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健康寿命トップクラスの山梨県で取り組む、自然に健康になれる食環境づくり

トップランナーたちの仕事の中身#073

廣瀬真美さん(山梨県福祉保健部健康増進課(健康企画担当)、管理栄養士)

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 健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間を、健康寿命と呼びます。日本人の平均寿命と健康寿命の差はおよそ10年。その間は、日常生活に何らかの制限がある「不健康な期間」となり、平均寿命と健康寿命の差が大きくなるほど、医療費や介護給付費を消費する期間が長くなる...、ということになります。
 栄養・食生活は、人々の健康寿命を伸ばすためには重要な要素です。国およびそれぞれの自治体に勤める管理栄養士は、医師や保健師などとともに住民が健康でいられる期間を伸ばそうと、政策づくりと保健活動に奮闘しています。山梨県の本庁において保健活動に取り組む管理栄養士の一人が、廣瀬真美さんです。

つながりや絆を感じる、健康寿命トップクラスの山梨県

 山梨県の健康寿命は全国トップクラスで、2019年に厚生労働省が発表した都道府県ごとの健康寿命で、男性73.57歳、女性76.74歳でともに全国2位でした(1位は男性は大分県73.72歳、女性は三重県77.58歳)。それ以前の2013年、2016年の調査でも、山梨県は男女とも1位もしくは2位に入っています。
 山梨県民の健康寿命が長めに維持できている理由として、廣瀬さんは「山梨県は地域や組織での人びとのつながりや絆が強い環境であると感じます。また以前から、県や市町村の職員だけでなく、山梨県栄養士会や食生活改善推進員などが熱心に活動しています。さまざまな関係者によって県内の各地域間で強いつながりが形成されているため、それぞれの地域の特性に合わせた住民に対する保健活動が実施できていると考えています」と話します。
 現在、山梨県庁で福祉保健部健康増進課において健康企画を担当する廣瀬さんは、健康にかかわるさまざまな職種や関係者が協力しあうために心がけていることがあります。それは、国、主に厚生労働省から健康に関する資料や報告書が発出されたら、すぐに目を通し、山梨県として国の方向性に合わせた健康づくりをどのような事業にするかを考え、実行に移すことです。国が決めた健康づくりの大きな目標を、県内の実情に合わせて、県民一人ひとりが取り組みやすいようにする、それが廣瀬さんの仕事です。

「しぼルト」で減塩と適正体重維持を呼びかける

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 2021年6月に、厚生労働省から「自然に健康になれる持続可能な食環境づくりに向けた検討会報告書」が発表されました。厚生労働省が進めているのは、「誰もが自然に健康になれる」ような食環境を、SDGs(持続可能な開発目標)の達成に貢献しながらつくること。栄養面や持続可能な環境面を考慮した食品(商品)を事業者が開発して提供し、消費者がそのような食品(商品)を自然に選択して、普段の食生活に取り入れられるような環境を、産学官で連携して整備しようとしています。
 この流れを受けて廣瀬さんは、県内の大学教授、食品事業者、小売業者、県栄養士会、食生活改善推進員などの関係者に協力を求めて、県内でどのように誰もが自然と健康になれる食環境を整えていくかを話しあっています。県の管理栄養士として、旗振り役としてこの事業を進めていくために、企画力とともに、国の方向性をわかりやすく伝える説明力が必要だといいます。

 山梨県では、県の栄養課題として最重要視している「食塩の過剰摂取」について、2016年度から「やまなし しぼㇽトメニュー」販売成整備事業を実施しています。過去の県民健康・栄養調査では、調味料の利用によって食塩の摂取量の平均値が全国に比べて高くなっていることがわかっています。健康寿命が全国トップクラスの山梨県でも、県民の栄養面での課題がないわけではなく、生活習慣病の発症や重症化を予防するためには、新たな政策が必要なのです。
 廣瀬さんが県内の関係者を巻き込みながら取り組んでいるのは、県民がスーパーマーケットなどで弁当として買えたり、飲食店で注文したりできる「やまなし しぼルトメニュー」を増やすこと。減塩とともに、適正体重の維持につながるように次の5つの基準を設け、県の認定を受けたものが商品として提供されています。
(1)主食・主菜・副菜がそろっていること、(2)エネルギー500kcal以上700kcal未満の範囲であること、(3)野菜(きのこ、海藻を含む)量が120g以上であること、(4)食塩相当量が3.0g未満であること、(5)栄養成分(エネルギー、たんぱく質、脂質、炭水化物、食塩相当量またはナトリウム)が表示されていること。
登録されたメニューには、イメージキャラクターの「しぼルト」が書かれた、しぼルトメニュー専用ロゴマークを表示することができます。「しぼルト」とは、「しぼる」+「ソルト(塩)」をかけ合わせ、ぎゅっとしぼったウエストで、食塩摂取量の減少と適正体重の維持をイメージされたもの。県民に減塩を呼びかけるとともに、お腹を絞る、すなわち適正体重の維持を訴えています。
 廣瀬さんが進める新事業では、健康への関心度に関係なく自然に健康になれる食環境づくりを推進するため、昨年度は減塩メニューコンテストを行い、今年度、入賞作品の商品化を目指します。

人びとの密な関わりと絆を生かした取り組み

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 公立学校の教員たちのように、都道府県の管理栄養士にも異動があります。廣瀬さんが県庁で健康づくりや、栄養・食生活の改善に向けた事業を手がけるようになったのは2022年4月から。東京都内の管理栄養士養成校の大学を卒業したあと地元に戻って山梨県の職員となり、これまでに特別支援学校、保健所、県立精神科病院、ろう学校、県庁と、県内の各地で管理栄養士のキャリアを積んできました。
 栄養政策の実施だけではなく、咀嚼・嚥下の力の弱い児童・生徒のためにその児童・生徒の状態にあった食事を用意したり、耳が不自由な生徒には手話を使って食育の授業をしたり、精神疾患を抱えながらも社会復帰ができるようにと調理実習で指導をしたりと、あらゆる世代、さまざまな状況にいる県民に管理栄養士として関わってきました。
 どの現場でも、同僚の管理栄養士の数は多くなく、ほとんどが一人。特別支援学校では教員や調理師、病院では医師や看護師、薬剤師、保健所では保健師や薬剤師、精神保健福祉士と、ともに働く同僚たちの専門分野もさまざま。それでも心細さを感じずに、周りの他職種と協力しあって県民の健康づくりを支える仕事をしてこられたのは、人と人とのつながりが強い山梨県の風土があるからだと廣瀬さんは言います。
「私が生まれ育った地域は近所づきあいや自治会のつながりが色濃くありました。県内のどの地域にも職場にもそのような名残があって、職種の垣根を超えて人として助け合う雰囲気があるのがうれしいですね」
 コロナ禍もあり、人と人のつながりがやや薄まってきているのを残念に感じている廣瀬さんですが、事業者と県民を結びつける「やまなし しぼルトメニュー」に関連した新事業を含めて、さらに新たな絆をつくっています。

プロフィール:
1996年日本女子大学家政学部食物学科管理栄養士専攻卒業、管理栄養士取得。卒業後、山梨県職員として採用され、特別支援学校や県立病院、保健所、山梨県庁にて勤務。学校給食の運営から患者への栄養指導、児童・生徒への食育等さまざまな業務に携わる。現在は、県庁にて健康づくりおよび栄養・食生活改善に関する施策・事業の企画立案等の業務に従事。JDA-DATリーダー。公益社団法人山梨県栄養士会所属。

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