制度を作って終わりではない。
行政管理栄養士の"現場感"
2017/04/28
トップランナーたちの仕事の中身♯012
富川正恵さん(群馬県太田保健福祉事務所 管理栄養士)
管理栄養士になって17年目の春、初めて群馬県庁で勤務することになった富川正恵さん。群馬県内の各地の保健所、高齢者施設、小児医療センター、精神医療センターでの勤務を経て、平成25(2013)年4月に群馬県健康福祉部保健予防課に異動となったのです。
「保健予防課に異動してきた最初の仕事は、県健康増進計画である元気県ぐんま21(第2次)が策定されたタイミングで、それをわかりやすい冊子にして、普及していくことでした。それまでいわゆる"現場"で目の前の県民や高齢者、患者さんを対象に仕事をしてきたので、県全体を見ると言っても、どこを見てどのように動いていいのかがまったく分からず立ち止まってしまいました」
当時ほかの部署で働いていた管理栄養士の阿部絹子さん(現・保健予防課健康増進主監)は、異動してきたばかりの富川さんがデスクで遅くまで必死に調べものをしたり考え事をしたりしている姿が心配になり、ところどころで声をかけアドバイスをしてきたそうです。
「行政の仕事は1人だけ、あるいは自分の部署だけでは完結しないものが多く、周りの人を動かして、ともに作り上げていかなければならないのです。たとえば、健康づくりの一環としてウォーキングマップの活用を進めるときは、『歩きたくなる街づくり』の施策を担当する、県土整備部の職員と協議するとか...。他部署との連携が必須で、そのうえハイリスクの人たちだけでなく健康に関心が薄い層の人たちもすべて含めて県として何をしたらよいかを考えて形にしていく必要があります」(阿部主監)
元気県ぐんま21(第2次)は平成25年度~34年度までの10年間が期間の群馬県健康増進計画で、①健康寿命の延伸と健康格差の縮小、②生活習慣病の発症予防と重症化予防の徹底、③社会生活を営むために必要な機能の維持及び向上、④健康を支え、守るための社会環境の整備、⑤栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙及び歯・口腔の健康に関する生活習慣及び社会環境の改善の「5つの基本的な方向」が示されています。
それぞれに課題と数値目標、取り組むべき施策があり、富川さんは県庁内の関係部署をピックアップし何をどのように進めていくかの進行管理表を仕上げていきました。
「こちらが他部署に連絡を取ると、今度は『スポーツ推進計画にも健康づくりを入れたいのですが』と相談を受けるようになったりして各部署との連携が増えていき、行政の仕事の幅広さ、奥深さを痛感する日々でした」と、富川さんは振り返ります。
各地域で活動する管理栄養士が
より活躍するために制度を作る
平成27(2015)年4月からは組織の改編で保健予防課内に健康増進・食育推進係が新設され、係長に阿部さんが就任して、富川さんは阿部さんの部下となりました。健康増進・食育推進係は管理栄養士が3名、保健師1名、事務3名、嘱託職員1名の8名体制で係長が管理栄養士ということもあり、富川さんは「それまで別々の事業と考えていたことが、阿部係長の下で働いたことで、行政管理栄養士としての仕事の見方、進め方を随時教えていただくことができ、いろいろとつなげて考えられるようになったのです」と話します。
そのようななかで富川さんが関わった仕事の1つが、群馬県には当時まだなかった特定給食施設の知事表彰制度を作ることでした。
「自分が保健所で働いていたときは監査をする立場、病院で働いていたときは監査を受ける立場、そして保健予防課に在籍しているときは監査の内容について保健所勤務の管理栄養士から相談を受ける立場となりました。それぞれの立場で働いた経験から、特定給食施設が県や国に評価され、表彰をしてもらえる機会を群馬県にも作りたいと思いました」
係員が協力して他の都道府県の表彰基準や国の精査基準を調べ、その情報をもとに規程として整えていく作業を進めていきました。そして平成27年に、保健事業等功労者知事表彰の中に、健康増進(特定給食施設)部門が加わることになりました。
さらに、優良な特定給食施設を厚生労働大臣表彰に推薦する仕組みも作り上げ、平成28(2016)年度には群馬県内の脳血管研究所附属美原記念病院と群馬県医師会群馬リハビリテーション病院の2施設が栄養関係功労者として厚生労働大臣表彰を受ける結果となりました。
「各保健所の管理栄養士に、管内で表彰に値する施設を推薦してほしいと依頼をしたら、皆が喜んで候補施設を挙げてくれました。各地域で活動している管理栄養士がより活躍できるように、県の管理栄養士はマネジメントをしていく立場であると実感できたのではないでしょうか」(阿部主監)
県の管理栄養士として採用されても県庁で勤務する経験がないまま定年を迎える人も少なくなく、阿部さんは「富川さんの若さで4年間も県庁に在籍していることは珍しいです。この経験をぜひ、次の現場、またその次の現場と大いに活かしていってほしいですね」と、今年4月から太田保健福祉事務所に異動となった富川さんの現場での仕事ぶりに期待しています。
息子と野球を楽しむ週末
家族の支えがあって続けてこられた
保健予防課に在籍していた4年間は、業務が夜遅くに及んでしまうこともしばしばだったという富川さん。プライベートでは高校1年生のお嬢さんと、小学5年生の息子さんのお母さんでもあります。
出勤前に息子さんを学校へ送り、息子さんは学校と学童保育が終わったら富川さんの両親が送迎をしてくれて、夕飯の準備もお母さんにお願いすることも多かったそうです。「両親とも県庁職員だったこともあり、私の仕事への理解と協力があって、本当に助かっています。両親がいなければ、ここまで管理栄養士を続けてこられなかったですね」と話します。
休日も、息子さんの少年野球チームのお茶当番やメンバーの送迎などで忙しく過ごしていますが、富川さん自身が中学生の頃からの野球好きとあって、まったく苦ではないそう。「監督さんがお母さんたちも打っていいよと、バッターボックスに立たせてくれるときもあるんですよ(笑)」と話し、息子さんと素振りの練習をしている成果をバッティングセンターで見せてくれました。
「住民の方からも、仕事仲間からも、いつも頼りにされる仕事をしていきたいですね」と話す富川さん。やわらかい笑顔とはつらつとした仕事姿は、富川さんが学生時代に阿部さんを憧れたように、今は県内のどこかの若手管理栄養士の憧れの的となっているはずです。
プロフィール:
平成8(1996)年、東京家政大学家政学部栄養学科栄養学専攻卒業。同年、管理栄養士資格取得。大学卒業後は知的障害者通所施設、特別養護老人ホームで管理栄養士として勤務。平成10(1998)年、群馬県入庁。藤岡地域保健所、高崎保健福祉事務所、高齢者介護総合センター明風園、小児医療センター、精神医療センターの勤務を経て平成25(2013)年~平成29(2017)年3月まで保健予防課に在籍。同年4月より太田保健福祉事務所に異動。