入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 人類と地球の健康を守る! タイ・Mahidol大学での講演とPMACへ参加 Participated in lecture at Mahidol University and PMAC, Thailand

人類と地球の健康を守る! タイ・Mahidol大学での講演とPMACへ参加
Participated in lecture at Mahidol University and PMAC, Thailand

0230217_logo.png

Japan Nutrition Action ~ニッポンの栄養を、世界へ!~ #001

20230217_01.jpg
左から、畝山寿之氏〔味の素(株)〕、荻原葉子氏〔味の素(株)〕、Chanida Pachotikarn氏(タイ栄養士会会長)、Nattapol Tangsuphoom氏(Mahidol大学栄養研究所)、中村丁次会長、Chalat Santivarangkna氏(Mahidol大学栄養研究所所長)、古田千恵氏〔味の素(株)〕。

 2021年12月に開催された「東京栄養サミット2021」(Tokyo Nutrition for Growth Summit 2021)において、公益社団法人日本栄養士会はコミットメントを発表し、栄養不良の二重負荷に苦しむアジアの国々や地域における、実践栄養学の研究と管理栄養士・栄養士の教育・養成、さらに栄養士制度の創設と発展を支援することを宣言しました。
 これまで日本は、伝統的な食文化を継承しながら、明治以降に栄養学を導入し、戦前・戦後の低栄養の改善、そして行動経済成長以降の過栄養への対策を行い、栄養不良を解決してきました。日本栄養士会ではこの栄養改善の成果を「ジャパン・ニュートリション」と定義し、世界の栄養不良の撲滅のための取り組みを「ジャパン・ニュートリション・アクション」として、現在、活動を開始しています。今回は、その取り組みの一環として参加した、タイで開催された特別セミナーおよび国際保健会議の模様についてお伝えします。

「日本人の食事は環境負荷が少なく、プラネタリー・ヘルス・ダイエットに近い」

 2023年1月23日(月)、タイのMahidol大学栄養研究所が主催する特別セミナー「The 11th SSBN(Sensory Science for Better Nutrition) Special Seminar on Sensory Science for Nutrition」に日本栄養士会の中村丁次会長が参加し、大学および産業関係者を対象に講演を行いました。
 この特別セミナーは11回目を数え、これまでに、「Enhancing medical students' mental wellness」(医学生のメンタルヘルスの向上)や「Technology Enhanced Personalized Learning」(テクノロジーで強化された個別学習)等をテーマに開催され、今回は「Healthful diet for longevity: What, why and how」(長寿のための健康食 ~何を、なぜ、どのように~)をテーマとして開催され、同大学内に設けられた会場に約20人が集合し、さらに約60人がオンライン参加し、総勢80人以上が聴講しました。

20230217_02.jpg
会場の様子、Mahidol大学栄養研究所で開催された。

 特別セミナーの冒頭、Mahidol大学栄養研究所所長のChalat Santivarangkna氏より、日本の栄養政策100年への興味と期待が示され、それを受け中村会長は「Why does Japanese people keep the longevity ?」(なぜ、日本人は長寿なのか?)と題した講演を行いました。
 講演では、①Human Resource Development for Nutrition Improvement in Japan(栄養改善のための人材育成)、②Reorienting Nutritional Improvement(栄養改善の方向転換)、③Japan Nutrition contribute to sustainable and Healthy Diets(持続可能で健康的な食生活に貢献する「ジャパン・ニュートリション」)、④Contribution to Asia(アジアへの貢献)の4つを柱に、100年に渡る日本の栄養政策や、2021年の「東京栄養サミット」の様子および日本栄養士会のコミットメント、2022年に開催された「第8回アジア栄養士会議」の様子を紹介しました。

 この中でも特に③については、具体的に、日本人の食事に関連するカーボンフットプリントの内訳や、G20諸国の食事における1人当たりの温室効果ガス排出量および国ごとの食生活指針による1人当たりの温室効果ガス排出量等のデータをもとに、日本人の食事は環境負荷が少ないことを示しました。
 また、2019年にEAT-Lancet委員会によって発表された、地球上の栄養不良および環境問題を同時に解決するために推奨される食事基準「プラネタリー・ヘルス・ダイエット」1)と、日本人の食事内容との比較についても解説がなされました。プラネタリー・ヘルス・ダイエットでは、1人当たり2,500kcalが必要であると仮定して、健康と地球環境のために推奨される食品の摂取量が食品群ごとに示されていますが、それを日本人の食事内容と比較すると、多くの食品群では推奨値を満たしていることがわかっています。
 これらのことから、中村会長は「日本人の食事は環境負荷が少なく、プラネタリー・ヘルス・ダイエットに近い」と述べ、「ジャパン・ニュートリション」の有用性を示しました。
 また、「疾病・介護の予防・治療」と「環境負荷の軽減」とのバランスをとりながら、誰一人取り残さない持続可能な栄養・食事を創造してきた「ジャパン・ニュートリション」が、現在の世界において重要な課題であるSDGs(持続可能な開発目標)の達成やプラネタリーヘルスの推進に貢献できる可能性についても説明しました。
 講演後には、Chalat Santivarangkna氏と記念品を交換し、今後の交友を約束しました。

20230217_03.jpg
中村会長著書『Japan Nutrition』(Springer Nature)を贈呈。

 また、今回の特別セミナーでは味の素株式会社食品研究所の古田千恵氏も「Novel Nutrient profiling system to describe healthfulness of Japanese dish」(日本食の健康を表す新しい栄養プロファイリングシステム)と題した講演を行い、栄養プロファイリングシステムに対する味の素株式会社の活動について共有されました。

プラネタリーヘルスに貢献する「ジャパン・ニュートリション」

20230217_04.jpg
左から、齋藤孝之氏〔味の素(株)〕、清野富久江(厚生労働省健康局健康課栄養指導室室長)、石井克明〔アサヒグループ食品(株)〕、梨田和也氏(在タイ王国日本大使)、Nattasud Taephant氏(Chulalongkorn 大学心理学部学部長)、Chanida Pachotikarn氏(タイ栄養士会会長)、Saipin Chotivichien氏(タイ保健省栄養局長)、山本尚子氏(元 WHO 事務局長補)、平林国彦氏(日本アセアンセンター事務総長)、白須紀子氏(日本リザルツ理事長)、戸田隆夫氏(明治大学公共政策大学院特別招聘教授)

 タイでは、公衆衛生の向上に尽力したMahidol王子の生誕100周年にあたる1992年にPrince Mahidol Awardを創設して以降、国際保健に貢献した人物の顕彰を行っており、2007年からは同賞授賞式に合わせて、保健医療分野のリーダーと関係者との間で国際保健の重要な課題を議論するための国際保健会議PMAC(Prince Mahidol Award Conference)を開催しています。
 2023年のPMAC(PMAC2023)は3年ぶりに対面式で1月24~29日の期間に開催され、このなかで日本栄養士会は、特定非営利活動法人日本リザルツが主催するPMAC Special Talk Session「JAPAN NUTRITION for human and planetary health beyond climate change」に、タイ栄養士会、味の素株式会社とともに共催者として参加しました。
 このセッションは、アジアの伝統的な食を生かしながら、より健康的な食習慣を構築することが、持続可能性および栄養の両方の観点において、極めて有益であると考えられることを世界に発信することを目的としており、タイと日本を中心に政府関係者、研究者、企業等のさまざまな立場の人びとが参加しました。主催者である日本リザルツ理事長の白須紀子氏と、在タイ王国日本大使の梨田和也氏による開会の挨拶で開始されたのち、Special Remarksとして中村会長のビデオメッセージが投影されました。
 その中で中村会長は、個人の健康だけでなく、人と地球の健康を考える上で、地域の食文化・食習慣が担う役割の重要性について改めて考える必要があることを示しました。また、それを解決するための1つの方法として、「ジャパン・ニュートリション」の要素である、①管理栄養士・栄養士による食育活動を行ったこと、②伝統的な食文化をベースに欧米の食文化を取り入れ新たな食文化を形成したこと、が活用できるのではないかと提言しました。
 続いて、元WHO事務局長補の山本尚子氏が「Nutrition for Human and Planetary Health beyond Climate Change」(気候変動の先の、人と地球のための栄養)と題し、世界レベルで健康的な食生活を促進するための3つの視点を共有しました。さらに、Chulalongkorn大学心理学部学部長のNattasuda Taephant氏が「Thai Food Culture for Better Well-being」(ウェルビーイングのためのタイの食文化)と題して、「Cooking as therapy」(治療としての料理)、「Eating behaviours and well-being」(食生活と幸福)、「Mindful eating」(マインドフルな食事)の3つの視点から発表しました。
 最後には日本アセアンセンター事務総長の平林国彦氏をモデレーターとしてパネルディスカッションが行われ、政府関係者、研究者、企業の立場から7人のパネリストが登壇し、「未来の持続可能で幸福な社会とは何か? そこに『食』はどのような役割を果たせるのか?」を明らかにすることをゴールとして、持続可能性と栄養の観点から議論が行われました。

20230217_05.jpg
ディスカッションの様子。それぞれの立場から意見が発せられ、議論が活性化した。

 パネルディスカッションでは政府関係者として、タイからは保健省栄養局長のSaipin Chotivichien氏が、日本からは厚生労働省健康局健康課栄養指導室長の清野富久江氏が参加し、タイと日本それぞれで実施している栄養政策について共有しました。
 タイでは、国内の食品管理の観点から「食料安全保障」、「食の品質と食の安全」、「食育」、「食料管理」をテーマとした政策を「Policy - Strategic framework for food management in Thailand」として2012年に示したことと、それをもとに進められてきたタイの栄養政策の現状が報告されました。一方、日本からは、「誰一人取り残さない日本の栄養政策」について、産学官等連携による「健康的で持続可能な食環境戦略イニシアチブ」の取り組みが発表されました。
 この他、タイ栄養士会会長のChanida Pachotikarn氏がタイ栄養士会の取り組みについて発表しました。また、民間セクターからは、味の素株式会社の齋藤孝之氏、アサヒグループ食品株式会社の石井克明氏が発表し、それぞれの立場から食が持つ多様な価値を確認し、栄養課題、フードシステムの混乱、健康格差・栄養格差等の食を取り巻く課題を検証し、持続可能で健康的な食文化構築に向けて議論が行われました。
 最後に、元 WHO 事務局長補の山本氏がディスカッションのまとめとして、広い視点で健康的な食事について提言がなされたこと、また、文化・心理面についても取り上げられ有意義な議論ができたことを挙げ、今後も継続して話し合いをしていきたいと締めくくりました。
 また、ディスカッション終了後の質疑応答では、ケニアから参加した聴講者が自国の食生活状況について説明し、川で水を汲むこと、薪木を使うこと等、料理そのものへの困難があること訴えました。それに対してパネリストからは、文化の違い、環境の違いを踏まえた上で、どのように援助・協力できるか考える必要があることが示され、このセッションの主催者である日本リザルツ理事長の白須氏から、ケニアの現状に対してフォローアップを、と呼びかけられました。

20230217_06.jpg
ケニアから参加した聴講者。ケニアでは食生活の営みに困難があることを訴えた。

 このように、地球環境や食料システムの問題は、世界規模で議論がされています。日本栄養士会は「東京栄養サミット2021」に掲げたコミットメントを実行、推進していくなかで、各ステークホルダーと連携、これらの問題に対して実践的な取り組みや議論を進めていきます。

文献
1)Willett W,et al.: Food in the Anthropocene : the EAT-Lancet Commission on healthy diets from sustainable food systems, Lancet, 393, 447-492(2019)

賛助会員からのお知らせ