入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. フォロワー数29万4,000人、栄養士×インスタグラマーに聞く情報発信のテクニック

フォロワー数29万4,000人、栄養士×インスタグラマーに聞く情報発信のテクニック

トップランナーたちの仕事の中身♯055

もあいかすみさん(栄養士/料理系インフルエンサー)

20210810_01.jpg

 「栄養の日・栄養週間 2021」では、昨年に続いて、管理栄養士・栄養士によってインスタグラムに「#予防めし」の投稿が行われています。栄養士のもあいかすみさんはこのイベントのアンバサダーを務めています。
 「#予防めし」は、種々の疾患の予防に役立つ食事を管理栄養士・栄養士が発信するためのハッシュタグで、2021年は、管理栄養士・栄養士自身の日々の食事を投稿し、食材選びの工夫や、作り方のコツ、気をつけていること、応用の仕方などの情報を発信、多くの人々の食や栄養への関心を高め、日々の食生活で実践してもらうことを目的としています。感染予防の観点から、食育や料理教室を対面で実施するのが難しい今、SNSという舞台で、国民の皆さんに管理栄養士・栄養士を身近に感じてもらいたい、という意図もあります。
 「栄養ワンダー・オンライン」のイベント期間は8月31日(火)までですが、その後もインスタグラムで「#予防めし」と検索すれば、いつでも閲覧することができます。「栄養ワンダー・オンライン」はコロナ禍をきっかけに2020年からスタートしたため、インスタグラム上では「#予防めし」のたくさんのアイデアが蓄積されています。
 もあいさんは2021年7月末時点で、フォロワー数が29万4,000人を超える人気インスタグラマー。インスタグラムを使って料理を発信している人は大勢いますが、その中でも、もあいさんの投稿がこれほどまでに人気を集めてきた理由は何でしょうか?

Point1:ペルソナを決める

 もあいさんの投稿に必ず付いている#(ハッシュタグ)は、「#OL仕事めし」と「#働楽ごはん」。このコンセプトに合った料理を、フォロワーの目線に立って、毎日投稿しています。
 もあいさんは、現在は合同会社の代表として会社を経営していますが、1年半前までは東京都内にある食品メーカーで営業職に就いていました。営業先の飲食店で自社商品の調味料を採用してもらうために、そのお店に合ったレシピを開発したり、プレゼンテーションをしたりする日々で、帰宅が夜遅くなることもしばしば。それでも、「夕飯はコンビニやスーパーでお惣菜を買って帰るのではなく、簡単でいいから何か温かい料理を自分で作ってホッとしたい」という思いがありました。
 もともと料理が好きで、大学で栄養学を学び、栄養士資格も持つもあいさんは、会社員時代から日々の料理をインスタグラムに投稿していました。そして2019年の春、「インスタグラムに本腰を入れよう」と決めます。それは、大好きな料理を仕事にしていきたいという気持ちからです。会社で一緒だった先輩が、インスタグラムで人気が出て料理本を出版したことにも影響を受けました。
 一般的に、新しいサービスを開発するときには「ペルソナ」を決めることが大切だとされています。そのサービスを利用する典型的な人物像を定めて、その人をターゲットとしてサービスの形を作っていくことです。
 もあいさんは、自分と同じく20〜30代の働く女性をペルソナとすることに決めました。それは、自身と同じように「仕事で疲れて帰った日も、簡単でいいから自炊したい」と思っている人は必ずいるはずで、そこにニーズがあると考えたからです。加えて、インスタグラムや料理本をあれこれリサーチしてみたところ、子育て世代を対象としたものや家族で一緒に食べることを目的にしたものが多く、働く女性が自分のために作る料理について、情報発信している料理家はほとんどいないことがわかりました。「この分野でNo.1になる」と決意し、毎日の食を通じて「忙しい人のリアルな幸せ」を応援しようと、仕事帰りでも短時間で完成し、作ると元気が出るような料理に投稿をシフトしていきました。

20210810_02.jpg

Point2:間違いに気付き、変えていく

 インスタグラムを始めた当初は、「おしゃれで、きれいな料理の写真」を撮って毎日のように投稿すれば、「いいね」やフォロワー数はどんどん伸びると思っていた、というもあいさん。本腰を入れた時点ですでにフォロワーは1万人ほどいたものの、「10万人にするにはどうしたらよいか?」を考え、行動を始めました。料理撮影に適したカメラを買う、働きながら写真教室やSNSマーケティングなどの講座に通う、関連した書籍を読む、動画の配信方法を学ぶ...。必要と思われる知識と技術を次々に習得していきました。
 「どの工夫が正解かは、やってみないとわかりません。例えばフォロワーが1日30人しか増えない状況だとしたら、10万人に増やすためには10年かかるので、その方法は"間違っている"ということです。何をすればフォロワーが増えるのか、答えがわからないからこそ、一つひとつ学んでチャレンジし、こなしていきました」と、もあいさんは振り返ります。
 「#OL仕事めし」という言葉も、もあいさんが知人のコピーライターに相談をして生み出されたもの。「私には、レシピを開発する力と、料理をする力しかない」と自分の持っている能力と不足している能力の両方を明らかにして、足りないところは専門家に教わったり、相談したりして、インスタグラマーになるための土台を固めていったのです。

Point3:フォロワーのニーズに応えた投稿をする

 インスタグラムは自分のオリジナリティーを写真や動画で発信できるものですが、"独りよがり"の視点のままではフォロワー数が爆発的に伸びません。もあいさんは、インスタグラムの機能であるインサイト(投稿に対する閲覧者の反応を分析するツール)を活用して、フォロワーがどのような反応をしているのか日々、分析しています。
 たとえば、ある日の料理の投稿に「いいね」が1万件ついた一方で、同じ投稿に「保存する」のボタンは4万件も押されているということがあります。「いいね」の気持ちはその一瞬だけかもしれませんが、保存してくれたということは「食べてみたい!」とか「今夜作ろう」という思いが込められている可能性があります。いいねやコメントの数をフォロワー数で割ったエンゲージメント率を算出し、料理別にこうした数字の高低を見て、どんな食材を使うと評価が高いのか、作り方はどのように見せれば真似しやすいと感じてもらえるのか、どんな調理器具を使うと手軽と感じてもらえるのかなど、投稿した料理の要素を分解して、それを組み合わせて次の投稿に生かしていきます。
 もあいさんの投稿には、ほぼ全てにおいて作り方の工程の写真も含まれています。できあがりの料理写真の後に、手順の写真と作り方の文章を載せているので、スワイプすればすぐに調理方法を知ることができます。パッと見て「食材がこれだけあればいいんだ」、「フライパン1つで完成できるんだ!」ということがわかることや、ところどころで切り方や混ぜ方を数秒程度の動画にして簡単さを伝えることで、料理への抵抗感が少なく感じられるようにしています。
 半熟卵から黄身がとろりと落ちる様子や、湯気が立っているところを動画で見せるという工夫もあって、フォロワーの「おいしそう! 作ってみたい」という気持ちを引き出しています。

20210810_03.jpg

Point4:投稿の幅を広げ、フォロワーを増やす

 もあいさんは2020年秋に念願だったレシピ本『がんばらなくてもできる おいしい!すぐレシピ』を出版し、働く女性をターゲットとした料理家としては、当初の目標を達成できたと感じています。一方で、すでに29万人以上ものフォロワーがいて、その数は今も右肩上がりに伸びていますが、もあいさんはそれで十分だとは思っていません。
 投稿して、フォロワーが増え、その人たちの動向を分析すればするほど、人々がどんなことに困っていて、どうすれば食から幸せを感じられるのか、目の前にいくつもの課題を感じるからです。
 「#OL仕事めし」に加えて「#働楽ごはん」というコンセプトを加えたのも、仕事だけでなく家事や育児で忙しい女性や、男性にも作ってもらえるようにとの思いからです。人気のある食材や調理方法は分析の結果で明らかになってきましたが、あえて「バズらない(=注目を集めない)料理」を投稿するようにもしています。それは自身のメニューの幅を広げるためであると同時に、人々の関心がどう動くかを知るためでもあります。
 もあいさんは今、調理器具の開発にも携わっています。レシピという情報を流すだけでなく、簡単に、かつ楽しく調理するための道具を提供することも必要だと感じているからです。29万人もの人々の関心を常に意識しているもあいさんだからこそ、消費者の思いを汲み取った使い勝手のよいものを提案できるのです。インスタグラムのフォロワーを増やすということが、忙しい中でも自分や家族のための料理を作り、毎日の食事から幸せを感じる人々の生活を支援する活動につながっていきます。

プロフィール:
2014年東京家政大学家政学部栄養学科卒業後、食品メーカーに就職。業務用調味料を取り扱う営業職として勤務する。営業活動の一環として飲食店へのレシピ提案を行う一方、インスタグラムへ料理写真投稿を開始。2019年末に食品メーカーを退職した後、インスタグラムのフォロワー数が10万人を突破。2021年1月に合同会社を設立。栄養士、料理家。

賛助会員からのお知らせ