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地域に根付きケア現場を知る、新しい管理栄養士像を目指す

トップランナーたちの仕事の中身#088

小林千晴さん(株式会社ケアメイト、管理栄養士)

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 管理栄養士として高齢者福祉施設での勤務、フリーランス活動を通して改善したいと感じていた思いを実現するために認定栄養ケア・ステーションの立ち上げ、介護ケア業務との兼任と枠にとらわれない活動を続ける小林千晴さん。小林さんが目指す新しい管理栄養士像について伺いました。

認定栄養ケア・ステーションの立ち上げに参加

 管理栄養士の小林千晴さんは、高齢者福祉施設での勤務を経てフリーランスの管理栄養士として活動したのち、現職の母体である株式会社ケアメイトの社長の「管理栄養士の新しい活動フィールドをつくっていきたい」というビジョンに共感し、転職を決意しました。
 「これまでの経験で、病院や施設にいる間は栄養バランスの整った食事が取れて体調が上向きになりますが、自宅に戻ると体調をくずしたり、自炊で困ったりする患者さんが多いことが気になっていました。気軽に食事の相談や支援ができる場所を増やしたいという会社と私の思いが重なり、手掛けたのが認定栄養ケア・ステーションけめとも(以下、認定栄養CSけめとも)の立ち上げでした」
 準備を重ねて公益社団法人日本栄養士会から認定がおり、認定栄養CSけめともがスタートしたときは、新型コロナウイルス感染症がまん延しており、対面式の活動にストップがかかります。
 「そこで、コロナ禍における地域の飲食店の応援活動として"母の日お弁当祭り"を開催しました。地域の飲食店の弁当を当社のフリースペースで販売するというものでしたが、外出制限のために自宅に1人でこもりがちな高齢者にとっては、わずかな時間でも人と言葉を交わせる機会となり、ファミリー世帯の人にとっては外食気分を楽しみながら、食事作りの負担が減らせると喜ばれました。参加した中華料理店とのコラボで、管理栄養士として栄養監修を行った中華弁当の発売にもつながり、予想もしないところから新しい展開が生まれてくることを知りました」

健康支援型配食サービスをスタート

 現在、認定栄養CSけめともでは健康支援型配食サービスの共食の場として、地域住民を対象にした「けめともみ~とサロン」を月に1回開催しています。
 参加者は60代後半から80代、最高齢者は96歳の10名ほど。サロンの前半は小林さんによる食事と健康にまつわる解説をする「栄養講話」、後半は母体の会社が運営している配食サービス宅配クック123の1食でたんぱく質20g以上が摂れる「幸たんぱく食」という弁当を食べるという構成です。
 「栄養講話のテーマはフレイル予防、減塩、認知症予防等が中心です。講話の後に食べる弁当を見てもらいながら、『このくらいのおかずで20gのたんぱく質が摂れる』、『野菜の料理に肉や卵を混ぜると、手軽にたんぱく質が摂れる』等を説明して量やバランスを実感しやすいように工夫しています」

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 ある日のサロンに伺うと、栄養講話では参加者から次々と質問が上がり、食事中は参加者同士で健康や料理の情報交換に話の花を咲かせ、まさに充実したひと時。
 「参加者からは『サロンに参加するようになって食事や健康への意識が変わった』、『1人だと何を食べてもおいしくないけど、ここでみんなと食べるとおいしい』と喜んでいただけています。わざわざ栄養指導を受けるほどではないちょっとした疑問等を、ここに来れば管理栄養士に聞くことができる場として広めていきたいと思います」
 昨年の12月は開催日がクリスマスだったため栄養講話の時間をクリスマスパーティーに変更してみた。シャンパン風のジュースで乾杯していつもの配食の弁当を食べるというものだったが、「参加者の皆さんが少女に戻ったような生き生きとした表情が印象的で、人と人との交流の大切さを痛感する機会となりました」と小林さん。

 認定栄養CSけめともは、この2年間で東京都栄養士会栄養ケア・ステーション等からの依頼の仕事が増える等、着実に実績を積み重ねています。
 「健康支援型配食サービスを始める際、当時は行政との連携については手つかずの状態だったため、支援は受けられませんでした。しかし今年、あらためて行政に活動実績を示したところ、新たな展開につながる可能性がひらけてきました。今後は参加者の体重、握力、血圧等の測定とデータ収集を行い、健康支援型配食サービスの効果を見える化をしてさらに実績を積み重ねるとともに、行政や関係機関との連携を一層強めていき、認定栄養CSけめともを根付かせたいと思います」

多世代交流の場「けめカフェ」

 小林さんは、母体の会社の業務外活動として多世代交流食堂「けめカフェ」の運営にも力を注いでいます。
 「けめカフェは入社以前から行われている活動で月に1回、地域のこどもや子育て世代のファミリー、高齢者が集まって一緒に食事をするというものです。管理栄養士である自分が担当するようになってからは、『栄養の日・栄養週間』の期間中には指導用媒体の『栄養ワンダー・ブック』や協賛社のサンプリングを利用して食事と栄養の話をしています。この他おにぎりや手打ちうどんを作る料理教室、プロにマグロの解体をしてもらいながら、私が部位ごとの特徴の説明をしたりと幅広いテーマの食育活動を取り入れるようにしています。毎回、参加者も多く、楽しみながら食事の大切さに触れる機会になっている手ごたえがあります」
 この活動でも思いがけない芽が生まれたことに、小林さんは活動の波及効果を感じています。
 「多世代交流カフェの存在を知った方から、ヤングケアラーへの配食サービスの依頼があり、支援団体と連携してサービスを開始することになりました。これからも積極的にさまざまな活動をしていく種まきと、どこから芽が出てくるかの観察を怠らずに社会貢献につなげていきたいと思います」

職種を超えた新しい管理栄養士像

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 小林さんが勤める株式会社ケアメイトが運営している、管理栄養士配置義務のない訪問介護事業や看護小規模多機能型居宅介護では、所属する管理栄養士は各事業所で介護業務も担当しています。介護ケアの実践は「その方の生活を丸ごと見る視点が養われる」と小林さんは指摘します。
 「入浴介護で着衣ではわからなかったやせや、排泄介護で食物が未消化のまま排泄されていることに気付くことができ、管理栄養士として食事の調整を提案できました。訪問介護を経験すると、訪問栄養指導よりも深く生活環境が見えてくるため指導内容以前に、その方の食環境を整えるサポートの重要性が見えてきます」
 前職では、高齢者福祉施設の管理栄養士を長く務めたが、管理栄養士として介護福祉士や介護支援専門員といった他職種とのコミュニケーションに難しさを感じていたといいます。
 「現職で介護士として現場に入るとそうした壁は全く感じられず、同僚の介護士に、管理栄養士として気付いたこともスムーズに伝えられ、効率良く質の高い仕事につながっています」
 さらに、管理栄養士の訪問栄養指導の回数は月に2回が上限と定められていますが、管理栄養士の資格を持つ訪問介護士なら日常的な食支援をフォローすることも可能。中でも、医師の指示に従った治療食の調理に的確に対応できるのが強みです。
 「すでに介護支援専門員の資格を取得していますが、今年は介護福祉士国家試験に挑戦しました。管理栄養士と介護業務の職種を超えた管理栄養士としての新しいキャリア像を示せるようになりたいです」

プロフィール:
1983年大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。管理栄養士として特別養護老人施設等の勤務を経てフリーランスとして活動。2021年から現職。在宅訪問管理栄養士、介護支援専門員、東京都栄養士会所属。

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