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地域に「食の保健室」を、オンラインの活用と栄養×経営視点が静岡を活性化させる

トップランナーたちの仕事の中身♯047

中野ヤスコさん(株式会社食の学び舎くるみ代表取締役、管理栄養士)

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モットーは、「頼まれごとは責任以上のことをやる」

自身の目の前にある誰かから依頼された仕事を、少し高い位置から広い視野で捉えてみる。中野さんが、主催者や担当者の心情にまで気を配り、最善の対応を考えられるのは、自身が飲食店のオーナーであり、会社の社長でもあることが影響しています。中野さんは、フリーランスの管理栄養士になる以前には、一般企業で販売や製造、経理などの事務職の経験があります。管理栄養士として依頼を受けた部分だけでなく、依頼元である企業や企画の全体から課題を見つけ、損益なども考慮して、それらを含めたうえでの対応を提案できることが、中野さんの強みなのです。
 JR藤枝駅の近くに、管理栄養士で公認スポーツ栄養士の中野ヤスコさんが経営する飲食店「くるみキッチンプラス+」があります。モーニングとランチ(テイクアウトも有り)のお店で、ランチには富士山麓の鹿肉を100%使用したハンバーグがメインの「マッスルパワー」、大豆ミートを使用した唐揚げ入りの「コンディショニング」、あまり食欲がないけれど栄養補給が必要な人向けの「リカバリーヌードル」など、食材だけでなくネーミングにもこだわった料理やスムージーを提供しています。
 くるみキッチンプラス+は、ビジネスホテル「フジエダオガワホテル」の1階にあります。中野さんは、以前は別の場所で店舗を構えていましたが、このホテルの経営者から「ジュニアアスリートたちが合宿で泊まりにきても、適切なご飯を出してあげられない。ケータリングをしてもらえないか?」と依頼を受けて、対応していました。
 その後、2018年にはホテル1階のレストランフロアに、中野さんの店が移転することになりました。中野さんにとっては、以前の店舗に比べて厨房の広さと客席数が約2倍に広がった一方、家賃は1/2程度になりました。ホテルにとっても、ジュニアアスリートをはじめスポーツをする人たちを受け入れる"ウリ"ができ、Win-Winの関係です。

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この春、「認定栄養ケア・ステーション」にも参画

 2020年4月から、中野さんはこの場所で、「認定栄養ケア・ステーション くるみ」もスタートさせました。認定栄養ケア・ステーションは、その地域の管理栄養士が運営にあたる栄養ケアの窓口・拠点で、公益社団法人日本栄養士会が認定しています。2020年11月現在、全国に206施設あります。
 中野さんは従来から、メールや店舗への電話で、栄養や健康にまつわる相談を受けることが多くありました。認定栄養ケア・ステーションという看板を掲げることで、地元のフリーランスの管理栄養士たちとともにチームを組んで、栄養相談や料理教室をメニューの1つにして、地域の人たちを広く受け入れられるようにしたいと考えています。
 中野さんの元には、「病院で食事制限について指導を受けたけれど、理解できないところがあり不安になってしまった」とか、「離乳食の作り方を保健センターで教わったけど、自分もちゃんとできるのか心配」といった声が寄せられます。
 中野さんは「病院や行政の管理栄養士たちの立場だからできる大きな役割と、私たち地域活動の管理栄養士だからできる細かなフォローは、市民のみなさんにとって両方大切なところ。私たちの役割をしっかりと認識したうえで皆さんを支えることが実際に仕事になっている点は否めません」と語ります。「認定栄養ケア・ステーション くるみ」は、日々の暮らしのなかで困ったときに駆けこめる「食の保健室」でありたいと思っています。

コロナ禍で発揮した、課題解決力

 今春からスタートさせた認定栄養ケア・ステーションですが、コロナ禍によって、しばらく足踏み状態が続きました。店舗も一時的に休業し、ホテルで受け入れる予定だったスポーツの合宿も3月以降はすべてがキャンセルに。中野さんが個人で請け負う予定だった講演なども中止や延期が相次ぎました。
 そんなとき、以前から公認スポーツ栄養士としてサポートしているJリーグの選手から、ユニークな依頼を受けました。静岡県内にあるJリーグ4チーム(ジュビロ磐田、清水エスパルス、藤枝MYFC、アスルクラロ沼津)の選手がファン向けにオンラインで料理対決をしてライブ動画を流したいので、ボランティアで指導と審査をしてもらえないかというお願いでした。
 中野さんは快諾し、当日作るメニューを企画するところから引き受けました。選手たちには買い物をしておく必要のある材料だけを伝え、「何を作るか」は知らせませんでした。
 5月24日の当日は、Web会議システムを使い、中野さんも店舗で調理をし、各チームで選抜された選手4人は各自の自宅で、画面の中の中野さんの手元を見たり、調理の手順やアドバイスを聞いたりしながら、見よう見まねで料理にチャレンジしました。時には中野さんの手元をモザイク処理して見えないようにし、選手たちは自分で考えながら作業をする場面もありました。
 出来上がった料理は「サバ缶の天津チャーハン風」。選手たちからは「こんなおしゃれな料理は作ったことがない!」などの喜びの声が挙がり、ファンも普段見られない選手たちのエプロン姿や料理の手際の良さが見られて、サッカーやトレーニングの動画ばかりが流れていたコロナ禍で自粛が続く日々の中で笑顔があふれるひとときとなりました。中野さんは、苦手なサバを克服した杉田真彦選手(藤枝MYFC)を優勝に選びました。
 新型コロナウイルスによってソーシャルディスタンスが必要とされる以前から、中野さんはこのようなオンラインの動画配信に対応できる機材を揃えていたことが功を奏しました。フリーランスの管理栄養士となって10年以上のキャリアがある(現在は株式会社化して代表取締役を務める)中野さんは、異業種とのパイプもいくつも有します。「中野さんのような人は、もっと多くの人に知られたほうがいい。YouTubeに自身のチャンネルを持つべきでは?」という異業種からのアドバイスを受けていたのです。当初は「自分では動画も見ないし、対面での仕事が好きだし...」とためらっていた中野さんでしたが、重い腰を上げて、オンラインでも仕事をするための機材やテクニックを身につけていたのです。

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フリーランスとして、提案の引き出しを持っておくことが大事

 こうした設備投資や事前準備は、コロナ禍の今、まさに力を発揮しています。
 ある企業で「従業員向けに健康に関するセミナーを開催するので、中野さんに講師をお願いしたい」と担当者から依頼があったときに、担当者から「でも、ソーシャルディスタンスを考慮すると、一つの会議室に全員を集められない」と課題が挙げられました。そこで中野さんは、「3〜4カ所の会議室を使って同時配信をすること」、「質問がある場合には個別に中野さんが相談に応じること」などを提案し、実現できました。
 また、毎年開催されている幼稚園の保護者向けの食育の講演でも、市民会館の400人定員のホールに今年は100人しか入れることができず、担当者が困惑していました。中野さんは、「講演を録画して限定配信すること」を提案し、実現させました。
「企画の担当者は、感染予防のために企画を中止せざるをえない状況は避けたいと考えているため、こちらがオンラインでの対応ができると提案すれば、喜んでもらえます。コロナ禍では、たとえば10万円の予定の仕事が、中止によって0円になってしまうこともあります。そこを5万円でも引き受けられるように、管理栄養士としてではなく、相手の求めていることに寄り添っていくつかの提案の引き出しを持っておくことが大切です。それが、自分の仕事を守ることにもなります」

プロフィール:
東京家政大学家政学部栄養学科管理栄養士専攻卒業。1999年管理栄養士国家資格取得。企業で販売、製造、事務職を経験したのち、2008年にフリーランス管理栄養士として独立。2016年公認スポーツ栄養士資格取得。地元の藤枝市内で健康食堂「くるみキッチンプラス+」を経営し、食育を実践する傍ら、静岡県立藤枝東高校サッカー部をはじめ数々のアスリートをサポート。地元の農産物などを生かした第6次産業のコンサルタントなども担う。静岡県内の大学・専門学校におけるスポーツ栄養管理実習の非常勤講師、静岡県立大学食品栄養科学部フードマネジメント研究室客員共同研究員でもある。

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