【栄養ケア・ステーションの最前線 #01-1】全国初、医師会が持つ栄養ケア・ステーション 地域の各医院に、FAX1枚で管理栄養士を紹介
2020/01/30
栄養ケア・ステーションの最前線 #01-1
横浜市青葉区医師会認定栄養ケア・ステーション
栄養ケア・ステーションが医師会の事業の一つに
横浜市青葉区医師会では、実施する6つの事業の中に、訪問看護ステーション、訪問介護ステーション、青葉区在宅医療連携拠点などと並んで、認定栄養ケア・ステーションが入っています。医師会に所属する青葉区内の各クリニックの医師が、栄養指導を受けさせたいと判断した、あるいは栄養指導を受けたいと申し出た患者に対して、自院あるいは在宅で栄養指導を実施するために、認定栄養ケア・ステーションから管理栄養士が紹介される仕組みがあり、開設から約3年が経過しました。
(公社)日本栄養士会では、責任者を置くこと、業務に従事できる管理栄養士を1名以上配置すること、指定した業務を実施できること、地理的に地域住民がアクセスしやすいことなどを要件として栄養ケア・ステーションの認定を行っており、この栄養ケア・ステーションも2018年度から「認定栄養ケア・ステーション」となっています。
横浜市青葉区の中心地、たまプラーザ駅近くに、ふじくら循環器内科があります。この医院では、水曜日の午後(不定期)に「青葉区医師会 認定栄養ケア・ステーション」の管理栄養士による栄養指導が実施されています。
取材に訪れたこの日、ふじくら循環器内科で栄養指導を担当した管理栄養士は、渡辺典子さん。渡辺さんは、フリーランスではありません。同じ青葉区にある介護老人保健施設「横浜あおばの里」に勤務していますが、青葉区医師会認定栄養ケア・ステーションの登録管理栄養士でもあり、この日も勤務時間中に施設外での栄養指導を引き受けました。渡辺さんはクリニックに到着してすぐに、該当患者のカルテを確認してから栄養指導に臨み、栄養指導終了後には藤倉寿則院長にFAXで当日の指導内容と患者の様子などをSOAP形式(S:主観的データ、O:客観的データ、A:評価、P:計画に分けて経過を記録する方法)に沿って報告しています。
「勤務先の上役には、"地域連携"のために栄養ケア・ステーションに登録し、依頼があった際には外出して栄養指導を担当したい旨を話し、了承を得ています。実際に、老人保健施設(以下老健)から在宅復帰をしたあとにクリニックに通院する方がいたり、在宅で過ごしている方が入院した後に老健に入所したりするなど、特に高齢の住民の方はさまざまな場を移られることがあります。老健の管理栄養士であっても、医療や在宅の場を日常的に経験することで、さまざまな情報や栄養ケアを提供できるようになり、地域住民の方にお役に立てていると思います」と、渡辺さんは栄養ケア・ステーションに登録し、青葉区内の各地で栄養指導を担当する意義を話します。
医師・クリニックにとってのメリットは?
ふじくら循環器内科の藤倉寿則院長は、過去1年半ほどで14人の患者に、栄養ケア・ステーションから紹介された管理栄養士による栄養指導を実施してきました。
藤倉院長は、「栄養指導の数が確保できないクリニックでは管理栄養士を常勤で雇うことは難しく、また、栄養指導用の部屋を常に用意しておくことも容易ではありません。そのため、私が往診に出て、部屋が確保できる水曜日午後に限定し、栄養指導を希望する患者さんに対して管理栄養士に栄養指導をお願いできるのはとてもありがたいです」と話します。
この日、ふじくら循環器内科で栄養指導を受けたのは、60歳代で糖尿病を患う男性とその妻。渡辺さんによる栄養指導を2019 年の8月に夫婦で初めて受け、同年の年末に3回目となりました。
栄養指導を受けた奥さんは、「食事の改善点について、管理栄養士さんと一対一で30分ほどじっくり話せるのは貴重です。渡辺先生に、何をどれくらい、何分かけて食べたかと体重を記録するように言われて書き始めたノートがもう3冊目になりました。夫と二人三脚で、買い食いをやめてバランスのよい食事を意識してとるようにし、記録することで、体重が減っていく結果が目に見えてわかり、夫婦で減量を楽しめています。ヘモグロビンA1cも下がってきていてうれしいです」と、栄養指導の効果を話します。
藤倉院長は、「なるべく薬を使いたくないという患者さんや、自己流の食事療法でうまくいっていない患者さん、そして食事の話をじっくり聞きたい、話したいという患者さんには、管理栄養士の栄養指導が適切です。患者さんが栄養指導を受けたいと思った"そのとき"に確実に予約できるのが理想ではありますが、現状では2日以内に栄養指導の可否について返事をもらえているので許容範囲でしょう」と話し、予約方法の簡便化が課題であると指摘します。
なお、ふじくら循環器内科では、栄養指導予定の患者に当日電話をかけて必ず来院意思を確認するようにしており、直前のキャンセルが発生しないように工夫しています。
紹介は中一日、医院に管理栄養士を紹介する流れ
医師からの栄養指導の依頼は、各クリニックからFAXを使って、青葉区医師会荏田北事業所内にある認定栄養ケア・ステーションに届きます。各クリニックの医師は青葉区医師会のホームページから栄養指導を依頼するための書式をダウンロードし、患者の病名、血液検査データなど必要事項を記入して、FAXで依頼するという流れです(患者氏名はID化して個人情報の漏えいを防いでいます)。
認定栄養ケア・ステーションでは、登録管理栄養士の一人である植村公恵さんがコーディネーターを務めています。植村さんは届いたFAXを確認し、登録している22人の管理栄養士に、該当疾患に対応できる知識と技術があり、依頼元の医師(または患者)が希望する日時にクリニックや在宅に栄養指導に行くことができるか、メールで依頼をかけます。
植村さんは、「依頼元のクリニックには翌日までに返信することになっています。登録管理栄養士が20人以上いるからこそ対応できていると思います」と話し、登録管理栄養士をさらに増やし、栄養ケア・ステーションの活動がより強化されることを望んでいます。
現在、登録している管理栄養士は、フリーランスに限らず、前出の渡辺さんのように勤務先がある管理栄養士も多くおり、職場は病院、薬局、特別養護老人ホーム、介護老人保健施設、保育所などさまざまです。常勤の職場があっても認定栄養ケア・ステーションに登録し、依頼に応じるのは、管理栄養士たちに「地域にもっと貢献したい」という気持ちが強く、その思いが各職場で理解されているからだといいます。なお、登録できるのは横浜市青葉区に在住か在勤の管理栄養士に限定しています。
青葉区医師会内に栄養ケア・ステーションを設立するきっかけとなったのは、在宅訪問栄養指導を始めたいと考えていた青葉さわい病院の管理栄養士、内藤有紀子さんが、青葉区医師会の在宅医療連携拠点運営委員会で管理栄養士が在宅でできることを発表し、それをきっかけに青葉区医師会に所属する各クリニックの医師から在宅訪問栄養指導の依頼を受けるようになったことが始まりでした。
その後、青葉区の保健福祉センター長や、医師会の理事たちの後押しがあり、青葉区医師会内に栄養ケア・ステーションが設立されたのが2017年のこと。その後の区内の管理栄養士・栄養士向け研修会で、同栄養ケア・ステーションの責任者となった川島由起子さん(現・長野県立大学教授)が当日の参加者に管理栄養士登録を呼びかけ、すぐに20名近くが集まりました。
現在、毎月の依頼はクリニックと在宅訪問での栄養指導を合わせて30件ほど。ほかに、青葉区医師会が主催する健康フェスティバルに認定栄養ケア・ステーションとして出展、栄養相談や嚥下障害用のとろみを解説するなどの活動をして、医師会のニーズに応えています。
代表の川島さんは、「決められた月2回の栄養指導より多く訪問に来てほしいという方がいる一方で、新規の依頼数は伸び悩んでいます。現在、青葉区医師会登録会員のクリニックは218軒ありますが、常時依頼をくださるのは13医院に限られています。依頼手続きの簡便化を図るとともに、私たちが認定栄養ケア・ステーションの成果を出し、学会で発表したり論文にまとめるなど公表していくと同時に、管理栄養士を安定して紹介できるように共に活動できる仲間を確保していく必要があります」と、今後の課題を挙げています。
●横浜市青葉区医師会認定栄養ケア・ステーション
住所:横浜市青葉区荏田北3-8-6
電話:090-7421-1832(事務局直通)