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体を動かすこと・しっかり食べることで
人々の笑顔を増やす

トップランナーたちの仕事の中身♯023

こばたてるみさん(株式会社しょくスポーツ代表取締役、管理栄養士)

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 「あさイチ」や「世界一受けたい授業」などの全国放送のテレビ番組や、雑誌「Tarzan」などに登場し、日本でよく知られる管理栄養士の一人、こばたてるみさん。清水エスパルスの選手などのトップアスリートから、スポーツ選手になりたい子どもたちまで幅広く栄養サポートをしており、公認スポーツ栄養士の中でもトップランナーです。

 公認スポーツ栄養士とは、公益財団法人日本スポーツ協会(※H30.4.1より「日本体育協会」から名称変更)と公益社団法人日本栄養士会が共同で認定している「スポーツ栄養」の専門家。全国で255人が公認スポーツ栄養士として活躍しています(平成30(2018)年度末現在)。スポーツの現場で、選手が栄養と食事に関する自己管理能力を高められるように栄養教育をしたり、選手が使う食堂で出す料理の献立を考えたり、食事と水分の摂取方法やタイミングを指導したり、監督やコーチ、選手の保護者や奥様、調理師の方たちと連携をして食環境の整備をしたりして、選手それぞれがより強い体をつくるために栄養面からさまざまなサポートをして働きかけます。現在では、公認スポーツ栄養士を目指し、資格取得のために運動生理学やスポーツ医学を学ぶ管理栄養士も増えてきています。

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 こばたさんは、公認スポーツ栄養士資格が誕生したときの16人のうちの1人で、先駆けです。実はご自身が小学生から高校生までバスケットボール部に所属して、強豪校で全国大会などに出場するほどのアスリートの卵でもありました。スポーツの楽しさや達成感とともに、毎日激しい練習を重ねる苦しさ、ライバルとの葛藤、不調で試合に出られないもどかしさ......。アスリートが感じるさまざまな思いを、自分でも味わってきました。

 高校を卒業して、「スポーツが1番好き、2番目に食べることが好き」という理由で、スポーツは趣味で続けることにして栄養士養成校に進学します。当時は、まだ「スポーツ栄養」という言葉も広まっていなかったころですが、短大で日々学んでいる栄養学と唯一見つけた日本語版のスポーツ栄養に関する書籍を頼りに、知人のアスリートやアルバイト先の社会人ラグビー部の選手たちに食事のアドバイスをしたり、他大学のサッカー部選手たちに料理デモをおこなったりと、独学でスポーツ栄養を学びながら、実践してきたのです。

 このように、こばたさんは道を切り拓く力を持っています。自分が人々のために貢献できるフィールドを自ら作り出す力です。
 管理栄養士・栄養士、あるいはほかの資格を持ちつつも、「やりたい仕事ができる会社がない」、「やってみたい仕事はあるのに採用してもらえない」などで、その資格や特技をうまく活かせない人は少なくありません。

 こばたさんの場合は、こうです。これもまだスポーツ栄養という言葉が一般的に普及する前、公認スポーツ栄養士という資格ができる前のことですが、「スポーツをする人たちを栄養面からサポートしたい」と、スポーツクラブへ電話をし、「肥満傾向にあるスポーツクラブの会員様向けに、食事相談ができる人が必要ではありませんか?」と持ち掛けました。そして、「栄養アドバイザー」という新たなポジションを作り契約してもらいました。

 栄養アドバイザーとして、スポーツクラブで働き始めると、子ども向けのスイミングクラスにはほかの仕事で目にする肥満ぎみの子どもたちが通っていないことに気がつきます。そこで、「遊水塾」という名前で、運動が苦手な子どもや肥満ぎみの子ども、自閉症を抱える子どもたちがプールで遊びながら運動する習慣を身につけるクラスをインストラクターと共に企画し、立ち上げました。こばたさんも指導者として子どもたちと一緒にプールに入り、食育クイズの答えをプールの底から拾うゲームをしたり、水中ウォーキングをしながら食事(栄養補給)や休息の大切さを教えたりと、オリジナルのアイデアで子どもたちに運動の楽しさを伝えてきました。当時小学4年生の男の子が「生まれて初めて肥満体型から標準体重になった!」と喜んだことも。「食べることと同じように、体を動かすと、自然と笑顔になる」。このような機会を、こばたさんはこれまでたくさん生み出してきたのです。

 トップアスリートには、"楽しい"だけでは伝わらないことも多々あります。初めてプロサッカー選手の栄養サポートをすることになったときには、栄養の話だけではなくサッカーについても選手ともっと話せるようになりたいと、地元のママさんサッカーチームに入団してサッカーの技術を身につけました。「今、読んでいる本は何?」と聞いて、彼らの世界観に歩み寄る努力をしてみたり......。

 こばたさんは、「自分が持っている知識を教えることがベストだと思っていた時期もありましたが、すべての選手がそれを求めているわけではないですね。相手に合わせて、栄養サポートも表現の仕方を変えています」と話します。選手たちから突然、「一緒にコンビニに行ってください」と言われたり、海外のチームに移籍した選手からは「食事の写真を見てください」とメールが来たりします。こばたさんを信頼して、食事の選び方をより実践的に学びたいと思ったときには、選手側からのアプローチが始まります。栄養指導や栄養サポートを受ける人にとって、いつも同じ方向を見て伴走してくれるこばたさんには、管理栄養士としての信頼がとても厚いのです。

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子どもからサラリーマン、シニアまで
自分の仕事の幅を限定しない

 学生時代も今も「スポーツが一番好き」なこばたさんですが、仕事はスポーツ栄養分野だけではありません。食育も、フィールドの1つ。静岡県内で開催している小学生とその保護者を対象にしたオリジナルイベント「食育アドベンチャーⓇランド」は今年で14年目を迎えます。こばたさん独自の企画ですが、以前に勤務していた静岡県立大学食品栄養学部をはじめ企業や行政等とも連携し、こばたさんが栄養サポートをしているトップアスリートをゲストに呼ぶなど、こばたさんのこれまでの人脈を駆使して、子どもたちに調理や運動の楽しさ、おもしろさを存分に堪能してもらいます。イベントの後には、参加した子どもや保護者からお礼の手紙が来たり、食育アドベンチャーⓇランドがきっかけで管理栄養士養成校の学生になったという、うれしい報告も届きます。食育アドベンチャーⓇランドは今年(2018年)は8月24日(金)に企画しています。

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 最近では、「ビジネス食育」として、ある企業の社員の食事写真を送ってもらいアドバイスを返すという健康経営に貢献する取り組みも始めました。また、日本酒造組合中央会の5名しかいない「日本酒スタイリスト」の一人として、料理に日本酒を使う「Cooking Magicひと振り酒レシピ」の料理紹介とエッセイを担当し、スポーツ栄養、食育と並行して「地域の食と日本酒」もフィールドの一つにしています。

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 「管理栄養士・栄養士の仕事は、元気な人を増やすことだと思っています。食事や運動の改善は手段であって、人々にはその先の夢があります。体重を少し減らしてもっとスポーツを楽しみたい、肥満を気にしないで勉強に専念したい――。このような夢に向かう途中に管理栄養士として伴走して、笑顔と元気をたくさん生み出したいですね」

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プロフィール:
山脇学園短期大学食物科を卒業後、銀行に3年間勤務。スポーツ選手の栄養サポートをしたい思いが強まり、国立健康・栄養研究所非常勤職員、静岡県立大学非常勤助手をしながらスポーツ栄養に携わる。平成9(1997)年に独立し、スポーツ栄養、食育、健康経営、地域食と日本酒をメーン業務に。日経ウーマン・オブ・ザ・イヤー(2009年)、(公社)日本栄養士会「84 Selection 2017 ゼスプリ賞」等、受賞多数。管理栄養士、公認スポーツ栄養士。

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