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校外学習、加工品の企画、ICTの活用、部活動 学校での全ての学びが日々の生活に生かせるように

トップランナーたちの仕事の中身#078

齊藤公二さん(新潟市立桃山小学校 栄養教諭、管理栄養士)

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 栄養教諭として採用されて1年目、担当する小・中学校8校約100学級全てで授業を実施した齊藤公二さん。その当時から今まで「学校で勉強していることが日々の生活に生かせるようにしたい」と、こどもたちと共に考え、一緒に成し遂げる活動を続けています。その熱意ある取り組みは、新潟県内や国内にとどまらず、海をも軽々と越えています。

食への興味を引きだす取り組み

 現在、新潟市内で所属校の桃山小学校と兼務校の南浜小学校2校で勤務している栄養教諭の齊藤公二さん。週に2日出勤している南浜小学校は、全校児童が60人弱の小規模校。各学年1学級ずつで、一番少ない1・2年生は各学年6人しかいませんが、それゆえに栄養教諭が児童一人ひとりの様子をしっかりと見られるという良い面があります。学校内には「南浜農園」と呼ぶ畑があり、ボランティアによる指導のもと全学年で野菜を育てています。野菜嫌いなこどもが多い中、こどもたち自身が育て収穫する体験は食への興味を持つきっかけとなっているといいます。

 南浜小学校は今年創立150周年を迎えるため、齊藤さんは赴任した2022年度から、担任や地元の大学の教員たちとともに実施しているカリキュラム検討会の中で、「150周年の記念に、地域の価値が高まるような何かをこどもたちと作りたい」と考えてきました。新潟市の南浜地域は海のそばで、砂地の畑で育てるスイカが名産品となっており、南浜農園でも毎年4年生がスイカを育てています。昨年度の6年生の食育の授業では、JA(農業協同組合)の職員にも話をしてもらい、こどもたちとともに「地元の農業を衰退させないためにはどうしたらよいか?」を考えました。こどもたちからは「SNSで発信したらいい!」、「スマート農業にしたらどうか?」とアイデアが出てきました。名産のスイカについても「成長の途中で割れてしまったスイカが捨てられるのはもったいない」という話題があがり、「SDGsの視点から考えて、捨てられてしまうスイカを使って、地域の農業が活性化するような持続可能な仕組みを作れたらよい」と結論づけました。この意見を尊重して、齊藤さんは今年度、こどもたちと一緒に「150周年の記念」としてのスイカの加工品を企画しています。この企画では学校だけでなく、地域の農業や企業等関わる全ての人びとにとってメリットがあるような形を模索しています。「僕がアイデアを出して話を進めればもっとスムーズなのですが、大事なのは"こどもたちの声"。その加工品を使って毎年、給食の献立の何かに使えるようにしたり、中高生になったこどもたちが商品を見て『150周年のときに考えたよね』と思い出してくれたりすることで、学びが継続・循環するような授業とすることが目標です」

 一方で、齊藤さんはこどもたちのアイデアからスイカの加工品が結果的に「できなかった」としても、それはそれで1つの結果だと考えています。「学校現場では今、『持続可能な開発のための教育(ESD)』を重視しています。『こんなものを作りたい』とか『できあがったら物産展で売ってみたい』という自分たちのまっすぐな思いを、大人たちに情熱を持って伝えること。それを実行してみたけれど実現できなかったという結果も、こどもたちにとっては学びになります」

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 5月には、校外学習として学級担任等の協力のもと、トマトの生産から加工までを行う会社に4年生10人を連れて見学に行いました。トマトを実際に栽培しているビニールハウスを見学したこどもたちは、栽培方法の説明に興味津々で聞き入り、「甘いトマトを作るにはどうしたらよいか」や「熟す前のトマトが緑色なのはなぜ」、「出荷できない形のトマトはどうしているのか」等の質問を会社の代表者に投げかけました。
 帰り際、こどもたちが口々に「このトマトを絶対に食べたい」、「今度買いに行く」、「給食に出して!」と声を上げる様子に、齊藤さんは目を細めていました。その後、齊藤さんと会社の間で調整が行われ、1週間後の給食に提供されることとなりました。

給食のレシピでオンライン食育

 2020年の新型コロナウイルスの影響による一斉休校の際、齊藤さんは新潟市内の光晴中学校に勤務していました。コロナ禍によってGIGAスクール構想によるICTを活用した教育の早期実現が求められる中、齊藤さんはまず中学校のホームページ内に、給食で出す料理の作り方をアップし、自宅で学習をしている生徒たちに「作ってみたら?」 と提案しました。
 その後、家庭科教諭と連携して、自宅で家庭科の調理実習として取り組んでもらうように、「Challenge For smile 笑顔のために今、私たちにできること」 とタイトルを付けたワークシートを用意。作った料理と主な食材、この料理を作った理由、家族への手紙、料理を食べた家族の感想、料理を作った感想を記入できるようにし、できあがった料理を撮影し、その写真を学校にメールで送るように指導しました。
 生徒たちから送られてきた料理の写真は順次、学校のホームページに掲載し、生徒たちが作った料理をオンライン上でお互いに見られるようにしました。生徒たちの投稿から刺激を受けて、同僚の教員から料理の写真が送られてくることもありました。提出されたワークシート内の「料理を食べた家族の感想」の欄には、「好きだと言っていたシャキシャキサラダを家で食べることができてうれしかった」、「休校中にいろいろ作ってくれて助かりました。またよろしくね」という保護者の言葉も。「料理作りで、生徒たちは自分のできることで家族が笑顔になるという体験ができたと思います。教員として、学校で勉強していることが日々の生活に生かせるようにしたいと考えています。食を真ん中に置くことによって、学校での学びは必ず生かすことができると伝えたいのです。」

 この中学校では運動部の顧問もしていた齊藤さん。公認スポーツ栄養士の資格を生かして、試合の日の食事や補食のタイミング、熱中症対策として深部体温を下げる栄養補助食品の活用等も指導しています。担当したバスケットボール部や陸上部は、全国中学校体育大会に出場することができました。卒業生の中にはプロとして活躍する選手がいたり、進学先の高校のバスケットボール部でも栄養サポートをしてほしいという依頼が来たりと、今も関わりが続いています。最近では、高校3年生になった卒業生が「齊藤先生のような栄養教諭になりたい」と進学の相談を受けることもあり、食と栄養の意義やおもしろさを卒業生たちと共有できていることがうれしいそうです。

自分をより未経験の環境に

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 齊藤さんは大学4年次の卒業研究でラオスに行き、現地の乳幼児の体格について調査しました。そこで、ラオスのこどもたちは離乳の後に栄養状態が悪くなることがわかり、母乳が持つ力を再確認するとともに、幼児期の食生活の重要さを痛感したといいます。このラオスでの経験から、こどもたちに食育ができる管理栄養士になろうと決意し、栄養教諭の職に至りました。
以来、「自分をより未経験の環境に」という考えを持って、しばしば海外に身を置くようにしてきた齊藤さん。勤務校の夏休み期間を利用してタイの孤児院に住み込みで食事のボランティアに入ったことや、学生時代の恩師から依頼を受けてベトナムの小学校で食育の授業を実施したこともあります。今もオンラインを活用して現地の食育スタッフの養成に携わっています。
 「自分が立てた計画どおりの人生では自分の枠の中でしか成長できないと思うので、常に枠の外に出なければと思っています。そのため、頼まれた依頼は断らないことも大事にしています」

 今年度は、勤務する桃山小学校にモンゴルからの視察団を受け入れ、給食の調理から下膳までの見学と試食を体験してもらう予定があります。さらに、ガーナの学校給食の支援のための視察で齊藤さん自身も久々に海外へ出ます。栄養教諭の仕事をベースにして、齊藤さんはスポーツ分野や国際貢献へと、限界を作ることなく進んでいます。

プロフィール:
2005年新潟医療福祉大学卒業、翌年地元である新潟県の学校栄養職員として採用され、2015年からは新潟市の栄養教諭となる。これまで学校給食センター、小・中学校に勤務し、前任校では7年間勤務する中、食に関する指導をさまざまな教科の教員や企業等と共に実施した。また、スポーツ栄養をテーマに講演活動を行い、海外での食育活動にも積極的に参加。2022年より現職。2016年公認スポーツ栄養士、2022年保健学修士取得。公益社団法人新潟県栄養士会所属。

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