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"へこたれない"管理栄養士を育成したい!自ら大学院生として研究にも勤しむ大学講師

トップランナーたちの仕事の中身♯043

細田明美さん(東京医療保健大学医療保健学部医療栄養学科 講師、管理栄養士)

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 取材で訪れた東京医療保健大学世田谷キャンパス。閑静な住宅街に学生の明るい声が響き、朗らかな雰囲気が漂ってきます。 この大学で管理栄養士を目指す学生たちの指導にあたっているのが、医療保健学部医療栄養学科で講師を務める細田明美さんです。

 細田さんが受け持つ講義は献立作成の基礎や臨床栄養学などの座学と実習を計11コマ。全学年の学生と接しているため、学生からのメールでの質問や相談だけでも膨大な量になります。講義に関連するものだけでなく、臨地実習に対する不安や進路相談のほか、果てはアルバイトや身の回りの悩み事と、学生からの相談事は想像以上に幅広いようです。その全てに受け答えする細田さんは、まるで"1,000本ノック"に応じるようにも見えます。
 「そんなことも!?という内容の相談も正直ありますね。でも、相談する学生は至って真面目。こちらも真剣に応えなければ、学生が誤った選択をしてしまう可能性もあります。ですので、手が抜けません」と笑って話す細田さんに、大学講師として全力で学生に向き合っていると感じさせられます。

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研究から一転、大学講師としての新しい道

 大学受験の際、高校の担任から勧められた美作女子大学に入学した細田さん。卒業研究では環境化学をテーマに取り組み、管理栄養士の資格と家庭科の教員免許を取得します。 研究の面白さに目覚めた細田さんは、就職せずに進学の道を選びます。大学院では分子栄養学の研究を行い、そこで栄養学のすばらしさと面白さに気づきます。
 「研究のイロハから時間のやりくりの仕方、人生における大事なことなど、研究を通して多くのことを教えていただきました。良い先生、そして良い仲間に恵まれたと思います」と話す細田さん、こういった経験から指導者という存在の重要性に気づいたと言います。「私も誰かの役に立ちたい。できれば今まで培ってきた知識や経験を生かし、人の役にたつ仕事がしたい」、そう思うようになったと振り返ります。

 そんな細田さんに転機が訪れたのは、結婚を機に東京での生活をスタートしたとき。東京医療保健大学に助手としての採用が決まり、大学教員として一歩を踏み出しました。入職当初、研究助手としての活躍を思い描いていた細田さんですが、実際の業務は多岐にわたり、不慣れなことへの対応と研究に注力できないことで悩むこともあったそうです。 しかし、一生懸命に学ぶ多くの学生と時間を過ごすうちに、自身が培ってきた知識や経験、そして研究のノウハウなど、学生のためにしっかりと伝えていきたいと思うようになったと言います。自分を慕ってくれた学生には、ちゃんとした指導をしたい、私が受けたようなサポートを教え子にも受けてほしい、そう強く思うようになりました。

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 取材でお邪魔した臨床栄養学の実習では、病気の進行具合や患者の食事の嗜好に合わせた治療食の献立作成と、それを実際に調理する課題が設けられていました。担当学生が冒頭で調理の説明やポイント、病気の説明をプレゼンし、細田さんが必要に応じて補足説明をします。学生は一言一句漏らさないといった真剣な顔で聴講しています。実際に調理を開始すると、細田さんは時折、グループの進行状況を確認しながら、カットされた野菜の大きさや軟らかさ、味付けなどをチェックしていきます。最後に細田さんが料理の出来栄えを確認し、調理工程で苦戦したところや失敗した点などを自発的に発言させます。
 「こちらが指摘するのは簡単ですが、大事なのは失敗したことを学生が気づけたかではないでしょうか。講義は失敗が許される場所です。私の講義中で失敗したことは必ず次に生かす、そうしてもらえるような指導を意識しています。」

"食べる口"作りをサポートしたい!

 大学講師の道を忙しく歩んでいる細田さんですが、研究者としての一面も健在しています。現在、東京医科歯科大学大学院に籍を置き、研究者として「食習慣と口腔機能との関連性」について取り組んでいます。そして、管理栄養士と歯科衛生士がともに口腔領域について学ぶ「歯科と栄養 二足のワラジーの会」(以下、ワラジーの会)の運営委員・副代表としても活動しています。
 ワラジーの会は、2010年、歯科医院勤務の管理栄養士を中心に活動が開始されました。現在は口腔機能に関心のある大学教員や福祉施設や行政の管理栄養士等も加わって、虫歯、歯周病、口腔機能などを学び、自分たちの仕事の質を上げるための活動を行っています。細田さんが興味を持ったのは、口腔の持つ摂食嚥下機能です。特に高齢者にとっては、咀嚼や嚥下の機能が衰えると食べることが疲労や苦痛につながり、十分な栄養が摂りづらくなります。「食べる口づくり」を栄養士としてどうサポートするか。近年では「栄養と歯科」の連携が注目されています。
 二児の母でもある細田さん、「子どもに離乳食をつくり、食べさせる中で、離乳食には『食べる機能』を獲得する役割もあることにあらためて気づきました。そして、年をとるにつれて食べる機能は衰えてきます。それを補うために、硬さや大きさ、形状などを調整した食事(嚥下調整食)があります。食べる機能の獲得と低下...まったく反対のことと思えますが、赤ちゃんもお年寄りも、『安全においしく食べる能力が低い』という点では共通しています。離乳食と嚥下調整食の内容がリンクしていることを広く知ってもらうことによって、それぞれのフィールドで応用できることも増えていくのではないでしょうか」と語ります。

 細田さんは大学講師そして研究者として調査・研究したものを積み重ね、歯科と栄養の関係の大切さを、ワラジーの会などを通して発信することも、自身の役割だと感じているそうです。「学外の活動により、大学というフィールドでは体験できない患者との関わりや食事提供の難しさ、間違った食事提供による誤嚥や窒息の怖さなどを学ばせてもらっています」と細田さんは言います。

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 学生には、"へこたれないで"と心の中でよく語りかけている、と話す細田さん。
 へこたれない...この言葉は、細田さん自身にも当てはまるようです。研究者としての道と、指導者としての道、それぞれに苦労があり、へこたれなかったからこそ今がある、と細田さんは力強く語ります。「管理栄養士という仕事はラクではありません。だからこそ、私はどんな時でも苦しんでいる人に寄り添える、"へこたれない"タフな管理栄養士を育てていきたいと思います」

プロフィール:
美作女子大学(現 美作大学)家政学部食物学科卒業後、大阪市立大学大学院生活科学研究科に進学。修士課程終了後、愛媛女子短期大学(現 環太平洋大学短期大学)で専任講師を務め、大阪市立大学大学院の博士課程に戻り、単位取得満期退学。結婚を機に東京へ移り、東京医療保健大学の講師を務めながら、東京医科歯科大学大学院に社会人大学院生として在籍し研究に勤しんでいる。2児の母としての経験を生かし、食育にも奮闘中。

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