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超強化型老健の管理栄養士として、在宅復帰、QOLの向上・支援を目指す

トップランナーたちの仕事の中身#096

修行さやかさん(医療法人福弘会介護老人保健施設湯の里まとば、管理栄養士)

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 福祉施設の管理栄養士としてキャリアを積み、現在は、「超強化型老健」で多職種と連携して入所者の経口摂取移行、在宅復帰支援に注力する修行さやかさん。栄養ケア・マネジメントを支える多職種連携と、学び続けることの大切さについて伺った。

学び続けるために引っ越し、転職を決意

 管理栄養士として16年間のキャリアを持つ修行さやかさんは、一貫して福祉施設において栄養ケア・マネジメントを中心にした業務にあたっている。福祉施設で働くきっかけとなったのは、大学4年生のときの臨地実習だった。出身地である九州最北端の島、対馬にあるケアハウスでの実習でさまざまな健康問題を抱える高齢者と接し、健康に導くことにやりがいを見出した。出身地での就職がかなうこともあり、同ケアハウスに就職を決め、福祉施設で働く第1歩を踏み出した。ケアハウスに4年間勤務した後、法人内の介護老人保健施設に異動し、栄養管理業務を8年間担当した。
 「ケアハウスに就職した頃から、管理栄養士としてより良い栄養管理を実践するために、常にスキルアップを忘れてはいけないと心掛けています。休日には研修会や勉強会に積極的に参加していましたが、当時はオンライン開催がほとんどなく、交通費と時間をかけて本島まで行くしかありませんでした。負担を減らし、学びを続けたいと考え、福岡県への引っ越しと転職を決めました」転職先は、これまでのキャリアを生かすため福祉施設で検討した。
 「タイミング良く現職の医療法人福弘会 介護老人保健施設 湯の里まとば(以下、湯の里まとば)で管理栄養士を募集しており、採用されました。湯の里まとばは超強化型老人保健施設ですが、転職の条件として、介護老人保健施設(以下、老健)の分類は気にしていませんでした」

超強化型老健で、経口摂取への移行に注力

 老健は現在、「超強化型」、「在宅強化型」、「加算型」、「基本型」、「その他型」の5種類に分類されている。湯の里まとばが該当する「超強化型」は厳しい算定要件を満たす必要があり、5つの区分で最上位に位置しており、利用者の在宅復帰への貢献度が特に高いと評価される。
 「湯の里まとばでも在宅復帰支援に積極的に取り組んでいます。入所者は、脳血管疾患や認知症、嚥下機能の低下等の理由で経管栄養になっている方が少なくありません。当施設は長期滞在型施設ではないため、入所中に次の受け入れ先を検討する必要がありますが、経管栄養の入所者は受け入れ先が見つけにくいことが問題でした。入所中に経口摂取に移行(以下、経口移行)できれば受け入れ先の選択肢が増え、在宅復帰の可能性も出てきます」
 経口移行は管理栄養士が単独で行えるものではなく、多職種との連携が欠かせない。中でも、リハスタッフとは密な情報交換が必要だという。一般的に、老健におけるリハビリは週に数回だが、湯の里まとばでは原則として入所後3カ月間は毎日行っており、リハビリと並行して、定期的に言語聴覚士が行う評価をもとに本人と家族に経口移行する可否を確認してから、段階的に移行していく。

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 多職種と連携することで見逃しがちな身体機能の問題が見つかることもある。病院に3カ月間入院した後、湯の里まとばに入所した90歳代の女性は入院中に20Kgほど体重が減少していた。病院からの情報共有では『体重減少は、病院食の味つけが口に合わず、食事量が減ったため』とのことだった。
 「リハスタッフが身体機能を確認したところ、じつは重度の腰痛があり、食事中に座っているのがつらくて満足に食事ができなかったことが分かりました。そこで、食事介助のスタッフがマンツーマンで対応できるように食事開始時間をずらし、短時間で食べきれる食事量に調整することから始めました。座位での食事の様子を観察しながら食事量を増やしていきましたが、しばらくすると本人から『食事量が足りないので増やしてほしい』との希望が出るようになり、半年後には体重を10㎏増やすことができました。体重増加とともに体力の回復も見られ、ゆっくりではあるものの自力歩行ができるようにもなりました」
 その姿を見て、修行さんはあらためて口から食べることの重要さを感じたという。
 「食事が食べられず、低栄養の状態ではリハビリをがんばっても体力、筋力は上がりにくいものです。また、経管栄養の場合はベッドで横になったままですが、当施設では経口摂取の入所者はホールに集まって食事をします。たとえ発語が不自由な方であっても、人の気配や話し声は刺激になり、離床時間が増えることで声掛けへの反応が良くなる傾向があります。経口移行の成功例が増えるのに伴い、施設全体に経口移行への理解が広まってきたことに手応えを感じています。また、経口維持加算(Ⅰ)(Ⅱ)や経口移行加算を積極的に算定して、管理栄養士の実績を示し、職場での地位・評価の向上につなげたいです」

真の在宅復帰支援は、在宅生活を継続させること

 修行さんが2~3年前から取り組んでいるのが在宅復帰支援だ。以前は、退所前に施設内で家族と入所者に口頭で食事指導をし、退所後1カ月以内に介護支援専門員が自宅に様子を見に行っていた。しかし、介護支援専門員の報告では、食事作りに困っていたり、再入院したりするケースも多かった。
 「経口移行して在宅復帰する女性のケースで、自宅では料理経験のない夫が食事を準備することになると聞き、介護支援専門員が自宅訪問する際に同行させてほしいと申し出ました。これが管理栄養士の在宅訪問の始まりでした」と修行さん。自宅に訪問することで、自宅の調理器具、食器、買い物できる場所の把握や、代用品の提案等が可能になった。
 「ご家族と同居のケースでは、家族が独自にテレビやインターネットで仕入れた健康情報を正す機会にもなっています。こうしたコミュニケーションを重ねることで、退所後もご家族から分からないこと等を尋ねられるようになりました。真の在宅復帰支援とは、在宅生活を継続できるようにすることだと考えています。在宅の対象者一人ひとりに適した栄養ケアと食事を届けられるように、これからも在宅復帰後の支援を充実させたいと思います」

自信をもたらした臨床栄養分野認定管理栄養士資格

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 着実に実績を重ねている修行さんだが、活動の場を広げていくには、管理栄養士からの積極的な働きかけが欠かせないという。
「福祉の現場では、まだまだ栄養・食事のケアは後回しにされがちです。ラウンドミールの際に言語聴覚士が入所者に嚥下機能の評価をしているのを見かけたら、『拝見してもいいですか?』といった声かけを続けたところ、次第に言語聴覚士から『機能評価をするので来ますか』と声をかけてもらえるようになりました。
また、経口移行の実施を承諾してもらうには、誤嚥等のリスクを心配する医師、看護師、介護士等の多職種スタッフに安全性を示せるエビデンス、意見交換ができるレベルの医療知識を示して信頼を得ることも必要です。私の場合は、4年前に取得した臨床栄養分野認定管理栄養士の資格が役立っています。知識を得ると『分かる』、『できる』といった経験が増え、自信につながることを実感しています」
 今、修行さんは介護支援専門員の資格取得を目指している。「介護保険や在宅支援といった福祉分野の専門的な知識を深めることで、管理栄養士としてより良い支援と活動領域の広がりにつなげていければと思います」

プロフィール:
2008年西九州大学健康栄養学科健康栄養学部卒業。社会福祉法人あすか福祉会で管理栄養士として勤務後、現職。2022年から福岡県栄養士会理事、福祉事業部長、2024年から福岡県栄養士会副会長、日本栄養士会福祉事業部事業推進委員を務める。福岡県栄養士会所属。

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