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"つながり"を大切にした栄養管理を。進化し続ける病院管理栄養士

トップランナーたちの仕事の中身♯059

布田美貴子さん(東北大学病院栄養管理室室長、管理栄養士)

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 東北大学病院は、東北地方を代表する大学病院の1つであり病床数は1,160床。高度先進医療も含め、対応する患者の疾患や症状は多岐にわたります。食事は481通りから選択され、1日約2,200食を提供しています。この大規模病院の栄養管理を担う管理栄養士は14人。そして、マネジメントを担当しているのが、栄養管理室室長の布田美貴子さんです。
 室長として4年目を迎えた布田さん。それまでの一室員としての取り組みだけでなく、コロナ禍での栄養管理室運営や学生の実習、クラウドファンディングでのレシピ本出版等、新たなチャレンジをしています。

専門性を持って嚥下調整食に取り組む

 東北大学病院に勤務して18年。布田さんがこれまで最も多く関わり、力を入れてきたのが、頭頸部がんの治療による摂食嚥下障害や栄養障害への対応です。頭頸部がんの手術や抗がん剤治療、放射線治療によって、頭頸部や舌の切除箇所、麻痺を伴う部位やその症状、機能が使える範囲等が患者それぞれで異なり、個々人に合わせた栄養療法、食事形態の調整が必要です。特に、頭頸部がんの治療後は、食事をとることが困難になるだけでなく、会話も思うようにできなくなるケースが多くなります。頭頸部がん患者は、50代以下の比較的若い患者も少なくないため、退院後の社会復帰や職場復帰を考慮し、栄養管理に関わっています。
 「口の中の治療は痛みも大きく、話すこと、食べることといったこれまで普通にしていたことに障害が生じることで、精神的な面からも食欲が落ちてしまうことが多くあります」
 負担や不安を抱えた気持ちも酌み取って栄養療法、食事形態の調整を考えていくわけですが、管理栄養士の考えだけでなく、他職種との情報交換、情報共有が欠かせません。

 東北大学病院には、「嚥下治療センター」という部門があり、耳鼻科医師、リハビリテーション科医師、歯科医師、薬剤師、看護師、言語聴覚士、歯科衛生士たちと共に週1回集まって、それぞれの専門的な視点から意見を出し合い、その患者にとってのより良い方法を考えていきます。
 術後の患者さんたちは、病院で提供している食事に満足できているのか? どんな要素がそろっていれば食事の満足度に貢献できるのか? こうしたことを知って入院中の栄養療法と食形態の調整や退院後の食生活の提案に生かしていきたい。布田さんはこのように考え、大学病院で働きながら大学院に通い、頭頸部がん術後に提供している嚥下調整食の満足度について研究を行いました。
 研究の結果から、食事が飲み込みにくくなった患者に対し、食べやすくするためにミキサーにかけた料理が、何の料理なのかが分からず、不満や不安を感じやすいことが明らかになりました。また、その不安によって、食欲が落ちてしまうことも判明しました。そこで、調理の方法や盛り付けを改善するとともに、食事の時間には管理栄養士がベッドサイドを訪問して料理の説明をして患者に安心感を持ってもらえるようにすることが必要と考えました。こうしたいくつもの取り組みで、術後の食事の摂取量を大きく落とさないよう、対応しています。当院で提供する嚥下調整食には市販されている介護食も取り入れられています。退院後、患者や家族が日々の食事を考える際に、基準となる硬さや形態が確認できること、市販のものを使用しても良いという安心感が得られることを目的としており、退院へ向けたサポートを実践しながら進んでいます。


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実習で得た学びを後進にも提供する

 次の2つの条件があります。どんなおやつが作れそうですか?そのおやつは、どんな人に喜ばれるおやつだと思いますか?イメージしてみてください。

 1 1個80kcalで容量(見た目)の大きいおやつ
 2 1個80kcalで容量(見た目)の小さいおやつ
 
 これは、東北大学病院の栄養管理室で、管理栄養士を目指す学生が実習に来たときに、伝統的に学生たちに出している課題の1つです。実際には、それぞれのレシピを考え、25人分作るという課題です。布田さんも20年近く前に東北大学病院に実習に来た際、この課題に取り組みました。
 「病院内には、たくさん食べたいけれど食べてはいけない患者さんと、たくさん食べなければいけないけれど十分な量を食べられない患者さんがいます。それぞれを必要とする方をイメージして、おやつの中に含む栄養素や見た目に配慮し考えていく、管理栄養士・栄養士を目指す方にはとても良い課題だと思います」
 布田さんは自身が学生のとき、「1個80kcalで容量(見た目)の大きいおやつ」作りを担当。糖尿病や肥満症などのエネルギー制限のある人向けに、1個80kcalでも「市販で売っているおやつを食べるような満足感」を得られるようなフルーツケーキを作ることにしました。材料の割合を少しずつ変えたり、フルーツの種類や量を調整したりしながら、2週間の実習の間に3〜4回試作を繰り返し、評価をしてもらったといいます。
 実際に学生たちが考案した80kcalのおやつの中でも優秀なレシピは、小児患者のための幼児食や、消化器疾患で入院中の患者の分割食として同院で実際に提供されています。

 現在はコロナ禍のため、学生の実習もオンラインが中心となってしまい、この課題を学生たちに実践してもらうことができなくなってしまいました。しかし、布田さんたち管理栄養士は、栄養指導や他職種とのカンファレンスの様子をビデオで撮影して学生に分かりやすく紹介する等、できる限り病院の現場の臨場感を伝え、病院管理栄養士の仕事のやりがいや魅力が届くように工夫を重ねています。
 布田さんは自身、実習で患者とその患者に提供している食事や栄養管理を目の当たりにして、「栄養療法のアプローチは1通りではない。その人それぞれに合ったものが必要である」と痛感し、そこから病院管理栄養士への憧れと、病院管理栄養士になろうという決意が芽生えたといいます。
 これから管理栄養士・栄養士を目指す学生たちには、「対象の患者さんがどのようなものだと食べたい・食べやすいと感じるのか、いつも相手に寄り添う気持ちを持って考えることを大切にしてほしいと思っています」と布田さんは語ります。

県民の野菜摂取量の増加を目指した新たなチャレンジ

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 退院した人たちをサポートし続ける方法の1つとして栄養管理室では2021年4月にレシピ本を出版しました。その名も、『東北大学病院の野菜を食べる副菜レシピ54』です。 
「入院中または外来の栄養指導で患者さんと話していて、日頃の野菜の摂取量が少ないのではないかと感じることが多くあります。また、『平成28年県民健康・栄養調査』(宮城県)で見ても宮城県民の野菜摂取量が目標量には足りていないことが分かっています。そこで、病院内の広報誌で旬の野菜を使った簡単なレシピを定期的に載せるようになり、そのレシピの数々を1冊の本にまとめました」
 調理、そして撮影、原稿執筆まで全て管理栄養士たちで担当しました。さらに、製本にかかる費用はクラウドファンディングで集めました。クラウドファンディングで広く資金を集めたことで、レシピ本を作っている段階から、院内の職員や外来の患者たちの目に留まるようになり、応援してもらうことができました。布田さんが病院内を歩いていると時折、「野菜の本を買いました!」、「あの野菜の料理を作ってみたよ」等の声をかけられることもあり、じわじわと野菜料理の魅力が伝わっていることを感じるといいます。
 栄養管理室長になって4年目の布田さん。栄養管理室の管理栄養士それぞれを信頼して仕事を任せ、お互いに小さい情報でも共有し合う環境づくりに努めながら、皆で一丸となって東北大学病院の栄養療法に貢献しています。

プロフィール
2004年仙台白百合女子大学人間学部健康栄養学科卒業。回復期リハビリテーション病院を経て、2005年東北大学病院に入職。栄養サポートチーム(NST)等で多くの疾患に対する栄養管理に関わりながらも摂食嚥下障害患者の栄養管理に力を注ぐ。2016年摂食嚥下リハビリテーション専門管理栄養士取得。2019年東北大学大学院医学系研究科障害科学専攻前期課程修了。2019年より現職として同院栄養管理室のマネジメントを行う。管理栄養士。

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