食事で目指す、健康長寿の秘訣とは!? 中村丁次会長が、東京・江東区で高齢者を対象に出前授業を実施
2023/08/01
2023年7月、社会福祉法人江東区社会福祉協議会に中村丁次会長が訪問、来場者74人を対象に、「高齢期の"食べて元気"に、迫る!」と題し出前授業を行いました。人生100年時代への関心の高さを反映し、会場は高齢者を中心に応募者多数で定員を増やすほどの盛況。これまでの固定概念を覆す「健康な高齢者のあり方」や「真の健康長寿食とは」など、食べて元気になるための情報が詰まった時間となりました。
人生100年時代でも、日本は世界一の長寿国に
冒頭、中村会長が見せたのは、青い海の中を泳ぐウミガメの写真です。「カメの後ろに写っているのは私です。今75歳ですが、現役のダイバーなんですよ! 100歳まで続けたいと思っています」。すると、会場からは「おぉーっ!」とどよめきが。
「最近の研究では、近い将来、日本の健康寿命は107歳になるとも予想されています。明治維新の頃は人生50年が定説でしたが、約150年間で寿命は2倍も延びました。もちろん、医学の進歩もありますが、食事の西洋化などによる栄養の改善が大きいと考えます。栄養価の高い食事は日本人の体格をよくするだけでなく、寿命も延ばしたのです。ですから今、私たちが生き生きと100歳を迎えるにも、やはり食事が重要なのです」
高齢者は"ボーっと生きてんじゃねーよ"!?
続けて、「健康寿命とは、病気にならずに生きることだと思っていませんか?」と中村会長が問いかけると、会場は「違うの?」という雰囲気に。
「年を重ねれば聴力、視力、身体能力が喪失されたり低下したりします。加えて心臓病、脳卒中、慢性呼吸器疾患、がん、認知症などの慢性疾患を抱えるリスクも高まります。2015年にWHOは『高齢化と健康に関するワールドレポート』を発表し、その中で"healthy ageing(健康な高齢化)"とは、病気になっても、障がいを持っても、住み慣れた環境の中で残された機能的能力を発揮して、自立した生活のもとに幸福感を感じながら生きることだと提唱しました。簡単にいえば、元気で、明日を信じて、前向きに生きる高齢者を目標にしましょうということです」
さらに中村会長は高齢者について"典型的な高齢者は存在しない"、"社会のお荷物と考えるのは差別である"、"医療や介護など高齢者層への支出は投資と考える"など、健康と高齢化についての認識や固定概念を変える8つの革新的提案がされていることを紹介しました。「これらの提案を言い換えれば、"高齢者は「ボーっと生きてんじゃねーよ!」"というわけです(笑)。自分は社会の役に立っていると思い続けられる、高齢社会を目指しましょう」中村会長の呼びかけに、会場から賛同の拍手が起こりました。
高齢者の低栄養はエネルギー、たんぱく質が不足する混合型
続いて取り上げたのは高齢者の低栄養の問題です。低栄養はエネルギー摂取不足とたんぱく質摂取量不足の2つのタイプに分けられますが、高齢者の場合、ほとんどは両方が不足している混合型だと説明。さらに「高齢になってから、切り傷などの治りが遅くなったと思いませんか? これは、食事で摂取したたんぱく質から筋たんぱく質を合成する量と速度が低下しているからです。こうした体の機能の変化も手伝って、高齢者は低栄養になりやすいのです」と呼びかけました。
中村会長は、低栄養は冷え、むくみ、疲れやすさなどの生理的な変化ばかりではなく、理解力や集中力の低下、無気力、イライラ感の増加といった精神状態にも影響を及ぼすことを、研究報告を示しながら解説しました。続けて、国際的な低栄養の診断基準をふまえた項目を挙げ(下記参照)、「どれか一つに該当したら低栄養です。血液検査をする機会があれば血清アルブミン濃度をチェックすると、たんぱく質摂取量が足りているかわかります」と話しました。
●意図しない体重減少が過去6カ月間で5%以上または6カ月以上で10%以上あること
●BMIが70歳未満は18.5、70歳以上は20以下
●血清アルブミン濃度が3.5/dl未満(炎症がない場合)
「家庭で手軽かつ正確に判断できるのは体重減少です。体重測定は毎日、朝起きて排尿と排便を済ませ、朝食を食べる前に行うと最も正確に測れます。日記や手帳に記録しておき、体重変動をチェックしましょう。肥満で減量が必要な人以外は、体重が減ってきたら食事量を増やして体重を戻すようにしてください。低栄養になると筋肉量が減少して手足や胸、肩などの筋肉が落ちてくるので、鏡に全身を映してチェックするのもよいでしょう」
腹八分目は、健康長寿の秘訣ではない!?
中村 会長は、低栄養は心身の機能が低下して虚弱となるフレイルになりやすいこと、フレイルによって要介護になるリスクや死亡率が高まることを説明しました。
「そこで気になるのは、いわゆる腹八分目の低エネルギー食は健康長寿食なのかということです。長年、研究者の間で論争になってきましたが、近年の研究で中年の生活習慣病対策には有効だが、成長期と高齢期には生存率や骨密度が低下する要因になるという結論に達しました。つまり肥満でない限り、高齢期はしっかり食べる食生活にギアチェンジが必要なのです」
次いで野菜、果物、大豆製品、じゃがいも、海藻、きのこ、魚を多く摂り、肉は日本人の平均的な摂取量(100g以下/日)程度の食事とすることのメリットが語られました。
「低栄養の予防には、毎日の食事をきちんと取ることが大切ですが、総合栄養食品などを間食に活用するのもいいですね。日本のメーカーは味にこだわっていますから、飽きずに続けることができますよ」
SDGsの達成に向けて栄養は重要ではありますが、世界は、環境負荷の少ない食事を目指さなければなりません。
「ある調査で日本は世界で2番目に、人にも地球にも健康な食事をしていると評価されました。『東京栄養サミット2021』では、岸田文雄内閣総理大臣が『栄養の力で人々を健康に、幸せにする。これは日本栄養士会会長の中村丁次氏の言葉です。日本はこの思いを世界に広げます』と世界に発信しました。私たちは、環境負荷の軽減と疾病の予防・治療、介護予防とのバランスを保ちながら、誰も取り残すことなく、持続可能な栄養、食事を創造しなければなりません」と授業をしめくくりました。
このあとの質問コーナーでは、「1日にどのくらいたんぱく質を摂ればいいですか?」という質問が挙がりました。「少なくとも体重1㎏あたりたんぱく質1gは摂ってくださいね。体重60㎏ならたんぱく質60gですが、肉を60g食べるのとは違いますよ。肉や魚に含まれるたんぱく質は約20%です。朝食に卵1個、昼食に魚1切れ(60~70g)、夕食に肉70~80gと豆腐1/3丁。これでだいたい60gになります」と中村会長。この他、当日の声からは、「食べる(栄養をとる)ことは生きていくうえでとても大切なことだとわかりました」、「1日の食事時間をしっかりとった方がいいと感じました」、「大変すばらしかったです、来年もぜひ中村丁次先生にお願いします」などといった感想が。聴講後のアンケートでは、「参考になった」の回答が100%と充実の120分。中村会長による、小学校に続く"食育行脚"。次の展開にも期待です。
●出前授業「高齢期の"食べて元気"に、迫る!」
日時:2023年 7 月14 日(金)14:00~16:00
会場:高齢者総合福祉センター 3階研修室(江東区東陽6-2-17)
定員:70名
主催:公益社団法人日本栄養士会
協力:社会福祉法人江東区社会福祉協議会、株式会社 明治 高栄養食品マーケティング部