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社員食堂から始める地産地消で地域の活性化、企業の価値向上に貢献

トップランナーたちの仕事の中身#112

前田 翼さん(株式会社大塚製薬工場総務部社員食堂、管理栄養士)

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 大企業による直営方式の社員食堂で、管理栄養士として地域の貢献や会社の価値向上を目指し、地産地消、環境保護への寄与に取り組んでいる前田翼さん。生産者との対話を大事にする等、長く継続するための工夫と展望について伺いました。

大規模社員食堂で地産地消を導入

 前田翼さんは2014年に株式会社大塚製薬工場に入社して以来、徳島県鳴門市の本社、研究所、鳴門工場の社員たちが利用する社員食堂の管理栄養士として給食管理、栄養管理業務を担っています。2024年からは大塚製薬陸上競技部の男子選手17人、女子選手9人(2025年12月現在)の寮での食事の献立作成および栄養相談にも取り組んでいます。
 「当社員食堂は、最近では少なくなっている直営方式で運営され、毎日3種類の定食とサラダバイキング、ラウンジコーナーでの飲料・デザート等多様なメニューを社員に提供しており、1日約500人が利用しています。私は献立作成、食材の発注を担当し、他業務の合間をぬってできる限り調理の現場仕事にも携わり、業務全体の把握を心掛けています」と前田さん。
 前田さんは、入社当時から管理栄養士として従業員の健康をサポートするだけでなく、創業の地に拠点を構える企業の社員食堂として、地域への貢献や会社の価値向上について考えていたといいます。
 「私が生まれ育った神戸でも徳島の農産物は流通しており、名産品の多い地域だと感じていました。入社後、これまで社員食堂では地産地消の取組はされていないことを知り、積極的な活用を提案しました。上長をはじめスタッフの理解を得られ、2015年から地産地消を積極的に取り入れることになりました」

会社と生産者との対話から生まれるWIN・WINな関係

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 まず前田さんが着手したのは、生産者探しでした。
 「地産地消のメリットの1つは生産者の顔が見えることです。毎日社員が食べるものですから味が良いことはもちろんですが、安全・安心な品質であること、栽培にかけるこだわりや熱意を持つ生産者とつながりたいと考えました」
 知り合いの業者に心当たりを聞く他、インターネットで名産品や生産者を調べ、これはと思った生産者に連絡をし、1軒1軒生産地を訪ね、生産者と顔を合わせて話をすることを積み重ねて取引先を開拓してきました。
 「地産地消は長く継続していくことが大切だと考えています。そのため、当社と生産者に相互利益のある取引となるように生産者ごとに条件を話し合って決めています。例えば、納入方法は生産者による配達が原則ですが、無理であれば配送料はかかっても業者を利用した配送もOKとしました。通勤の通り道であれば私がピックアップするケースもあります。規格外や豊作による価格調整のため廃棄されるものも購入し、食堂の厨房で加工して使用する等で食材の有効活用や価格を抑えることにもつなげています。当初は米、雑穀、野菜等、数種類からのスタートでしたが地道にリサーチを続け、現在は全食材の3割を地場産物で賄っています」
 契約後もたびたび産地を訪れて、生産者と話をすることに注力しているという前田さん。
 「地産地消を根付かせるには、地場産物をより深く知ることが大事だと思います。直接会って話をしていると、おいしい調理法や無駄なく使い切る方法を教えてもらえますし、農産物を栽培する苦労やこだわりも知ることができます。地場産物にはこれまで扱ったことのない食材もあり、どのようにすれば社員食堂で継続的に提供していけるか、調理師と協力して新メニューの開発も行っています」

幻の果実「ユコウ」の周知と復興

 徳島はユズ、スダチの産地として全国的に知られています。これらのかんきつ類に加え、地産地消の産物として取引をしているのが「ユコウ」です。ユコウは徳島や高知の山間部で古くから栽培されてきましたが生産量が極めて少なく、地元のスーパーマーケットや青果店での販売はほとんどなく、幻の果実と呼ばれています。
 「ユコウは生産者の高齢化から生産量が減少しています。厳しい状況にもかかわらず、自分と同世代の浅野秀美さんが農園主を務めるシシトトラ浅野農園(以下、浅野農園)が復興に挑戦していることを知りました。希少な地場産物を広く周知し、守り育てることに貢献できるのではと考え、社員食堂での利用を決めました」
 山間部の勝浦郡上勝町にある浅野農園を訪ねると、木には黄色く熟したユコウが実っていました。
 「かんきつ類の収穫期はほぼ同じですが、収穫量の少ないユコウは繁忙期を避けて未熟な状態で収穫するのが一般的です。しかし、浅野農園は完熟してから収穫する完熟ユコウを販売し、ふくよかな甘さ、うま味のあるコク、さわやかさが楽しめると評判を呼んでいます。ユコウの果汁を使ったすしや酢の物はこの地域の郷土料理と知り、社員食堂ではユコウ果汁としょうゆを同量ずつ混ぜたポン酢を手作りしてサラダバイキングに提供しています」
 利用者からは『ユコウを初めて知った』、『まろやかでおいしい』と好評だといいます。
 「社員食堂は提供数が多いこともあり、まとまった数量を購入できるので、生産者の経営的な安心感につながります。徳島の食文化に根付いた食材を次代につないでいくことで、地域経済の活性化につながればと思います。こうした取組が認められ、株式会社大塚製薬工場社員食堂は、令和2年度地産地消等優良活動表彰の中国四国農政局長賞を受賞しました」

地産地消、環境保護の活動を発信

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 地産地消とともに取り組んでいるのが環境保護への寄与です。
 「2019 年に社員食堂の箸をプラスチック製から福井県で作られている若狭塗の塗り箸に変えました。塗り物は丈夫と聞いていましたが、食器洗浄機、乾燥機に入れても傷みにくく、プラスチック製よりも耐久性があることに驚いています。利用者からは手に取ると温かみがあり、気持ちが和むと上々の反応です」
 さらに、前田さんは地産地消効果の見える化のため、白米と穀類について地産地消導入前と後の輸送にかかるエネルギー量を算出しました。活動内容を全国に発信することが会社の価値向上につながると考え、2023年に社食ドットコム主催のSDGs社食アワードに応募すると、社員食堂における脱プラスチックの取組や、徳島県産ユコウの周知拡大、地産地消による二酸化炭素排出量削減等の取組が認められ、SDGs 社食アワード企業賞を受賞しました。
 「2023年、2024年には農林水産省の補助事業である『地産地消コーディネーター育成研修会』で講師を務め、地産地消コーディネーター会議のメンバーとして地産地消推進のための意見を述べる機会をいただきました。地場産物の活用は、わが国においてますます必要性が高まる取組だと感じています」
 前田さんは今後も地産地消に取り組む一方、後輩や未来の管理栄養士・栄養士に向けて、給食管理の重要性を伝えていきたいといいます。
 「人は食べて栄養を摂取することを考えると栄養管理の基本は給食管理にあると思います。使用する食材、調理法、献立を考えることは地味な仕事ですが、管理栄養士・栄養士にしかできない業務です。近年は管理栄養士養成校で講義をする機会があると地産地消の取組から食材への知識が深まること等、給食管理の奥深さを伝えています。今後も先輩管理栄養士としてできる限りの指導・支援をしたいと思います」

プロフィール:
2014年徳島大学大学院栄養生命科学教育部人間栄養科学専攻修了。2014年に株式会社大塚製薬工場に入社し、総務部社員食堂に配属。社員食堂の給食・栄養管理に加え、会社の価値向上につながる活動を行う。2024年4月より大塚製薬陸上競技部の給食・栄養管理も担当。徳島県栄養士会所属。

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