食物アレルギーがある子も、ない子も
「みんなで食べるとおいしい!」を実現させる
2017/12/27
トップランナーたちの仕事の中身♯020
伴亜紀さん(株式会社Graine代表、栄養士)
子どもを持つ方なら、好き嫌いや偏食、小食、食べるのが遅い、よく噛まない、食物アレルギーがある、便秘がち等、子どもの食事についての悩み事は大なり小なりあるものです。そんなとき、「こうしてみたら?こんな方法や、こんなやり方もあるで。どれならできそう?無理にしやんと、できるところからでええで」と言ってくれる専門家がいたら......。保護者はついホロリときてしまうでしょう。
栄養士の伴亜紀さんが、まさにその人。京都で"子どもの食事"について詳しい人と言えば、伴さんの名前が挙がってきます。現在、地域で活動するフリーランスの栄養士として、各地の保育所の給食アドバイザーや、保育士対象の食にかかわる研修講師、子育て支援、農産物を使った食品開発コンサルタント、自宅での料理教室の講師等をしています。
伴さんが活躍する京都に、アレルギーネットワーク京都「ぴいちゃんねっと」という食物アレルギーに対応した全国でも珍しい子育て支援センターがあります。食物アレルギーを抱える子どもとその親が、安全に、安心して過ごせる居場所になっています。伴さんはこの「ぴいちゃんねっと」で電子レンジやホットプレート等の身近な調理器具を使って調理実習を担当。「ぴいちゃんねっと」事務局長の小谷智恵さんは、伴さんに調理実習の講師を依頼している経緯をこう話します。
「過去に、シェフに特定原材料7品目(後述)を除去した調理実習をお願いしたことがあるのですが、ご自身の技術でおいしくするような調理方法で指導してくださり、一般の保護者たちには難しかったんです。そこで(公社)京都府栄養士会に出向き、岸部公子会長に相談させていただいたところ、子どもとその保護者向けなら伴さんが適任と紹介してくださいました。実際に伴さんにお会いしてお話を聞くと、身近な食材を使いながら7品目を除去した料理を次々と提案してくださり、私はすごい、すごい!と感激するばかりでした」
特定原材料7品目とは、特に食物アレルギーの発症数が多く重篤度が高いアレルギー物質=卵、乳、小麦、落花生、えび、そば、かにの7つの食材。食品表示法でこの7品目を含む加工食品は表示が義務づけられています(他にも表示は任意だが症例数が比較的少ない20品目が表示対象品目とされている)。
現在はフリーランスとして活動している伴さんだが、かつては京都府内の宇治田原町役場に勤務し、学校給食センターや保育所を担当してきたキャリアがあることから、子どもや子育ての支援が強みなのです。
関西はお好み焼きやベビーカステラ等の"粉もん"文化があり、特に小麦アレルギーを抱える子どもたちは日々、我慢を強いられています。伴さんは、小麦粉ではなく白玉粉と米粉、片栗粉を使い、揚げる「たこ焼き」レシピを考案し、給食でも人気メニューに。それを初めて食べた小麦アレルギーの子どもたちは「たこ焼きってこんな味なんや!」と驚きと喜びでいっぱいの笑顔になります。
「食物アレルギーを抱える子どもたちはいつも我慢をしていますし、その保護者たちは常に目の前の料理やお菓子にアレルギー物質が含まれていないかと緊張しています。こうした親子に数多くかかわり、私が持っている知識・技術の全てを出し切って食の楽しさを伝えていきたいと思ったのが私の活動の原点です」
「ぴいちゃんねっと」に限らず、子育て支援事業等で調理実習を依頼されるときには、参加者一人ひとりの事情が分からないことから、伴さんは食物アレルギーに配慮したメニューを用意しています。過去に、「うちの子は食物アレルギーがあるので後ろで見学するだけで結構です」と言う保護者がいたので、伴さんは食物アレルギーの内容を聞き、「今日のメニューなら一緒に食べていただけますよ」と提案。保護者と子で楽しそうに調理実習に参加し、試食をした後には、「ほかの方と一緒に食事をするなんて、わが家にはできないことと思っていました。子どもがこんなにおいしそうに食べている姿が見られて、私もうれしかったです」と保護者が涙を流したことも。緊張や不安を強いられている中で、「食べることは楽しいこと」と思い直してくれる、それが伴さんの仕事の醍醐味の1つなのです。
小麦・乳・卵を使わないXmasメニュー
"普通の中から工夫すること"、これが伴さんのポリシー。食物アレルギーを抱える親子にとって、小麦粉や乳製品、卵を多用する洋食メニューは"憧れ"でもあります。11月に京都府が亀岡市で開催した「子どもの食事全般と食物アレルギー」講演・調理実演では、伴さんは特定原材料を含む表示対象の27品目を使わずに作れるクリスマスにも使えるメニューを披露しました。
まずは「かぶのとろみスープ」。地元亀岡産の「かぶ」をもっと食してもらおうと、「洋風」にアレンジ。昆布だしに、この27品目不使用の洋風だしをプラスして鶏肉やにんじん、かぶを煮込み、仕上げにすりおろしたかぶを加えて白さととろみを出します。すりおろしたにんじんとツナ(水煮缶)を加えて炊き上げた洋風ピラフのような炊き込みご飯は、名付けて「夕焼けごはん」。蒸してマッシュしたさつまいもに片栗粉と植物油、そして甘納豆を加えて焼いた「さつまいももち」はスイートポテトのようにしっとりとした甘みで、気持ちも和らぎます。
この講演・調理実演を企画し、伴さんに講師を依頼した京都府農林水産部食の安心・安全推進課の一星暁美さんは「府内でも食物アレルギーにお悩みの方は増えている現状です。伴先生は一般のメニューから特定原材料を除去したり、別のメニューにしたりするのではなく、みんなとまったく同じものが食べられるように考えてくださるのが貴重ですね。観光地としても、食物アレルギーに配慮したメニューを広げていきたいです」と話します。
講演の翌日は、京都府北部にある舞鶴市のルンビニ保育園へ。伴さんは給食アドバイザーとしてかかわっています。給食の時間に子どもたちの食べる様子を見て、口の動き方から噛み方に偏りはないかどうか、舌がしっかりと動いているかどうか、スプーンやフォーク、お碗の持ち方がおかしくないかを確認していきます。癖がありそうな場合には、担任の保育士や管理栄養士・栄養士、調理担当者にも同席してもらい、日ごろどのように指導をしたらその子が食べ方を改善できるか、食べやすくするための食材の大きさや硬さ、切り方など変更するポイントをアドバイスしていきます。
また、伴さんは京都府内だけでなく全国の保育所から依頼を受けて、子どもの食事の指導や保育士等の職員向けの研修のために各地に向かいます。伴さんの指導を受けて、職員の採用を調理師から管理栄養士・栄養士に切り替えたり、管理栄養士・栄養士を増員したりする保育所も増えてきました。専門職への期待の現れと言えます。
「あったらいいな!」をカタチにするのも得意。アレルギーがある子もない子もみんなが楽しくおいしく味わえる献立本『ごちそうさま!またつくってね!から生まれたレシピ集~五感をはぐくむ魔法のレシピ~』(佐井かよ子さんと共著)を自費出版したり、赤ちゃん・幼児の食べやすさを追求したスプーン&フォークを有志たちと開発し、自ら販売したりしています。
伴さんのフィールドは主に生まれも育ちも働いてからもずっと京都ですが、数年前に家族とともに旦那さんの仕事で愛知県へと引っ越しました。活動拠点の京都へは、ひと月に何度か、日帰りや実家に宿泊しながら新幹線で京都と愛知県を行き来するという働き方をしています。
友達もいない愛知の自宅では「ひきこもりになりそう...」と思い、料理ブログを始めた伴さんですが、それを見た読者の一人が「同じ県内なので料理を教えてほしい」とメールをくれ、その方が仲間を呼んでさらに口コミが広がり、今では毎月7~8グループが教わりにくるほど人気の料理教室になりました。栄養士・伴さんの人気は愛知県でもじわじわと広がりつつあるようです。
「私の住む渥美半島は野菜の収穫量が多いのですが、料理教室では、野菜を使ったメニューを京都の学校や保育園で実践してきた工夫を生かして作っています。参加者のみなさんは、いろいろな方法を知ることができ、とても喜ばれます。京都を離れたことで京都の食文化の奥深さを再認識しましたし、愛知県の温暖な気候で育てられた野菜のおいしさにも出合うことができましたね。私は"栄養素の話をしない栄養士さん"と言われてしまうこともありますが(笑)、専門性を生かして子どもたちや大人の方たちの"おいしい!"、"食べるって楽しい!"を増やしながら、『栄養士さんがいてよかった!』と思われる専門職が増えるように活動を続けていきたいです」
プロフィール:
京都栄養士専門学校卒業後、病院勤務を経て平成3(1991)年から京都府宇治田原町役場に勤務。学校給食センター、保育所給食、食農団体担当として町全体の食にかかわる。平成22(2010)年、独立。地域活動の拠点としている京都に、家族と暮らす愛知県から通うスタイルで、保育所のアドバイザーや研修講師等を務め各地を飛び回っている。栄養士。