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メタボ健診後の特定保健指導を受けてもらうために 市民のリアルな声が、市役所栄養士の原動力

トップランナーたちの仕事の中身♯022

柳沢明美さん(群馬県安中市保健福祉部健康づくり課主査、管理栄養士)

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上毛三山の一つ妙義山をバックに

 「メタボ健診」の名で知られる特定健康診査。日本では糖尿病をはじめ虚血性心疾患、脳血管疾患などの生活習慣病が増えており、これらの生活習慣病が日本人の死亡原因の約6割を占めることから、病気のリスクを下げるために、メタボリックシンドロームに着目した健康診断が10年前の平成20(2008)年から行われています。40~74歳の人が対象で、身長、体重、血液検査などに加えて、お腹のまわりをメジャーで計測するのは多くの人がご存知でしょう。

 "メタボ"とは内臓脂肪が多い状態のこと。この内臓脂肪症候群は、生活習慣病を発症する前の段階で、早めに食事や運動、睡眠などの生活習慣を改善することで病気の予防や重症化、さらなる合併症を防ぐことができると考えられているためです。
 この特定健診で、メタボリックシンドロームの該当者もしくはその予備群と考えられる人たち(いわゆる、健診でひっかかった人たち)に対して、一人ひとりの結果から保健師や管理栄養士によって生活習慣の改善に向けたサポート「特定保健指導」が実施されています。群馬県安中市役所に勤務する管理栄養士の柳沢明美さんは、メタボ健診後の特定保健指導こそが、生活習慣病を予防できるカギととらえて、より多くの市民に特定保健指導を受けてもらおうと力を注いでいます。
 というのも、下のグラフのとおりメタボ健診はこの10年で受診する人が毎年着実に増えていて、日本全体では50%を超えました(平成27(2015)年度)。しかし、その健診後の特定保健指導の終了率は相対的に増加はしているものの、まだまだ低いのが現状です。つまり、メタボ健診は受けるけれど、"受けっぱなし"の人が多いのです。

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出典:厚生労働省 平成27年度 特定健康診査・特定保健指導の実施状況について【概要】

 「メタボ健診を受けても、なぜその後の特定保健指導を受けに来ないのか?」。柳沢さんは、受けに来ない市民たちをただ待っていることはしません。特定保健指導の対象となっている人に直接電話をかけて、指導を受けない理由を尋ねるのです。
 
「面倒くさい」、「交通手段がないから行くのが大変」と聞けば、自分たち管理栄養士や保健師で市民の方の自宅まで出向きます。自宅の訪問日を決めて、体重計とメジャーを持って行き、その方の家で体重や腹囲を測定。日ごろの食事内容や運動習慣について話を聞き、測定の数値や血液検査の数値を改善できそうな目標を一緒に立てて、少しでも生活習慣を変え病気のリスクが減らせるようにうながします。

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 「保健指導のかた苦しい感じがイヤ」と言う声を市民から聞けば、面接の前にウォーキングの講座やリンパマッサージのセラピーを組み合わせて、健康に関心をもってもらうための和やかな雰囲気づくりをしています。あるときには、市民の方の自宅を訪問する日まで決めて、訪問当日に「これからうかがいます」と電話をしようとしたら、「この番号は使えません」と不通になっていたことも......。それでも柳沢さんは自宅まで出向いたところ、数日前に電話が止められてしまっていたことが判明し、その方は柳沢さんのおかげで自宅で無事に保健指導を受けることができました。柳沢さんは「一度会ったら、ほとんどの人に覚えてもらえる」と言うほど、前向きで明るい性格。ハキハキとした話し方は「話がよくわかる」と年配の市民の皆さんからも好感をもたれています。
 「指導を受けない、あるいは受けたくないという理由は市民の皆さんそれぞれで違うと思うのです。その理由をきちんとお聞きして、市役所職員としてどれだけ応えることができるのかが自分の役割だと思います」

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 柳沢さんが安中市役所で所属するのは健康づくり課。その名のとおり、市民の方たちの健康増進のための事業を担当しています。柳沢さんの入職は松井田町でした。平成18(2006)年に松井田町と安中市が合併するのを機に、安中市役所の職員となりました。松井田町役場に在職していたときは、町の管理栄養士が柳沢さん一名だったこともあり、仕事の対象が妊婦・乳幼児から高齢者の健康づくりと多岐に及んでいました。合併したことで市の管理栄養士が柳沢さんと茂木俊江さんの二名となったこと、またその当時、ちょうどこのメタボ健診(特定健診・特定保健指導)の事業が始まる直前だったこともあり、安中市国民健康保険での特定健診・特定保健指導の仕事が柳沢さんのメイン業務となりました。市民の方たちの生活習慣病を予防すること、それにより年々上がり続ける医療費を抑制することを目標に、この10年間さまざまなアイデアを考え、費用対効果を検証しながら、特定健診・特定保健指導の実施率が上がるように尽くしてきました。

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 「特定健診・特定保健指導そのものが、管理栄養士としての私を育ててくれた」と柳沢さんは語ります。柳沢さんが中心となって安中市で実施してきたこれまでの取り組みについては、毎年「安中市国民健康保険における特定保健指導の現状と評価」等としてまとめ、日本公衆衛生学会や群馬栄養改善学会などで発表をしてきました。

【学会報告等】
70回 日本公衆衛生学会「安中市国保における特定保健指導未受診者対策の効果について」平成23(2011)年10月。
73回 日本公衆衛生学会「安中市国民健康保険における特定保健指導の第1期評価と医療費の効果について」平成26(2014)年11月。
24回 日本健康教育学会学術大会「安中市国民健康保険における特定保健指導の現状と評価について」平成27(2015)年7月。
28回 群馬栄養改善学会「安中市における特定保健指導の取り組み」平成23(2011)年2月。
29回 群馬栄養改善学会「国民健康保険レセプトに見る安中市の健康課題」平成24(2012)年2月。
30回 群馬栄養改善学会「安中市における特定保健指導の現状と評価」平成25(2013)年2月。 
31回 群馬栄養改善学会「安中市国民健康保険における特定健診・特定保健指導(第1期)の評価」平成26(2014)年2月。
32回 群馬栄養改善学会「安中市国保特定保健指導者研修会についての報告~従事者研修終了後のアンケートをもとに~」平成27(2015)年2月。
33回 群馬栄養改善学会「データヘルス計画の策定を見据えた、重症化予防介入事業の取り組み~特定健診結果から医療機関につなぐ受診勧奨~」平成28(2018)年2月。
34回 群馬栄養改善学会「慢性腎臓病予防に向けた安中市の取り組み」平成29(2017)年2月。
35回 群馬栄養改善学会「インセンティブを取り入れた保健事業~特定健診結果説明会を実施して~」平成30(2018)年2月。

 これまでの実績から、日本栄養士会の特定保健指導担当管理栄養士運営委員会委員でもある柳沢さん。行政の管理栄養士として、また委員として「市民の皆さんのために、どう動くか。」を日々考えながら行動しています。

行政栄養士の強力なヨコのつながり

 市民の方たちの健康へのモチベーションをアップさせるのと同じように、栄養士仲間をいつの間にか引っ張り、盛り上げることができるのも、柳沢さんの特長です。群馬県の取り組みとして保健所が事業を展開している「もっと野菜を350(さんごーまる)プロジェクト」。
 このプロジェクトに県内近隣の市町村の行政栄養士仲間と、5年ほど前から積極的に携わっています。

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栄養・食生活改善業務推進会議

 この取り組みは、群馬県民健康・栄養調査の結果から成人の野菜の摂取量が1日280g程度と少なかったことから、厚生労働省が推進する「健康日本21」で目標にしている350g以上の野菜摂取を各市町村の住民に知ってもらい、日々の食生活で実践してもらうために活動を始めました。

 それぞれの市町村で開催される健康まつりなどのイベントにプロジェクトのメンバーで応援に駆けつけて、野菜350gがどのくらいの量かを多くの人に体験してもらうブースを設けたり、20種類近くの野菜を印刷した「70gの野菜たち。」というクリアファイルを配ったりして、野菜摂取量の向上を勧めます。最近では、近隣の高校にも出向いて、野菜をはじめしっかり食べることの大切さを特別授業として教えることも。

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 「管理栄養士・栄養士は、食べることの大切さと楽しさを教えてくれる人と、住民の皆さんに知ってもらうことも仕事の一つです」
 数年前に管理栄養士が採用された神流町、上野村でのイベントにもプロジェクトとして支援しています。
 市の、地域の管理栄養士として、住民たちの見えるところに自ら積極的に足を運んで、明るく澄んだ声をかけ、より健康へと導いていく柳沢さん。柳沢さんのまわりはどこも自然と活気が満ちあふれます。

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プロフィール:
群馬女子短期大学卒業後、調理師学校の講師などを経て平成9(1997)年に松井田町役場に入職。平成18(2006)年、市町村合併により安中市職員に。
平成19(2007)年に国保年金課へ異動となり、特定健診・特定保健指導の立ち上げに携わる。平成20(2008)年に健康づくり課に異動し、特定保健指導の担当として現在に至る。平成23(2011)年(公社)日本栄養士会特定保健指導担当管理栄養士認定。管理栄養士。

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