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2025年度萩原賞、森川賞受賞者インタビュー

トップランナーたちの仕事の中身#109、110、111

村山稔子さん(新潟県立大学人間生活学部健康栄養学科准教授、管理栄養士)
修行さやかさん(医療法人福弘会介護老人保健施設湯の里まとば、管理栄養士)
清水亜矢さん(香川県小豆総合事務所保健福祉課、管理栄養士)

20251201_01.jpg左:修行さやかさん 右:村山稔子さん

 2025年度の萩原賞(栄養改善功労賞)受賞者である村山稔子さん、森川賞(栄養改善奨励賞)受賞者の修行さやかさん、清水亜矢さんに受賞の対象となった活動等について伺いました。

慢性腎臓病予防のスペシャリストとして研究、指導面から管理栄養士・栄養士を支援
村山稔子さん

 村山さんの管理栄養士としてのキャリアは、主に総合病院の栄養食事指導を中心とした業務において積まれてきました。とりわけ慢性腎臓病(Chronic Kidney Disease;以下、CKD)患者への栄養食事指導については、大学病院に勤務していた際、腎臓内科の医師が病診連携の取組を強化したことをきっかけに数多く担当し、毎年開催したCKD市民公開講座にも他職種とともに約10年間参加してきました。また、病院勤務の傍ら大学院へ進学し、CKD患者の食塩摂取量と食行動の実際について論文にまとめる等、知識を深めました。その後、日本栄養士会管理栄養士専門分野別人材育成事業CKD専門領域の認定制度立ち上げに携わり、CKDへの関わりはいっそう深くなっていったといいます。2016年に腎臓病病態専門管理栄養士の資格を取得し、新潟県栄養士会(以下、県栄)でのCKDに関する事業にも参加する機会が増えました。
 「2017年から実施となった新潟市糖尿病性腎症重症化予防事業に、県栄の検討委員として参加することになり、栄養ケア・ステーション(以下、CS)担当者とともに個別栄養指導マニュアル作成に取り組みました」
 マニュアルには、新潟県内の行政管理栄養士が中心となって作成した「新潟県民の塩のとり過ぎ10の食習慣」を盛り込みました。「地域特性を反映していることがとても良いと思ったからです。限られた時間の中で減塩指導は、パンフレットに記載されている複数の減塩方法を説明するだけで終わることもあり、患者の行動変容につながりにくいと思いました。そこで、「10の食習慣」をまずチェックし、当該した項目を目標に入れる指導方法をマニュアルに盛り込みました。大学院で研究したことが生かされたと思います」
 2019年から病院勤務を離れ、管理栄養士養成校の教員となってから、このマニュアルを使った個別栄養指導実施後の評価に着手しました。
 「当事業の個別栄養指導後の減塩に関する食行動の変化を評価しました。2022年には新潟市から入手できた2年間の個別栄養指導記録を調査したところ、食行動に改善がみられ、特に指導前に1日の食塩摂取量が10g以上の人たちは有意に改善されました。2024年からは個別栄養指導の実施と健診データとの評価に取り組んでいます。重症化予防につながる結果が示唆され、当事業に管理栄養士が貢献できていると感じています」
 「指導記録は、評価を行う際にとても重要です。県CSでも、記録方法のスキルアップのための研修会を実施していますが、私も講師として参加しています。栄養管理プロセスを取り入れた記録や目標と評価について、私が以前作成した指導記録を例に添削しながら説明すると、分かりやすいと好評です。今後も実践活動の評価を行い、管理栄養士・栄養士の業務が正しく周知・評価されることにつなげていければと思います」

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超強化型老健の管理栄養士として蓄えたキャリアを人材育成に生かす
修行さやかさん

 管理栄養士の修行さやかさんは超強化型老健である医療法人福弘会 介護老人保健施設 湯の里まとばにおいて多職種と連携し、在宅復帰支援に積極的に取り組んでいます。
 「当施設は長期滞在型施設ではないため、入所中に次の受け入れ先を見つける必要があります。経口摂取に移行(以下、経口移行)できると受け入れ先の選択肢が増え、在宅復帰にもつながります」しかし、経口移行の実施を承諾してもらうには、誤嚥等のリスクを心配する医師、看護師、介護士といった多職種スタッフに安全性のあるエビデンス、医療知識を示して意見交換ができるだけの信頼を得ることが必要です。また、いざ実施となれば多職種と綿密に連携し、きめ細かく身体機能を確認しながら段階的に進めていかなければなりません。こうしたハードルをクリアし、修行さんは着実に経口移行の成功例を増やしています。
 「成功例が増えるにつれ、施設全体に経口移行への理解が広まり手応えを感じています。経口維持加算(Ⅰ)(Ⅱ)や経口移行加算を積極的に算定して、管理栄養士の実績を示すことで福祉施設における管理栄養士の地位・評価の向上につなげていきたいです。4年ほど前から在宅復帰支援に際して在宅環境を踏まえた助言を行うために在宅訪問を行っており、今後も積極的に管理栄養士の介入を進めていこうと思います」
 修行さんは蓄えた知識と経験を生かし、地域住民を対象に高齢者の栄養・食事についての講義や人材育成支援を行っています。
 「地域の福祉サービス協会からの依頼では市民向け介護講座として、惣菜やレトルト食品を利用した簡単な介護食の紹介や、低栄養を予防する高たんぱく食、骨粗しょう症予防食についてお話ししました。また、介護施設向け設備・サービスの専門展示会では、管理栄養士・栄養士を含む多職種に対して栄養管理の意義や重要性の周知に努めています」
 管理栄養士の人材育成にも積極的に取り組んでいます。勤務施設に管理栄養士養成校の臨地実習を積極的に受け入れ、学生への指導を行っています。2024年度は実習時間500時間を実施するカリキュラム運用に向けた特別臨地実習のモデルケースとして学生を受け入れ、指導しました。
 「実習では、給食管理として献立作成、調理工程等の指導を行いました。また、管理栄養士養成校では看護学の講義数が少ないですが、福祉の現場では管理栄養士も看護の知識を深めていると入所者の体調把握に役立ちますし、多職種ともコミュニケーションが取りやすくなります。必要性を肌で感じてほしいと思い、私と帯同してミールラウンド等、入所者となるべく多く関われるように工夫しました。学生からは学校では学べない経験ができ、勉強になったとの感想をもらえました。公益社団法人福岡県栄養士会理事であり、福祉事業部企画運営員としても、新入会獲得や会員増対策を行い、2024年度は福祉職域で全国一の会員増を達成できました。これからも会員のニーズに応える研修会等を企画し、福祉で活躍する管理栄養士・栄養士の育成に尽力したいと思います」

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市町行政栄養士の人材育成支援体制を構築し、保健所栄養士のための市町新任行政栄養士人材育成支援ガイドを作成
清水亜矢さん

 清水亜矢さんは香川県庁入庁後、香川県庁健康福祉総務課、香川県立中央病院栄養部、香川県中讃保健福祉事務所健康福祉課に勤務。2023年からは香川県内で保健所を設置している唯一の離島、小豆島の香川県小豆総合事務所保健福祉課(以下、小豆保健所)において、単独配置の管理栄養士として勤務し、健康づくり業務、食育推進事業、給食施設指導・相談、人材育成、栄養・食品表示相談等を担当しています。
 「行政栄養士として県庁、病院、保健福祉事務所(保健所)を経験し、中堅期のこのタイミングで離島勤務に挑戦したいと思っていたので、小豆島への移動は嬉しかったです」と清水さん。
 着任した令和5年4月、清水さんに大仕事の依頼がありました。保健所が管轄する2つの町で行政栄養士を新規採用しましたが、単独配置のため同職種によるOJT(On the Job Training;以下、OJT)が難しいことから、保健所栄養士である清水さんに人材育成を支援してほしいというものでした。
 「私自身、初めての単独配置で新しい職場環境にもまだ慣れていない中、不安もありましたが、とにかく無我夢中でした。まずは町の関係者と人材育成方針をすり合わせた上で、人材育成プログラムや到達目標、評価指標等を作成し、7月から本格的に支援を始めました」
 これまで香川県には保健所栄養士が市町の新任行政栄養士の人材育成を支援する体系的なプログラムがなかったため、他職種の人材育成プログラムや保健所内の他職種の先輩職員の助言等を参考にしました。
 「まず、職場内外の協力体制づくりに力を入れました。組織の中では周りの理解・協力が必要ですし、私自身、同職種がいないので判断に迷ったときのために他所属の県行政栄養士や市町の中堅期行政栄養士と連携できるように協力を呼び掛けました。また、2つの町に対しては、小豆島全体で新任行政栄養士を育てるという方向性を共有してもらいました。これらの一環として、人材育成に欠かせない現地研修の受け入れを島内外の市町にお願いしました」
 一方、香川県では、地域保健法施行後に採用された県の行政栄養士は、施行後に県から市町に移管された住民に身近な対人サービスとしての栄養士業務の経験がないことから、市町の求めに応じた人材育成支援が難しいという課題がありました。そこで、先進的な取組として、清水さんは今回の人材育成支援を基盤に、将来的にどの保健所においても市町から新任行政栄養士の人材育成支援を求められた際に、人材育成支援を行う保健所栄養士の経験年数やスキルにかかわらず、迅速に実行性が高い支援を行えるように、県の保健所栄養士用の人材育成支援ツール「保健所栄養士のための市町新任行政栄養士人材育成支援ガイド~小豆モデル~」を作成しました。
 「人材育成に課題を抱えていた町の力になることができてとても嬉しく思います。新任行政栄養士の成長していく姿を頼もしく感じるとともに、自分自身の成長にもつながったと感じています。今後も行政栄養士として、栄養と食の専門知識に加え、行政全体の仕組みを理解しながら栄養施策に取り組めるようスキルアップを続けていきたいと思います」

修行さやかさん プロフィール:
2008年西九州大学健康栄養学科健康栄養学部卒業。社会福祉法人あすか福祉会で管理栄養士として勤務後、現職。2024年から福岡県栄養士会副会長、日本栄養士会福祉事業部事業推進委員を務める。福岡県栄養士会所属。

村山稔子さん プロフィール:
1985年県立新潟女子短期大学家政科食物専攻卒業。新潟医療福祉大学大学院医療福祉学研究科健康科学専攻健康栄養学分野修士課程修了、新潟大学大学院歯学総合研究科生体機能調整医学専攻博士課程修了。博士(医学)。新潟県に入職し、特別支援学校、障害者施設、病院に勤務後、1995年から新潟大学医歯学総合病院栄養管理部勤務を経て現職。2014~2018年および2024年から新潟県栄養士会副会長。新潟県栄養士会所属。

清水亜矢さん プロフィール:
2008年徳島大学医学部栄養学科卒業。香川県に入庁し、香川県健康福祉総務課、香川県立中央病院栄養部、香川県中讃保健福祉事務所健康福祉課を経て現職。香川県栄養士会所属。

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