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世界の子どもたちを笑顔にしたい 大きな目標を胸に奮闘する栄養アドバイザー

トップランナーたちの仕事の中身♯045

大野尚子さん((特非)TABLE FOR TWO International 栄養アドバイザー)

 第3回「ジャパンSDGsアワード」において『SDGs 副本部長(外務大臣)賞』を受賞した「おにぎりアクション」をはじめ、開発途上国の飢餓と先進国の肥満や生活習慣病の改善に取り組む特定非営利活動法人のTABLE FOR TWO International(以下、TFT)。この団体で約10年間、栄養アドバイザーを勤める管理栄養士が大野尚子さんです。

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 TFT は、"先進国の私たちと開発途上国の子どもたちが時間と空間を越え食事を分かち合う"というコンセプトを掲げ、社会貢献運動を行っている団体です。TFT の特徴は、自身がヘルシーメニューを食べることで、1 食につき20 円の寄付金が開発途上国の子どもの給食提供につながるという、寄付付きメニュー導入の仕組み「TABLE FOR TWOプログラム」確立している点です。単なる食支援として寄付を募るのではなく、寄付する人の健康と、国境を越えた先にいる子どもの幸せ、その両方を支えているのです。
 また、過去には同プログラムを発展させ、コンビニエンスストアでお弁当やサンドイッチ、おにぎり等寄付付きの商品を販売する企画も実施しています。この企画の根幹となる商品のイメージやアイデア出しを担当したのが大野さん。メニューの考案や、パッケージデザインの提案等、随所で大野さんが意見とアイデアを出しています。そのかいあって、商品の売り上げも右肩上がりで、一部は定番メニュー化したそうです。
 「寄付付き商品の企画は、対象商品を購入してもらうことで、代金の3%がTFT を通じてアフリカの子どもの給食として寄付される仕組みになっていました。消費者に飽きられないよう、1 週間ごとにメニューを入れ替えるよう提案しました。この企画だけで計31 商品を開発しましたね」と大野さんは振り返ります。

 TFT 代表の安東迪子さんは、消費者ニーズに応えつつ売上に貢献できるよう、実現可能なメニューを多数提案する大野さんの姿勢を見て「組織を支える、頼もしいスタッフになる」と直感したと話してくれました。「栄養指導ができる、献立が作れる、食育の講演ができる、そういった能力のある管理栄養士はたくさんいます。大野さんはそれらを全て1 人でこなし、さらに企業への企画提案や売価設定、商品デザインの提案やチラシ作成等、管理栄養士の枠を超えた働きをしてくれます」と、大野さんの魅力ついて安東さんが教えてくれました。

多くの経験を活かし、TFTで本領発揮

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 大野さんは管理栄養士の資格を取得後、食品会社に勤務し、商品開発を担当しました。結婚を機にフリーランスの管理栄養士として独立。その後は(国研)国立健康・栄養研究所の国民健康・栄養調査プロジェクトに参加したり、幼稚園教諭・保育園教諭養成の専門学校で非常勤講師を務めたり、企業で特定保健指導をしたりと、さまざまなことに挑戦し、管理栄養士としての経験を積みました。

 そんな大野さんの経験がいかされた事例に、企業の社員食堂で栄養相談を行うサービスの立ち上げがあります。これは寄付付きメニュー導入の仕組み「TABLE FOR TWOプログラム」の見直しを検討していた時です。プログラムの品質向上と導入企業の満足度向上につながるアイデアはないかと、安東さんが大野さんに相談したところ、大野さんはすぐに「じゃあ、私が導入企業に行き、そこで栄養相談します。栄養相談の中で寄付付きメニューのPRができますし、健康への意識向上を促進できると思います」と提案。この企画はすぐに採択され、大野さんが率先して導入企業に向かいました。

 企業の食堂内に栄養相談ブースを作り、希望者に食事や運動のヒアリングを行い、生活習慣に合わせた食事をアドバイスしました。大野さんの人柄もあり、話を聞いてほしいとブースを訪れる人が日に日に増えました。栄養相談実施後のアンケートでは、「大野さんと話すのが楽しかった。また相談したい」「食事で健康になれることを知る、いい機会になった」と、高評価なコメントが多く、安東さんは企業満足度につながったと実感しています。

国内の子どもの貧困支援へー新たな取り組み

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 大野さんは2019年から発展途上国の子どもだけでなく、日本国内の子どもの貧困を支援するため、TFTで新たな企画をスタートしました。その発端となったのが、2017 年に厚生労働省が発表した「平成28 年国民生活基礎調査結果の概要」です。この発表内容から、国内で貧困状態にある子どもは13.9%となっており、7 人に1 人が貧困層にあることがわかりました。そして、生活困窮世帯の子どもは肥満者割合が高いことや、野菜や果物の摂取頻度が低く、インスタント食品の摂取率が高いなど、偏食や欠食、孤食等、食に関する課題が多いことも報告されています。一方で、「栄養学的、経済的に望ましい食事(食生活)を営むことは、健康の保持増進と自立的な生活につながる」 ※1と、貧困と食事(自炊)の関係性が密接であることも示されています。"自炊"が日本の子どもの貧困問題を解消する糸口になるのではないかと考えた大野さんが企画したのが、子どもたちが"自炊する力" を身に付けることに重点を置いた「自炊マイスター講座」です。

 2019年夏、(特非)キッズドア※2協力のもと、学習塾に参加する高校生24 名を対象に「自炊マイスター講座」を実施。大野さんを講師として、食品の買い出しから調理実習、食費・栄養・食材に関する座学等を行いました。
 終了後に行ったアンケート調査では、プログラムの満足度は「楽しかった」93.3%、「やや楽しかった」6.7%、と概ね好評を得ることができました。また、「普段料理をしない」と答えた子ども4 名全てが「今後自炊をしたい」と回答。その理由として「食費が抑えられる」、「楽しく、安く、栄養バランスも良い」といった声が上がりました。
 好評を得た理由の1 つは、"食費"を献立の概念に組み込んでいるからだと推察する大野さん。大野さん手製のレシピブックには、調理工程だけでなく、食材費等の金額を記載しています。「1 食○○○円」や「1週間○○○円献立」等、料理とお金を関連付けたテーマを設け、低コストでも"何をどれだけ食べられるか?"を分かりやすく示す工夫を盛り込みました。
 「参加した高校生が、教わった料理を作りましたというメールをくれました。そのメールには写真がついており、画面越しに思わず『おー!』と声を上げていました」と、笑顔で写真を見せてくれた。そこには、ケチャップでかわいいイラストと文字が描かれた、おいしそうなオムライスが映っていました。

 世界の子どもたちを笑顔にしたいーそんな思いを胸に、今日も大野さんは食事と貧困問題に向き合っています。

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※1:阿部彩、村山伸子 他「, 子どもの貧困と食格差:お腹いっぱい食べさせたい」(2018)
※2:(特非)キッズドアは、貧困などの困難な環境にある子どもたちにも、公平なチャンスを与えるために教育支援等を行っている。

プロフィール:
北海道文教短期大学食物栄養学科卒業後、日本女子大学家政学部通信教育課程食物学科卒業。給食委託会社、食品会社の勤務を経て(国研)国立健康・栄養研究所栄養疫学プログラム技術補助員として勤務。2010年より(特非)TABLE FOR TWO Internationalに参画。現在は同法人の栄養アドバイザーを務める。

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