入会

マイページ

ログアウト

  1. Home
  2. 特集
  3. 子どもたちとのコミュニケーション深化へ ICTを使った食育授業

子どもたちとのコミュニケーション深化へ ICTを使った食育授業

トップランナーたちの仕事の中身♯063

飛塚美智子さん(矢巾町学校給食共同調理場 栄養教諭、栄養士)

tobiduka_01.jpg

 今、全国の学校ではオンラインを使った授業が徐々に増えています。子どもたちが一人一台端末を持ち、学習活動をより充実させるための「GIGAスクール構想」の実現に向けて、ICT(Information and Communication Technology)を活用した取り組みが進められています。
 岩手県の矢巾町学校給食調理場に在籍し、小学校4校、中学校2校を担当している栄養教諭の飛塚美智子さんは率先してICTを活用した食育に取り組んでいます。子どもたちに「食育の授業は楽しい! また受けたい!」と思ってもらえるように、手探りながらも各校でICTを使った授業を工夫してきました。

「食育は楽しい」を引き出す授業

 飛塚さんの授業には子供たちがわくわくする仕掛けがたくさんあります。小学5年生の授業では、15世紀に大西洋を横断したコロンブスの大航海をテーマにしました。まず飛塚さんが、コロンブスたち航海士は冷蔵庫も冷凍庫も無い時代に、腐らない食料(小麦粉やワイン、干した肉など)と大量の水を積み込み出発したという説明をします。そして、「皆さんが今から航海をするとしたら、どんな食材を積み込みますか?」と問いかけます。
 3~4人の班ごとに、食品庫、冷蔵庫、冷凍庫に入れておきたいものについて話し合いをさせる際、飛塚さんは子どもたちにタブレット端末を使ってもらいます。利用するのは、デジタル上のホワイトボード機能です。端末のない時代であれば、子どもたちがそれぞれ思いついたアイデアを付箋に書いて大きな紙に貼っていくような作業が、それぞれがもつ端末から行うことができ、同じ画面を共有することができます。それぞれ思いついた食材をふせん状のメモに入力していき、話し合って考えをまとめていきます。
 5分経ったところで、飛塚さんはミッションを与えます。「皆さんが積み込んださまざまな食材で、カレーを作ってください!」ここでまた、子どもたちは画面上に表示された食材とにらめっこしながら、カレーに使えるもの・使えないものを話し合いながら仕分けしていきます。結果発表にもタブレット端末が大活躍。全ての班の検討結果をそれぞれの画面に共有して、説明していきます。
 最後に、新大陸発見以降の航海によって、アメリカ大陸から、じゃがいもやいちご、カカオなどがヨーロッパに持ち帰られたこと、コロンブスが航海していなかったら今の食生活が変わっていたかもしれないことを説明し、食文化の変遷にも触れました。
 「子供たちに『食育の授業は楽しい、また受けたい』と思ってもらいたいと考えています。今回の授業も全国の仲間と共に生み出した手法の一つです。自分の力だけでなく多くの人のアイデアを元に、より子供たちに楽しんでもらえる授業ができるように工夫しています。」

ICTは子どもたちと一緒に使ってこそ

tobiduka_02.jpg

 「様子を見ながら徐々に進めていくはずだったICTの活用が、コロナ禍になって、大急ぎでやらなければならないものになりました。岩手県内の休校は2020年の3月だけでしたが、栄養教諭も、子どもたちと離れていても発信できる術(すべ)を持たないと、ほかの教員たちや児童・生徒に置いていかれてしまうという危機感が芽生えました」
 飛塚さんは、オンラインで受講できる研修会にいくつも参加して、オンラインで使える機能や授業への応用について学んでいきました。
 飛塚さんのICT活用事例のうち、ほかの教員から高く評価を受けたのは、アンケート機能を使用したアンケート調査と集計でした。これまで小学1、2年生に好き嫌いや食生活についてアンケートを取るとき、プリントを利用していました。印刷された写真やイラストが不鮮明で子どもたちがうまく理解できなかったり、飛塚さんが子どもたちの字を判別できなかったりするということが少なからずありました。
 そこで、飛塚さんはアンケートフォームの機能を利用してみることにしました。食事のマナーを尋ねる質問には、食器を持たずに食べる、肘をついて食べる、お茶碗に指を入れて食べる、握り箸をするなど、画面上にイラストをつけられるので、回答する子どもたちはその状況が理解しやすくなりました。
 何よりの利点は、集計がとても楽になり、結果をスライドやシートにまとめて担任の先生たちにすぐに共有、報告できることでした。子どもたちが抱えている課題を見つけやすくなったそうです。
「率先してICTを活用した授業をしたことで、ほかの先生から使い方を尋ねられることも増えました」と、飛塚さん。在籍は給食調理場で、小学校4校、中学校2校を担当している栄養教諭だからこそ、各校で使う頻度や使い方の違いを知っていて、それを共有することもできます。「授業でのICTの使い方は、正しい1つの方法があるのではなく、無数にあるということ。これは大きな気づきでした」
 栄養教諭に限らず、どの学校の先生たちも学びながら授業で活用することにチャレンジしています。先生たちが奮闘している取り組みの過程そのものが、子どもたちにも「タブレットを使えた!」、「こんなこともできるんだ!」という学びの喜びにつながっています。

黙食でもコミュニケーションはできる

tobiduka_03.jpg

 さまざまな工夫をして、端末の画面を利用した子どもたちとのコミュニケーションができるようになっても、飛塚さんが栄養教諭の最大の教材である"給食"と、対面での会話を大事にしていることは変わりません。
 それぞれの学年の社会や理科、家庭科の授業に合わせて、給食で使う食材や献立をリンクさせ、担任の先生に解説をしてもらえるように、一口メモや資料を作成して配布しています。
 そして、給食調理場での食材の検収や事務仕事を終わらせると、各学校の給食時間に合わせて訪問するようにしています。コロナ禍以前は、4時間目に食育の授業を入れてもらい、そのままそのクラスで給食を一緒に食べたり、子どもたちの感想や意見を聞いたり、この献立での調理場での工夫を話すことができましたが、今は自粛(取材時は2020年12月)。給食の準備中は子どもたちもまだマスクをしていて会話ができるので、子どもたちから話を聞きたいときにはその時間帯を利用します。
 給食で「いただきます」をした後に子どもたちは黙食になるため、マスクを付けた飛塚さんが一方的に問いかけることに。会話はできなくても、頷いてくれたり、首を振ってくれたり、笑顔を見せてくれたりと、子どもたちはできるかぎりの反応を示してくれるので、こうしたコミュニケーションも貴重な機会ととらえているのです。
「黙食が主流になったことで、給食の楽しさが少し欠けてしまっていることは否めません。ただ、おしゃべりをしないことで、校内放送に耳を傾け、話をしっかり聞けるようになったと感じられることもあります」
 学校栄養職員となり、その後、栄養教諭となって、もうすぐ30年ものキャリアになる飛塚さん。GIGAスクール構想で栄養教諭だけが取り残されることがないように、県内の若手の栄養教諭たちに自身のさまざまな経験を出し惜しみなく伝えていくことで、各校の食育の授業や給食の時間が子どもたちにとってより楽しい時間になることを願っています。

※文部科学省が作成する「学校における新型コロナウイルス感染症に関する衛生管理マニュアル」においては、「会食に当たっては、飛沫を飛ばさないよう、例えば、机を向かい合わせにしない、大声での会話を控えるなどの対応が必要です。」等とし、従前から、必ず「黙食」とすることを求めてはいません。
2022年11 月 25 日に変更された「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」」に関連して、同年11月29日に文部科学省より出された、学校運営に当たって特に留意すべき点等についての通知においては、適切な対策を行うことで児童生徒の間で会話を行うことも可能であり、地域の実情に応じた取組を検討するよう示されています。詳細は下記リンクより通知をご確認ください。
■「新型コロナウイルス感染症対策の基本的対処方針」の変更等について

プロフィール:
1993年岩手県立盛岡短期大学生活科学科食物栄養専攻卒業。岩手県学校栄養職員として山形村学校給食センター、種市町学校給食センター、盛岡市都南学校給食センターに勤務。2007年栄養教諭免許取得。盛岡市立東松園小学校に8年間在籍したのち、2016年より現職。

賛助会員からのお知らせ