多職種連携で患者を救え!
医療分野で最前線を担う、管理栄養士の仕事のスタンス
2016/04/01
トップランナーたちの仕事の中身#002
須永将広さん(NST専門療法士/がん病態栄養専門管理栄養士)
横浜市にある横浜医療センターの一室では、ドクターを囲みカンファレンスが始まっていました。この日集まっていたのは、医師と薬剤師、そして、栄養管理室の管理栄養士たち。副栄養管理室長である須永さんは、NST専門療法士、がん病態栄養専門管理栄養士の資格を持ち、医師・看護師・薬剤師などと連携しながら、栄養の分野で病気の治癒に貢献しています。
横浜医療センターは510床を有する国立の医療機関で、緊急入院の患者をはじめ、日々、患者の出入りが絶えない病院です。急性期総合病院のため疾病もさまざま、糖尿病などこれまでも栄養管理が不可欠とされていた疾患はもちろん、がん患者に対する支援にも取り組んでおり、治療の一翼を担う栄養管理が行われています。このため、医師・看護師・薬剤師たちとの連携は不可欠です。日常的にカンファレンスを開き、情報の共有を図っています。
患者にとっての最善は何なのか、他職種とのコミュニケーションが不可欠
カンファレンスの中では、乳がんで入院中の70代後半の女性のことが話し合われています。病状は安定しているようですが、口からの栄養摂取が難しい状態だそう。「ご本人とご家族は、延命治療は希望していないようですね。そうなると、どうしたらいいでしょうか」と医師が会話を投げかけます。すると、栄養管理室のメンバーが次々に、この患者さんにとっての「最善」は何なのか、意見や提案がどんどんと出てきます。カンファレンスでは、こうした場面が何度もやってきます。
「私たちは医療チームの一員として、病気の回復を助ける栄養管理を考えているわけですが、ただ病気と向き合うだけでは事態が良い方向に進みません。医師の判断はもちろん、本人や家族の意思も確認しながら治療のゴールをどこに持っていくのかをチームとして共有しておかなければ栄養療法は実を結びません。管理栄養士のひとりよがりな栄養指導が治療の妨げになることがないよう、医師や看護師との連携が大切です」
食べることを阻害している根本原因を探る
一言に食事ができないといっても、原因はさまざまです。患者や家族とのヒアリングでその原因を探るのも管理栄養士の大切な役割です。「どこかが痛くて食べられないのか、口内炎など口の中に違和感があって食事ができないのかなど、人によって状況はまちまちです。もしかしたらそれが病気の原因と関係があることだってあるわけです」。須永さんのこれまでの経験では、薬を投与する時間との関係で、食事時間に食欲が湧かないために摂取不良となっていたケースや、便秘が原因で食欲が落ちてしまったというケースも。「薬の副作用で食欲が低下した場合は、薬を飲む時間や薬の種類について薬剤師と相談することで食欲が改善する場合もあります。便秘が原因の時は、食事にお通じがよくなるものを加えるなどの方法をとることもできるでしょう。中には、"ヨーグルトを食べても砂を食べているような食感だ"という人もいました。このように、食べられない原因は食欲がないわけではなく、食感や体の痛みなどが原因ということもあるわけです。食べることを阻害している要因や原因は何か、患者個々のそれを考えることができなければ、管理栄養士の役割や意義を発信することはできず、栄養指導の効果を上げることはできません」
医療現場で進むNST(栄養サポートチーム)化とがん患者の栄養管理
須永さんは、厚生労働省健康局(併任:老健局)での勤務を経て、国立がん研究センター中央病院に配属となり、NST専門療法士の資格を取得して、NST専従として働いてきました。NST専門療法士とは「栄養サポートチーム専門療法士」のこと。一般財団法人日本静脈経腸栄養学会が認定する資格で、管理栄養士、歯科医師、看護師、薬剤師などの国家資格を持つ人に受験の資格があります。「栄養の専門家として患者の栄養管理を多職種と連携しながら行うことができる者」であることを認定する資格です。
「がん患者はがん自体による栄養障害に加え、治療や有害事象による栄養障害が必発するため、積極的な栄養介入が求められる領域です。以前、所属していた国立がん研究センター中央病院は、2005年にNST(栄養サポートチーム)が立ち上がり、その後、2007年に日本静脈経腸栄養学会よりNST稼動施設認定を受け、2010年よりNST教育施設に認定されています。がん患者の栄養管理は、診療報酬によるNST加算の対象となったことで大きな広がりを見せ、チーム医療を通じて、ダイレクトに医療の現場と繋がる職種として管理栄養士が認められるようになってきたのではと思います。さらには、日本病態栄養学会と日本栄養士会が共同で認定する「がん病態栄養専門管理栄養士」という認定資格ができたことも非常に大きいですね」。まさに、医療の一翼を担う存在となった管理栄養士。須永さんは、医療分野の最前線のなかで、日々の職務に当たっています。
プロフィール:
独立行政法人 国立病院機構/横浜市南西部地域中核病院 横浜医療センター 栄養管理室 副栄養管理室長/NST専門療法士/がん病態栄養専門管理栄養士
国立病院機構の総合病院ほか、各種専門病院、厚生労働省健康局、老健局(併任)勤務を経て、国立がん研究センター中央病院でNST専従。平成26(2014)年より現職。がん病態栄養専門管理栄養士、NST専門療法士の資格を持つ。「栄養ケアマネジメント消化器がん」などの分担筆筆を担当。