【躍動する専門管理栄養士たち #01】得たのは自覚と自信、専門管理栄養士を目指す過程で"怖い"が強みに
2020/03/25
躍動する専門管理栄養士たち #01
島田直子さん
(摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士
社会福祉法人聖テレジア会 鎌倉リハビリテーション聖テレジア病院)
摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士とは?
加齢や事故、脳血管疾患の後遺症、栄養不良などによって、食べ物を咀嚼する機能や唾液や水を飲み込む機能が低下してしまうことを摂食嚥下障害といいます。この障害を患う人が、リハビリテーションによって、より安全に口から食物を食べられるように、管理栄養士は医師、歯科医師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士などの専門職と協働して対応する知識と技術が求められています。
管理栄養士の中でも、摂食嚥下リハビリテーションの栄養管理に関するより専門的な知識・技術を持ち、こうした障害を持つ患者さん一人ひとりの状況に対応した食・栄養の支援をしてQOL(Quality of Life:生活の質)の向上に貢献できる管理栄養士を「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」として、公益社団法人日本栄養士会と一般社団法人日本摂食嚥下リハビリテーション学会が共同で認定しています。
「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」の認定を受けるには、日本栄養士会会員および日本摂食嚥下リハビリテーション学会の会員であること、日本摂食嚥下リハビリテーション学会認定士の取得者であることが必須で、管理栄養士国家資格を取得して5年以上の実務経験と、摂食嚥下障害を有する人の栄養管理に通算3年以上の経験があり、指定する専門研修を履修して、症例および実務の経験歴5本の提出、論文または学会や研究会での発表経験があることなどの条件があり、そのうえで認定試験に合格することが必要です。
多職種連携でも頼られる管理栄養士に
鎌倉リハビリテーション聖テレジア病院の管理栄養士、島田直子さんは、2018年4月に摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の認定を受けました。
同院は回復期リハビリテーション病棟を3病棟(128床)擁しており、近隣の急性期病院を退院したのちにリハビリテーションを必要とする患者さんが転院してきます。島田さんは、病棟での入院時の合同評価やリハカンファレンス、嚥下カンファレンスなどへ参加、昼食時を中心に各患者さんの喫食状況を観察したりして、摂食嚥下障害のあるそれぞれの患者さんにふさわしい食形態や栄養補給方法は何か、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の視点から見解を述べ、他の専門職とともに臨床にあたっています。
共に働く看護師の加賀谷明子さんは、「島田さんは昼食時に患者さんの食べている姿を確認して、○○さんは食べにくそうなのでこうしたらどうかとか、リハビリの内容からもう少しエネルギー量を増やした方がよいのではないかなど、これから回復して退院を目指す患者さんに前向きな提案をいくつも用意してくれるので、患者さんが抱える課題の解決に進むことが多くあります」と述べ、言語聴覚士の高口ひかるさんは、「患者さんが食べている様子からより適切な食事形態を一緒に考察してくれて心強いです」と話し、回復期リハビリテーションを専門とする同院にとって、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士である島田さんはなくてはならない存在となっています。
しかし、島田さんが同院に就職した2010年頃は、島田さん自身が嚥下障害のある患者さんに対応することに苦手意識があったと振り返ります。
「嚥下障害は目に見えないため、私たち管理栄養士が用意した食事で、患者さんが誤嚥をしたり、その後に体調が悪くなったりしたらどうしよう...という不安が強くありました」
その苦手意識を苦手と思い続けている余裕もないほど、嚥下に障害を有する患者さんが新しく次々と入院してくる同院で、栄養管理を担わなければならなかった島田さんは、摂食嚥下障害に関する勉強会や関連する学会に出かけて行き、必死になって知識と技術を身につけていったといいます。
そのうちに、「口から食べることを支援する管理栄養士として特化したい」という思いに至り、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の認定を受けることにチャレンジしたのです。
日々の臨床経験の積み重ねこそが、資格につながる
島田さんが、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の資格取得に意欲的になるほど、苦手意識を克服できたのは、「しっかり勉強をして知識を身につければ、嚥下障害の患者さんに対応することは怖くないとわかったから」と断言します。
専門管理栄養士の認定を受けるうえで、島田さんがもっとも大変だと感じたのは、認定条件の1つである「摂食嚥下機能に関する5症例および実務経験を提出すること」でした。同院に入院していた摂食嚥下障害を有する患者さんのうち、島田さんが管理栄養士としてかかわったことで「口から食べられるようになった症例」、「ずっと経管栄養だったがアプローチをし続けた症例」、「低栄養で嚥下状態が悪かったが改善できた症例」などを、栄養管理プロセスの流れ(①栄養アセスメント、②栄養診断、③栄養介入、④栄養モニタリングと評価の4段階)に則って、実施した栄養管理を記述してレポートにまとめました。
また、同じく認定条件である「摂食嚥下に関する筆頭発表、もしくは筆頭論文を1篇以上有すること」については、日本リハビリテーション栄養学会の学術集会で、「FIMが低くても3食経口移行できた一症例〜KTバランスチャートを用いた評価〜」(*注)と題したポスター発表に挑みました。
島田さんは、「かかわった症例をレポートとしてまとめることも、1枚のポスターに仕上げることも最初は苦手意識があり、書くことにハードルを感じていましたが、実際に書き進めてみると、日々の栄養管理をしっかりと記録しておけば大丈夫だとわかりました。これらは、自らの仕事を振り返る貴重な勉強にもなりました」と話し、日々の臨床経験の積み重ねこそが、「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」という資格につながったといいます。
ただし、この専門管理栄養士の資格を取得したからといって、島田さん自身の仕事内容には大きな変化はありません。
「ただ、"摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士"という資格の名前に恥じないように、日々もっと勉強しなくてはいけないと感じています」
名刺にも「摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士」と肩書きを追加したことで、名刺交換をした相手から「これは?」と反応を示されることが多く、口から食べることを支援できる管理栄養士であるという自覚と自信につながっているそうです。
仲間を増やして、地域にも貢献したい
現在、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士は、全国に45人(2018年度末現在)。Eメールアドレスを登録したネットワークでつながっており、それぞれが関わっている症例でつまずいている点を相談しあったり、研修会の講師をしあったりして、お互いの知見を高め合っています。
島田さんも、他の地域で開催される嚥下調整食分類についての研修会の手伝いに出向くなど、摂食嚥下リハビリテーション栄養専門管理栄養士の横のつながりを大事にしながら、常に情報収集をして学び続けています。そのようななかで、研修会終了後などに、若手の管理栄養士から「私も、専門管理栄養士をめざします!」と伝えられることがあり、口から食べることを支援したいという思いの強い管理栄養士が増えていることを実感しているそうです。職場においても、後輩の管理栄養士たちが同じ専門管理栄養士となれるよう、臨床場面での育成に力を入れています。
かねてからチーム医療に力を入れてきた同院院長の足立徹也医師(写真上右)は、「より良い方向に進むための多職種でのディスカッションが、患者さんの回復に貢献できます。摂食嚥下リハビリテーションの分野においても、管理栄養士にしっかりと意見を述べてもらうことが重要で、日々専門性を高めている管理栄養士は、医療にはなくてはならない存在。こうした管理栄養士が、患者さんが回復期リハビリテーション病院を退院した後のどの地域にもいてほしいと願っています」と話し、専門管理栄養士資格を持つ島田さんを評価しています。
島田さんは、摂食嚥下リハビリテーション栄養分野のプロフェショナルとして、将来的には在宅訪問栄養指導にも力を入れて地域に貢献したいと考えています。
(*注)
FIM=Functional Independence Measure
機能的自立度評価法と呼ばれる日常生活動作が自力でどの程度可能かを評価するツール
KTバランスチャート
他職種が「口から食べる」を支えられるように開発された13項目から成る食支援促進ツール