社食の利用で「肥満→普通体重」の人も 働く人の健康を支える健康経営(R)の仕組みづくり
2019/02/04
トップランナーたちの仕事の中身♯032
原 直子さん(株式会社グリーンハウス営業推進本部栄養健康事業部マネージャー、管理栄養士)
15年ほど前のこと。東京都内にある商社の社員食堂の厨房で、小鉢に盛り付けをしながら、管理栄養士の原直子さんはこう思ったそうです。「こんな仕事だけのために、管理栄養士になったわけじゃない...」。しかし、今の原さんは、「この野菜が豊富な"健康小鉢"の盛り付け方や、献立サンプルのトレーの並べ方、カウンターの置き場所を工夫することで、働く人たちの健康への意識を変えたり、健康を支えたりする可能性がある」ということを痛感しています。そのような工夫により、健康小鉢の提供数が11.5%も増えた現場があるからです。
社員食堂で、働く人たちが野菜を多く使った小鉢を何気なく手に取り、トレーにのせる。それが習慣になる。その結果、野菜の摂取量が増え、普段の食事内容にも変化が現れ、健康の維持に貢献できる――。こんな仕組みづくりに挑戦し続けているのが、企業や病院から食堂運営を受託するコントラクトフードサービス大手、株式会社グリーンハウスで働く原さんです。
「健康経営(R)」という言葉が、最近よく使われるようになってきました。会社が従業員の健康に配慮することによって、会社の業績が伸び、経営面にも大きな効果が期待できるとして、会社が戦略的、計画的に従業員の健康管理に関わることを、健康経営(R)といいます。
会社が従業員の朝食を提供して午前中の仕事への活力を高めたり、健康診断を受診しない従業員にはペナルティーを与えたり、歩数計を配布して日常的な活動量を増加させたりする等、健康経営(R)のさまざまな事例がテレビニュース等で報道されています。
原さんの勤務するグリーンハウスグループでは、通称"メタボ健診"の特定健診・特定保健指導の制度がスタートする以前から、「食と健康情報の提案型企業をめざす」というスローガンを掲げ、社員食堂を受託運営している企業へ、給食の提供だけでなく、健康に関するさまざまな企画や事業を提案し、提供して、早くから各社の健康経営(R)に貢献してきました。原さんは現在、社員食堂の現場では働いておらず、各社員食堂で運用するための企画を手掛ける営業推進本部の栄養健康事業部に所属し、働く人たちに健康を啓発するための企業向けの商品の開発に10年ほど関わってきました。
「食事や健康に関する情報は次々にアップデートされるので、時代の流れについていくために必死です。そして、それらの情報の中から各企業様のカラーに合わせた商品として形にするまでのスピード感も求められます」と原さんは話し、管理栄養士であり、かつ、ビジネスパーソンとしての自覚を持ち、日々の業務にあたっています。
ビジネスパーソンモードのときには愛用のメガネをかけるという原さん。親しみやすい人柄に、キリッとした印象が加わります。クライアントとなる企業向けのプレゼンテーションや社内研修の講師役では、メガネをかけると自然と気合いが入るそうです。
社員食堂の現場で貢献できる企画づくり
「スマメシ(R)」、「あすけん(R)」、「あなたの健康サポートし隊」と名付けられた、社員食堂で進める生活習慣予防・重症化予防のための同社独自のプログラム。原さんたちの部署で開発した商品の1つです。
「スマメシ(R)」はスマートになるための食事の提供、「あすけん(R)」は食事アドバイスサービスで、食べた食事を入力すると管理栄養士が対面で指導をしてくれているような食生活改善アドバイス(20万パターン以上)がインターネットを通じて受けられるというサービス。
「あなたの健康サポートし隊」は同社の事業所給食部門に在籍している約500人の管理栄養士・栄養士のことで、給食運営を受託している各企業で「食と健康のコンシェルジュ」として食事相談に応じたり健康イベントを企画・実施したりして活動しています。この「食事提供×ICT×管理栄養士・栄養士の人材」の3つを複合的に生かすことで、各企業の従業員の健康づくりにより貢献しようというものです。
この一連の新企画の中で、原さんは「スマメシ(R)」開発のリーダーとして従事しました。「お・い・し・い」をコンセプトにした1食500kcal台、塩分3.0g前後、野菜は1日の目標摂取量の3分の2で、生姜焼きや麻婆豆腐などの「お」なじみのメニュー、「一」汁三菜、「し」っかり食べても低カロリー、「い」つものランチメニューを「スマメシ(R)」に替えるだけで摂取エネルギーを平均300kcal減らすことができるというメニューを45セット開発しました。
さらに原さんは、「あなたの健康サポートし隊」として活躍できるように、社内の管理栄養士・栄養士の育成も担当しています。社内研修の講師を務め、社内研修テキスト『セミナー講師を頼まれたら読んでほしい グリーンハウスブランド講師になれる本』の編集・執筆もし、それぞれの社員食堂の現場に従事する管理栄養士・栄養士が働く人たちへのセミナー講師や栄養相談役として1人立ちできるように、体制を整えているのです。
原さんが開発した「スマメシ(R)」と「あなたの健康サポートし隊」を導入したある保険会社では、肥満度を表すBMIが25以上(=肥満体型)だった男性24人・女性4人が5週間「スマメシ(R)」を食べて管理栄養士の「あなたの健康サポートし隊」から日々のアドバイスを受けたりセミナーを受講したりして、平均で2.0㎏の減量を達成しました。さらにその4カ月後には、そのうちの3人がBMI25未満の標準体重になりました。他の建設会社でも、任意でこのプログラムに参加した男性14人・女性6人が5週間で平均して1.5㎏減量しました。
参加した30代の男性社員からは「栄養士さんのおかげで、本当に楽しくて充実した「スマメシ(R)」月間を過ごせました。健康的に無理なく、やせることができて、自分でもびっくりです」、40代女性社員からは「毎日のお声がけとプチ情報や質問にも回答いただいて大変だったと思いますが、おかげさまで三日坊主ならぬ一日坊主の私が1カ月も続けることができました」という感想が寄せられています。
このように、社員食堂のメニューをより健康的にするだけでなく、管理栄養士・栄養士の日々のサポートがあることで、働く人自身が食生活の見直しに自主的になり、生活習慣を改善させて、生活習慣病予防、メタボ予防につながることを、原さんは目の当たりにしてきました。
原さん自身も、管理栄養士養成校を卒業したあとに、商社と新聞社の2ヶ所で社員食堂の仕事を経験しています。新聞社では、選挙報道で従業員が多忙になると、急遽、夜食としておにぎりを3,000個も用意したことがありました。
「社員食堂は、私たち管理栄養士・栄養士が健康づくりのできる環境を整えることで、従業員の皆さんがイキイキと働き、定年退職後も元気で過ごせる可能性があります。社員食堂の現場で働く管理栄養士・栄養士は、働く世代の健康を支えて、かつ、各企業の利益にも貢献できる専門職として認められるように、今後もその環境づくりをしていきたいです」
働く人の毎日に、管理栄養士・栄養士が身近にいること。それぞれの企業で進めていく健康経営の方法は違っても、適切な食事×専門家のサポートの組み合わせは健康経営(R)にとって力強いものと言えるでしょう。
プロフィール:
平成14(2002)年、大妻女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業。管理栄養士資格取得。同年、(株)グリーンハウス入社。商社、新聞社の社員食堂常駐の管理栄養士として、給食管理・栄養管理に従事。平成17(2005)~平成20(2008)年、東京都内の私立大学体育寮食堂責任者。平成20(2008)年~、栄養健康事業部に所属し、特定保健指導の事業化、新規事業開発を担う。