入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 実生活で取り入れられる栄養指導在宅療養のサポートが日々の生活を支える

実生活で取り入れられる栄養指導
在宅療養のサポートが日々の生活を支える

トップランナーたちの仕事の中身#003

米山久美子さん(認定在宅訪問管理栄養士)

img_06_01.jpg

ドクターからの依頼で、在宅療養となった患者宅をまわっている在宅訪問管理栄養士の米山久美子さん。低栄養や腎臓病、糖尿病など疾患の悪化を防ぎながら、在宅での食事を安心しておいしく食べられるようにと、食事・栄養面からのサポートを行っています。人間の尊厳を守ることの1つとも言われる口からの食事摂取。米山さんのサポートは、利用者の病気の改善だけでなく、生きる喜びも与えることにつながっています。

img_06_02.jpg間違いだらけの食事が体力を奪っていた

3月、リュックを背負い住宅街を歩く米山さんが向かったのは、老老介護をする利用者の自宅です。「今日は奥さんの顔色もいいですねー」、介護する側の奥さんとの何気ない雑談から訪問は始まりました。87歳の妻が97歳の夫を自宅で介護している現場。夫は腎臓病を患っており、在宅療養中も食事に気を付けるようにとドクターに言われたことがきっかけで、自宅での食事指導を米山さんに頼むことにしたのです。

妻は、「お医者さんからたんぱく質は3グラムと言われていたから...」と、医師から言われたことも曖昧な状況で、どのくらいの制限が必要なのかもわからない中、たんぱく質の多い食材について自分で調べ、食事から抜いて、キャベツなど野菜を中心とした油を使わないヘルシーと思われる献立を心がけていました。ところが、夫はふらつきがひどくなり、今までできていた入浴も、足が上がらず、浴槽に自分では入れないほどの状態にまで悪化していきました。

原因は栄養不足。健康ブームの波に乗り、雑誌やテレビでは健康な食事を謳った特集が頻繁にある昨今、「独自に得た情報は、その方に本当に合っているとはいえない場合も多いのです」と米山さん。実際、在宅介護の現場を訪れると、低栄養や、間違った食事療法の家庭が目立つのだと言われます。米山さんの介入で栄養状態が良好となり、低栄養などが改善されたというケースも多く出てくるようになりました。こうしたデータをまとめた演題が通り、今年は国際栄養士会議での発表も決まっています。

img_06_03.jpg

聴診器は摂食嚥下障害のある利用者の食事時の状況を確認する際に役立ちます。電卓やメジャー、マジックも必需品です。

健康な老後を送るために栄養士ができること

米山さんが在宅訪問に興味を抱いたのは、オーストラリアで参加した看護研修がきっかけでした。癌患者が痛みのコントロールのためにモルヒネ持続皮下注をしながら自宅で生活している話を聞いた時、「サポートがあれば、こんな形で在宅療養できるのか」と、純粋に驚きを感じたのです。帰国後、自分なりにできることを探るうちに、在宅訪問管理栄養士という仕事に出会います。「まだまだ実際に働かれている方も少なく、手探りでした」。国の在宅介護推進の動きもあり、この活動の必要性を強く感じた米山さんは、在宅訪問管理栄養士を仕事の柱に据えようと考え始めます。

img_06_04.jpgimg_06_05.jpgimg_06_06.jpg肌の状態や、浮腫がないかなどをチェックした後は、採血データに目を通し、妻の書いた食事メモや聞き取りを基に摂取カロリー等計算し、その場で必要な情報をパソコンに入力

地域に1つ、訪問ができる栄養ケア・ステーションを

在宅療養中の食事の大切さに以前より注目していた医師との出会いがきっかけで、米山さんはこの医師の経営するクリニック内で居宅療養管理指導事業所を開設、管理栄養士として雇用されることになります。しかし、初めは利用者ゼロ。「この状況をどうにかしなければ!」という思いから、地域の多職種の集まる勉強会に参加したり、地域の方対象の栄養教室を担当するなど地道な活動を続けながら、利用者を増やしていきました。今では事業所の訪問管理栄養士は8名となり、米山さんひとりでは1日2~3件、事業所として年間600件以上を訪問するようになりました。

「自宅を訪れると、その方の生活が見えてきます。食事はただ栄養を摂るだけではなく、在宅療養者にとっては生活の中で数少ない楽しみの1つです。栄養指導と聞くと『いろんなものを制限される!』と思われがちですが、栄養士の介入でむしろ食べられるものが増えたと言われる方が多いですし、安心して食事ができるようになる方も。ぜひ、気軽に相談してほしいです」。米山さんは病気の進行や低栄養などを防ぎながらも、無理なく生活に取り入れられる食事の方法を伝えられるよう日々努力を重ねています。

夢は「訪問看護ステーションのように、各地域に訪問もできる栄養ケア・ステーションができること」だと語る米山さん。この春、その第一歩として事務所を独立させる予定です。「今後も、ますます在宅訪問管理栄養士の育成にも力を入れていきたいです」。在宅介護の現場に栄養士が関わるのがスタンダードになる日を願って、米山さんは今日もリュックを背負い、現場を回っています。

img_06_07.jpg

プロフィール:
認定在宅訪問管理栄養士。栄養士として病院や施設での給食管理を経て、平成12(2000)年管理栄養士取得。高齢者施設、病院、人間ドックや企業での栄養指導、特定保健指導を経験。その後フリーランスで活動し、外来栄養指導やWeb上の献立作成等に携わる。ワーキングホリデー制度にてアデレード(オーストラリア)Meals on Wheels Main Kitchen及びNutrition Professional AustraliaのRDによる実地研修を経験。帰国後、訪問栄養食事指導に興味を持ったことがきっかけとなり、世田谷区の訪問栄養食事指導のモデルケースを担当。「地域栄養サポート自由が丘」を立ち上げ、現在に至る。


賛助会員からのお知らせ