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栄養で世界と戦うということ、2020年に向けたスポーツ栄養の挑戦

トップランナーたちの仕事の中身#009

亀井明子さん(独立行政法人 日本スポーツ振興センター 国立スポーツ科学センター スポーツ科学部先任研究員、公認スポーツ栄養士)

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 リオデジャネイロオリンピック・パラリンピックの選手たちを、栄養管理の面から支えてきた亀井明子さん。勤務先の国立スポーツ科学センター(Japan Institute of Sprts Sciences:JISS)は日本のスポーツ医・科学研究の中枢機関で、最新施設や器具が揃い、各分野の研究者、専門家が連携して、日本の国際競技力の向上のための支援をしています。JISSでの亀井さんは研究員かつ管理栄養士・公認スポーツ栄養士として、アスリート個人に対して、また、競技団体、日本選手団といった規模別に、ほか11名の栄養スタッフとともに栄養サポート活動をしています。競技大会では、選手たちに同行しなくてもテレビの画面越しにその勇姿を見て、「○○選手は今、52kgのベスト体重で試合に臨めているな」、「△△選手は現地で食事がうまくとれなかったみたい」と、亀井さんは選手たちの体重や体調を判断できるといいます。
 それには、個々の選手やチームのサポートに栄養アセスメントを重視している背景があります。食事摂取調査、身体計測、身体活動量、生化学検査、臨床審査のほか、各選手の食事の知識や食行動を把握する栄養アセスメントを入念に行い、問題点を抽出、発見し、期間を定めて目標を明確に決め、最終的には各選手が自分で食事を調整できるようにサポートしていきます。
 「JISS内で栄養グループは、4年前からスポーツ"医学"研究部からスポーツ"科学"部に所属が変更したのですが、私たちも、スポーツを科学する立場の管理栄養士となり、意識が大きく変わりました。従来のスポーツ医学の範囲では、貧血症状を改善するなどマイナスのものを0にするような栄養サポートだったのですが、スポーツ科学となってからは、0のものをプラスにする、より強くするという"攻め"の栄養サポートの姿勢に変わってきました」

1つの疑問を追究し解明していく「科学の窓をあける」喜び

 オリンピックを始め国際競技大会で活躍しているトップアスリートを栄養サポートする管理栄養士は、スポーツ栄養士でも花形な存在。しかし、亀井さんは「将来は絶対にスポーツ選手の栄養管理がしたい!」と、この道を進んできたわけではありませんでした。女子栄養大学卒業後、大学院に進み、修士課程修了後はそのまま大学に残り、10年前まで教員の道を歩んでいたのです。

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国際試合で活躍する選手たちが利用するJISSが亀井さんの拠点

 「大学の卒業研究でスポーツ選手の栄養管理をテーマにしたことが今の仕事をしている原点ではありますが、それは、私自身が幼少期から剣道、柔道、陸上、新体操、卓球、テニスなどのスポーツに親しみ、スポーツを身近に感じていたという理由からスポーツをテーマに選んだだけでした」
 むしろ、この卒業研究の経験から、亀井さんは1つのテーマを追究していくことの面白さを学び、研究者を目指すことになります。
「あけんかな はるかなる 科学の窓を」
 これは、母校の校歌の一部。亀井さんはこの歌詞がとても気に入っているそうです。過去のさまざまな研究データを丁寧に見ていくことで、「こんなことが分かるんだ」、「でもなぜ、そうなるんだろう?」、「調べてみよう」と自分のテーマを絞り込み、疑問の答えを掘り下げて探していく。"科学の窓をあける"という校歌のフレーズが、疑問を研究テーマとして進めていき必ず解明していこうという、新鮮な気持ちにさせてくれるからです。
 大学では助手、専任講師として、自身の研究活動を進める一方で、大学生にライフステージ別の栄養管理や、スポーツ栄養管理の授業を担当してきました。当時の亀井さんの研究や担当する授業の中で、スポーツ栄養は一部でしかなかったのです。

最高の結果が求められる競技現場へ。リカバリーのための栄養研究を指揮

 亀井さんの転機は、大学で学生たちと接するなかで起こりました。
 「学生に管理栄養士の教育をしているなかで、ふと、私が学生に教えていることは、私自身が一人の管理栄養士として"現場"で実践できるのだろうか...と、疑問がわいたのです。この疑問から、私も管理栄養士としての力を"現場"で試してみたいという思いが強くなり、大学を出ることに決めました」
 その現場が、平成19(2007)年から勤務しているJISSで、亀井さんにとっては一人の管理栄養士としての実践の場であるとともに、研究員として研究活動を継続していく場でもあります。現在は、先任研究員として、スポーツ栄養学グループのリーダーとなり、自分が研究を突き進めるだけでなく、ほかの栄養スタッフの研究と支援内容をマネジメントする立場も務めています。

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アスリート向けレストランでトップアスリートの相談にのる亀井さん

 「私たちは国際競技力向上のための栄養を研究し、競技現場に還元していくことが仕事です。現在は、リカバリーに着目して、筋グリコーゲンの回復について研究を進めているところです」
 亀井さん率いるスポーツ栄養学グループの研究は、JISS内にあるアスリート向けレストランでの栄養管理、選手および競技団体への栄養相談・栄養教育、合宿や試合での栄養サポートに活かされていきます。個々の選手の栄養管理の詳細については、一部報告書などに掲載していますが、JISSのレストランで好評なレシピや適切なサプリメントの使い方についてはホームページを通じて発信し、トップアスリートに限らず、子どもたちからシニアのスポーツ愛好家までがスポーツをより楽しむための栄養情報を提供しています。

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JISSで開発した競技者支援のための栄養評価システム、通称mellon

 日本栄養士会と日本体育協会で共同認定している「公認スポーツ栄養士」資格の立ち上げ時から、スポーツ選手の栄養管理に強い管理栄養士・栄養士を育成してきた亀井さんは、東京オリンピック・パラリンピックを3年後に控え、公認スポーツ栄養士の輪を広げ、管理栄養士・栄養士の結束力を高めていきたいと考えています。
 「自分や身近な人から、世界の人々の健康とQOLの向上までをお手伝いできる管理栄養士・栄養士は、すばらしい資格であり、職業です。2020年の東京オリンピック・パラリンピックをきっかけとして、私たち管理栄養士・栄養士が活躍できる場が増えてくるはずです。日本の食事の魅力を国内外に伝え、オリンピックの後も地域の活性が持続するような働きかけをしていきたいですね」

プロフィール:
平成7(1995)年、女子栄養大学大学院栄養学研究科修了。同大学で助手を経て専任講師。平成15(2003)年、博士(栄養学)取得。平成19(2007)年より国立スポーツ科学センターに契約研究員として勤務。平成21(2009)年より研究員、平成25(2013)年より先任研究員。平成21(2009)年、公認スポーツ栄養士資格取得。

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