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自治体との連携を力に取り組む、民間企業の管理栄養士ならではの健康づくり

トップランナーたちの仕事の中身#079

反町麻美さん(群馬ヤクルト販売株式会社 広報部、管理栄養士)

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 管理栄養士養成校を卒業した後、自分の道をどう進むかに悩んだ反町麻美さん。決定打となったのは「地元に貢献したい」という志と「笑顔で働きたい」という思いでした。総合職として就職し、企業活動を通して社会に貢献することを日々実践して9年目。企業の管理栄養士だからこそできる地域住民の健康づくりに挑戦しています。

「お届け」を通じて地域とつながる

 民間企業を就職先として選ぶ際に、反町麻美さんが心配したこと。それは「管理栄養士になったのに、献立作成や栄養指導といった実務経験を積まないままでよいのだろうか...」。就職して9年目の今は、そのような心配は幻だったと実感しています。民間企業の管理栄養士だからこそできる地域住民の健康づくり・疾病予防で、やりたいこと、やるべきことが常に目の前にあるからです。
 学生時代、反町さんは就職活動の1つとして、 現在勤務する群馬ヤクルト販売株式会社の企業説明会に参加しました。そのとき、当時の社長の言葉に感銘を受けたといいます。「『企業で働くということは、企業活動を通して社会に貢献することである』との言葉に、私も地域に根ざしている会社で働くことで、地元の人びとの健康に役立ちたいと心から思いました。弊社の商品や健康情報をお客さまの自宅や企業のオフィスに届ける『お届け』の仕事そのものが、地域の人びとと直接触れ合うことができ、貢献できるものなのです」

 入社後宅配サービス部に所属した反町さんが最初に取り組んだのは、「お届け」業務でした。ショルダーバックに自社商品を詰めて高崎駅前のビルに入っている企業を訪問します。1日に約50社を回る毎日。なるべく多くの人びとに自分が訪問していることを知ってもらいたいと、「体調はいかがですか?」等と声をかけ、「昼食にヨーグルトを食べたい」という要望や「胃の調子があまりよくなくて...」という相談に、自社商品を理解した管理栄養士だからこそできる会話に努めました。その後経験した個人住宅への訪問でも同じ姿勢で臨み、就職先を選ぶときに思い描いた「笑顔で働きたい」という夢を、日々実践していきました。

 現場での経験を積んだ後、別の営業所に移りスタッフを取りまとめるマネージャー職に。自身の母と同世代のベテランたちもいる現場でマネジメントを担うのは精神的にも負担を感じましたが、「相手の立場に立って言葉を選んで伝える力」がこのマネージャー業務の3年で身につき、人間として成長できたと反町さんは振り返ります。

県内自治体との「地域包括連携協定」を推進

 現在所属している広報部に異動になったのは4年前。「私、転職したのかな?」と反町さんが感じるほど、業務内容が一変しました。それまでは自社の商品を購入する顧客である地域住民を対象とする仕事でしたが、新聞社やテレビ局等のマスメディアや、関係する企業や団体との打ち合わせが多くなり、広告や企画といった"何かを作り出す"業務がメインになりました。
 「それまでも企業としての言動は意識していましたが、広報部という立場になって、自分の言動により一層看板の重圧や責任を感じたことも、大きな変化でした。そのなかでも、『ヤクルトさん』ではなく『反町さん』と呼んでもらえると、つながりができたと感じうれしかったです」
 このとき、頻繁に使うようになった名刺入れを奮発して一新し、今も手帳と4色ボールペンとともに"My三種の神器"として常に持ち歩いています。手帳には、今後の予定だけでなく、こんな企画をやってみたいという案や、研修や書籍で学んだときのメモ、もらってうれしかった手紙なども納めています。

 この広報部でのさまざまな業務の中でも反町さんが注力しているのが、地方自治体との連携による健康づくりです。同社では予防医学を行動の原点として、社会的課題の解決を通して「共助社会の担い手」、「群馬県民の健康寿命の延伸」を企業のビジョンとしており、群馬県との「健康づくり推進連携協定」を契機に、県内の8市、7町、6村の地方自治体、および群馬県社会福祉協議会、群馬県老人クラブ連合会の2団体と「地域包括連携協定」を結んでいます。締結した内容は地方自治体や団体によってさまざまですが、健康づくりにとどま らず、地域の見守りや防犯・防災、スポーツ振興や観光振興、子育て支援にまで及び、地方自治体や団体と同社の双方で協力して地域づくりを推進しています。

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 県や市町村等からそれぞれの健康づくり事業について、同社に協力の依頼があると、反町さんが窓口となり対応します。反町さんは自治体の健康づくり事業がより効果的となるように、民間企業のノウハウを存分に提供したいと考えています。
 例えば、渋川市の若年者向けの健康づくり事業では、ちょうど公益社団法人日本栄養士会の「栄養の日・栄養週間」の時期に若年者向けの健康診断を実施予定であったため、「栄養ワンダー」のバッジを身に付けて実施するリーフレットの配布と合わせて、採血後の待ち時間に見てもらえるような動画制作の依頼を受けました。動画の内容として食事の適量を知るための「手ばかり法」を取り上げることを反町さんが提案し、自治体の管理栄養士、保健師とともに制作しました。同社広報部ではコロナ禍以降、動画作成も業務の1つにしており、 反町さんはコンテンツやナレーションを考え、撮影を担当してきました。そのノウハウを生かし、これまでにもウォーキングや食生活改善推進員の活動紹介動画を自治体とともに作ってきました。
 また、高崎市とは20〜40代の女性の健康講座を開催したことがありました。この世代の女性たちは、母親となれば乳児健診や離乳食教室等で自治体の管理栄養士や保健師等と接点ができるものの、こどもではなく女性自身の健康づくりとなると自治体のイベントに参加するチャンスも意欲も多くはありません。そこで反町さんは、女性たちが勤務する高崎市内の企業に、共同開催の健康講座をそれぞれの社内で開催するよう持ちかけることを提案しました。つながりのない企業へのプレゼンテーションも反町さんが担い、市内の3社ほどで開催にこぎつけました。

 この女性向けの健康講座では、同社は化粧品も取り扱い「一人でも多くのお客さまに健康と美をお届けすること」を使命としていることから、運動と食事の話にとどまらず、既存の内容にハンドマッサージも加えました。コロナ禍のため互いにマッサージをしあうことを自粛せざるを得ませんでしたが、ここでも動画制作の経験を生かし、セルフマッサージの動画を事前に作成し、放映しました。コロナ禍では自治体や各地の保健センターの業務が逼迫していたこともあり、民間企業が各自治体の健康づくり事業に企画を提案したり、運営に協力したりすることが、地域住民の健康づくりにより大きな一翼を担うこととなりました。

地域で活躍する管理栄養士を表舞台に

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 市町村等が実施する健康づくり事業や介護予防事業では、反町さんは自身が講師になることはせず、あえて裏方に回るようにしています。講師には、それぞれの地域で活動している管理栄養士、健康運動指導士等を派遣し、各自治体の職員に認知してもらい、つながりを作ってもらえるように徹底しています。
 「入社して数年ほどは、私は実務経験がないからダメな管理栄養士だと危機感や焦燥感があったのですが、民間企業だから持っているノウハウがあり、企業に所属する管理栄養士だからこそできる事業協力があるのだと自信が持てるようになりました。そして、群馬県内の自治体と企業や住民の皆さんをつなげる架け橋の役目ができていることに喜びを感じています」
 同社と「地域包括連携協定」を締結する群馬県内の自治体・団体は2016年から年々増えており、協力する事業も右肩上がりに増えています。各事業の参加者の延べ人数は2022年度には1,500人を超えました。
 「民間企業のノウハウを生かし企業活動の一部として、自治体の皆さんとともに地域の健康を目指していきたい」という反町さん。今後も手帳に書き留めたアイデアを次々と形に移していくのではないでしょうか。

プロフィール:
2015年高崎健康福祉大学健康福祉学部健康栄養学科を卒業し、群馬ヤクルト販売株式会社に総合職として就職。最初は宅配サービス部で企業や個人宅を対象とした「お届け」業務に従事する。その後、スタッフ19人をまとめるマネージャー職を経験した後、広報部に異動。企業としての広報活動だけでなく、地域住民を対象とした健康づくりの窓口となる管理栄養士として、地域の管理栄養士と連携した取り組みを行う。公益社団法人群馬県栄養士会所属。

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