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栄養という営みを通じて、より良い社会づくりに貢献したい

トップランナーたちの仕事の中身#092

永松美優紀さん(三田市健康福祉部健康増進課(兼)子ども・未来部子ども政策課(兼)保育振興課、管理栄養士)

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兵庫県三田市の管理栄養士として、住民のニーズをすくい上げ、迅速かつ的確な栄養政策を進めている永松美優紀さん。行政栄養士として今と未来を見据えた施策づくりと地域の架け橋となる存在を目指す活動について伺いました。

スピーディさが求められたコロナ禍対策

 永松さんの行政栄養士としてのスタートは非常に密度の濃いものだったといいます。「先輩の管理栄養士の定年退職まで2年間しかありませんでしたので、この間に栄養業務の全分野を1人でできるようになっておく必要がありました」
 1年目に担当したのは母子保健と保育所給食。母子保健では主に乳幼児健診と離乳食教室に関わりました。「乳幼児の相談では栄養に関する知識以外にも身体的、精神的発達段階等のさまざまな知識が必要です。大学で学んだ栄養の知識だけでなく、離乳食のガイドラインや育児雑誌の他、助産師、保育士、言語聴覚士、臨床心理士等の書いた本も読みました。こうして知識の引き出しを増やすことで、一人ひとりにあった支援をできるようになったと感じています」

 さらに、新型コロナウイルスの感染拡大のため、令和2年3月には各種事業が中止に。「4カ月児健診は集団健診から個別医療機関での実施に変更され、管理栄養士による個別栄養相談、集団栄養講話が実施できなくなりました。その他の乳幼児健診でも健診滞在時間を短縮するため、管理栄養士による集団講話は見合わせとなりました。
 一方で、令和2年3~5月対象者(乳幼児健診中止期間)の9カ月児健診アンケート結果によると、回答者115人のうち、約3人に1人は離乳食に関係する相談があり、早急に対策を打つ必要がありました」 まず、3月中に離乳食支援として三田市ホームページに離乳食の進め方の公開、保護者への離乳食資料の送付等の支援をスタート。同時進行で地域活動栄養士に協力してもらい、個別健診に切り替わった4カ月児健診受診者のうち、栄養に関するフォローが必要と判断した保護者全員に電話による栄養相談を実施。8月にはオンライン離乳食教室を開催し、参加できない対象者には対面での個別相談会を実施しました。これらは永松さんが提案し、スタッフと協働して実現させていきました。

 「乳幼児期はあっという間に過ぎていきます。例えば4カ月の乳幼児健診が3カ月延期されて7カ月に成長した時点では、健診の観点が変わってしまうためスピード感のある対応が重要でした。離乳食への不安を払拭し、円滑に離乳を進めてもらうにはどうすれば良いかを考え、できるだけ対象者のニーズに沿える支援を心掛けました。参加者からは感染症が不安な中で、オンラインで参加できてよかった。こどもが泣いてもミュートにすれば気にせず参加できた。アットホームな雰囲気で、聞きたいことを聞くことができた等の声が寄せられました」

栄養士同士の情報交換の場を提供

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 保育所給食の仕事では、主に認可保育所の栄養士、調理師を対象にした保育所給食部会を2カ月に1度開催しています。
 「栄養士は少数職種で、職場での相談相手が少なかったり、情報を得ることが難しかったりします。こうした中、市内の保育所のスタッフ同士が顔の見える関係をつくって情報交換や市からの情報提供の場としたり、国の最新のガイドラインの研修を開催したりすることで、三田市の保育所給食全体を良くしていくことを目指しています」
 参加者は毎回10人前後。衛生管理や献立作成、食育活動、食物アレルギー対応、離乳食対応等、多岐にわたる内容が熱心に情報交換されています。ときには同じ給食メニューを持ち寄って、材料の切り方や味付け、塩分濃度等を比べて意見交換することもあり、単独配置の栄養士にとっては素朴な疑問や不安を解消する貴重な機会となっています。
 「保育所給食部会は15年以上続いており、年々、各保育所では給食のレベルアップが図られています。2022年には参加者の要望を受け、新しい給食設備を導入した保育所への見学が、先方の園長先生の協力で実現しました。機能や使い勝手等に関する率直な質問が飛び、参加者からはとても参考になったと反響がありました。今後も現場の声を大切にしながら続けていきたいと思っています」

貴重な経験となった食育推進計画の策定

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 2年目には成人保健と食育推進計画の策定に携わります。特に入庁2年目という早さで、食育推進計画の策定に携われたことは永松さんにとって貴重な経験であり、研さんを積む機会となったと言います。
 「有識者や関係団体、市民で構成する食育推進会議という会議体で議論を進めていきます。食に関する市民アンケート調査の結果から、市民の食生活や食農文化に対する傾向を分析し、課題をまとめた上で、今後どのように食育を推進していくかを考えていきます。10年後を思い描いた計画を立てるのははじめての経験で、試行錯誤の連続でした。また、有識者と連絡をとったり、会議で行政の立場で発言したりすることも多く、キャリアの浅い自分にとっては緊張の連続でした。しかし、おかげさまで度胸がつきましたし、初回の策定以降、2回ほど改訂を行った際は先を見通して進めることができたので、あらためて貴重な経験をさせていただけたのだと感謝しています」
 最初の食育推進計画の策定後、市内の小売店に電話をかけ、「一緒に野菜摂取のPRをさせてもらえませんか」と頼んだり、市内の高校に「高校生に向けて食育の講座をさせてもらえませんか」とお願いしたりと積極的な働きかけを行った永松さん。「高校に働きかけたのは、大学生になると家を離れて1人暮らしを始めるケースが多く、高校時代が食生活への介入ができる最後のチャンスと考えたからです」
 公立高校4校に打診したところ、3校で食育講座開催が決定。1年生か2年生の家庭科またはフードデザインという選択授業の履習者に実施することが多く、講義だけでなくときには調理実習を取り入れてきました。この取り組みは10年近く続いており、食育活動として根付いています。

行政と住民をつなぐ架け橋を目指す

 2022年から、永松さんは公衆衛生協会の地域保健総合推進事業(厚生労働省委託事業)の研究班に行政の管理栄養士として、新たな栄養課題に対応した栄養政策の企画・立案に必要なスキルについての提言に携わりました。研究班では、2023年に行政栄養士の人材育成体制についての現状調査を行い、それをもとに人材育成体制構築に必要な要素への提言を行いました。これらをふまえて行政専門職の資質向上に向けた取り組みを職場でも実践。また、2023年から日本栄養士会公衆衛生専門管理栄養士(仮称)小委員会に携わる等、活動の幅を広げています。
 「単数または少数配置であることが多い行政栄養士の人材育成は難しいですが、やっていかなければならないことだと感じています。また、各事業や委員会に携わることで自分自身、もっと未来を見据えた施策を考えていかなければと痛感しています。例えば妊娠前にやせ(BMI<18.5㎏/m2)である妊婦は低出生体重児の出生リスクが高く、低出生体重児は将来の生活習慣病のリスクが高くなるという研究結果があります。現在の健康課題が次世代の健康課題にもつながります。こうした将来的な課題に対して、今から施策を打つのが行政の仕事ですし、今後はこうした問題にしっかりと取り組まなければと強く思います」
 最後に永松さんは「生きていく上で必須となる"栄養"という営みを通じて、より良い社会への貢献ができればうれしい」と語ってくれました。
「全国の管理栄養士・栄養士とお話しする機会が増え、先進的な取り組みや情熱を持った思いを、自身の地域をはじめ、手の届く限り多くの人に還元していきたいと考えています。行政と食に関係する団体や施設、住民をつなぐ架け橋のような存在になれると良いなと思っています」

プロフィール:
2010年大阪府立大学総合リハビリテーション学部総合リハビリテーション学科を卒業後、岡山県の学校栄養職員として小学校で勤務。2011年三田市に入庁。2023年から係長。兵庫県栄養士会所属。

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