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がん病態栄養専門管理栄養士として、患者の人生を支えていきたい

トップランナーたちの仕事の中身#094

山西美沙さん(神戸大学医学部附属病院栄養管理部、管理栄養士)

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 神戸大学医学部附属病院で外来・入院患者の栄養管理を行う山西美沙さんは、がん病態栄養専門管理栄養士として高い専門知識を生かすばかりでなく、患者の意思を尊重する指導を実践しています。患者を支える姿勢が生まれた背景と、今後、取り組んでいきたいサポートについて伺いました。

転換点となった緩和ケア活動

 山西美沙さんは神戸大学医学部附属病院に入職して以来、管理栄養士として入院・外来患者への栄養管理に力を注いでいます。神戸大学医学部附属病院は厚生労働省から、地域がん診療連携拠点病院として指定を受けており、質の高いがん医療を提供するばかりでなく、地域のがん診療のレベル向上を目指し、がん医療に従事するスタッフに対する研修、がん患者やその家族に対する相談支援、がんに関する各種の情報の収集・提供等の事業を実施しています。
 「入職後は、腎臓病、糖尿病の栄養指導を中心に栄養管理業務にあたっていました。3 年目に緩和ケアチームへ管理栄養士として初めて参加が決まり、2年間担当しました。緩和ケアチームでは、がん患者さんの苦痛についてトータルペイン(全人的苦痛)という概念があり、身体的、精神的、社会的、霊的(スピリチュアル)といった要因を多方面で捉えたケアが必要なことを学びました。トータルペインに基づいたケアを実践していくうちに、こうしたケアはがん患者さんに限らず、全ての患者さんに通ずるアプローチだと思うようになり、患者さんの生活、感じ方を尊重して関わっていける管理栄養士を目指そうと思いました。緩和ケアチームの活動から得た気付きは、管理栄養士としてのキャリアの上で大きな転換点になったと思います」と山西さんは振り返ります

がん病態栄養専門管理栄養士を取得

 今後も、がん患者のケアに関わっていきたいという思いを強くした山西さんは、2017年にがんの栄養管理・栄養療法に関する実践に即した高度な知識と技術を習得し、栄養に関する専門職の育成を目的としたがん病態栄養専門管理栄養士の認定制度で資格を取得。神戸大学医学部附属病院において第1号の資格取得者となりました。
 「資格取得のための研修や実地修練等でがんの栄養管理全般の知識を得られたことでしっかりと基礎が身に付きましたし、資格更新時のセミナーの症例ディスカッションは、臨床現場でもとても役立つ内容でした」
 その後、2019〜2021年は神戸大学医学部附属病院の分院である国際がん医療・研究センター(以下、ICCRC)に異動し、乳がん、食道がん、胃がん、大腸がんを中心に術後の栄養指導を担当しました。
 「ICCRCでは食道、胃、大腸がんの内視鏡手術を多く行っています。術後は、消化器に負担をかけないために刺激物を避け、軟らかいものから徐々に普通の硬さの食事に戻していきます。退院後の患者さんは、回復に適した食べ物選びに悩む方が多くいらっしゃいます。退院前に管理栄養士が病棟に行き、患者さんの食生活において不安に思うことを聴き、具体的な例を挙げながら説明することでとても安心される様子を目のあたりにしました。2022年からは本院で外来がん化学療法室の担当となり、抗がん剤の副作用による食欲低下等の相談にあたっています」

患者の意思を尊重する姿勢

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 多様な疾患や治療法に適した栄養指導を行ってきた山西さんですが、どんな治療を受けている患者に対しても共通して心掛けているのが「患者の考えを否定しない」ことだといいます。
 「がん患者さんはさまざまな健康情報をご存じで、信じて実行している方も少なくありません。栄養学のエビデンスとは異なっていても否定せず、必要な栄養が取れるよう一緒に考え、相談をしていきます」そんな患者の意思を尊重する山西さんに、信頼を寄せる患者は多くいます。
 「がん患者さんは基礎疾患に糖尿病、腎臓病、心臓病等を有している方が多くいらっしゃいます。大学病院という環境でさまざまな疾患の患者さんに出会ってきた経験を生かして、患者さん一人ひとりに適した栄養指導を心掛けています。また、糖尿病や腎臓病、心臓病等の慢性疾患の栄養指導では、患者さん自身が長く続けられることを一緒に考えるようにしています。管理栄養士から『こうしてください』と指示するのではなく、選択肢をいくつか提案して、その中からこれならできそうと思えることを選んでもらうことで、患者さんから『自分はこうしたい』という気持ちを引き出すようにしています。患者さんの人生が少しでも明るく前向きになれるように寄り添い、支えていけるようこれからも取り組んでいこうと思います」

ケトン食の病院食での提供方法を考案

 神戸大学医学部附属病院では、悪性脳腫瘍の1つである神経膠腫(グリオーマ)の標準治療にケトン食を併用する研究を行っています。糖質を控え、脂質を増やすケトン食は、病院のように大量調理を行う場合、一般食からの展開が難しいといわれており、神戸大学医学部附属病院でも、提供方法を模索していたが、数年間の試行錯誤を経て、山西さんが考案し提供を実現しました。
 「当院の給食はクックチルを活用しています。そこでケトン食にもクックチル、フリーズを採用し、毎回の調理の負担等を軽減できるようにしました。また、入院中は患者さんの食事摂取量と症状等を確認しながら栄養指導を行い、退院後につなげるフォロー体制を整えることができました」
 積極的に栄養管理業務に取り組む山西さんの姿勢は、医師、看護師、薬剤師等の他職種スタッフにも浸透し、チーム医療への参画依頼も多い。さらに、がん患者への栄養管理に取り組む一方で、NST、ICUでの活動を経て、診療科における腎臓病教室の開催、訪問介護ステーションと連携した腹膜透析患者へのオンライン栄養指導にも取り組み、在宅と病院をつなぐ役割としても貢献しています。
 「昼食時のミールラウンドの際には、他職種スタッフに積極的に声をかけるようにしています。例えば食事中に看護師とリハスタッフで嚥下訓練をしていたら、『見せてもらっていいですか』とこちらからお願いします。小さなコミュニケーションですが、積み重ねていくことで信頼関係が築けます。他職種との連携は、より良い栄養管理の実践のために不可欠ですので、さらに連携を強める努力を続けていきます」

AYA世代のがん患者のサポートを目指す

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 山西さんの活動は、少しずつ院外にも広がっています。
 がん患者さんや家族が集う勉強会で、食事の工夫や注意点についてお話しすることがあります。がんの場合、体重が減少すると体重を元に戻すのは難しいものです。食欲があるときからきちんと食べて体重を減らさないように心掛けることが大切なこと、体調が悪いときや食欲がないときは、手作りにこだわらず、市販の栄養補助食品やお弁当、冷凍食品を利用すること等を勧めています」

 山西さんが今後、取り組んでいきたいことにAYA 世代の患者へのサポートがあります。
「AYA世代とはAdolescent&Young Adult(思春期・若年成人)のことをいい、15歳から39歳のがん患者さんが当てはまります。10代は学校のこと、20~30代は結婚、出産、仕事等で多忙な時期で、治療とのはざまで精神的、体力的にも負担が大きい世代です。   
私自身、出産後に大腸がんを罹患し、子育てをしながら自分の食事のケアを続けた経験があります。こうした実体験と管理栄養士としての知識を生かして、何らかの形でAYA 世代の患者さんのサポートをしたいと思います。手探りの状態ですが、人との出会いを大切にして、考えながら進んでいきたいと思っています。

プロフィール:
2009年大阪市立大学生活科学部食品栄養科学科卒業。2009年神戸大学医学部附属病院栄養管理部に管理栄養士として入職。兵庫県栄養士会所属。

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