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委託給食会社だからかなう、 管理栄養士の可能性に挑戦したい

トップランナーたちの仕事の中身#095

藤谷 笑さん(エームサービス株式会社、管理栄養士)

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 エームサービス株式会社の管理栄養士として病院給食の厨房業務を担う藤谷 笑さんは、委託給食会社の特性を生かし、従来の管理栄養士の仕事の枠を飛び出した活躍をしています。業務を積み重ねることの大切さ、今後の展望について伺いました。

3年間で調理スキルをレベルアップ

 大学の管理栄養士養成課程在学中から病院栄養士を目指していた藤谷さん。地元・岡山県西部の中核的な医療機関である公益財団法人大原記念倉敷中央医療機構倉敷中央病院(以下、倉敷中央病院)で働きたいという思いから、厨房業務を受託しているエームサービス株式会社倉敷中央病院患者食事業所(以下、当事業所)に就職し、管理栄養士としてスタートを切りました。
 「委託給食会社であるエームサービス株式会社(以下、エームサービス)に就職したのは、病院で管理栄養士として研鑽を積みながら、栄養管理業務だけにとどまらない幅広い業務を経験できると考えたからです。事業所は倉敷中央病院栄養管理部内に設置されており、クライアントにあたる病院所属の管理栄養士の方たちとデスクを並べて仕事をしています」と藤谷さん。

 現在、藤谷さんはユニットマネジャーとして入院患者に提供する朝昼夕の常食と治療食の献立作成、調理、配膳業務を統括しています。「当時、当事業所では、管理栄養士は入社1~3年目は調理業務に専念し、栄養業務は4年目から担当することになっていました。入社から3年間、私も毎日厨房に入りました。最初は調理のプロである調理師のレベルについていくのに必死でしたが、3年を終える頃には調理スキルもアップし、やればできるのだと自信がつきました」

 厨房業務に専念する日々では、厨房内で治療食についての指示といった栄養業務に関する仕事を行う管理栄養士の姿も目に入ります。「管理栄養士として調理師に正確に分かりやすく伝えるにはどうすればいいのか等、指示を受ける調理師の立場で見聞きできたのは大きな経験でした。厨房業務の3年間は正直、早く栄養業務をしたいと思うこともありましたが、栄養業務を行う管理栄養士とお互いに情報交換をすることで、それぞれ大変な業務を担っており、責任を持って仕事に取り組む気持ちを共有できたことが励みになりました」

クライアントの期待に応えた、嚥下ゼリー食の開発

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 栄養業務担当になって2年目、藤谷さんは大きな仕事を任されました。
 「病院の方針として嚥下ゼリー食(以下、ゼリー食)の導入を目指すことになり、開発・導入計画作成を担当しました。メニュー提案はメニュー権を持つ病院が行います。私の仕事は使用する食材を決め、食材費や人件費といったコスト面、厨房内の作業工程等の実務視点を踏まえて実現化することでした。使用するゲル化剤にしても種類が多く、種類によって濃度や付着性が異なります。岡
山県栄養士会が主催するゼリー食の研修会に参加したり、嚥下食の本で調べたりとかなり勉強しました」こうした中、役立ったのは調理業務の経験でした。
 「年間を通して均一の味で調理員の誰もが再現できなければ病院食として成立しません。失敗のない作業工程や、野菜は季節によって加熱時間を変える等して試作しましたが、こうした点に気付き、自分で試作することができたのは調理業務の3年間があったからだと思います。クライアントである病院も試食会を開いてくださり、『想定を上回るおいしさ』という評価をいただきました。朝食、昼食、夕食に対応したゼリー食の完成には3年ほどかかりましたが、達成感のある仕事となりました」
 クライアントからの依頼業務では、管理栄養士としての難しさも感じるという。
「クライアントの期待に応え、結果を出すことが大切ですが、スタッフや材料を大量投入して良いものを作りさえすればいいわけではありません。プロジェクトの開始時は、途中で行き違いが起きないように前もって最終着地点を確認しておくことが重要です。人件費、材料費等の制約を守ること、クライアントとすり合わせを重ねる協力体制を構築することも委託会社の管理栄養士として重要な仕事です」

安全安心な食事提供は日々の確認から

 日々の栄養業務で藤谷さんが細心の注意を払うのが誤配膳、異物混入、期限切れ食材の使用といったインシデントの予防管理です。
 「私自身、20代のときに重症の患者の食事でミスをしてしまい、病室に謝罪に伺ったことがあります。患者から『苦しい思いをして治療しているので、その思いを分かってほしい』とお叱りを受けました。この言葉はとても重く、反省というだけでは済まされない気持ちになり、食事は絶対に安全でなければいけないと痛感した出来事でした。以来、厨房スタッフはシフトや配置換えがあるため、業務で気になる点があれば昼礼ですぐに注意喚起し、問題点を改善していくことを怠らないようにしています。こうした日々の確認を積み重ねたことで、インシデント件数は年々減少しており、クライアントにも評価をいただいています」

管理栄養士の枠を超えた活躍

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 栄養業務の経験が豊富になるにつれ、藤谷さんの業務は広がりを見せています。
 「入社8年目には、新規事業所の開設を担当しました。前の委託会社で雇用されていた従業員に継続してもらうための面談や労務管理全般も、責任者である管理栄養士の仕事です」
 また、管理栄養士としての視野を広げるため、新規事業所獲得に向けた営業活動に管理栄養士として同行し、病院施設の視察やクライアントへのヒアリング等をもとに、メニューの試算や仕事量に対して適正な人員を配置するためのレイバースケジュールを組み、提案書の作成までを担当する機会ももらいました。
 「営業活動に現場経験を持つ管理栄養士が入ることでクライアントとのコミュニケーションが潤滑になり、より現実的な視点での提案ができると思います。当事業所では、(1)調理業務、(2)栄養業務、(3)栄養士リーダー、(4)マネジャー、(5)ユニットマネジャーの順にステップアップできるようになっており、これらを経験してきたことで管理業務や事業計画の作成について身に付けられたことが、とても役立ちました」
 さまざまな業務経験は、後輩への指導・育成にも役立てられています。エームサービスの中国エリアに所属する管理栄養士・栄養士は勤務している病院や施設により提供している食事の種類や内容が異なり、求められる栄養に関する知識もさまざまなため、情報交換や知識の向上を図ることを目的とした定期的な会議の場を設けています。その活動のリーダーを務めた際は、食物アレルギーの勉強会やスキルアップ勉強会を主催しました。数年前からは就職試験の面接官も務めています。
 「エームサービスには多様な人財が能力を発揮する組織を目指した『aim Shine★』という活動があり、私は働きやすい会社づくりの施策を検討するチームに参加しました。普段関わることのできない社員食堂やスポーツ施設等で働く社内の人と意見交換し、1つの目標に向けて取り組むことで、フードサービスといっても部門によって業務内容や働き方が異なることが分かり、とても新鮮でした。今後はこれまで培ったスキルを生かしてさまざまな施設の運営支援等、未経験のことにも挑戦し、管理栄養士という専門職の仕事の幅を広げていきたいと思います」

プロフィール:
2007年岡山学院大学人間生活学部食物栄養学科卒業。2007年エームサービス株式会社 倉敷中央病院患者食事業所に管理栄養士として入社。岡山県栄養士会所属。

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