietetics"という言葉は、Nutritionだけでなく文化や経済、嗜好なども含まれています。そろそろ欧米発の基準に則るだけの"dietetics"は終わりにして、アジアの状況をベースにしたアジアのエビデンスを作っていかなければなりません。エビデンスを作る人材が必要です」と、津金氏の意見に同意しました。
 これを受けて、座長の三浦氏は「日本では『栄養』という言葉が長年使われてきましたが、今後は"dietetics"の幅広さ・奥行きで活動していくことが重要であると、このワークショップでよく理解できたと思います」とまとめて会を閉じました。

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■第8回アジア栄養士会議開催レポートを見る
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