入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. フリーランスの管理栄養士として、地域の人が気軽に相談できる場所を作りたい

フリーランスの管理栄養士として、地域の人が気軽に相談できる場所を作りたい

トップランナーたちの仕事の中身#114

吉永悦子さん(合同会社カドル、管理栄養士)

2026030201.jpg

 管理栄養士としてのさまざまなキャリアを経て訪問栄養食事指導への取組、地域のかかりつけ管理栄養士を自らのビジョンに掲げている吉永悦子さん。フリーランスの管理栄養士としてビジョンの実現に向けた活動について伺いました。

専業主婦から離島の病院勤務へ

 フリーランスの管理栄養士(以下、フリー管理栄養士)である吉永悦子さんは、現在、自身が起業した合同会社カドルの経営と、会社の設立と同年に開設した認定栄養ケア・ステーション(以下、認定栄養CS)、鹿児島県霧島市、姶良市を中心に栄養相談等、地域に密着した管理栄養士として活動を展開しています。
 フリー管理栄養士は複数の依頼先と契約を交わして働くため、幅広い対象者や業務内容に対応するスキルが求められます。吉永さんの現在の活躍は、フリー管理栄養士になる以前の多様なキャリアから得た知識と経験が支えています。

 吉永さんは栄養士養成校を卒業後、栄養士とは関係のない仕事に就きますが、体調を崩して退職。回復後に栄養士として働くことを決意し、老人福祉施設の栄養士からキャリアをスタートさせました。その後、栄養士養成校の頃から抱いていた、こどもと関わりたいという気持ちから保育所に転職し、管理栄養士資格を取得しました。
 「保育所の仕事は充実していましたが、夫の転勤のため4年間勤めて退職し、育児のため8年間専業主婦をしていました。再び夫の転勤があり、鹿児島県の離島である喜界島に引っ越すと、島の看護師から基幹病院に管理栄養士が一人しかいないと病院勤務を勧められ、正規の管理栄養士として就職しました」
 仕事に長いブランクがあり、さらに、医療現場は初めてだったことから、「気を引き締めて、一から勉強し直しました」と吉永さんは当時を振り返ります。
 「病院では一般社団法人日本栄養治療学会に所属する院長(外科医師)のもと、積極的にチーム医療に取り組んでいました。私もNSTに携わり、院内の勉強会にも積極的に参加し、初めて学会発表もしました。恵まれた環境で鍛えられたことは、今、フリー管理栄養士として活動する上で、何にも代えがたい財産となっています」

 喜界島での病院勤務は、吉永さんにスキルの向上をもたらしただけでなく、管理栄養士としてのビジョンを描く機会にもなりました。
 「当時、喜界島は高齢化が進み、独居の高齢者や老老介護等が増えていました。通院が困難で医療や栄養管理が受けられないケースを目の当たりにし、栄養補助食品等を販売しているところもない等、地域資源もとても少ない現状でした。栄養管理が受けられる環境づくりの必要性をひしひしと感じ、訪問栄養食事指導に取り組みたいと強く思いました」

訪問栄養食事指導への思いと現実

2026030202.jpg

 4年間の病院勤務で栄養課長を務めたのち、夫の転勤を機に退職しましたが、訪問栄養食事指導への思いは変わりませんでした。霧島市に住まいを移すと在宅訪問管理栄養士の認定を受けるための勉強をはじめ、並行して在宅医療を行っている医療機関を探しました。
 霧島市の保健センターから紹介された高齢化率47%の地域で高齢者医療に取り組む医院では、管理栄養士の募集はありませんでしたが、吉永さんは「行くしかない」と病院長を訪ねました。訪問栄養食事指導への思いを猛アピールすると、「必要なことです」と正規職員として採用されました。
 「院内での栄養食事指導の他、訪問栄養食事指導を担当しました。また、入職1年目に管理栄養士がいる場所を知ってもらい、気軽に相談できる環境づくりが必要であることを病院長に提案し、病院として認定栄養CSを開設することができました。認定栄養CSでは、介護認定を受けていない高齢者を対象とした週に一度の集いの場所づくりを行いました。」
 
 しかし、思いを形にする一方で、現実も突きつけられました。
 「介護支援が必要な患者は多いが、栄養食事指導の件数は月に数件にとどまっていました。管理栄養士業務だけでは給料に見合った仕事ができていないと思い、自主的に介護支援専門員の資格を取得して兼務することにしました。すると介護支援専門員の仕事が増え続け月に30件も担当することになり、管理栄養士業務に手が回らなくなってしまいました。これでは本末転倒になると病院長に相談し、退職という道を選びました」

管理栄養士として多岐にわたる活動をスタート

 2021年、吉永さんは会社を設立し、認定栄養CS「カドル きりしま」を開設。フリー管理栄養士として活動をスタートさせました。
 「フリーになることに不安がなかったといえばうそですが、地域に根付いたかかりつけ管理栄養士を目指し、活動の幅を広げていくには会社の設立は必要だと判断しました。とはいえ、当初は資金のやりくりを考えて夜中に何度も目が覚めることもありました。しかし、今では会社があるとないとでは企業からの信頼感がまったく違うことを実感しています。例えばメーカーに栄養補助食品の試供品の提供を頼むにしても、個人の管理栄養士では難しいことがありますが、会社として依頼するとスムーズに対応してもらえます」
 現在は在宅栄養専門管理栄養士も取得し、認定栄養CSとして地域住民に向けた介護食研修会や健康料理教室、栄養講話の実施、会社として受託する栄養相談、症状や嗜好、摂食嚥下の状態に応じた栄養補助食品を選定して自宅や施設に届ける業務や、医療機関や福祉施設等からの依頼による栄養業務等、活動の幅を着実に広げています。
 「栄養食事指導が診療報酬として加算されるためには、フリー管理栄養士は医療機関と契約しなければなりません。契約を取るための営業活動はしていますが、前例がないと断られることも多々あります。現在は、行政と個人契約を交わして乳幼児健診、重症化予防のための訪問、地域ケア会議等にも参加しています」

2026030203.jpg

 この他にも起業した目的でもあった「管理栄養士がいる場所を広めたい」という思いから、月に2日ほど事務所スペースを利用した「Caféカドル」を開いています。
 「野菜や旬のフルーツを使った手作りスイーツと飲み物を提供しています。気軽に利用できるようにドリンクセットが600円、こどもは400円と価格を抑えています。身体にやさしいスイーツをコンセプトに家庭菜園で栽培した野菜を使っています。オープンして1年半ですが、1日に10数人の利用があり、常連もできました」
 取材で訪問した際には、吉永さんからは世間話をするように健康や食事の悩みを気軽に、穏やかに話す様子がうかがえ、管理栄養士としての確かな知識は、着実に訪れる人に伝わっていくのだろう。吉永さんも「地域をつなぐネットワークの役割を担っていきたい」と手応えを感じているようで今後、認定栄養CSの活動を広げていきたいと考えています。

管理栄養士仲間の幅広い活躍と人材育成支援に尽力

 「地域で幅広く活動できる管理栄養士がもっと増えることを願い、日本在宅栄養管理学会に所属し、現在、理事、鹿児島支部長として人材育成支援等サポートに取り組んでいます。ちょうど今は2026年6月13日(土)、14日(日)に福岡県で開催される日本在宅栄養管理学会学術集会の実行委員として準備を進めています。今後もさまざまなライフステージにおいて、気軽に管理栄養士に相
談できる環境を作っていけるよう、地域の管理栄養士と連携し、知恵を出し合ってがんばっていきます」

プロフィール:
1995年鹿児島県立短期大学生活科学科食物栄養専攻卒業。検査関連企業に就職後、老人福祉施設、保育所、病院での管理栄養士業務を経て現職。鹿児島県栄養士会所属。

賛助会員からのお知らせ