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突然の休校、3か月ぶりの学校再開 衛生管理を徹底し、給食の楽しさに磨きをかける

withコロナ 管理栄養士の現場 ♯03

口野佳奈さん(船橋市立法典西小学校栄養教諭、管理栄養士)

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 学校の現場は今年(2020年)新型コロナウイルス感染症拡大の影響を受けて、3月に突然の「一斉休校」が行われました。当初予定に反して、新学期になっても休校期間が続いたことにより、子どもたちの食育と給食管理・栄養管理を担う栄養教諭および学校栄養職員も戸惑い、対応に緊張感を強いられました。

 「口野先生、いつも給食ありがとう!」
 千葉県船橋市にある法典西小学校の夏休み前最後の給食の日となった7月17日(金)、全校児童およそ800人のうちの200人以上が、栄養教諭で管理栄養士の口野佳奈さんに、お礼を伝えたといいます。例年に比べ給食実施日が半分程度しかなかった夏休み前。なぜ、子どもたちは口野さんに「ありがとう」を伝えたくなったのでしょうか。
 法典西小学校の学校再開は、6月1日(月)。給食が始まったのが4日(木)でした。翌日の5日(金)、口野さんは従来から給食がある日には毎日発行している「きゅうしょくだいすき」という名の給食メモに、こんな風に記述しました。
 「今日のデザートは、清見オレンジです。清オレンジがお店にたくさん並んでいる季節は2月から4月です。どうして、今の時期に清見オレンジがあるの? と不思議に思った人もいるでしょう。昨日と今日は給食の始まりの日です。『おいしい果物を食べてほしい』と、八百屋さんは考えました。そして、一生懸命おいしいオレンジを探しました。なんと!特別の清オレンジが見つかりました。(産地の)冷蔵庫で大切にとってあった清オレンジだそうです。」(一部略)

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 この給食メモは、児童全員には配付していません。各クラス、担任に1枚ずつ。給食の時間に、担任が各クラスでこのメモをもとに、話をしたり、クイズにしたりして、食育をしているのです。この話を聞いて、八百屋さんへの感謝の気持ちが湧いてきた子どもたちが少なからずいたはずです。
 口野さんのメモは、こう続きます。
 「外側の皮をむいて、食べてみてください。苦手な人も、皮をむいて、ほんのひとくちだけ、食べてみてください。皮をむく練習も、だいじです。」
 給食メモには、過去の給食で清見オレンジの皮をむいている児童の写真も載せてあります。
 子どもたちの中には「じゃあ、食べてみよう!」と感じた子も多くいたことでしょう。口野さんが、「〇〇の栄養素があるから、食べましょう」と呼びかけることは多くありません。子どもたちが「食べたいな」、「食べてみようかな」と思うきっかけは、「栄養素が入っている」ではないことが多いからです。子どもたちがおいしく、楽しく食べるきっかけの多くは、「八百屋さんがぼくたちのために特別なオレンジを探してくれてうれしいな!」とか、「皮のむき方がわからなかったけど、簡単そうだからやってみよう!」など、こんなところにあると、口野さんは感じているのです。
 従来は、給食の時間に各教室をまわり、たとえば清見オレンジを残している子がいれば、声をかけたり、手を添えたりして、皮のむき方を教えていた口野さんですが、感染予防の観点から、こうした個別の対応は控えています。そのぶん、前述の給食メモを、担任が食育として活用しやすいように、より丁寧に作り込むようになりました。
 また、新しい生活様式では、給食を食べている間、子どもたちは会話を控えなければなりません。おしゃべり禁止の状態を少しでも肯定的にとらえられるようにと、口野さんは給食メモの中に、「おいしい」や「いただきます」、「おなかがいっぱい」、「おなかが減った」などの手話のイラストを掲載するようにしました。
 口野さんには直接会わなくても、給食メモをとおして、「苦手だったオレンジが食べられるようになった!」、「新しい手話を覚えた!」といった喜びや自信が、子どもたちに芽生えたのでしょう。7月最後の「口野先生ありがとう!」の声には、子どもたちのそうした想いが込められています。

衛生管理のルールも、楽しさと学びに変える

 休校期間中、学校の教員は休みだったわけではありません。法典西小学校では、教員は週に2日程度の出勤となり、学校と自宅でそれぞれできる仕事をこなしていました。栄養教諭の口野さんは、毎年同様の新年度の準備とともに、学校が再開した際に安全に給食が運営できるように、校長や各担任、養護教諭などと話し合いを重ねました。
 文部科学省からは、学校再開にあたって新型コロナウイルスの感染防止対策として、手洗い、咳エチケット、3つの密を避けることなどの指導を徹底するよう呼びかけがありました。入念な手洗いを実施するために、口野さんは、まず学校内の水道の蛇口を数えました。
 そして、およそ800人の児童が手洗いに1人30秒かけると、1つの水道に約20人が並び、交代する時間を含まなくても全員の手洗いが終わるまでに10分以上かかる、という計算になりました。これでは、給食の前に時間がかかりすぎてしまい、さらには水道に子どもたちが列をなして「密」な状態になってしまいます。
 そこで口野さんは、図工室や家庭科室などの特別教室の水道も使うことを考え、どのクラスが家庭科室に行くと短時間で手洗いを完了できるかを、実際に廊下を歩いて時間を計測しました。そうして、「給食時間の手洗い計画」を学年ごとにまとめました。具体的には、

4年生 
担任4人、給食当番6人×4クラス=24人、当番以外139-24=115人
・担任&給食当番28人は、3階新校舎水道5個
 28÷5=5.6人/個
・給食当番以外115人は、理科室窓際8個、理科準備室窓際2個=10個
 115÷10=11.5人/個

 上記の計算から分かるように、計画前は1つの水道に20人程度が並んでしまう状態でしたが、計画後は担任を含めても5〜11人で水道1つを使うことができ、スムーズな流れになりました。
 実際に学校が始まると、休校期間中に子どもたちは家庭でしっかり手を洗う習慣が身についていたようで、従来よりも衛生管理が徹底されていると口野さんは感じたそうです。

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 また、安全に給食を運営するために、口野さんは配膳や片付けについても、担任に意見を聞きながら、短い時間で「密」な状態を作らずに子どもたちが行動できる方法を考えました。従来は教室内で3つ連続して並べていた配膳台を、それぞれ離れた場所に置くなど担任ならではのアイデアも出てきました。担任と給食当番の児童、当番以外の児童、それぞれの「きゅうしょくのじかんのすごしかた」を、4時間目終了後から昼休み前まで時系列の表にして、クラスに掲示するとともに、食育だよりに掲載し、全児童に配付しました。
 すべては感染予防を徹底して給食を運営するためのルールなのですが、この表の中にも、口野さんの子どもたちへの愛情とユーモアがあふれています。

11:50〜〈給食当番以外〉
・トイレ、手あらい(手あらいばや、トイレで、きゅうしょくとうばんに、じゅんばんをゆずってくれてありがとう。きっといいことありますね。)
・サンプルケースを見にいかないで、こんだてひょうを見てそうぞうします。

12:15〜〈全員〉
・しゅわで「いただきます」
・「おいしい」とおもったら、しゅわでどうぞ。
・たべおわった人も、「いただきます」のあと15ふんかんは、かたづけないで、じぶんのせきでしずかにまちます。まちじかんがながくて、まちきれなかった人は、あしたはさらによくかんでください。

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 新型コロナウイルスという、子どもたちには目にも見えず、理解も難しい感染症が広がっている影響で、給食中のおしゃべりも控えなければならないし、大好きな料理でもおかわりができなくなりました。口野さんは、栄養価を維持するために献立の変更は極力少なくしようとしてはいるものの、配膳が簡単にできるような料理にアレンジし、一品少なくする日も数多くあります。提供しているのは明らかに簡易給食です。それでも、大勢の子どもたちが「口野先生、ありがとう!」と声をあげるほど、子どもたちにとって給食と、給食の時間は、学びや喜びにあふれているのでしょう。
 市役所などの行政の事業でも、一般のイベントでも、「食」を介した行事や企画は全国でことごとく中止となっています。これまで実施されてきた食育のあり方も、「新しい生活様式」に則って、変更を余儀なくされています。「どのようにしたら、子どもたちが食べることを楽しめるか?」と、常に相手の喜びを考えている口野さんの鋭い視点と柔軟な発想は、どの職域の管理栄養士・栄養士にとっても参考になるのではないでしょうか。

プロフィール:
筑波大学第三学群社会工学類卒業後、東京都内の百貨店に勤務。退社後に香川栄養専門学校栄養士科に入学。2000年、卒業。同年、八千代市立高津小学校に着任。2003年、船橋市立高根東小学校に着任。2008年、管理栄養士資格を取得。2014年、栄養教諭となり船橋市立法典西小学校に着任。2018年、「平成29年度文部科学大臣優秀教職員表彰(食育の推進)」を受ける。

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