入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 食品ロスの解決を!人々の思いと栄養を届けるフードバンク活動

食品ロスの解決を!人々の思いと栄養を届けるフードバンク活動

トップランナーたちの仕事の中身♯031

武田幸佳さん(セカンドハーベスト・ジャパン 管理栄養士)

20190106_01.jpg

 「まだ食べられるのに」捨ててしまう食料品。「少し前に気がつけば、賞味期限前だったのに...」というもどかしさ。どの家庭でも、多かれ少なかれあることでしょう。管理栄養士・栄養士の仕事場であるフードサービスや、食品メーカー、食料品の小売業者であれば、"廃棄"されることになる食料品は、企業努力があっても多々存在してしまうものです。

 管理栄養士の武田幸佳さんが働くセカンドハーベスト・ジャパンは、食品メーカーや大手スーパー、外食業者、食材宅配サービス業者、農家等で、消費期限・賞味期限より前でまだ十分に食べられるにもかかわらず処分されることになった食料品や、家庭で余った歳暮や中元の残り、行政や企業などが災害備蓄用に保管していた食料品等を全国から引き取り、その食料品を仕分けして、児童養護施設やひとり親で生活に困っている家庭、路上生活を強いられている人たち等のもとに届ける活動をしています。

20190106_02.jpg

 こうした活動は、「フードバンク」と呼ばれ、アメリカ合衆国が発祥です。食料品の品質には問題がないにもかかわらず、包装容器の損傷(例えば、缶が凹んでいたり)やパッケージの印刷ミス、大手スーパーなどで取り組まれている3分の1ルール(製造日から賞味期限までの合計日数の残り3分の1までを販売可能期限とする商業的な慣習)、想定以上の収穫で、処分されることになった食料品や野菜を引き取り、まだ食べられる食料品の廃棄、すなわち"食品ロス"を未然に防いでいます。

 セカンドハーベスト・ジャパンは日本初のフードバンクで、その名称は「すでに収穫された畑から二度目の収穫をする」という考え方。武田さんはセカンドハーベスト・ジャパンに届けられ、倉庫に高く積まれた食料品の段ボールやカゴに入れられた大量の野菜の中から、メニューを考えて、お弁当作りと炊き出しをする調理場「セントラルハーベストキッチン」の責任者です。

20190106_03.jpg

 毎週水・木曜日には、ひとり親家庭の子どもたち、子どもの居場所を兼ねた学習支援センター、セカンドハーベスト・ジャパンの事務所に併設しているキッズカフェなど、子どもたち用に合計約300食以上(週によって数が異なる)のお弁当(夕飯)を作っています。土曜日は、東京都台東区の上野公園で路上生活者などを対象に炊き出しを行っており、平均300食の丼(おかずを5~6種類くらいのせたご飯)と汁物を作ります。

 毎回、さっき届けられたばかりの食料品の山の中から献立を考え、衛生面での安全性を確保して調理するのが、武田さんの役目。瞬発力と集中力、そして仕分けや調理を手伝うボランティアとの協調性が武田さんの強みです。 取材に訪れたこの日は、子どもたち用の夕飯となるお弁当を作っていました。国内では子どもの7人に1人が貧困状態(ひとり親家庭では2人に1人が貧困状態) で先進国でも最悪な水準 となっており、家庭では十分な食事がなかなか用意されない状況にある子どもたちは東京都内にも数多く存在します。この日のお弁当も230人の子どもたちに届けられました。

20190106_07.jpg

 実際の調理は、ボランティアがメイン。いつも決まったメンバーではなく、その日に集まってくれた人たちとともに、武田さんが中心となって、必要な量を仕上げています。この日は、サンマの味噌煮の缶詰が大量に届き、食材宅配サービス業者 からは大根が寄付されたので、主菜を「サンマと大根の煮物」に決定しました。他のおかずには、すでに加工調理された厚焼き卵と、冷凍食品の明太マヨポテトフライをキッチンで揚げて、添えることに。家庭だけでは十分な食事がとれない子どもたちが食べるお弁当だからこそ、武田さんは成長に欠かせないたんぱく質の食材を必ず入れることや、より栄養価が高い献立になるようにしています。今日初めて出会うボランティアの人たちとも、武田さんの笑顔と的確な指示であっという間にチームワークができあがり、目標としていた16時前にすべてのお弁当が完成しました。

 時には、日本に旅行中の外国人でまったく日本語が通じない人がいたり、包丁を使ったことがなかったりする人も、ボランティアをしたいと集まってきます。まずは手洗い等の衛生面での重要な事項を伝えます。そして武田さんが切り方の見本を見せるときには、"必ず少し小さめに切って"いるそうです。「ボランティアさんは、ついどんどん大きく切ってしまうので(笑)」。ボランティアで集まってくれた人たちには、フードバンクの活動の楽しさを一番に伝えたいと、武田さんは考えています。 できあがったお弁当を、ひとり親家庭や学習支援センターに届けるのもボランティアが中心。武田さんも、約束をしていた秋葉原駅まで急いで届けに行きました。

管理栄養士・栄養士にも知ってほしい

20190106_05.jpg

 「セカンドハーベスト・ジャパンが橋渡しする食料品には、栄養素だけではない、たくさんの方の思いや願い、そういったエネルギーがたくさん入っている」と武田さんは言います。一方で、「こうしたフードバンクが必要のない社会にしたいです。食品ロスもなく、食事や生活に困っている人もいないような社会に」と願っています。

 武田さんは給食受託会社に勤めていたときに、食糧廃棄を題材にした アメリカのドキュメンタリー映画「もったいない!」を見て、世界的な食料廃棄、食品ロスの実態に衝撃を受けました。その後、セカンドハーベスト・ジャパンの活動に興味をもち、ボランティアとして炊き出しに参加したことが、今の仕事につながるきっかけでした。
 「フードバンクでの私の仕事は、多くの管理栄養士・栄養士が養成校で学び、現場で実践している献立作成→食材発注→納品→食事提供という流れではありませんが、管理栄養士・栄養士の知識・技術が生かされる場です。このようなNPO等で仕事をしている管理栄養士・栄養士はまだ少ないと思いますが、多方面の栄養士が協力すれば、相乗効果でよりよい社会につながっていくのではないでしょうか。これから、どのような仕事をしても、私はいろいろな人とつながって、問題解決をしていける管理栄養士でありたいと思っています」

 ボランティアの中には、たまに管理栄養士が参加してくれることもあり、衛生面の大切さを他のボランティアに説明してくれたり、献立のアイデアをシェアしてくれたりして、武田さんはとても心強いと言います。また、管理栄養士・栄養士を目指す学生たちがボランティアだけでなくインターンシップとして継続的に活動に参加することもあり、日本国内でも食事に困っている人たち・子どもたちが多くいることや食品ロスの現状を彼らに理解してもらうことができ、学生たちの将来の働き方に期待しているそうです。
 武田さんが平成28(2016)年10月に立ち上げた「セントラルハーベストキッチン」は、衛生管理が徹底され、千代田区保健所から飲食店の営業許可を取得しています。このキッチンには毎回、さまざまなボランティアが集い、料理を作り、家庭での食事に困っている子どもたち、路上生活の人たちに料理を届けていきます。お弁当の中身が、「今日は何だろう?」というワクワク感のように、「今日はどんなボランティアさんたちと出会えるのだろう?」という新鮮な気持ちで、武田さんは毎日の仕事にあたっています。

プロフィール:
平成20(2008)年、相模女子大学学芸学部食物学科管理栄養士専攻卒業(現・栄養科学部管理栄養学科)。同年、管理栄養士資格取得。給食会社で2つの現場を経験。給食会社勤務中の平成26(2014)年3月からセカンドハーベスト・ジャパンにボランティアとして関わる。半年後にインターンとなり、平成27(2015)年5月に有給のスタッフとして入職。翌2016年10月に「セントラルハーベストキッチン」を立ち上げる。

賛助会員からのお知らせ