入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 学生の就農からアフリカのすり身事業まで 食を通じた女性の就業支援

学生の就農からアフリカのすり身事業まで 食を通じた女性の就業支援

トップランナーたちの仕事の中身♯058

内野美恵さん(東京家政大学ヒューマンライフ支援センター准教授)

20221125_surimi1.jpg

 四方を大きなガラス窓に囲まれた明るい室内に幼児たちの歓声が響く―東京都板橋区に位置する東京家政大学ヒューマンライフ支援センター内の一室の様子です。「地域のニーズに学生の学びで応える」をモットーに運営されている同センターの取り組みの1つが、板橋区の委託事業として行っている『森のサロン』という子育て支援事業です。「この事業は当センターが設立された2003年10月から行っているものです。入園前の0〜2歳の子どもを持つ親から児童館とは異なる雰囲気の子どもたちが集う場所が欲しいという要望を受けて、大学のキャンパス内に試験的に開設しました。その後、板橋区の助成を受けて常設することとなりました」と内野さん。
 単なる児童館の代わりではなく、食育を特色とした子育て支援の場として位置付けています。さらには、同大学の学生にとっても乳幼児と触れ合い、食育に携わる場として貴重な機会を提供しています。このように、地域の利用者と大学がwin-winの関係にあることが同センターが目指すものであります。同センターは『森のサロン』の他、食品会社のメニュー開発・イベント協力、行政や企業等と連携しながら食を通した多彩な事業を展開しています。

 2016年夏に発足した、大学卒業後の就職先として農業を考えるプロジェクト『ワークライフバランスin農業女子プロジェクト』は、2018年に農林水産省のはぐくみ校に選定されました。
「農業の利点は自分自身で時間と労力の配分を決定することができる点にあります。出産や育児、介護等と仕事をうまく両立させることができる可能性がある点でワーク・ライフ・バランスのモデルといえます」
 実際、卒業後に農業法人に就職して、生産者として独立を目指している卒業生もいます。大学卒業後に就農している農業女子等を招いて、彼女らのその経験を学生たちに話してもらうと、その表情は生き生きとして言葉は作物を生産して提供する喜びに満ちており、学生たちは話に引き込まれるそうです。「自然の恵みを育み、提供すること。それは人びとの幸せに貢献し、自身の達成感と自立につながります」そう語る内野さんは海外へと支援活動を広げています。

すり身でアフリカの女性の自立を支援

20221125_surimi2.jpg

 内野さんは、大学教員のかたわら、学外の活動にもいくつか参画しています。その1つがNPO法人海のくに・日本での活動です。白石ユリ子理事長から「法人の活動として、アフリカでも栄養学をベースにして活動したい」との依頼があり、内野さんは管理栄養士として2017年から関わっています。
 西アフリカは大西洋に面している国が多いものの、電気が普及していない地域も多く、漁で捕った魚は数日で腐ってしまい破棄されるというフードロスの課題があります。また、それと並行して、食事で必要な栄養量を確保できない子どもたちも大勢いるという栄養問題も抱えています。内野さんは、白石代表と共に、廃棄されてしまうアジやイワシなどを現地の女性たちが自分たちでさばいて「すり身」にすることでフードロスの問題を解消し、それを調理することで子どもたちの栄養状態を向上させ、さらには、女性たちがすり身を使った料理を屋台などで売ることで収入を得られるようにするという壮大なプロジェクトを2021年、西アフリカのコートジボワールで実施してきました。

 すり身は魚だよ すり身は地球を笑顔にするよ 
 すり身は心臓を元気にするよ 思考をクリアにするよ 骨を強くするよ 視力を良くするよ
 もし すり身を食べたなら 幸せが訪れるでしょう あなたにも 子どもにも 家族にも そして地球にも 
 すり身 コートジボワール すり身 思いやり
 (一部略)

 これは内野さんが作詞した歌です。アフリカの女性たちは、小学校すら卒業せずに労働を強いられることも多く、座って学ぶことに慣れていません。内野さんは、歌いながら学び、作業をすれば、女性たちに楽しんでもらえるのではないかと考え、コートジボワールの公用語のフランス語で歌を作りました。
 現地で内野さんが女性たちを前に、この歌を歌ってみると、女性たちは踊ったり、メロディーを自分なりにアレンジしたりしながら、あっという間にこの曲を覚え、魚をさばく作業や、おろした魚の身をすりつぶす作業を楽しんだといいます。
「アフリカの女性たちは恥ずかしがったり、遠慮したりする人が1人もおらず、彼女たちの自発性や自主性、そして、自分を表現したい、楽しみたいという熱い思いに驚かされ、感動しました。私は女子大の教員ということもあり、いつかアフリカの女性たちと日本の学生が交流することができたらと、新たな夢が生まれました」

食というマスターキーがあるからどこでも活躍できる

20221125_surimi3.jpg

 内野さんは、「"食"は、どんな分野のドアも開けられるマスターキー」ととらえています。マスターキーとは、その1本でいくつもの異なる扉を開けることができる鍵のこと。内野さんは「管理栄養士・栄養士は食のエキスパートで、どんな分野とも連携できることが強み」と考えています。 
 実際に、内野さんは大学院修了後にフリーランスの管理栄養士となり、興味、関心の赴くまま、そして、人との縁に導かれるままに、さまざまな分野で前例のない事業を開拓してきました。内野さんが担当する事業はほとんどが前例のないもの。そのため「前例がないから...」と周囲の理解が得られず反対されることも少なくありません。それでも、「前例がないからこそ、やる意義がある」ととらえ、さらには、「この事業を実施できれば、喜んでくれる誰かの顔が浮かんでくる」と感じて、まわりに根気強く説明することで、理解を得ていくといいます。
 「食というマスターキーを持った私たち管理栄養士・栄養士が活躍できる場所は、あちこちにあります。少しでも可能性を見つけたら、ぜひ飛び込んでみてほしい。最初はただ1人の人として関わり取り組み始め、実は管理栄養士・栄養士なのでこういう提案ができます、こんな風に考えていますと伝えていく。私はこの無限の可能性に気付いた日から、管理栄養士・栄養士ほど楽しい仕事はないと思っています!」

プロフィール:
1992年東京家政大学家政学部栄養学科卒業。1994年東京家政大学大学院修士課程修了。1997年昭和女子大学大学院博士課程修了。2002年より現職。東京家政大学ワークライフin農業女子プロジェクト主宰、東京都食育推進委員会委員、公益社団法人キユーピー未来たまご財団理事等を兼務。

賛助会員からのお知らせ